獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
100 / 765
アレクサンドル・クロムウェル

誤解を解くならお早め / sideレン

しおりを挟む
 お着替えを済ませて、寝室の隣のリビングに落ち着いたところで、アレクさんには、ローガンさんとセルジュさんを呼んでもらいました。
 きっと二人は、ものすごく心配しているはずです。

 窓の外はとっくに日が暮れて、夜になっています。
 いったい何時間、私は喘がされていたのでしょうか?

 アレクさんだって、何回も出していたはずなのに、体の方はなんともなさそうです。
 いくら騎士様で体を鍛えているとは言っても、体力有りすぎじゃありませんか?
 もしやこれが噂に聞く、絶倫というものでしょうか?
 絶倫であのサイズ・・・・。
 なんか色々無理な気がして来ました。

 アレクさんに呼ばれて、部屋に入ってきたローガンさんとセルジュさんは二人とも、顔色が悪くて、凄く心配してくれていたみたいです。

「レン様、どこかお加減の悪いところはありませんか?」

 聞きたいことが沢山ある筈なのに、穏やかに気遣ってくれるローガンさんは、ベテラン侍従って感じで、さすがだと思います。

「私は大丈夫です。驚かせてしまってごめんなさい。練武場で私が怪我をしてしまって、アレクさんが過剰に反応しただけなので、他の皆さんにも、心配いらないと伝えてくださいね」

 みえすいた苦しい言い訳だけれども、勤務初日から、使用人の方達を怖がらせちゃダメですよね?

「承りました」
 ローガンさんも、分かっているのか、余計なことは言わずに、頭を下げてくれました。

 そんなローガンさんの後ろで、俯いているセルジュさんをチョイチョイと手で呼ぶと、アレクさんに手で払われたほっぺが痣になっていました。
 服に隠れて見えないけれど、壁にぶつかったところも怪我をしていると思います。

「ごめんね。びっくりしたよね」
「僕は・・・・大丈夫です」
 と、また俯いてしまった足元に、ポタポタと落ちる水滴は涙でしょうか。

 体は大きいけれど、セルジュさんは16歳、まだ子供です。
 怒り狂ったアレクさんの前に立ちはだかるのは、とっても勇気が必要だった筈です。

「心配してくれてありがとう」

 拳を握った、セルジュさんの手を取って、治癒魔法を掛けました。
 スベスベほっぺのセルジュさんに戻って一安心です。

 こんなやりとりの間、アレクさんは居心地悪そうに、一人ソファーで項垂れています。

 私は二人にお茶と軽食を頼んで、マークさんへのお見舞いと“動ける様だったら、明日柘榴宮に来てください”と言うメッセージもお願いしました。

「アレクさん、少し食べてください」
「・・・今はいい」
「ダメです。人間お腹が空いていると、考えが悪い方向へ偏ってしまいます。お話しする前に食べてください」

 果物を取って、ムシャムシャ食べて手本を見せると、アレクさんも渋々と言った感じで、ピカタっぽい肉を挟んだパンをもすもすと食べています。

 アレクさんが食べ終わったのを確認して、私は話を切り出しました。

「アレクさんが、何か誤解している様なので、最初に言っておきますが、私とマークさんの間に、疾しい事なんて何も有りません。私にとって、彼は妹・・弟みたいな存在です。それにマークさんには番が居ます。それは私ではありませんよ?」
「・・番?・・・・えっ?!」
「マークさんはその方との事でとても悩んでいて、私はその相談にのっていただけです」
「だが、俺のことが羨ましいって」
「もう!どこから聞いてたんですか?」
「すまん・・・」

 すっかりしょげかえっていますけど、簡単には許しませんよ?

「あれは、番を純粋に愛せる、アレクさんが羨ましいって話です」
「そう・・・なのか?」
「私はマークさんと、その方の事を誰にも話さないと約束したんです。だからマークさん本人が話すか、彼の許可がなければ、これ以上のお話は出来ません」

 アレクさんは大柄なので、どんなにしょげて小さくなっても、隠れることはできませんが、このまま行ったら、床に額が突いてしまいそうな程項垂れています。

「すまなかった・・・俺は最低だ」
「本当に最低です。どんなに怒っていたとしても、話も聞かずにマークさんを殴ったり、私にあんなことをするのは、立派なDVです、事案ですよ?」
「DV?」
「恋人や、夫婦、家族間で行われる暴力の事です。私はDVをする人は嫌いです」
「暴力・・・・そうだよな、嫌われて当然だ」と両手に顔を埋めてしまいました。

 ちょっと言い過ぎたでしょうか?
 
 でも、この世界は剣と魔法の世界で、アレクさんは騎士様だから、命のやり取りとか暴力的なことに慣れてしまって居るのかも知れないけれど、私は違います。
 
 いくら武道を叩き込まれても、それはあくまでも“道”であって、暴力ではないのです。

 それにここは、アウラ様が創った世界です。ヤベちゃんが言うところの、 18禁BLゲームみたいな展開があるかもしれません。
 
 そんなの、私の手には追えません。
 監禁エンド回避の為にも、言うべき事は言わなければ。

「ただヤキモチを妬いたからって、アレクさんがあんなに怒るとは思えないんです。他にも理由があるんですか?」
 
 アレクさんはノロノロと手を下ろして、私の様子を伺いながら、話し始めました。

「君に婚約と婚姻に関わる法の話しをしたのを覚えてるか?」
「はい。もちろん覚えてます」
「獣人族と人族の婚姻には・・・君に話していない特例がある」
「その特例とは?」
「獣人と人の婚姻では、複数婚が認められている。・・・人族1に対して、獣人及び人族が多数だ」
「でも・・番は・・・・」
「そう基本、番は一人だけだ。だが既に伴侶を得た人族を後から獣人が番と認識したり、稀に、複数の獣人が、一人の人族を番と認識することがある」

「知らなかった」
「教えてないからな。君は俺が何かを教えると、あの加護を使って調べ直す様子がなかった。だから黙ってたんだ」
“君は俺を信用し過ぎだ”とアレクさんは自嘲を浮かべました。

「この国は、基本的に伴侶は一人と定められている。だが人族と獣人族の婚姻だけは、複数婚が認められている。獣人は番と結ばれなければ焦がれ死ぬ。獣人の番に対する想いは本能から湧き出す愛だが、人の愛は心と情だ。これは人と獣人が相容れない部分でもある。だから人族に獣人が求愛した場合、その相容れない部分を理解してもらう為に、求愛紋を刻んでから婚姻まで一年以上、間を開ける決まりがあるんだ」

「求愛紋?でも、私たちは・・・」
「・・・俺が・・・我慢できなかった」

 なんてこった!!

 これは、アレクさんの言うとおり、ステータス画面なんて便利な物を貰いながら、興味の無いことを全く調べなかった、私の落ち度です。
 
「一年以上期間を空けるのは、番でないもの同士の婚姻で、本当の番が現れる可能性を考えての猶予期間でもある。昔、一夫一夫制で、離婚も認められなかった時代、後から番が見つかって、番を想って焦がれ死ぬ獣人や、獣人に捨てられて、生活が困窮したり、嫉妬で刃傷沙汰を起こす人族が絶えなかった。複数婚なら、番を見つけられない獣人も子を儲けることが出来るし、誰かに番が見つかった場合でも、後の対処がし易い」

 人の心に寄り添った法律と言って良いのでしょうか?合理的と考えるべきでしょうか?

「それで、マークさんが私の番だと?」
「・・・そうだ」
「複数婚が認められているのに、許せなかった?」
「その通りだ」
「かりにも団長職についている貴方が、事実を確認もしないで、法を無視して、感情に任せて大暴れして良いものでしょうか?」
「・・・」

 ダンマリですか・・・。
 こういう処が、子供っぽいというか。

「すまなかった。俺が狭量すぎた」
「・・・・分かりました」
「許してくれるか?」

 クハッ。上目遣いのイケメン・・・!!
 破壊力に負けるな私。
 心を強く持って。
 ここで、キッチリ躾けないと。
 監禁エンドが・・・。

「今は無理です。アレクさんに信じてもらえなくて、私は凄く悲しかったんです。だから今夜は寝室を分けて下さい。あと、マークさんやウィリアムさん達にも謝って下さいね」

「そうだよな」
 アレクさんはガックリと肩を落としてしまいました。
 可哀想だと思うけれど、怖いと思ってしまう自分も居て・・・。

 少し時間が欲しいと思うのは、我儘なのででしょうか。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

【恋愛】目覚めたら何故か騎士団長の腕の中でした。まさかの異世界トリップのようです?

梅花
恋愛
日下美南(くさかみなみ)はある日、ひょんなことから異世界へとトリップしてしまう。 そして降り立ったのは異世界だったが、まさかの騎士団長ベルゴッドの腕の中。 何で!? しかも、何を思ったのか盛大な勘違いをされてしまって、ベルゴッドに囲われ花嫁に? 堅物騎士団長と恋愛経験皆無の喪女のラブロマンス?

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...