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1章
4話
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俺の今晩の宿は、カルさんが営む初級冒険者支援施設……営んでいるのかは不明だ。とりあえず、野宿にならなかっただけありがたい。しかも、支援までしてもらっている。支援というよりか、奨学金制度に近いと思う。
この国で上手い飯はたったの2ペレで手に入るのに、風呂には8ペレも取られるというのだから驚きだ。思い返せば、今日は色々あった。あの天国での出来事を、今日にカウントしていいのかは悩ましい所だが、今まで生きてきた18年という歳月の中で培った、常識という名の偏見は、この世界では全く役に立たないようだ。
散々やり込んでいたゲームに近しいこの世界において、ゲーム同様に事が運ぶと限らない。現に、スライム戦が既にトラウマとして心に刻まれていた。
第三者的な視点を使い、ゲーム形式でスライム戦を振り返る。
勇者ヨザクラは石ころを投げた。スライムに0のダメージ。
「ダサすぎる」
勇者ヨザクラは呪文を唱えた。しかし何も起こらない。
「恥ずかしすぎる」
勇者レイのこうげき。スライムに999のダメージ。
「かっこよすぎる」
俺もそんな存在になれるだろうか、ここで鍛錬を重ねればスライムを一撃で倒すことが出来るのだろうか。っていうか俺の夢、スケール小さすぎない。スライムを一撃で倒したいだなんて、だいたい次の街に着く頃には叶う様な夢じゃん。
天井に拳を突き出しバングルを眺める。
「ステータス」
目の前にスケルトンブラックのボードが表示される。
相変わらずレベルは1のままである。しかしながら、攻撃力が1上昇している。つまり、勇者ヨザクラの攻撃力は1になったのだ。
レベルが上がらずともステータスを上昇させる事が出来るとは考えてもみなかった。もしも、それが叶うのであれば、特殊な道具を使う必要があると俺は認識していたのだ。
しかし、この世界において、そんな特殊な道具を使う必要はない様だ。願わくば、防御力やHPも上昇してくれていれば良かったのに……
防御力は相変わらずの0だ。HPにおいても、今までのゲームでは見たことのない数値、5、という数字だ。こんなステータス見られたら、確実にゴミめと言われてしまうに違いないだろう。人間の脳には偶数よりも、奇数の方が印象的に残るとされている。つまり、俺が見た、5、という数値は強烈に脳裏にこびりついて離れないのだ。
もしも、スライムの体力が10だったとしたら確実に俺に勝ち目はないだろう。しかし、ターン制バトルという概念はこの世界に存在していないのだから勝ち目はあるかもしれな。
スライムの殺気に恐れをなして、ターン制バトルで構成されていた俺の妄想は、急遽リアルタイムバトルへとシステムを変更し、エラーを起こすことが無かったのだから。浦島太郎に登場する亀の様に集団リンチすることだって可能なのかもしれない。
悲しきステータスを閉じた。
「俺このままどうなっちゃうんだろ」
浦島太郎は竜宮城から帰る事が出来た。しかし、俺の場合においては、異世界転生というやつだ。日本という国に暮らしていた夜桜海青は、運動不足と栄養不足によって絶命してしまった。今ここにいる、夜桜海青とは全くの別物であるのだ。
神様とかにお願いさえすれば、日本に戻してもらえるかもしれないが、今の俺は到底死にたいなんて思わない。むしろ、前の死に方は本当に何も感じなかった。まさに、R.I.Pだったのである。
大切なポケット(右ポケット)から、緑色の宝石を取り出し天井と俺の間に配置する。
ジェムから貰ったこの宝石は、一体何なのだろうか。
俺が知る限り、ゲームにおいて宝石はレアリティ―の高いモノであり、それなりの効果が付与されている。もしくは、売却用。
ジェムに限って後者を渡すとは考えられない。おそらく何かしらの効果が付与されているに違いないと俺は確信したのだった。しかし、持っていても特殊効果は、何も付与されていない。まさか、これの影響で攻撃力が1上昇したのかと思い、宝石を遠ざけステータスを開くが何ら影響を与えた痕跡は残されていなかった。
夕食後、カルさんから色々と話を聴いた。
この世界が呪われている事、4人の勇者がいる事、魔王がいる事。どれもにわかには信じがたいファンタジーだった。
この世界が呪われているというのは、人間の絶対数が決まっているという事だ。この世界には輪廻転生の呪いがあるのだという。
例えば、魂が100個あったとしよう。そこに、赤ちゃんが120人いたとしよう。100人の赤ちゃんは産声を上げ泣き出す。
しかし、残りの20人の赤ちゃんはすやすやと寝たままだ。この世界では、残りの20人を眠り子と呼んでいる。誰かが死んだ時、肉体から魂が抜けだし次の肉体へと宿る。
まさに、ファンタジーだ。まだまだ、ファンタジーは止まらない。
4人の勇者とは、初代勇者アーサーが死んだ日に、目を覚ました眠り子の事を指す。つまり、アーサーの生まれ変わりなのだとか……
理論からすれば、1人だけが生まれ変わりのはずなのだが……
アーサーはエレメントを扱い戦ったそうだ。エレメントとは、火・水・風・土の魔法の事を言う様だ。どこかのゲームと同じで覚えやすかった。更にそれに加えて光の魔法を扱うことが出来たらしい。
困ったことに4人の勇者は誰一人として光の魔法を使えないようだ。それぞれ、火・水・風・土の魔法が得意なようで、勇者アーサーの分霊説なるものが誕生しているようだ。誰がいち早く光の魔法を使えるようになるのか関心が集まっているようだ。
転生後に前世の記憶が残らないからややこしくなるんだよ。いっそのこと、ガッツリ残っていた方が……それはそれで怖いか。
最後に、魔王の話だ。
全ての根源ともいえる存在。魔王がいるから輪廻転生の呪いが掛かっており、アーサーが殺された。魔王曰く、強い奴と戦いたいというたった1つの願いを叶える為だけに大層な事をしてくれたようだ。って、誰がインタビューしてきたんだよ。
魔王さえいなくなれば、眠り子という存在はなくなるようだ。この国には、数多くの眠り子がいるようだ。目を覚ます度に、何処かで誰かが死んだのだと思うと、その産声は悪魔の声にも聞こえてきてしまう。
そんな事、俺には関係ないんだけどね。
この世界で生活する上で知っておいて、損はしない。というか共通認識として知らなかったらスライム扱いされるレベルだ。
「明日に備えて寝るか。王道ファンタジーの幕開けだな。俺はストーリー進める気はないがな」
まるで、遠足に行く前の日の様に俺は寝付くことが出来なかったのであった。
この国で上手い飯はたったの2ペレで手に入るのに、風呂には8ペレも取られるというのだから驚きだ。思い返せば、今日は色々あった。あの天国での出来事を、今日にカウントしていいのかは悩ましい所だが、今まで生きてきた18年という歳月の中で培った、常識という名の偏見は、この世界では全く役に立たないようだ。
散々やり込んでいたゲームに近しいこの世界において、ゲーム同様に事が運ぶと限らない。現に、スライム戦が既にトラウマとして心に刻まれていた。
第三者的な視点を使い、ゲーム形式でスライム戦を振り返る。
勇者ヨザクラは石ころを投げた。スライムに0のダメージ。
「ダサすぎる」
勇者ヨザクラは呪文を唱えた。しかし何も起こらない。
「恥ずかしすぎる」
勇者レイのこうげき。スライムに999のダメージ。
「かっこよすぎる」
俺もそんな存在になれるだろうか、ここで鍛錬を重ねればスライムを一撃で倒すことが出来るのだろうか。っていうか俺の夢、スケール小さすぎない。スライムを一撃で倒したいだなんて、だいたい次の街に着く頃には叶う様な夢じゃん。
天井に拳を突き出しバングルを眺める。
「ステータス」
目の前にスケルトンブラックのボードが表示される。
相変わらずレベルは1のままである。しかしながら、攻撃力が1上昇している。つまり、勇者ヨザクラの攻撃力は1になったのだ。
レベルが上がらずともステータスを上昇させる事が出来るとは考えてもみなかった。もしも、それが叶うのであれば、特殊な道具を使う必要があると俺は認識していたのだ。
しかし、この世界において、そんな特殊な道具を使う必要はない様だ。願わくば、防御力やHPも上昇してくれていれば良かったのに……
防御力は相変わらずの0だ。HPにおいても、今までのゲームでは見たことのない数値、5、という数字だ。こんなステータス見られたら、確実にゴミめと言われてしまうに違いないだろう。人間の脳には偶数よりも、奇数の方が印象的に残るとされている。つまり、俺が見た、5、という数値は強烈に脳裏にこびりついて離れないのだ。
もしも、スライムの体力が10だったとしたら確実に俺に勝ち目はないだろう。しかし、ターン制バトルという概念はこの世界に存在していないのだから勝ち目はあるかもしれな。
スライムの殺気に恐れをなして、ターン制バトルで構成されていた俺の妄想は、急遽リアルタイムバトルへとシステムを変更し、エラーを起こすことが無かったのだから。浦島太郎に登場する亀の様に集団リンチすることだって可能なのかもしれない。
悲しきステータスを閉じた。
「俺このままどうなっちゃうんだろ」
浦島太郎は竜宮城から帰る事が出来た。しかし、俺の場合においては、異世界転生というやつだ。日本という国に暮らしていた夜桜海青は、運動不足と栄養不足によって絶命してしまった。今ここにいる、夜桜海青とは全くの別物であるのだ。
神様とかにお願いさえすれば、日本に戻してもらえるかもしれないが、今の俺は到底死にたいなんて思わない。むしろ、前の死に方は本当に何も感じなかった。まさに、R.I.Pだったのである。
大切なポケット(右ポケット)から、緑色の宝石を取り出し天井と俺の間に配置する。
ジェムから貰ったこの宝石は、一体何なのだろうか。
俺が知る限り、ゲームにおいて宝石はレアリティ―の高いモノであり、それなりの効果が付与されている。もしくは、売却用。
ジェムに限って後者を渡すとは考えられない。おそらく何かしらの効果が付与されているに違いないと俺は確信したのだった。しかし、持っていても特殊効果は、何も付与されていない。まさか、これの影響で攻撃力が1上昇したのかと思い、宝石を遠ざけステータスを開くが何ら影響を与えた痕跡は残されていなかった。
夕食後、カルさんから色々と話を聴いた。
この世界が呪われている事、4人の勇者がいる事、魔王がいる事。どれもにわかには信じがたいファンタジーだった。
この世界が呪われているというのは、人間の絶対数が決まっているという事だ。この世界には輪廻転生の呪いがあるのだという。
例えば、魂が100個あったとしよう。そこに、赤ちゃんが120人いたとしよう。100人の赤ちゃんは産声を上げ泣き出す。
しかし、残りの20人の赤ちゃんはすやすやと寝たままだ。この世界では、残りの20人を眠り子と呼んでいる。誰かが死んだ時、肉体から魂が抜けだし次の肉体へと宿る。
まさに、ファンタジーだ。まだまだ、ファンタジーは止まらない。
4人の勇者とは、初代勇者アーサーが死んだ日に、目を覚ました眠り子の事を指す。つまり、アーサーの生まれ変わりなのだとか……
理論からすれば、1人だけが生まれ変わりのはずなのだが……
アーサーはエレメントを扱い戦ったそうだ。エレメントとは、火・水・風・土の魔法の事を言う様だ。どこかのゲームと同じで覚えやすかった。更にそれに加えて光の魔法を扱うことが出来たらしい。
困ったことに4人の勇者は誰一人として光の魔法を使えないようだ。それぞれ、火・水・風・土の魔法が得意なようで、勇者アーサーの分霊説なるものが誕生しているようだ。誰がいち早く光の魔法を使えるようになるのか関心が集まっているようだ。
転生後に前世の記憶が残らないからややこしくなるんだよ。いっそのこと、ガッツリ残っていた方が……それはそれで怖いか。
最後に、魔王の話だ。
全ての根源ともいえる存在。魔王がいるから輪廻転生の呪いが掛かっており、アーサーが殺された。魔王曰く、強い奴と戦いたいというたった1つの願いを叶える為だけに大層な事をしてくれたようだ。って、誰がインタビューしてきたんだよ。
魔王さえいなくなれば、眠り子という存在はなくなるようだ。この国には、数多くの眠り子がいるようだ。目を覚ます度に、何処かで誰かが死んだのだと思うと、その産声は悪魔の声にも聞こえてきてしまう。
そんな事、俺には関係ないんだけどね。
この世界で生活する上で知っておいて、損はしない。というか共通認識として知らなかったらスライム扱いされるレベルだ。
「明日に備えて寝るか。王道ファンタジーの幕開けだな。俺はストーリー進める気はないがな」
まるで、遠足に行く前の日の様に俺は寝付くことが出来なかったのであった。
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