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ティエラ ドラゴネス王国記
ハリキリオジイ。アーロン
しおりを挟む「・・・レンと寿命の話しをした」
『そのようだの』
「レンは、あんたになにか言っていたか?」
俺の前では諦めたような、それでいて予想していたかの様な、なんとも表現しにくい、表情で長いため息を吐いただけだった。
そして、俺の事を強く抱きしめてくれたのだ。
クレイオスは、無表情な顔で困ったようにホリホリと頬を指で掻いて見せた。
『レンを泣かせてしまった』
「だろうな」
レンのような優しい人が、自分の子供の最後を看取れと言われたのだ、悲しまないはずがなかろう。
『そして怒られた』
「当然だな」
表情筋が死んでいるはずのクレイオスが、片眉を上げ、いかにも呆れたと言いたげな顔を作った。
珍しいこともあるものだ。
ドラゴンは無表情がてっぱんなのではなかったか?
『レンはの。辛く苦しい思いをしてきたそなたに、何故これまで以上の苦しみを与えたのか、と怒ったのだ。アレクは幸せにならなければならない、幸せになるべき人だとな』
「レンがそんな事を?」
レンは自分も辛いはずなのに、俺の為に怒ってくれたのか。
俺はレンが居てくれるだけで、幸せなのに。
「それでレンには、どう答えた?」
『素直に謝った。我はアウラの言うことには逆らえん。それに神の計画は、我の理解の範疇外だ』
「あんたアウラに言われて、何も考えずに俺達に血を飲ませたのか?」
『アウラは頼りない神だが、真に愛い奴での。それに結果だけを見れば、何事も間違えた事が無い。結果に至る道が、我の目から見て無謀であったとしてもだ』
「創世の神が頼りないで済むのか? それにあんたみたいな奴が、アウラの言いなりとはな」
『そなたと同じだの。我にとってはアウラが全てだ。アウラがやれと言ったことに対して、我に否やはない』
「・・・あんた、獣人の創造主だったな」
『やっと思い出したか。思い出したのならもっと敬っていいのだぞ?』
「ふざけるなよ? レンに試練ばかり与えるあんた達を、敬う気など更々無いわ」
『エッジが効いて、グサグサ刺さるわい』
えっじってなんだよ。
何処の言葉だ?
ドラゴンの鱗を切り裂けるほどの刃物なら、俺も一本欲しい。
是非とも鍛冶屋を紹介してもらいたいものだ。
「どう見ても無傷だろ? まあ。あんた達を許す気はないから、諦めるのだな」
『恐ろしいのぉ』
お前に怖いものなんてあるのかよ?
◇◇◇
カルの出産は5刻近く掛かった。
その間俺はやることもなくクレイオスの後に付き従い、かつて魔族とヨナスが暮らしていた、地下集落を見て回った。
2万年以上前に放棄された集落だ。
当然当時の家財などは残っておらず、岩壁で区切られただけの、無味乾燥な空間を指差し、こんな用途で使われていた場所だ、との説明を受けただけだった。
それでも、今も利用可能な水道や照明、地下全体を暖める事が出来る暖房設備には、感心するしか無かった。
古代の魔族の文化水準や諸々の技術力は、今の俺達の遥か上を行っていたらしい。
しかし、現在の魔族の文化水準は、俺達と変わらないと聞いている。
「高度に発達した文明も、維持し続けるのは難しいのだな」
『ここは、レジスがヨナスの為に作った場所での。レジスの頭の良さは頭抜けておってな、我が戯れに聞かせた、異界の文化文明の話だけで、ここの設備を作り上げたのだ』
「俺の祖先とは思えない優秀さだな?」
『うむ。領主としての手腕も行動力も有り、所謂天才であったな。天才であるが故か、レジスは変わり者でな。恋愛に関しても盲目的且つ直情的な、厄介な雄であったよ』
「なら、魔族が優れていた訳ではなく、レジス個人の才能ということか?」
『そうとも限らん。ここを維持している技術は魔族由来の物の方が多い。あの頃の魔族は、今よりももっと魔力魔法に長けておった。魔法頼みだったと言えなくもないが、強靭な肉体と魔力を持ってすれば、大概の事は解決できる。長寿でも合ったから、蓄えた知識も膨大なものだった。レジスはの、魔族の持つ技術と、己の頭の中にある物を組み合わせ、新たな物を作り出すのが、異様に巧かったのだ』
「レジスが死んで、その技術を引き継ぐ者が居なかったのだな?」
『ヨナスは残念な子じゃったからの』
あの執念深い雄を、残念の一言で済ますとは、全くドラゴンと言うやつには恐れ入る。
集落をぐるっと一周回りし、魔素湖へ続く部屋に戻る途中、他の場所とは異なり、妙に生活感にあふれた区画が目に入った。
「あれは何だ?」
『おお、あそこはなアーロンの住まいだの。そして卵が孵化した後は、子龍の育児室になるそうだ』
「気が早いな。孵化がいつになるかも分からんのに」
『アーロンは我が子を育て損ねておる故、カルにしてやりたかった事を、詰め込んで居るようじゃの』
「見てもいいだろうか」
『構わんだろう。寧ろアーロンが居ない今がチャンスだの』
「なんでだよ」
『そなた、子龍の為に用意したあれこれの説明を、あのアーロンから聞きたいか?』
偏屈な龍が嬉々として語る姿は、申し訳ないが想像だけでげんなりしてしまう。
「謹んでご遠慮申し上げたいな」
クレイオスに手招かれ覗き込んだ育児室は、子供部屋と言うには異質と言うか、なんというか・・・。
「宝石だらけだな」
『龍もドラゴンも光り物が好きだからの。大方アーロンが溜め込んでおったものを、これでもか、と注ぎ込んだのであろう』
「それにしたって、これはやり過ぎじゃないか?」
黄水晶のシャンデリア。
金糸銀糸がふんだんに使われたクッション。
宝石をはめ込んだ絵まで飾られている。
壁際の本棚に並べられた本の装丁にも、金銀宝石が惜しみなく使われ、水晶でできた子供用の食器に、おそらく純金と思しきカトラリー。
部屋の隅に積み上げられたぬいぐるみの目と鼻は、本物の宝石が使われているようだ。
これが子供部屋?
いやいや、おかしいだろ。
短時間でも目がチカチカしてきたぞ。
良いのかこれ?
龍にはこれが普通なのか?
そして部屋の中央に置かれたベビーベッドは、何処で取ってきたのか知らんが、巨大な紫水晶をくり抜いたものだった。
「ん? ベットが2つ? カルの子は双子か?」
『そうらしいの。それを知ってアーロンは余計にハリキッたのだ』
「アーロンは加減を知らんのか? これでは全く落ち着かん。子供の教育的にどうなのだ?」
『さして影響はなかろう』
「しかし・・・体中に宝石をジャラジャラ着けて、外を飛び回ったらどうする?」
『カルが止めるじゃろう? カルはアーロンと違って自然派思考じゃからの』
「自然・・・ね」
確かにここと違い、カルの小屋は素朴だったな。
魔素湖の入口の部屋に戻り、クレイオスが用意した茶を飲んでいると、レンが念話で、カルの産卵が終わったことを知らせてきた。
初めての産卵で疲れているということも有り、カルの卵との対面は後日という運びとなった。
俺は別にカルの卵になど興味はなかったが、初めて産卵に立ち会ったレンは、興奮気味にカルの卵の美しさを語り、俺がカルを見舞うと信じて疑わなかった。
このままだと、なし崩し的に子龍の子育てにも、レンが参加させられそうで、俺の心は穏やかとは言い難い日々が続くことになったのだ。
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