【最弱の勇者】身体レベル0のゲーマーが異世界転生しました。

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1章

6話

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「落ち着け、勇者ヨザクラよ。お前なら出来るぞぉーー。いいか、ひっひっふーっだ。ひっひっふー」
「夜桜、何をしている。それは、ラマーズ法だ」
「何でカルさんラマーズ法を知ってるんですか? ここ異世界ですよね」
「とある書籍で読んだことがあるだけだ。確かに、精神予防性無痛分娩を改良したその方法であれば、スライムの攻撃を……」
「いや、HP5なんで」

スライムを斬る前に、カルさんの発言を一刀両断した。悲しき言動の攻撃力は思いのほかすごかった。

「すまない」
「何、謝ってるんですか!! そこは謝っちゃいけないでしょ。悲しさがより際立つというか」

いわゆる、特殊攻撃力ってやつが高いのだろうか? ステータスには、特殊攻撃力という欄はなく、魔力というステータスが代わりに存在する。俺の特殊攻撃力は、この世界では反映されないようだ。

「やってやりますよ。今みたいにスライムも一刀両断してやりますよ」

俺はショートソードを腰から抜き取り、両手で握りしめ構えた。スライムはここから10メートル程先でぴょこぴょこと可愛らしく跳ねていた。

俺なら出来る。チュートリアルで躓く人間なんて見たことが無い。それにチュートリアルは失敗しないように出来ている。異世界転生2日目のこの出来事は、初めてのモンスター狩りチュートリアルなのだから失敗なんてありえないのだ。

心理学が大好きな俺が、5年という歳月を費やし至った答え。他人なんて操れねぇ。しかし、自分を操る事は出来るという結論に達したのだ。

自己暗示。

俺が最も得意とする心理学だ。多分、心理学だ。

「おお、やるではないか夜桜よ。攻撃力上昇の魔法を何処で覚えたのだ? 魔力何て感じなかったから、魔法ではないようだな。技か?」
「カルさん見てて下さいよ。俺の本気を」

夜桜はスライム目掛け走り出した。走り出したまでは、良かった。

勘違いがあるとすれば、いや、あったのだけれども……俺は、初期装備で10メートルくらい全力疾走出来ると思っていた。心の底から思っていたのである。しかし、単なる思い込みだったようだ。7メートル過ぎたあたりからゼーハーし始めスライムの所へたどり着く頃には、ショートソードを振る体力が無かったのである。

「って、夜桜そこからかい」

俺の心肺機能は絶望的だったのだ。昨日の素振りにより筋力は向上したものの、心肺機能は向上していなかったのであった。このままでは、再び絶命してしまうと思い助けを懇願する。

「ヒールプリーズ、ヒールプリーズ」

カルさんからペールグリーンの光の玉が飛んできた。俺の体の中へと吸い込まれるとみるみる心臓は落ち着きを取り戻し、正常な脈拍へと戻った。

盛大な助走を忘れ、一旦フラットになろう。

ショートソードを構える。

スライムはこちらを見ている。つまり、静止している。斬って下さいと言わんばかりの視線だ。目ないけど。

俺は、勢いよく斬りかかった。会心の一撃が発動されたかのように思えた。

しかし、スライムに避けられた。

ショートソードは地面にぐっさりと刺さり、引っこ抜くまでに数秒要する。一瞬の判断の後、俺は緊急回避を選択した。

「やるな、スライム。俺の攻撃をかわすとは相当レベルが高いんじゃないのか」
「夜桜、そいつのレベルは1だ」
「…………っふ」

にわかに信じられない。攻撃は当たるものだと考えていたが、どうやら敵には回避性能というモノが存在しているようだ。そういえば、ステータスに命中率があったような気がするな……記憶が正しければ、30~33という表記だった。

「まさか」

俺の攻撃の命中率は、30~33%!? そんな馬鹿な。もしや、スライムが攻撃をかわした。のではなく、俺が攻撃を外したとでも言いたいのか……

「夜桜、攻撃力を上げてもその命中率ではな」
「な、なんだと!!」

やはり、俺の命中率に問題があるようだった。あの程度の雑魚モンスターに回避性能があるにしても無いに等しい数値だと言える。

焦るな。まずは、順序を組み立てるんだ。やるべきことは3つある。ショートソードを再び装備し直す事。命中率を上げる自己暗示を掛ける事。スライムに攻撃を当てる事。この3つが成功した時、俺は晴れてチュートリアルクリアとなるのだ。

俺が知る限り、最も難しいチュートリアルである事は言うまでもない。

しかし、1つ1つのタスクに集中する事によって最大限の成果を手にすることが出来る。俺は良く知っている。

攻撃もして、防御もして、回復もして、魔法で攻撃もして、なんて凡庸性の高いキャラクターは、序盤・中盤まで活躍するが、終盤において、それぞれの専門キャラにその役を根こそぎ奪い取られてしまうのだ。

つまり、順番はどうであれ、ショートソードを装備する事だけを考えるのが最大の成果を出す為に必要な事なのだ。

俺は、ショートソードの元へと一気に走り。緊急回避体制に入った。一回転しながらショートソードを見事に抜き取ったのであった。

第二フェイズに移行する。

俺が最も得意とする心理学。

自己暗示。

これはチュートリアル。つまり、失敗などありえない。仮に、失敗があるだとしても、近くにいるカルさんが必ず助けてくれるのだ。やはり、失敗は無いと言える。この戦いにおいて俺は絶対に負けないのだ。

「夜桜、どうやったかは知らないが命中率が上がったな。そのまま、スライムを斬れ」
「言われなくても」

第三フェイズに移行する。
スライムの近くに歩み寄りショートソードを構える。今度こそは外さない。いや、外せない。外したくても外せない。と、自己暗示を念押しした。

斬りかかった。

見事に俺の攻撃はスライムに命中し、スライムを撃破する事が出来たのであった。

「良かったな夜桜、レベル2だ。ステータスは変わらないみたいだがな」
「良かったーー。チュートリアルクリアだ。長かったーー。ってステータス変わらないんですか」

驚きのあまり叫んでしまった。勝利のファンファーレが脳内に響き渡っていたというのに、指揮者がいきなり音を拳の中に閉じ込めた様に、無音になった。

「なんでステータスが上がらないんですか」
「なんでと言われても、レベルは経験値だ。肉体的に成長したわけではないだろ。ステータスを上げたいのであれば特訓しろ」
「今までにないルールだ」

言われてみればそうである。経験を積んだからと言って筋力が上がる体力が上がるというのは、間違ったベクトルかもしれない。野球選手がどんなに試合に出ようが、試合で得た経験値で球速が上がるなんて事は無い。経験値によってステータスが上がるのであれば、いったいどれほどの化け物が誕生するというのだろうか。

「レベルは何の為にあるんですか」
「モチベーションじゃないか。ステータスが高ければ経験値を多く集める事が出来る。そういった意味では、レベル=ステータスなのだよ」
「はあ。何となく理解しました」

やはり、この異世界のルールは、今までの俺の常識を軽く超えるモノがあると感じたのであった。
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