獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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アレクサンドル・クロムウェル

誤解を解くならお早め / 激昂

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 引っ越しが終わるまで、宮に帰ることの出来ない俺たちは、柘榴宮の庭園の一角でランチを取る事にした。

 空は晴れ渡り、そよそよと吹くかぜも心地良い。
 木陰に敷いた薄手のラグの上で、胡座をかいて足の間にレンを座らせれば、ちょっとしたピクニック気分だ。

 愛しい番に、楽しく給餌をしながらのんびりと時間を過ごす。これ以上の贅沢があるだろうか?
 
 完璧だ。
 俺の計画は完璧なはずだった・・・。

 何故こうも、俺の小さな幸せを
 奪う輩が多いのか。

「だから、なんで、お前達がここに居る」
「なんでって。お腹すいたから?」
「レン様とお話もしたいですし」
「「ねっ!」」
 
 何が“ねっ”だ。顔を見合って声を揃えるな。
 まったく腹の立つ。
 お前ら兄弟は、なんでそんな所ばかり似てるんだ。

「・・・執務は良いのか?」
「僕は昨日のうちに、急ぎの決裁は終わらせて来ました」
「僕はグリーンヒルにお任かな~」
「おい皇帝。巫山戯るなよ」
 
 声が低くなった俺の腕をレンが、まあまあと優しく叩いた。

「ご飯は大勢で食べた方が美味しいですよ?それに、たまには息抜きするのも大事です」
「こんなに優しい子が、家族になるなんて、お兄ちゃん感動」とウィリアムが目を潤ませている。

「アレクさんも、そんなに心配しないで。ウィリアムさんは、無責任な人じゃ無いですよ?後でちゃんとお仕事頑張りますよね?」
 と笑顔で振られたウィリアムが「まぁ、そうね」と視線を泳がせた。
 
 コイツ、今日は絶対仕事しない気だな?

 ・・・まぁ、たまには休みも必要か。
 
「まったく・・・」
 レンの好きな、たまごサンドを摘んで、小さな口に運ぶと、レンも躊躇う事なく食べてくれた。

 最初は俺の給餌を恥ずかしがっていたが、最近は、こういう物だと受け入れてくれたようで、毎日の食事が楽しくて仕方がない。

 そんな俺の姿に、二人の兄弟は遠い目をしていたが、気を取り直すと、食って喋ってまた喋って、と忙しいことこの上ない。

 普段気を張って、取り澄ました態度でいなければならない二人には、気を使わず言いたいことを言えるのが、嬉しくて仕方がないようだ。

 こうやって、兄弟が揃って飯を食うのは、初めてかもしれない。

 こんな時間も、たまには良いな。
 ここに・・・ジルベールがいたら、なんと言うだろう。

 ・・・・・・ダメだ。
 大量のライムフロッグをぶち撒けて、ケタケタ笑う姿しか思い浮かばない。

 だが、こんな風にジルベールを思い出せるのは、良い事なんだろうな。

 ウィリアムとアーノルドのおしゃべりは留まることを知らず、俺とレンはもっぱら聞き役で相槌を打つだけだ。

 そのうちにレンが、「お花摘みに行ってきます」と席を立った。
 俺も一緒に行くと言ったが「宮まではすぐ近くだし、せっかく兄弟が揃ったんだから、お話を楽しんでくださいね」と言われて残る事になった。

「そう言えば、なぜロロシュの移動を許可したんだ?」
「個人的な理由。あの子も色々あるんだよ」
「メリオネスだからか?」
「さぁどうだろう」
「話す気はないのだな?」
「ない。その内アレクも分かるよ」
 
 煙に巻かれた気分だが、個人の事情に首を突っ込むものではないからな。
 暫くは静観する事としよう。

 その後もウィリアム達の姦しい話しを聞いていたが、レンの帰りが遅すぎる。
 昨日の今日で、レンに手を出す馬鹿者はいないだろうが、安心は出来ない。
 
 やっぱり着いて行けば良かった。

「アレクもトイレ?」
「いや、レンの帰りが遅いと思ってな」
「そういえば遅いね」
「ちょっと見てくる」

 足早に柘榴宮への道を辿ると、その中程で、レンが誰かと話す声が聞こえてきた。

 宮の使用人かとも思ったが、どうやら違うらしい。
 “大丈夫、心配しないで”と誰かを慰めているようだ。

 何があった?

 盗み聞きは良くないが、気になった俺は気配を消して二人に近づいた。
 森の王者の虎が気配を消したら、気付ける者など皆無だ。

「私は閣下が羨ましいです」
「そんなこと言わないで」
「ですが・・」

 レンと話しているのは、マークだった。
 しかも、マークが泣いている?

「私はどうしたら良いのでしょう」
「大丈夫、きっと彼も分かってくれるから、ねっ、泣かないで」

 涙を流すマークが、俺の婚約紋が刻まれた首筋に顔を埋め、レンはその背中に腕を回して優しく撫でている。

 目の前が、嫉妬と怒りで赤く染まった。

 俺が羨ましい?
 彼も分かってくれる?

 二人は仲が良い。
 内緒だと言って、二人の会話の内容も教えてくれなかった。

 人族と獣人族の婚姻には特例がある。
 人族1に対して獣人族多数の複数婚が認められている。

 つまりそう言うことか?
 マークは、俺とレンの間に割り込む気か?
 それはダメだ!!
 許さんぞ!!

俺は木陰から飛び出した。

「マキシマス・アーチャー!!」

「アレクさん?」
「閣下!」

 ガスッ!!
 俺は驚愕に目を見開いたマークの顔を殴り、殴られ弾き飛ばされたマークが近くの木の幹に激突した。
 ガクッと首が垂れたのは、気絶したからだろう。

「マークさん!!」
 マークに駆け寄ろうとする、レンの腕を掴んで引き留めると、レンが俺の眼を睨んだ。

「何て事するんですか?!」
「うるさいっ!!」

 俺は暴れるレンを肩に担ぎ上げ、柘榴宮へ足を向けた。

「離してっ!!なんでこんな酷いことするの?!」
「酷いのは君だッ!!」
「私が何したって言うんですかっ?!」

「アレクどうしたの?!」
「大丈夫ですか!・・レン様?!」 

 騒ぎを聞きつけた、ウィリアム達が駆けつけてきたが、修羅場と化した光景に理解が追いつかない様だ。

「ウィリアムさん!マークさんが!!」
「アーチャー卿?!」
「放して!!アレクのバカッ!!放してってば!!」
「アレク!!レンちゃんを放せ!!」

 なぜ俺を拒む。
 そんなにマークが良いか?
 俺よりマークが大事か?

 俺はレンを担いだまま走り出した。

 柘榴宮に入った俺は、大股で寝室へ向かった。
 レンを肩に担いだ俺の異様な姿に、引っ越しの片付けをしていた使用人達は、顔を真っ青にして動けなくなり、怯えた顔で俺たちの事を見送っている。

「ローガンッ!!」
「閣下どうなさったのです?!」
「ローガンさん!!助けて!!」
「部屋の準備は出来ているな」
「閣下、落ち着いてください!レン様が怪我をしてしまいます!」
 
 なんとか俺を落ち着かせようとして来るが、今の俺には逆効果だ。
 俺の邪魔をする全てのオスが排除対象だ。

「もうやだあ。放してよ~」

 何故泣くんだ。
 泣きたいのは俺だ!

 遅れてきたセルジュが、俺の前に立ちはだかった。

「レン様が怖がってます。閣下やめてください!」
「煩いぞ、セルジュ!」
 
 立ちはだかるセルジュを、片手で払うと、廊下の反対側まで吹き飛んだ。

「俺が呼ぶまで、誰も二階に近づくな!」

 乱暴に扉を閉め、鍵をかけた上で結界を張る、これで誰も俺の邪魔は出来ない。

 ベットの上にレンを放り投げ、引きちぎるようにシャツを脱いだ。

 そんな俺を見て逃げようとするレンの腕を掴んで引き戻した。

「どうしちゃったの?なんでこんな酷いことするの?」

 震え声を出すレンの顔は、涙でぐちゃぐちゃだ。

「マークと何を話していた?」
「・・・・言わない」
「言わないんじゃなくて、言えないの間違いじゃないか?」
「そんなことない!」
「じゃあ、話せよ」
「・・・・・」
 
 なんて強情な。

 レンの道着の襟を無理やり割り開き、鎖骨に獣歯をあて囁いた。

「俺よりマークの方が良いか?俺と違って、マークは帝国一の美形だからな」
「そんなんじゃないっ!!」
「信じられんな」

 食い付く様にレンの口を塞ぎ、舌を捩じ込んで、縮こまった舌を無理矢理吸い上げた。

「んッんんーうう」
 俺の胸を叩く両手を捕まえて、頭の上で一纏めにして片手で押さえつけた。

「酷いよ」

 頬に溢れた涙をベロリと舐め取り、黒い瞳を覗き込んだ。

 そう、俺は酷い。
 狡くて、酷くて。
 心の狭いオスだ。

「レン?君が誰の物か思い出して」

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