好きな人

もりこ

文字の大きさ
7 / 7

ささやかな幸せ

しおりを挟む
ーーキャンプ3日目。




今日はテントに泊まることになっている。


子ども達やスタッフはテントを建てたり、カレー作り、かまどの準備などをしていた。

私も必要な用意を済ませ子ども達と一緒にカレー作りをしていた。




材料を切りながら視線をずらす。

私の心臓がギュッと締め付けられるような何とも言えない感覚がした。




熱さに耐え顔を真っ赤にした彼が、かまどの前で火が消えないように木を燃やしていた。





ふと彼がかまどを離れ、調理場に向かう。
私との距離が30cm程になった。


しかし、彼と話すことはなかった。
「お久しぶりです。」とか「かまどどんな感じですか?」とか話す話題はたくさんあるのに、口に出すことが出来なかった。


戻っていく彼の背中を見ながら、あんなに仲良くなったのにそう思っていたのは自分だけだったんだな、と初めて会った時よりも彼との距離を感じた。




その後も彼と話すチャンスもなく、作ったカレーを食べ、夜になりナイトハイクをし、眠りについた。





ーーゴソゴソ。


私は眠れずにいた。
初めてのテントという事もあるが、あの時話せばよかったと後悔ばかりが頭に浮かんでなかなか寝付けなかった。



「はぁ……。」




私は気分転換のため、トイレに行くことにした。

トイレはテントから少し離れたログハウスの中にある。誰かが使っているのか、明かりがついていた。



ーーガチャ




「わっ…」「あっ…」


二人の声が同時に重なる。そこには彼が立っていた。



「おう…こんばんは。」

「……。」


私は軽くお辞儀だけして、トイレに入った。


あんなに話したかったはずなのに、よく分からない意地を張ってしまったことに私はまた後悔した。

《私、感じ悪かったかな…。せっかく話せるチャンスやったのに…。》




「はぁ…。」




早くテントに帰って寝てしまおうと帰ろうとしていた時、出入口に彼が立っていた。


私は驚きその場で立ち止まってしまった。



彼は気まずさを紛らわすように話し始めた。

「あー…、一応夜やし危ないかなと思って。」

「……。」

「久しぶり。…物品担当忙しそうやね。」

「あっ…お久しぶりです。ちょっと、大変ですかね…。」

「なんか、いっつもバタバタしてて忙しそうやなと思ってて…うん…こうやって話すのも久しぶりやな。」

「お互い忙しくて、なかなか会いませんでしたもんね。」

「…。」

「…。」



少し気まずさはあるが、久しぶりに話せたことと彼が私のことを少しでも見ていてくれたんだと思うとなんだか嬉しく感じた。



ログハウスを出てからも会話はなったが、キャンプという非日常的な環境だからだろうか、居心地がよかった。



お互い別れを告げそれぞれのテントに戻った。



私は目をつぶると同時に深い眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

あんなにわかりやすく魅了にかかってる人初めて見た

しがついつか
恋愛
ミクシー・ラヴィ―が学園に入学してからたった一か月で、彼女の周囲には常に男子生徒が侍るようになっていた。 学年問わず、多くの男子生徒が彼女の虜となっていた。 彼女の周りを男子生徒が侍ることも、女子生徒達が冷ややかな目で遠巻きに見ていることも、最近では日常の風景となっていた。 そんな中、ナンシーの恋人であるレオナルドが、2か月の短期留学を終えて帰ってきた。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...