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ティエラ ドラゴネス王国記
親子の晩餐
しおりを挟む後日祝いの品を携え、カルを訪ねた時に見せてもらった2つの卵は、どちらも藍色に金の斑が入った美しい姿をしていた。
カルの本性を彷彿とさせる卵を、優しく撫でるレンの姿は、母性に溢れていた。
母親の顔を見せるレンは幸せそうで、嫉妬でずきずきと痛む胸を抑え込むのに俺は必死だった。正直何を話したのかもよく覚えていない。
そして卵が勝手にレンの魔力を吸い取るというハプニングにも、レンは「あらら。お腹空いてたのかしら。エミールくんみたいな食いしん坊さんね」と全く動じた様子を見せなかった。
それを受けたアーロンが孫の顔見たさから、時間の空いたときで構わないから、卵に魔力を分けてほしいと言い出した。
不機嫌になる俺と、オロオロするレン。
何が問題なのか? と主張を曲げないアーロンに俺は苛立ちを募らせていった。
そんな俺とアーロンの間を取り持ったのはカルだった。
『アーロンも一応レンの眷属なんだ。レンを困らせるようなことを言っては駄目だよ』
『しかしカルよ。魔素水も万能ではない。孫達はレンの魔力を欲したのだ。孵化のためにはレンの魔力が必要であろう?』
『そうだけど。レンは王妃としての仕事で忙しいくて疲れているんだよ。時間がある時は休まなきゃね。無理をさせては駄目』
レンに対する気遣いは有り難いが、レンが俺の番で伴侶だと言う事へに配慮はないのか?
人の良いレンがアーロンの願いを断れるはずもなく。
時間と体力に余裕のある時にだけ。と言う条件付きでカルの卵へ魔力を分けることになったのだ。
魔素湖を利用する以上卵が孵化する日まで、数年、数十年。
もしかしたら数百年の間、カルの卵に煩わされずに済むことを願っていた。
レンの性格と、カルとアーロンがレンの眷属であることを考えれば、無関係で通すことなど出来ないと理解もしていた。
それがこんなにも早く・・・。
カルはどうか知らんが、レンにとってカルは色恋の対象外なのだと頭では分かっている。
レンは愛しているのは俺だけだと言ってくれているし、その言葉を疑ったことなど無い。なんの罪もない2つの卵に、嫉妬心を抱く俺が悪いのだ。
理解はしていても、モヤモヤとした気分は晴れることがなく。
魔力の混入を避けるため、レンが卵に魔力を与える場に俺は立ち会うこともできない。
カルの家へレンを送り届けた後、やることのない俺は、行き場の無いいらだちを抱えながら、アーロンと楽しいとは言い難い茶会をするだけなのだ。
どう考えても俺にとっては不毛な時間であるし、不機嫌な俺に気を使うレンも可愛そうだった。
そこで、俺はレンがカルの家へ出かける時の送迎を、クレイオスにやらせることにした。
クレイオスなら城からカルの家まで安全かつ一瞬でレンを移動させることが出来る。それに俺の出禁を無視し続け、城に居座り続けているのだから、少しは働いて貰わねば。
その間俺は騎士団の鍛錬に参加すれば、騎士達の底上げにも繋がり、レンに気を使わせることもなく、一挙両得。
更に俺も鬱憤晴らしが出来る。
事情を知るマークは呆れながらも「若い者達にはいい刺激になるかも知れませんね」と俺が鍛錬に参加するを快諾してくれた。
ただ・・・。
「いいですか? 一番若い者達は陛下の強さを目にしたことが有りません。決してやり過ぎないよう、注意してくださいね」
としつこいくらいに念を押されてしまった。
「そんな甘いことでいいのか?」
「実戦に出る前に、潰されては困るのですよ」
「実戦で死ぬよりマシだろ?」
「仰るとおりですが、彼らは今年アカデミーを卒業したばかりで、見習いに毛が生えた程度なのです。そこの所を考慮して頂きたい」
「善処はする」
と言いはしたが・・・こんなに弱いのか?
5ミンも掛からぬ内に、全員が地べたに這いつくばって居るぞ?
「・・・だから言ったのに」
「マーク。いくらなんでもこれでは話にならん。モーガンに授業内容の見直しをさせろ。それと入団試験も第二騎士団の時より甘すぎるのではないか?」
「そうですね。私もここまで酷いとは思いませんでした。アカデミーの推薦状を信じすぎたかも知れません。今年入団した者達には、早急に特別メニューの鍛錬を組むことにして、入団基準も昔に戻そうと思います」
「うむ。魔物も昔に比べると減ったとは言え、被害がなくなったわけではない。秋の遠征までに使い物になるようにしろ」
「了解です。しかし秋までに芽が出なかったらどうします?」
「当然遠征には連れて行けんな。だが騎士として育つまで時間が掛かる奴も多い。猶予は3年。それで駄目なら別部署に回すしか無い」
「無駄死にさせる訳にも行かないですからね」
「ということが有ったのだ」
「あらまぁ。即戦力になる子達を育てるはずだったのに、モーガンさんがそんないい加減なことをするかしら?」
「だよな。俺達もおかしいと思ってな、いまアカデミーを調べさせているところだ」
「でもギルバートは、問題があるとは言ってなかったわよね?」
「うむ」
「サクラ達にも話しを聞いてみる?」
「入学したてで、何が分かるとも思えんが」
「あの子達、結構勘が良い方だから、理由はわからなくても違和感は感じているかも知れないわよ?」
「ふむ・・・ミュラーに頼んで時間を作らせるから、久しぶりに子供達と一緒に飯でも食うか?」
「それいいかも。親子の時間も取れるし、アカデミーの話もそれとなく聞けるしね」
「楽しみだわ」とアカデミーの件を抜きにして、子供達との晩餐をレンは普通に喜んでいた。
子供達が小さい頃は、出来るだけ一緒に過ごせるように時間をやりくり出来ていたが、国が安定していくにつれ、新しい事業計画が次々に持ち上がり、俺とレンは仕事に追われ、2人きりの時間を過ごすことも難しい。
当然子供達をかまってやれる時間も、少なくなる一方だった。
まあ、思春期を迎えた子供達は、親の存在が煙たくて仕方がない時期でもあり、生意気な台詞ばかりを言うようにもなった。
こんな時は距離を置いたほうが、精神衛生上互いのためでもあると、レンは少し寂しそうに話していた。
レンの夢は仲良し親子なのだ。
子供達の独り立ちが近づいてくる程に、寂しさも増していることだろう。
などと、俺は心配していたのだが。
当のレンはと言うと、「あんまり放ったらかしにしていて、変に拗らせたらどうしましょう。 "封印されし俺の右腕が疼きやがるぜ“ なんていい出したら? それはそれで可愛い気もするし、実際そんなのも有りな世界観なのが心配だわ!」とかなんとか。
心配しているのか喜んでいるのか。
俺からすると、なんの事やら、な話なのだが。
レンが元気で楽しそうなので、俺からは特に言うことはないな。
晩餐の席で、子供達3人に話しを振ってみると、3人それぞれがアカデミーの生活を楽しんで居るようで一安心だった。
それぞれの選択した学科の、担当教授についての印象を聞いてみると、今の処批判的な印象は受けていないようだった。
しかし・・・。
「モーガンは休みを取っているのか?」
「長期休暇とかではないみたいです。半年くらい前から教授は休みがちというか、だんだん休みが増えているみたいです」
「初耳だ。モーガンは、体調を崩しているのか?」
「いえ。ご家族のどなたかがご病気らしい、と侍従が噂しているのをチラッと聞きました」
「レンはナディーから、なにか聞いているか?」
「ううん。なんにも聞いてないわ。やだわ水臭い。どうして相談してくれないのかしら」
「母上と父上は、忙しいですから。気を使って居るのかも知れないですよ?」
「だとしても・・・ねぇ」
「うむ。モーガンとは一度話しをせねばならんな」
「本人達が秘密にしたいのかもしれませんよ? それをわざわざ暴くなんて、趣味悪くない?」
ヒイラギの言葉に、俺はカチンと来た。
いくら思春期でも、親を馬鹿にした態度は許せん。
しかし、叱りつけようとした俺より先にレンが口を開いた。
「ヒイラギ。あなた今まで何を学んできたの? あなたの今の発言は、王家の人間として無責任で恥ずべきものよ?」
「はっ母上?」
穏やかな口調と、浮かべた笑み。
一見慈愛に満ちた表情に見える。
しかしその中で、キラリと光る冷え切った瞳を向けられたヒイラギは、頬を引き攣らせ助けを求めて視線を泳がせたのだ。
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