獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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アレクサンドル・クロムウェル

帰還とお引越し / 練武場

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「秘技?ウィリアム何か知っているか?」
「う~ん。聞いたこと無いなぁ。神殿の祭礼は、秘匿されている物が多いんだよね」
 お前はどうだ、アーノルドに目を向けると、「陛下が知らないなら、僕なんて」と、顔の前で手を振って居る。

「ロイド様から、何か聞いた事はないか?」
「母上は他国の出身ですから・・・上皇陛下とも、あまり話はしていないと思います」

 ロイド様と親父殿は政略結婚で、2人は愛情深い関係とは言えなかったな。
 これはアーノルドに悪いことをした。

「神殿については、上皇陛下が一番お詳しいのではないでしょうか?」
「それも、どうだろうね」
「そうだな・・・ダメ元で母上から聞いてもらうか?」
「リリーシュ様かぁ。一番手っ取り早いかもね」

 母上には、柘榴宮の使用人の手配を頼んだばかりで、また頼み事と言うのも気が引けるが、仕事を放ったらかして、親父殿の所へ入り浸って居るのが悪い。
 と以前なら言い切れたのだが、俺も番を得て、母上の気持ちが分かる様になると、さっさと戻ってこいとは言い辛い。

 母上は親父殿に甘いからなぁ。
 ・・・それは、俺も同じか。

「そう言う事だから、レンちゃんの疑問に答えられなくて、ごめんね」
「いえ、私の方こそ、ただの気のせいかもしれないのに、お手間を取らせてすみません」
 とレンはペコっと頭を下げた。
「君が頭を下げる必要はないぞ」
「でも・・・」
「そうそう。愛し子が気になるって言うのなら、きっと何かあるんだと思うよ?」
 とウィリアムが宥めたのだが、レンは“なんか、余計にプレッシャーが”と呟いていた。

 レンは自信が無い様だが、アルケリスの件でも分かる。レンが何かあると感じたなら、其処にはきっと何かしらの問題がある、と俺は信じる。

 部屋に戻ってから、アウラ神に直接聞けないのか?と尋ねると、以前アウラ神に“自分で調べてから、私を呼ぶように”と言われたそうだ。

「何でも神頼みじゃいけませんよね?人の世界の事は、人が解決しなくちゃダメなんです。人事を尽くして天命を待つ!と言いますら」
 初めて聞いた言葉だが、言いたいことは分かる。
 人生は、なる様にしかならんが、自分ができる限りの事はするべきだからな。
 あちらの世界は、なかなか良い言葉多いな。


 ◇◇◇
 
 柘榴宮への引越し当日。
 
 ローガンとセルジュに追い出された俺とレンは、練武場に来ている。
 朝の爽やかな空気の中、鍛錬に励むはずだったのだが・・・・。

「なんで、お前がここに居る」
「なんでって、移動命令書渡したよな?」

 皇帝のサイン入りの移動命令の役職には、第二騎士団参謀とある。
 戦時下でもあるまいし、他に参謀を置いている騎士団など、聞いたこともない。

 しかも、ロロシュ・メリオネス?
 あのメリオネスか?

 次子がいるとは聞いていたが、どう見てもロロシュはアルケリスより年上だろう?
 どう言うことだ?
ウィリアムも昨日のうちに話してくれれば良いものを・・・。ウィリアムからは、何も聞かされていない。
 だとすれば、この移動に深い意味はないのだろうが・・・。

「だから、皇帝の影が、なぜ第2うちに移動になるのかを聞いている」
「そりゃあ、オレが移動願いを出したから?」
「何故、第2なんだ?」
「いやぁ、ザンド村の一件で情が湧いたっていうか」

 絶対嘘だ。
 このロロシュが、そんな情の深いことを言うとは思えん。

「・・・まあ良い。励め」
「へいへい」
「おい、ザンド村では、大目に見たが、正式にオレの下に着いたからには、口の利き方には気をつけろよ」と睨みつけると「お~こわ。以後気をつけます」とロロシュは肩を竦めて見せた。

 まったく、わざとらしい。
 
 フンと、鼻を鳴らすオレの横に立ったロロシュは、練武場を一通り眺め、マークと並んで走るレンに目を止めた。

「あのちびっこいのが、愛し子様ですか?」
「そうだが?」
 なんか文句あるかと、横目で睨むと、ロロシュは苦笑いを浮かべた。

「いや~。ほのぼのとして良いですなぁ。見てくださいよ。マークの一歩に追いつくのに、三歩はかかってますよ?」
 こいつの事だ、バカにして居るつもりは無いのだろうが、なんかムカつくな。

「そうやって、笑っていられるのも、今のうちだぞ?」
「やだなぁ閣下。怒ったんですか?」
「ふん」

 オレは忠告はした。
 後は自分の身で確かめろ。

「アレクさん?」
「体はほぐれたか?」
「はい。あの、こちらの方は?」
「こいつは、今日付けで移動になったロロシュだ」
「ロロシュです。よろしくお願いいたします」
 と慇懃に頭を下げるロロシュに
「ご丁寧にどうも、シトウです。よろしくお願いします」とレンもペコリと頭を下げた。

「チッ!」
 ??・・・今の舌打ちはマークか?
 不思議に思ってマークに目を向けると、其処には、ここ数年見たこともない、不機嫌な顔のマークがいた。
 ロロシュに向ける視線は、氷点下。
 漏れ出た魔力が渦を巻いて、白銀の髪がザワザワと揺れている。

 一体どうした?

 二人は意外と仲が良さそうだ、と思っていたが、帰還の時になにかあったのか?

 二人の間の不穏な空気に気づいたレンも、忙しなく二人を見比べていたが、何かにピンと来た様子で「マークさん、ちょっとこちらへ」とマークの腕に自分の腕を絡めて、練武場の隅へマークを引っ張っていった。

 レンとマークは、よほど気が合ったのか仲がいい。よく二人で話し込んでいたりするのだが、何を話していたのか聞いても、レンは言葉を濁して教えてくれないことが多い。
 二人の仲を疑って居るわけではないが、腕を絡めるとか、ちょっとやり過ぎではないだろうか?

 練武場の隅に行った、二人のヒソヒソとした会話は、獣人のオレの耳でも聞き取りにくい。

 “あの人が?”  ”どうして“  ”どうしましょう“と、途切れ途切れに聞こえてくるだけだ。

 コソコソ会話する内に、マークも落ち着いたようだ。
 レンがニパッと笑って親指を立てると、マークもビシッと親指を立てて見せている。
 本当に、仲がいい。

 そのままマークは、素振りをする団員の指導に戻っていき、レンだけがオレの元に帰ってきた。

「なんだったんだ?」
「ふふふ。乙女の秘密です」

 秘密と言われて、気にならないオスはいないと思うのだが・・・。
 レンの笑顔には後ろめたさが全くない。今すぐベットの上で、問い詰めたい所だが、ここは我慢した方が良さそうだ。

「今日は、ウィリアムとアーノルドが来るはずだが、この後はどうする?」
「そうですね。いつも通り型の練習をして、その後手合わせをお願いします」
「相手はどうする?」
「アレクさんにお任せします。あっでも、そちらのロロシュさんとは、お手合わせ願いたいです」
「オレ・私とですか?・・いや無理でしょう」

 レンの腕前を知らない人間なら、皆が取るであろう反応をロロシュも見せた。

「木剣か?真剣か?」
「ロロシュさんとは、真剣でお願いします」
「分かった」
「はあ?!」

 俺たちの会話を唖然と聞いていたロロシュが異議を唱えた。

「閣下、あんた何言ってんですか?愛し子に真剣とか、危ないでしょ?!」
「いや。問題ない。それともお前が怖いのか?」
「そんなわけあるか!」
「だったら、黙ってレンの相手をしろ」
「ロロシュさん、よろしくお願いしますね」
 
 ニッコリするレンに「オレ手加減できないからな、知りませんよ?」と、ロロシュは頭をガリガリ掻きながら答えた。

  



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