獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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ティエラ ドラゴネス王国記

タランと軍議



「そうか・・・オーベルシュタイン、シルベスター、アーべラインは?」

「サイン済み」

「うむ・・・」

 辺境伯三家も臨戦態勢に入っているのか。

 魔法契約にサインしているとなると、セルゲイはともかく、叔父上もオーベルシュタインもオレに情報は流せんだろう。

 事態はそこまで切迫しているという事か?
 いや。
 そこまでの状態なら、ロロシュは何かしらの手を打っていた筈だ。

「そこで相談なんだけどよ」

「なんだ?」

「皇都に来たばっかりだけど、エミールと殿下を、マイオール旅行に行かせたらどうかと思う」
 
「マイオール・・・?」

 王太子だったリンガは、後継者争いに負け、何処かに出奔したと聞いている。時を同じくして、フレイアも姿を消した。

 そして、ロロシュはギルバート達をエストへ帰すのではなく、マイオールへ送ろうとしている。 
 であれば、相手は・・・。

「タラン・・・迎撃の準備に入る」

「・・・世の中の皆んなが、陛下みたいに勘働きがいいと助かるんだけどな。オレとしては、殿下達のマイオール旅行は、夏季休暇辺りが良い様に思う。まあマイオールは夏が短いから、もう少し早くてもいいけどよ?」

 成る程、侵攻は夏。

「ではその様に、伯父上に2人を頼んでおこう。ロイド様と親父殿は元気にしているか?」

「上皇陛下は御歳だから、それなりだな。ロイド様は、最近体調を崩し気味だ」

 それを聞いてレンが、魔晶石へ身を乗り出した。

「ロイド様が? 最近ロイド様とリアンからの手紙が来ないから心配してたの。ロイド様は何かご病気なの?」

「いや。特別何か病に罹った訳じゃなさそうだ。多分心労だと思うな」
 
「そう・・・なのね。お見舞いは・・・」

 レンは俺を振り返り、首を振って見せると、しょんぼりと肩を落とした。

「まあ、心配すんなよ。そんなことでオレは暫く、陛下のお傍に侍ることになってっから。ロイド様になんかあったら、直ぐちびっ子に連絡すっからよ」

 切迫感が無い様に振る舞う、ロロシュとの通信は終了した。

 そこへ王城の経費予算について、レンへ相談に来たローガンに、マークとミュラーを大至急呼ぶように伝えた。

 その様子をレンは、眉を顰めた難しい顔で黙って見ていた。

「大丈夫か?」

「良くわからない・・・分かりたくない。どうしてなの? アカデミーの卒業生が実力不足だった。それだけの話のはずだったじゃない」

「・・・そうだな」

 レンは神の愛し子。
 慈愛の人だ。
 こんな話し、君に聞かせたくなかった。

 何時かは起こるだろうと考えていた。
 それが帝国なのか、この国か。

 出来ることなら国境から遥か遠く、叶うなら海を隔て、名前しか知らない国で起こって欲しかった。


 ロロシュとの通信を終え、ミュラーとマークを呼び出し、事の次第を告げた。


 マークは自分に何も告げず、危険が迫っていることを知りながら、ギルバートとエミールの二人を、皇都へ迎え入れたロロシュに腹を立てていた。


「皇命で内容もわからぬまま、魔法契約を結ばされたのだ。今回ばかりはロロシュを攻めることも出来ん。それにロロシュは特別な会議と言っていた。であれば、皇宮内に敵の間諜が入り込んでいるか、もしくは、有力貴族の中にタランと通じている者が居て、正規の会議に図ることが出来なかったのだろうな」

「そうなる前に知らせて来るべきでしょう。ロロシュは暗部の長なのです。職務怠慢にも程がある」

 ぶりぶりと怒りを露わにするマークに俺とミュラーは苦笑を浮かべるしか無い。

 レンは俺達の話し合いを黙って聞いていたが、その表情は暗く、俺達は3人とも、レンにどう声をかければよいか分からなかった。

 その後主だった者達を集め、今後の対策を協議する場にもレンは、王族としての義務だと言い、協議を欠席することはなかったが、ただ黙って話しを聞くだけで、自分から発言しようとはしなかった。

 戦争とは、いかに効率よく敵と味方を殺すかが勝敗の軸になる。

 魔物相手の戦闘とは根本が異なるのだ。
 レンの様な人には、辛い話しなのだろう。
 
 しかし、戦端が開かれてしまえば、残酷な話ばかりになる。

 やはり軍議への参加は、止めさせるべきだろうか。

 ゴトフリーを攻め落とした時は、運よくレンに血生臭い場面を見せずに済んだ。

 今回もそうであれば良いのだが。

「タランの目的が何処にあるのかがハッキリし無いのであれば、防衛、迎撃の準備を進めるしか無いのでは?」

「いや。どう転ぶか分からん。こちらからの侵攻も視野に入れて準備を急げ」

「タランの国境はどうか?」

 ひよこ改め、飛行騎士隊大隊長グローデルヒへ話しを振ると、あのお喋りだった小僧が、大隊長らしい真面目な顔で立ち上がった。

 相変わらず、4人が揃うとピーチクパーチク喧しいらしいが、公式の場では、部下を束ねるに相応しい態度を取れるようになっている。

 不出来な子ほど可愛い。と世間では言うらしいが、全くその通りだと最近感じるようになった。

 お喋り好きで、年中マークに叱られていた奴らが、大隊を束ねる要職に就くことになるとは、実に感慨深い。

「タランの王位継承争いが激化した、との報告を受けた直後から、国境付近の警備を厚くするよう指示を出しました。またリンガ殿下の廃嫡の知らせを受けた後は、我ら飛行騎士隊が交代で常駐し。巡回と索敵に注力しておりますが、今のところ目立った動きはありません」

「うむ。なにか異変、いや微かな違和感でも感じたら、直ぐにダンプティーを飛ばすように。何もなければそれで良し。手遅れになるよりマシだからな」

「御意のままに」

 ほんと、お前誰だよ。
 別人級の変わりようだ。

「よし次。タランの予想戦力」

「ハッ! 王家の継承争いが激しくなる前の、タラン王国軍は予備兵を含めおよそ55万6千と予想されておりました。しかし現王太子ガロウとリンガ王子の派閥に別れ、公にはなっておりませんが、武力衝突も有ったようです。その際命を落としたもの、リンガ王子の出奔につき従ったもの、またガロウ王太子側の報復を恐れ、逃走したものなどにより、その数30万まで数を減らしていたようです」

「うむ。約半数がリンガに従ったのだな?」

「そのようですね。ただし、リンガ王子は民達の人気が高く、二人の武力衝突の際、民が隆起していれば、ガロウの亡骸は魔鳥の餌になっていた。との声が主流です」

「成る程。続けよ」

「リンガ王子へ付き従ったのは、約1万5千と言われておりますが、何処にどう隠れたものか。王子共々現在も行方は不明のままです。昨今タランでは王国軍増強のためと称し、騎士や兵の募集が続いております。実際は増強ではなく、再建のためと考えられて居ましたが、現在の状況を鑑みるに、侵攻のための準備であったと考えられます」

「寄せ集めの軍では、大して脅威とは呼べないでしょう?」

 ロドリックは、全体の見通しがまだ甘い。

「魔物相手とは違う。数は力だ。寄せ集めでも最後に生き残った数が多い方が勝者だ。それを忘れるな」

「あっそうですね」

「今の増員はどの程度だ?」

「40万に届かない程度と予想されます」

「ふむ。どれも不確実だな」

「仕方有りませんよ。うちの間諜はリンガ王子の近くに入り込んでいたものが殆です。ガロウ側も警戒していますから、新たに送り込んだ者も、まだ深くは接近できていません。情報が少なくても致し方ないかと」

「うむ・・・」

「そもそも、皇帝陛下は何故、我が陛下に何も知らせず、支援を求めてこられないのか?」

 そうだよな。

 アーノルドは俺を信頼していないのか。
 俺は信頼に足る人間ではなかったのか。
 俺がして来たこと、努力の全ては無駄だったのか。

 俺もそう思った。

 だがよくよく考えれば、アーノルドの取った行動は、ある意味では正しい。

 俺は皇兄ではあるが、今は他国の王なのだ。

 そしてこの国も、帝国から自治を認められただけの、帝国の一部ではあるが、純粋な帝国の領地ではない。

 いくら兄弟であろうとも、他国の王、それも格下の小国の王へ、帝国内の内輪揉めの相談など、出来なかっただろう。

 隣国に脅されたくらいで、俺に頼るようでは、皇帝としての面子に関わる。

 兄としては淋しくもあるが、いつまでも乳母日傘では、見縊られてしまう。アーノルドも自らの手で、ここらで一発ガツンとやりたかったのだろう。
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