獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
196 / 772
ヴァラクという悪魔

ヴァラクの世界4

しおりを挟む
 side・アレク


「ここで間違いないな?」

『不快な気配が漏れておる』

 そうかと頷き、鉄扉に手を当て軽く押すと、重い筈の鉄扉が音もなく内側へと開いて行った。

 誘い込まれて居る様で気に入らない。

 高い天井の薄暗い部屋に足を踏み入れると、部屋の最奥に玉座に似た大きな椅子に座る人影と、部屋の床一面に描かれた見たことの無い、禍々しい気を放つ魔法陣。

 そして、魔法陣の中央に跪いたローブ姿の小柄な人物の姿と、その横に蹲る真っ黒なドラゴンが見えた。

 魔法陣の縁に立つ俺達に、椅子から立ち上がった人物が、旧知の仲のように馴れ馴れしく声をかけて来た。

「これは閣下、お早い起こしですな。クレイオス様もご壮健でなによりです」

「お前がヴァラクか?」

「ええ。この姿ではお初にお目に掛かります。まぁ。これも本当の姿では無いのですが、最近では一番気に入って居るのですよ」

 うすら笑いを顔に貼り付けたヴァラクは、優雅と言える所作で、腰辺りまで伸ばした金髪を揺らしながらきざはしを降りて来る。

 警戒心剥き出しで、柄を握る音を立てたのはシッチンだろう。

「しかし、醜いお姿がさらに醜くなりましたな。愛し子様もさぞご不快でしょうに」

 侮蔑のこもった笑いを、俺は鼻を鳴らして嘲笑ってやった。

「いや? 俺の番はこの姿をいたく気に入ってくれてな。気を抜くと人の姿に戻ってしまうから、獣化を保つ方法を考えていた所だ」

 レンも俺の挑発に同調してくれたのか、本心なのか・・・あのはしゃぎ様なら本心だと思うが、俺の腕の中で何度も頷いている。

 自分をヴァラクだと名乗った雄は、一瞬鼻白んだ表情を見せたが、直ぐに嫌味な笑みを被り直した。

「左様ですか。今代の愛し子様は趣味がお悪い様ですな。このような獣がお好きとは」

 “うるせぇ。クソ野郎”

 俺の番は本気で怒ると、普段の穏やかな口調から想像もつかないほど口が悪くなる。
 今の呟きだと、怒髪天を衝くと言う感じだろうか。

「そうかしら?愛し子の伴侶は全て獣人だったし、ヨシタカ様の番のシルベスター候は、アレクさんにそっくりでしたよ? 獣化したって、貴方みたいな根性曲がりより、何万倍も素敵だと思うけど」

 ヨシタカの名を出されたヴァラクは、顔を歪めたが、それが不快感の現れなのか、悔しさの現れなのかは分からなかった。

「念のため聞くが、投降する気はあるか?」

「閣下、その顔で冗談を言っても笑えませんよ?」

 どこまでも慇懃無礼に振る舞うつもりか?

「性格わるっ」
 
 俺も同意だが、ロロシュよ。
 ヴァラクに睨まれ、慌てて魔力を煉るようじゃ、まだまだ修行が足りんな。
 レンは、部屋に入る時から臨戦態勢で、漏れた魔力で髪が ざわっざわ してるぞ?

『のうヴァラクよ、ヨシタカの亡骸を盗んだのは其方か?』

を盗んだ覚えは有りませんよ?」

『亡骸は、か? 其方、ヨシタカをどうしたのだ?』

「どうしたとは、人聞きの悪い言い方ですね。共に楽しく過ごしておりますよ?」

『「「???」」』

「何を驚いて居るのです?ヨシタカは穢らわしい獣の元を離れ、私と共に来ることを選び、本来あるべき姿に戻った、それだけの事です」

「嘘よ!! ヨシタカ様は亡くなったんだから!!」

「愚かな・・・。似て居るのは顔だけか。信じられぬと言うなら、己の目で確かめればいいだろう」

 ヴァラクが魔法陣の中に跪く人物を指し示すと、ローブ姿の雄がユラリと立ち上がり、俺達に向かい、ゆっくりとフードを外して顔を見せた。

『ヨシタカ?!』

 フードを脱いで晒された顔は、レンとそっくりなヨシタカの顔だった。

 レンは息を飲み、俺の上着にしがみついて来た。
 肖像画で見たヨシタカの白い顔は、首から顎にかけて、黒い血管が蜘蛛の巣の様に走り。
 銀色の虹彩が輝いていた黒い瞳は失われ、大きな眼窩に有るのは、虚ろで何も映さない、ドス黒い瘴気の塊だった。

「さぁヨシタカ。この愚か者共に教えてやれ」

 "ワタシのヨロコビは、ヴァラクとともにあること" と、感情の篭らない平坦な声が耳を打った。

 ヴァラクは、この悪魔は。
 ヨシタカの亡骸に瘴気を埋め込み、600年以上の永きに渡り、傀儡として支配し操って来たのか。

『なんと非道な』

「なんで、こんな酷い事するの?」

 震えるレンの問いかけに、ヴァラクは不思議そうに首をかしげた。

「酷い? なにが?」

 本気で分からないのか?

 クレイオスに視線を送ると、意味を理解したらしく近くに寄って来た。

「話すだけ無駄だ」

 本当に、ほんとーに不本意だが、腕から下ろしたレンをクレイオスに預け、ヴァラクに切先を向けた。

「アレク?」

「直ぐに済む」

 不安気に瞳を揺らす番の頭を撫でると、胸の前で両手を握りしめたレンは「思いっきり、やっつけてね」とニッカリと笑った。

「あぁ。任せろ」

「身の程知らずな」と、ヴァラクは、やれやれと言いた気に肩を竦めて見せた。

「私に勝てるとでも?」

「俺は強いからな」

「獣人風情が生意気な」

「怨霊風情が王になれると信じて居るのか?」

 やすい挑発には、同じように返すのが俺のモットーだ。

 慇懃無礼な仮面が剥がれ、ギリギリと歯を鳴らすヴァラクに、鼻を鳴らして嘲りを向けると、ヴァラクの身体からブワリと瘴気が膨れ上がった。

 同時に階の下に、召喚陣が紫色に浮かび上がり、中から頭が三つも有る巨大な狼がうっそりと出てきた。

 初めて見る魔獣だった。

 頭が三つもあるだけでも驚きだが、たてがみは何百匹もの蛇、尾は竜の様だ。

「驚いたか? コイツは私が生み出した傑作だ、なかなか強いぞ」

 どうだ、と胸を張るヴァラクに、レンが冷たく言い放った。

「なにが傑作よ? 唯のケルベロスじゃない」 

「なっ?!」

「・・・アレク。ケルベロスの唾液は毒です」

「なぜお前が知っている?!」
 
 ツン、とソッポを向き、答える必要無しと態度で示したレンは、俺に注意を与えると、ロロシュを手招いて、何かを話し始めた。

「残念だったな、お前は創造主では無いらしい」

「うるさい!!」

 プライドを傷つけられた、ヴァラクはレンがケルベロスと呼んだ魔獣を俺に嗾けた。

 獣人を穢らわしい獣と見下す癖に、魔獣の影に隠れるのか、滑稽だな。

 ケルベロスは、巨軀の割に動きは俊敏で、鋭い爪の生えた前脚の攻撃は、他の騎士なら当たれば簡単に肉が持っていかれそうだ。

 しかし面倒だと思ったのは、三つの口から飛び散る唾液の方だった。
 ケルベロスが垂れ流す唾液は、落ちた床を煙を上げて溶かしている。
 一頭なら唾液が飛ぶ先も予測できるが、三頭がバラバラの方角を見ていると、予測が立て難い。

 そしてコイツには元素魔法が効かないようだ。
 俺が打ち込んだ魔法は、全てかき消されてしまっている。

 まぁ、首を落とせば、問題ないだろう。

 ヴァラクは俺が攻め倦ねて居ると思ったのか、ヨシタカとドラゴンを連れ玉座に戻り、酷薄な笑みを浮かべて観戦することにしたようだ。

 しかし、俺の剣が頭の一つを刎ね飛ばすと、ヴァラクは肘掛けを握り締め腰を半分浮かせていた。
 
 鮮血を吹き上げながら距離を取ったケルベロスが、再び俺に飛びかかろうと身を沈めた時。

「ほらよ。ワン公」

 緊迫感のかけらも無い声と同時に、ロロシュが何かの袋を投げてきた。

 すると、ケルベロスはロロシュが投げた物に飛びつき、俺の存在を忘れた様に、その場で袋を引き千切り、ガツガツと食べ始めた。

 それを好機と駆け寄った俺は、残った二つの首を一刀のもとに斬り伏せた。

 血刀を振り血糊を飛ばした俺は、闘いも忘れケルベロスが何を食っていたのかと残骸を見ると、それは一つずつ丁寧に包まれた、レンが作ったおやつ用の携帯食だった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。

りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~ 行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。

【完結保証】存在しないことにされていた管理ギフトの少女、王宮で真の家族に出会う 〜冷遇された日々は、王宮での溺愛で上書きします〜

小豆缶
恋愛
「願った結果を、ほんの少しだけ変えてしまう力」 私に与えられたギフトは、才能というにはあまりにも残酷な自分も人の運命も狂わせるギフトだった。 そのあまりの危うさと国からの管理を逃れるために、リリアーナは、生まれたことそのものが秘匿され、軟禁され、育てられる。 しかし、純粋な心が願うギフトは、ある出来事をきっかけに発動され、運命が動き出す。 二度とそのギフトを使わないと決めて生きてきたのよ だが、自分にせまる命の危機ーー 逃げていた力と再び向き合わなければならない状況は、ある日、突然訪れる。 残酷なギフトは、リリアーナを取り巻く人たちの、過去、未来に影響し、更には王宮の過去の闇も暴いていく。 私の愛する人がどうか幸せになりますように... そう、リリアーナが願ったギフトは、どう愛する人に届くのか? 孤独だったリリアーナのギフトが今、王宮で本当の幸せを見つけるために動き始める

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

蝋梅
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

処理中です...