きれいだから。

ねのん

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彼女は雨がざぁざぁ降る中、
屋上の柵の外に立っていた。

死ぬつもりなのだ。
美しいものが
消えてしまった悲しみから。
愛するものを
失ってしまった苦しみから。

彼女の瞳の中は
お先真っ暗な小道だけが続いていて、
他には何も映っていない。

孤独だ。寂しい。苦しい。
こんな私は美しくない。

ビュオッ、
という風と共に、
彼女はその身を投げた。

その瞬間、
薄暗い天空を金色に輝く光が走った。
落雷だ。

一瞬目を瞑った彼女は
不思議なことに気付いた。
落ちていく感覚がないのだ。

何故だろうか、目を開けてみると、
そこに病院はなく、
無慈悲なアスファルトもなく、
とめどない雨粒もない。
真っ白な空間が拡がっており、
そこに彼女は立っていた。

「ここは…」
「あぁ、間に合って良かった」
「っ?!」

ふと後ろを振り返ると、
彼がいた。
美しい瞳をもつ、
愛する彼がいた。
自然と涙が溢れ出る。

「どうして泣くんだ。
 嬉しい時は
 抱きつきに来てみるのも
 良いんじゃないのか?」

彼女は唇の震わせる。
あぁ、この答え方はまさしくあの彼だった。
彼女は彼に抱きつき、
その胸に顔をうずめた。

「悲しくしないで、
 というのも難しいよね。」
「当たり前でしょう…。
 私はあなたを…」
「分かってる。分かってるよ。
 最初から、分かってたんだ。」
「知ってるわよ、そんなこと…」

彼は彼女の頭を優しく撫でた。

「ねぇ、教えて。
 凄く素敵な夢、ってなぁに?」

彼は彼女の背に腕を回し、
静かに言った。

「君と結婚する夢」
「……そう。
 叶えたいわ。今、ここで。」
「………ここでは無理かな。」
「……そう…」
「……あと1年だ。」
「え?」
「あと1年あれば、
 それが叶うよ。」
「それってどういう……」

彼女が彼を見つめると、
彼は美しい瞳を優しく細め
ただ一言言った。

「君の瞳は、いつ見ても美しいね。」

そう言うと、
彼は彼女にキスをして
金色の光となって姿を消した。

「待って!!!」

途端に襲ってきた
重力による自由落下の感覚。
あぁ、そうだ。
私は自殺する所だった。

一気に現実が彼女を飲み込み、
彼女は思わずぎゅっと目を閉じた。
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