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アレクサンドル・クロムウェル
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しおりを挟む後続の指揮をミュラーに任せた俺は、必要最低限の物資を雑納に押し込んで、エンラに飛び乗り皇都を後にした。
ザンド村までの移動は通常4日程かかるが、俺達はその半分の2日という速さで、村までを走破した。
街道を行き交う人々は、土埃を舞上げエンラで爆速する俺達の行軍に、顔を青くしていたが、気にはならなかった。
移動の最中は最小限の休憩と、食事以外はエンラを走らせ続けた。
途中マークから何度も「部下を殺す気か?!」と嗜められたが、「早駆けの訓練だと思え、着いて来られない者は置いていく!」と言って黙らせた。
自分でも無茶をしている自覚はあったが、何故か予感めいたものを感じて、気が急いて仕方がなかった。
当然脱落者が相次ぎ、皇都出発時、追従する騎士は26名だったが、ザンド村到着時は8名にまで人数が減っていた。
最後までついて来られた者には、後で褒美を出してやろうと思う。
一方ザンド村の村民達は、かなり驚いた様で、俺たちを目にした者の中には、腰を抜かし、周りから助けられている者も居たほどだった。
土埃に塗れ、疲労で目をぎらつかせた黒衣の集団が駆け込んで来たのだから、何事かと怯えるのも無理はない。
比較的まともそうな奴を捕まえて、宿屋の場所を聞くと、宿屋は村に一軒しかないらしく、西に進めばすぐに判るとのことだった。
教えてくれた事に礼を言い、ついでに小銭を握らせて村長を呼びに行かせた。
村に一軒しかないという宿屋は、想像よりも設備が整っていて、各部屋に風呂が付いていると知った部下達は喜んだ。
俺としては、大きな厩舎があったことの方が有り難かった。
今回は、俺の相棒のエンラのブルーベルにも無茶を強いてしまった。
長くは休ませてやれないが、厩舎で休めれば少しは機嫌が治るだろう。
宿屋の主人に案内された部屋で装備を解き、湯浴みを済ませたところで「閣下宜しいですか」と渋面のマークに捕まった。
そこから現在まで、マークの説教が止まる事を知らない。
部隊編成と戦列の維持の需要性・脱落した者が魔物に襲われる危険性等々。
至極ご尤もな話なので、マークの説教にも神妙な面持ちで頷くしか無かった。
「いいですか閣下。閣下は肉食系最強種と言われる種族で、しかも歴代で最も能力が高く、数々の討伐でも負け知らずの、謂わば英雄で有らせられる」
マークは胸に手を当て、嫌味ったらしく礼をした。
「し・か・し、私達は普通の、えぇ、ほんと~に普通の獣人ですので。ご自身とエンラに身体強化魔法を掛け、爆走する閣下に付いてい行くのは、それはそれは大変なんですよ?」
"狐属最強種が何を言う" と思いはしたが、長い指を振り振り冷たい目を向けるマークに、取り敢えず黙っておく事にした。
「皆がみな、閣下の様に化け物並みの体力と魔力を持っている訳ではない、とご理解頂けましたか?」
化け物とか言い過ぎだろう
お前が機嫌が悪いのは、途中で風呂に入れなかったのが、気に入らなかっただけのくせに。
言い返そうと思ったが続くマークの言葉に口を噤むしか無かった。
「閣下、何を焦っているのです?」
真摯に向けられる、金茶の瞳に居心地が悪くなり、俺は視線を逸らした。
「俺にも・・・よく分からん」
俺の言葉にマークは訝しげに眉を顰めた。
「理由は分からんが・・・尻の座りが悪い様な変な気分でな?皇都を出てからは、余計に何かにせかされる様な・・・・」
木の椅子に腰掛け、ガシガシと頭を掻く俺をマークは思案げに見下ろしている。
「信託に関係があるのでしょうか」
「樹界の王の標となりて…か?」
寸の間黙り込んだマークが苦笑を浮かべて口を開いた。
「実は私も同じ様なものでして」
「同じ?」
「ですから、あの謁見室の時から落ち着かないのですよ。何時もならアガスの様な輩を受け流す事など簡単ですが、あの時はどうにも腹が立って抑えが効かず・・・」
言われてみれば、あの時のマークはらしく無かったな。
「お前はどんな感じだ?」
そうですねと顎に指を当ててマークは考え込んだ。
「言葉にするのは難しいのですが、敢えて言うなら、二次性徴前のフワフワした感じに近いでしょうか」
あぁ確かにと思いつつ、ケツの青いガキじゃあるまいし、とも思う。
苦い顔をする俺にマークは「フフッ」と微笑んだ。
「何にせよ、閣下の様子がおかしい理由が、アガスでなくて良かったです」
「あの馬鹿のことか?スッカリ忘れてたな」
「放って置いて宜しいのですか?」
置いてけ堀をくらったと知ったら、腹を立てるだろうが、知ったことじゃない。
「勝手にしろとは言ったが、連れて行くとも守るとも言ってない」
「プッ。何ですかその屁理屈は」
クツクツと笑いながらマークが言った。
「まぁ、彼等の信仰心も純粋とは言えませんしね。彼等の思い通りしてやる義理はないですね」
「奴の腹の肉が信仰心とイコールなら、今頃奴は天使に格上げだろ?」
「アハハハ・・・相変わらず口の悪い」
俺はフンッと鼻を鳴らして窓の外に目を向けた。
茜色の夕日に、村の奥に広がる森が黒く浮かんで見える。
例えアガスが追い付いたとしても、俺達が森に入ってしまえば問題は無い。
戦闘用のエンラの脚は強い、お気楽な神官達がついて来られる訳がない。
まぁ、村に残す奴らには面倒を掛けるが、邪魔をされるより何倍もマシだ。
愛し子を庇護するのは俺達だ。
神殿に・・・アガスなどに渡すものか。
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