【最弱の勇者】身体レベル0のゲーマーが異世界転生しました。

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1章

3話

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「まずは、基礎体力をつける所から始めようか」
「だるくないすか、近頃の僕ぐらいの年代の子供は、練習とか特訓とか回りくどい事を嫌う傾向がありまして、こうあっという間に強くなれるみたいな……転生したらチート級に強くて異世界を持て余しています位がちょうどいいというか。何てね」
「なめとんのか、餓鬼」
「すいませんでした。毎日腹筋100回・腕立て100回・スクワット100回・ランニング10km、禿げるまでやりますから」
「禿げるまでやらんでよろしい。というか、血行が良くなるからむしろフサフサになると思うのだが」
「確かに」
「問題としては、ランニング10kmはちょっと走り過ぎだな。それでは、筋肉が燃焼され脂肪が燃えずらい体になってしまう。とても冒険者向きの体とは言えないだろう。それに、毎日の同じメニューをこなしているだけではだな」
「意外と、理論武装するタイプなんですね」
「当たり前だ。お前を最短で冒険者にしてやるからな」
「あの、その最短でという言葉にどこか引っ掛かりを感じるのですが大丈夫でしょうか」
「安心しろ、お前に合わせた特別メニューを組んでやるから、とりあえず、素振り1000回やっとけ」

あれだけ、理論的なことをつらつらと話していたのにもかかわらず、とりあえず、素振り1000回って耳を疑う発言だ。

それに、仮に初期装備と言えども本物の剣である事に間違いない。ショートソードと言えども、なかなかの重量感だ。俺の貧弱な筋肉では、全力で振り下ろしたショートソードの慣性を抑える事が出来ない。無論、大地にぐっさりと刺さり、伝説の勇者にでもなった気分で引っこ抜くのであった。

「素振りって、なかなか疲れますね」
「何を言っている、まだ3回だぞ。あと997回残っているからな」

あと、997回も残ってるのかよ。やばいなんか状態異常になって倒れないかな。むしろ倒れたい。目の前が真っ暗になった。気が付くと……的な展開起こらねぇかな。

「すいません。俺もう限界です」

大地に仰向けに転がった。情けないな俺。でも、転生したら最強ってのが道理なんじゃないのか。天国ではいきってあんなこと言ってたけど、正直リアルだときついよ。マジで投げ出したい。

「よし、じゃあ、回復させてやろう」

カルさんの右手が俺の体を捉える。神秘的なライトグリーンの光に包まれ俺の体は癒えていった。

「あれ、動ける」

それに、ショートソードが先ほどよりも軽く感じる。無論ショートソード軽くなった訳ではない。俺の筋肉が発達したのだった。

「さっきよりも楽に素振り出来るぞ。スゲェーー」
「そんなに驚くことか? どこにでもある癒しの魔法ヒールだ。ヒール如きで驚かれては、こちらとしても困るぞ」
「俺にも魔法を教えてくれよ」

ふと、脳裏にステータスが蘇る。そうだった、今までやって来たゲームの中ですら、見たことのない最低な数値を叩き出していたのだった。それが自分のステータスだと思うと……非常に残念に思う。せめて、特殊能力位つけてほしかった。

「お前には、魔法は使えなさそうだな」
「なんで分かるんだよ。やってみなきゃ分からないじゃないか」

これまた、どこぞのアニメで見たような言い回しをとっさに吐き出した。

「私には分かるぞ、お前からは魔力が全く感じられないからな。気に病む事は無い、人口の割合で考えると、魔法が使える方が珍しいんだ。そう覚えておけ」
「くそーー」

草原で叫んでいた醜態を思い出してしまった。

そう言えば、あの女の子元気かなとか。今後も会えるかなとか期待しちゃっている俺がいた。いわば、運命的な出会いをしたのだ。こっちの世界では日常茶飯事かもしれないが、少なくとも俺にとっては運命的な出会いだったと言える。

「よし、そろそろ練習は切り上げて飯にするぞ」
「確かに、腹減ったな」

転生前なんて、まともじゃない食生活だったよな。酷い時なんて海苔1枚とお茶で過ごしていたぞ。何処の悟りを開いた僧侶だよと突っ込みたくなる。

久々に体を動かしたせいなのか、体が食べ物を欲しているのが分かった。

「さて、ここで食べていくか」

どこか懐かしさを感じる。お祭りの屋台の様に店が並んでいた。

「何が食いたい? 好きな奴を買ってやる」
「本当にいいんですか?」
「ああ、出世払いだからな。忘れるなよ」
「分かりましたよ」

見たことのない旨そうな料理がずらっと並んでいる。というよりも、食べ物に対して旨そうだと感じたことが初めてかもしれない。ゲーム内での飯には気遣っていたのだが、リアルはそうではなかった。決めかねていると後ろからスッと串焼きが差し出された。

「優柔不断か。戦場において嫌われるタイプの性格だな。フフフ」
「ありがとうございます」

転生前の世界で言う所の、イカ焼きだった。イカ焼きはいい匂いなのだけれど食べると意外とそうでもないと記憶している。食にあまり興味が無いのだからどうでもいい話だ。しかし、とても旨そうだ。

先端の三角に食らいつく。柔らかく程よい弾力。噛めば噛むほどに甘みと旨味が湧きだしてくる。調味料による塩味が脳にダイレクトに響き渡った。

「旨い」

このセリフを言ったのは、果たしていつぶりだろうか。いや、初めてかもしれない。

「誰もとらないんだから落ち着いて食え」
「こんなに美味しいモノ今までに食べたことない」
「そうか、良かったな。お前の好物は2ペレで買えるぞ」
「そんなに安いんですか!!」
「1ペレも稼げないお前が言うな」

カルさんがジェムに渡した120ペレという金額は、なかなかの額であったようだ。俺も冒険者候補生スカウトやろうかなと思う位だ。

「よう、たっぷりしごかれたみたいじゃないか」

そこには、ジェムの姿があった。

「カルの指導は厳しいだろ、俺はそれが嫌で逃げ出したのさ」
「嘘つけ、お前が一番努力していたことくらいしているぞ」
「やめろよ、恥ずかしい。そういえば、名前聞いてなかったな」
「夜桜海青て言います。俺にカルさんを紹介してくれてありがとうございます」
「変わった名前だな、いいってことよ。出世払いでな」
「やはり……出世払いか」
「お前にお土産だ。ちょっと変わった石を拾ったんでなくれてやるよ大切に持っておけよ」
「ジェムこれは……」
「カルは黙っとけって、お前が冒険者になってからも役に立つ代物だぞ。大切にしまっておけ」
「ありがとう」

緑色の綺麗な石だった。何かご利益があるに違いない。俺は大切なポケット(右ポケット)へその石をしまった。

「無くすなよ。じゃあ俺は、ここらへんで失礼するぜ」
「気に入られたようだな。まぁ、冒険者以外生きる術が分からないなんてお前位だからな」

人と長い間一緒にいたのは、いつぶりだろうか。こんなにも積極的に会話をしたのはいつぶりだろうか。ゲーム内でのボイスチャットは、会話ではなく作業の一環として行われていたものだったようだ。冷え切ってしまった心に久しぶりに日の光を当てたような気がした。
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