しあわせDiary ~僕の想いをあなたに~

翡翠ユウ

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第一章 第5話 未来に向けて変わっていく日々

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「今回は皆さんにお知らせがあります。って各種SNSで告知をしたけど、そろそろそのお話をしようかな」

 あれから数日が経過した週末の夜。僕は引っ越し前最後のゲーム配信をしていた。
 そこで僕は相変わらず身分は明かさないものの観に来てくれた人達にお知らせをすることにしていた。ある意味釣りのような広告をSNSに上げた結果なのか、いつもよりも多くの人が集まってくれた。ちなみに今回は僕だけの個人配信ではなくいつものメンバーもいて、彼らには僕がそんなお知らせをすることを既に共有してある。
 それから配信も終盤になったところで僕が話し始めた。

「えっと、この配信を終えたらしばらく配信出来なくなると思います。というのも、別に配信者を辞めるとかではなくて、プライベートの方で少し忙しくなるから各種SNSでの告知含めて出てこれなくなるかなってこと」

 途端にコメント欄に多くのコメントが入った。主に僕の都合なのにも関わらず励ましてくれたりとか、いつまでも待ってますといったことが多かった。本当に優しい視聴者の人達ばかりで嬉しいかぎりである。
 また、いつ頃に再開するのかといった質問もきていた。

「再開時期はちょっとまだ確定ではないかな。でも早くても四月の…どうだろう。後半までには戻ってきたいなって思ってるよ。でも本当になんとも言えないからごめんね。もし分かったりはっきりしたらSNSで告知を流すから、申し訳ないんだけどチェックをしておいてくれるとありがたいです」

 本当、こうやって待っていてくれる視聴者の人達のためになるべく早く再開しなきゃなと思う。それに、僕としてもゲームや配信は続けていきたいし、それこそこの世の中だから副業として稼ぐ方法を持っておいて損は無いし。

「だから、今回が終わったら少しだけ待っていてね。必ず戻ってくるから。もちろん今まで上げた動画にコメントをしてくれたり質問もしてくれたら全部読ませてもらうから、再開した時にたくさん話そうと思うよ。そうだね、一回くらいはコメントや質問だけに答える回を作ってもいいかもしれないね。あ、でもそれじゃゲーム配信者じゃないか」

 そう話している時でもコメントは止まらず、スパチャをくれる人もいて本当にありがたかった。だからその度に感謝を伝えた。

「ということで、お知らせは以上です。それじゃ最後に一個クエストに行って皆さんの質問に答えたら終わりにしようかなって思うよ。ということで、希望のクエストを募集するね。その中で一番多かったものに行くからね」

 またそこでコメントが流れていった。それぞれを見ていくとやはり圧倒的に多かったのはこのゲームで一番難しいクエストだった。
 メンバーだけのチャットでその旨を相談すると、最後だしそれに行こうということになった。

「それじゃ、ご要望の多かったあのクエスト、最難関と言われているあれに行こうかな。いやぁ、勝てるかな。でも今回はみんなもいるから勝てる…と思う。別に人任せにしようとかじゃないからね? ちゃんと仕事するからね」

 ということで軽快な音楽が流れるとクエストが開始された。そのクエストはフィールドを探索して標的を探すのではなく、到着して次のエリアにはもうその標的がいるから時間のロスはなかった。
 本当に勝てるか不安である。それでも最後なので絶対に勝ちたいところ。だからいつもよりもより一層本気で立ちむかった。

 戦闘が開始されると喋ろうとは思っているものの、誰も彼もが無言となってひたすらに攻め続けた。ちらっと見たコメント欄には応援だったり、沈黙するほどに本気なんだなというものが流れてきた。
 まさにそのとおりで、みんなはきっと僕達の成功を願っているに違いない。だから本当に本気でやった。

「…………よぉし! 倒した! いやあ、厳しい戦いだった。本当にぎりぎりだった」

 結果は時間ぎりぎりでの勝利だった。
 また、あと一回やられたら失敗になってしまうところまで追い詰められてしまっていたので、本当にぎりぎりだった。
 直後、コメント欄に花が咲いて一瞬にして埋め尽くされた。

「良かった。これで失敗したらどうしようかと思った。こういうぎりぎりの感情があるからやっぱりゲームは楽しいね。それじゃ、みんなのお陰でどうにか勝つことが出来たので、これを一旦の最後としようかな。いやぁ、本当に楽しかった。この後は質問コーナーをやるから、たくさんの質問をお待ちしてます」

 ということで最後の最後もしっかりと勝つことが出来たので、興奮した状態で質問コーナーに入った。そしてそれも無事に終えると

「それでは、今回の配信もここまでしようかな。今日まで観てくれてありがとう。次回はまたSNSで告知をするから、もう少し待っていてね。必ず戻ってくるからね」

 そうして実家での最後のゲーム配信が終了した。
 その後は仲間達と内輪でゲームをして、そこで今日までの感謝を伝えて終了となった。

 やりきった僕はゲームの電源を落とし、その余韻のままベッドに入った。
 次はいつになるのかな。一人で、もしくは芹乃さんとはやると思うけど、配信はいつになるかな。でもまたやりたいな。
 そう思って眠りについた。

***

 さらにまた数日後、今日はバイトの最終日だった。
 前日に僕はバイト先への感謝としてお菓子を買いに行き、今日の出勤時にそれを持っていった。そして事務所に置いてレジに立った。

 この景色もレジでの接客も今日が最後か。
 入りたての頃は本当に何も分からなくてあたふたしていたけれど、いつの間にか後輩の育成や少し難しいことまで対応することが出来るようになったし任せてもらえるようになった。
 それでも最初はかなりミスをしたなぁ。店長や同じ時間帯の人だったり社員の人にも迷惑をかけた。でもみんな優しくてちゃんと教えてくれたからここまで成長することが出来た。本当に感謝しかない。それとともに、そんな優しい人達がいるここを去ると考えると寂しく感じた。

「お疲れ様です」

 そんな思い出に浸りながらも最後の仕事を終えた僕が事務所に戻ると、そこには店長がいた。

「店長。今まで本当にお世話になりました」
「こちらこそ。いやぁ、本当に最後なんだなぁ。寂しくなるよ」
「この前も言ってましたよ? でもそうですね、僕も寂しくなりますよ」
「なら、就職後も働くか?」
「それも前に言ってましたよ」
「もちろん冗談だ。まぁ、いつかまた来てくれよな。俺も嬉しいしみんなも喜ぶから」
「はい、ありがとうございます」
「向こうに行っても無理はするなよ? あと、ちゃんと食べろよ?」
「僕の両親みたいですよ。でもありがとうございます」

 そうして最後に店長と握手をすると、店長は名残惜しそうに自分のデスクに戻って仕事を再開した。

「高橋くん」
「中村さん。お疲れ様です。中村さんにも本当にお世話になりました」
「それは私もよ。というか聞いたわよ? 芹乃さんと付き合うことになったんだってね。おめでとう」
「耳が早いですね。芹乃さんから聞いたんですか?」
「そうよ。あなた達が付き合って次の日に芹乃さんの家で飲んでね、ずっとその話しばかりするものだから。本当に嬉しそうにしていたわよ。私も嬉しかったわ」
「いえいえ、まさか芹乃さんがまだ僕のことを好きでいてくれていたなんて思いませんでしたよ」
「芹乃さんは案外そういうことは長くひきずるタイプなのよ。それに、高橋くんが鈍感なのよ」
「まぁ、鈍感なのは否定しませんけども。芹乃さんのは本当に意外でした」
「会うたびに色々とアピールしていたり、化粧をしっかりしていたり、時には分かりやすい感じを出していたりで色々やっていたみたいだけど、高橋くんはやっぱり最後まで気付かなかったのね」
「そうですね。全部僕の気のせいだと思っていました」
「本当そういうところよ? でもそういうところを含めて芹乃さんは高橋くんを好きになったんだから、これからは大事にしてあげるのよ?」
「それはもちろんです」
「よろしい。まぁ、これで全部丸く治まったわね。仕事では寂しくなるけど、会おうと思えばいつでも会える距離だしね。だから私にはお別れの言葉はいらないわよ。どうせ近い内に三人でまた飲もうって思ってるから。あ、でも芹乃さんがいいって言えばね。案外嫉妬するタイプでもあるから」
「そうは見えませんよ?」
「まだね。でも常識はわきまえてるから大丈夫よ」
「芹乃さんですし、そこは大丈夫だと思いますけど」
「私が保障するから大丈夫よ」

 中村さんはこれが最後、とはいってももしかしたら本当に三人で飲むことになるかもしれないから一旦の区切りとして微笑んでいた。きっと寂しい気持ちとかそういうのでしんみりさせたくないって気を遣ってくれているに違いない。

「中村さん。それでも言わせてください。本当にありがとうございました。また会いましょう」
「うん、そうね。これからは社会人として頑張るのよ」
「はい。中村さんもお体に気を付けてくださいね。あと飲み過ぎないでくださいね」
「ありがとう。あ、とりあえずの最後だし、駐輪場まで送るわよ」
「そういうことなら。ありがとうございます」

 それから僕は着替えを済ませると、事務所にいる人達にあらためて別れの挨拶をして店を出た。
 事務所も退勤も、この廊下を歩くのもこれで最後だ。本当に感慨深いなぁ。
 従業員用の出入り口を中村さんと一緒に出て駐輪場に向かった。するとそこには一つの人影があった。もちろん暗いので誰なのかは分からなかった。

「もしかして芹乃さんですかね」
「いやまさか。もしサプライズで会いに来てくれていたのなら嬉しいんじゃない?」
「そうですね」

 そうして少しずつ近付いていくと、徐々にその正体が分かってきた。
 それは隣にいる中村さんも同じで、気付き始めた僕と同様の気持ちになっていった。そしてその顔がこちらに向いた途端に二人揃って言葉を失った。

「翔くん……」

 なんとそこにいたのは真由もとい、鈴谷さんだった。
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