しあわせDiary ~僕の想いをあなたに~

翡翠ユウ

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第一章 第4話 就活と日々の中で

4-31(終)

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 二次面接を通過した僕は、帰り道にそのことを真由にLINEで伝えた。
 今日は真由はバイトに入っていないが、すぐに既読は付かなかった。

 とりあえずはやりきったという思いで電車に乗ると、しばらくして返信が来た。
 そこにはおめでとうという言葉と、また出かけているのかその場所の様子を写した写真が添付されていた。

 大分気持ちが軽くなって帰宅すると、久々にゲーム配信をすることにした。
 そこでは前回のような変なミスはせずにやり遂げることが出来た。むしろ好調だった。仲間達からもリスナーの人達からも好評で満足のいく配信として幕を閉じたのだった。


***


 それからはまたバイトに出て、大学では卒研発表の準備をして過ごした。

 二次面接から一週間後の今日、ついに最終面接の日を迎えた。
 場所は前回と同じく本社。相手は社長もしくは、社長の一個下の職位であるところの本部長二人ということだった。
 本社に到着すると前回の応接室に通された。すると今日になって初めて他の入社希望の人を発見した。その人は男で僕と同じく緊張の面持ちである。
 その対面に座って待っていると、人事課の課長と係長がやってきた。

「緊張してる?」

 と問いかけてくる課長。
 それに対して僕ももう一人の彼も同じように緊張を示した。
 そうしてあらためて最終面接の段取りが説明されると、係長の方になにやら連絡が入った。

「課長、準備が出来たようです」
「そうか。それじゃ始めようか。面接官は社長ではなく本部長二人になったよ。ということで今二人は上の階の会議室にいるから、一人ずつ連れて行くね。それじゃ―」

 そして僕ではなくもう一人の方が係長によって先に連れて行かれた。
 応接室の扉が閉まると、僕と課長のみとなり一層の緊張感を抱いた。だが課長はそんな僕をリラックスさせようと他愛もない話をふってくれた。
 そうしてどれくらいか経った後に彼が戻ってきた。

「どうだった?」
「はい。どうにかです」

 彼はそう答えた。
 そして僕の番になると係長によって案内された。エレベーターに乗って上階に到着すると、少し歩いて二人が控えている会議室の前に到着した。

「それじゃ、頑張ってね」

 係長がそう言うと、僕はその扉をノックして入室した。もちろん作法通りの入室である。
 中に入ると、目の前には異彩を放つ二人の本部長が並んで椅子に座っていた。
 緊張の面持ちで自己紹介から入り、まもなく最終面接が始まった。
 それからはかなりの緊張感により、自分がちゃんと話せているのかが分からなかった。でも一生懸命に答えて入社の意思を伝えた。

「本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。失礼いたします」

 そうして僕の緊張だらけの最終面接が終了した。
 会議室を出ると、エレベーターのところで係長が待っていてくれた。

「どうだった?」
「とりあえずは、頑張りました」

 その後もとの応接室に戻ってくると、先の彼はもう緊張が解けたのか大分楽な表情で課長と談笑をしていた。

「どうだった?」

 と課長が同じく聞いてきた。
 なので、同じく

「頑張りました」

 と答えた。
 それを聞いた課長はなんだか安心したような顔になった。

「それじゃ、これで最終面接は終了です。結果は合否問わず一週間以内に電話で伝えるから待っててね」
「「はい」」

 そうして僕と彼は本社をあとにした。
 緊張から解放された道中はなんだか足が軽かった。それに、不思議とこうしておけば良かったという後悔は無く、むしろやりきったという全力を出しきったような清々しい気持ちになっていた。


****


 次の日はさすがに連絡がこなかった。
 念の為しきりにスマホはチェックしていたものの、あったのは真由からのLINEだけだった。
 それは昨日の面接の件で、おつかれさまとねぎらいの内容だった。

 その次の日は朝から大学に行くことになっていた。目的はもちろん卒研の発表練習のためだ。
 今回は他の研究室の人達もいて合同で練習をすることになった。
 会場はいつもの講義に使用している教室だった。だだっ広い講堂か何かで神妙な面持ちの教授達の前でやることにならなくて安心した。
 それから少しすると僕らの研究室の番がやってきて、各々が順番に練習をしていった。そして僕もまたそれに励んだ。

「高橋。最終面接どうだったんだ?」
「あぁ、緊張して大変だったよ。そっちは?」

 同じ研究室の友人だ。
 彼は警察官を目指して試験やら面接をしていたはずだ。

「前期試験に落ちて、後期試験の結果待ちだな。もし落ちたら自衛隊に行くわ」
「まさかの自衛隊かよ。なんでまた」
「自衛隊から警察に就職する人は増えているんだよ。そういうルートで警察を目指すってのもいいと思ってな。それに自衛隊に入っておけば色んな免許が取れるし、警察の試験の時のアピールポイントにもなるしな」
「なるほどなぁ」

 彼はとても前向きだった。だからこそ受かっててほしいと願った。

 全員の練習が終わったのは正午を過ぎた頃だった。
 例のごとく昼食をとっていない僕は今回は学食ではなく、大学近くの駅前にあるうどん屋で昼食をとることにした。
 そうして食事の準備が整ったので食べようとした時だった。突如スマホがバイブした。
 なんだろうと見てみると、知らない番号からだった。だがもしかしたらと思って恐る恐る出てみることにした。すると

「こんにちは。先日の面接の結果を伝えにお電話しました。今は大丈夫ですか?」

 最終面接をした会社からで、電話口は係長だった。
 そうして僕は緊張の面持ちで、はい大丈夫ですと言った。

「最終面接の様子を社内で検討しましたところ、内定ということになりました。おめでとうございます」
「あ……ありがとうございます」

 その言葉を聞いて僕は心の底から安堵した。そして就活の終わりを実感したのだった。

「安心しましたか?」
「それはもちろんです。ありがとうございます」
「良かったです。課長も喜んでいました。それではさっそくですが、これからのことをお伝えします。詳細はメールにてお送りしますが、来週に内定者が全員集まる顔合わせというものがあります。それに参加していただきます。またその後は食事会という親睦会になります。大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」

 それからの説明によると、その顔合わせを含む親睦会の他にその次週には内定者説明会というのがあって、入社に伴った説明をされる場が用意されるらしい。
 もちろん僕は参加の意思を示し、同じく詳細はメールでということで通話が終了した。
 そうして安堵の下で昼食にありつくと、その食事はいつになく美味しく感じたのだった。

 帰りの電車の中で真由に内定が出たことを伝えた。例のごとくすぐには既読は付かなかったけども、家に着いた時には既読が付いてお祝いのメッセージを送ってくれた。

 また後日バイトに出ると、内定の話を店長にした。同じくお祝いの言葉をもらい、それからは店長だけでなく中村さんや他の人達からも祝われたのだった。

「内定が決まったのは嬉しいけど、これで高橋くんもここを卒業か。また寂しくなるわね」

 と中村さんが言った。そこで店長が思い出したかのように問いかけてきた。

「そういえば、いつまでバイトに出てくれそう? さすがに初出社前日までなんてことは無いと思うけど、そのへんはどうなんだ?」
「それは、まだ分かりません。今後内定者説明会があるので、これからのスケジュールを見てから判断します。決まり次第お伝えします」
「そうか。分かった。それにしても寂しくなるなぁ」

 店長もそんなことを言ってくれた。
 そんな今日は真由はいなかった。だが、帰りに駐輪場に行くと真由がそこにいた。

「こんな夜にどうしたの?」
「翔くんに会いたくて。それに内定が取れて直接お祝いを言いたかったんだ。だから、おめでとう」

 真由が微笑んだ。
 予期せぬ登場に驚き、それとともにそう言ってくれたことが嬉しかった。
 それからはせっかくだからと深夜でもやっているファミレスに寄って夕食をとった。

「内定ってことは、入社したら家を出るの?」
「そうだね。うちの親は一人暮らしをさせたいみたいだから出ることになるね」
「そうなったらこうやって気軽に会えなくなるのかな」
「どうだろう。実際に働く場所はまだ聞かされていないから、もしこの近くなら普通に会える距離だよね。それについては今後の説明で分かっていくことだと思うよ」
「そっか。そうだよね。少し不安だけど待つしかないね」

 食事を終えると、あの帰り道を二人で並んで帰った。
 帰宅をすると両親はもう寝てしまっていて、僕も僕で風呂などのやる事を済ませて自室に行った。だがすぐに寝ようとはせずにゲームをやった。

 少しだけのつもりだったが、気が付けば時刻は午前六時を過ぎていた。そろそろ日が昇る時間だった。
 そういえばと思って前に芹乃さんに貰った煙草の箱を見た。それに手を伸ばそうとしたが、やはりやめた。
 その代わりに芹乃さんにも内定が出た事をLINEで伝えることにした。
 メッセージを送り終えるとベッドに入った。すると案外すぐに眠気に襲われてそのまま眠りに落ちていった。

 それから目が覚めたのは昼過ぎだった。
 大学もバイトも無いので今日はのんびりである。
 スマホをチェックすると特にメッセージはなく、芹乃さんに送ったメッセージには既読は付いていなかった。
 
 その後の日々は案外早く過ぎていった。
 内定者説明会にバイトに大学、ゲーム配信とやる事をやって寝るというのが通例になっていた。
 だが芹乃さんへ送ったメッセージにはいつまでたっても既読が付くことはなかった。
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