獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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幸福の定義は人それぞれ

何事もほどほどに

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 そして現在、軍事力で叶わないと悟ったゴトフリーは、裏工作で帝国にちょっかいをかけ続けている。

 公式的には犯人不明とされているが、オーベルシュタイン領へ送られた物資の強奪などはまだ可愛いものだ。

 現在のオーベルシュタイン侯爵の事は、先代から、その有能さを自慢されて居た事もあり、承知していた。

 だが、国力が弱った国が、こうも次から次へと問題を起こせると云う事は、帝国内に手引きしている者がいると云う事。

 有能だからと言う理由だけで、現公爵を信用することは出来ない。

 だからロロシュに候補者の話を振ってみたのだ。

 しかし、ロロシュの評価でも侯爵を怪しむ言葉は出てこなかった、それは候補者を調べさせている、宵闇の頭目も同じだ。

 夜会の時、侯爵とリアンと直接話す機会を得て、帝国を守護するに足る人物だと確信を持っては居たのだが、念には念を入れて損は無い。

 信用に足る人物とはいえ、侯爵は皇帝の臣下である立場だ、衰退の一途をたどっているとはいえ、一国を相手にし続けるには限りがある。

 それに俺としては、暫くアーノルドには内政に注力してもら居たい。

 その間に、先延ばしにしていた決着をつけるべきだろう。

 その為の準備も進んでいる。

 そもそもゴトフリーは、獣人に対する弾圧が激しい事も気に入らない。

 そして何より決定的だったのは、レンの誘拐を企てた事だ。

 身の程を知らない、愚かな王家には、この俺が引導を渡してやるべきだよな?

「それにしても、ゴトフリーの第三王子とウジュカの第二公子が、あそこまで政治と無縁とは、殿下も肩透かしをくらった様でした」

「完全に捨て駒だな。人質としても使えんか」

「そうだと思います。そもそも王配に選ばれる可能性すらないのです。戦争に向け、軍備を整えるためのカモフラージュでしょう」

「本人には、その自覚もないのだな?」

「でしょうね。一部とは言え、王配教育に参加できると聞いて、喜んでいましたから」

「哀れだな」

 王家の婚姻は政治ありき。

 いくら候補として名乗りを上げようが、利がなければ、候補にすらなれない。

「王配教育の内容を見ましたか?」

「見た。あれを全てやり遂げるには、それなりの予備知識があるか、相当な根性が必要だろうな」

「まさに、寝る間も惜しんで、と言う感じですよ。あれを見た時、私の子がまだ小さくて、本当に良かった、と心から思いました」

 ロイド様が課した王配教育は、皇族に相応しい嗜みとマナーに始まり、歴史、芸術、政治、経済、後宮を取り纏めるための帳簿と人員の管理方法。数多い皇家の行事に関する決まり事。

 他にも、帝国があるこの大陸では、他国との交渉その他、公の場では、共通語を利用するのが暗黙の了解だ。

 しかし "海の向こうの交易国とは、その国の言語を知らなければ、交渉の場に立つ事も、相手をもて成すも出来ない" とのロイド様のお考えから、4ヶ国語の講義。更に馬かエンラへの騎乗と、護身術まで。

 一人の人間が、短期間で全てを成し遂げられたら、一種の超人と言える内容の濃さだ。

「ロイド様も、全てを履修するべきとも、出来るとも考えて居ないだろう。どちらかというと、王配になる覚悟を、試しているように思うが?」

「閣下のおっしゃる通りだとは思います。ですが講義を受けるだけでも、相当な苦行ですよ?」

「だろうな。だがレンは楽しそうにしているから、俺に文句はない」

 これにグリーンヒルは驚愕の表情を見せた。

「あの、内容を楽しんでおられる?」

「レンの故郷は、こちらよりも文化水準が高い、と話したことがあるだろう?それにレンは、事務方の仕事をして居たからな。基本的な素養なら、講師に回っても良いくらいだ。剣の腕も立つ。芸術に関しては歌も踊りも巧みで、弦楽器なら弾くこともできるし、絵も上手い。遠征先で練習したから、馬もエンラも乗りこなせる、学ぶ必要があるとしたら、歴史とマナー、語学、皇家のしきたりの4つだけだ」

「はあ~。やはり愛し子という存在は、我々とは全く違うのでしょうか」

「育った環境の違いだけだろう?」

「そんなものですかね?」

「そんなもんだろ?」

 少なくともレンの努力は、無駄にはならない。

 勝手に押しかけて来た3王子と、監視目的で留め置かれているだけで、候補者ですらない、オズボーンの小倅とは違うのだ。

 其れはそれとして、ゴトフリーのエスカルとタランのフレイアが、王配候補として送り込まれた理由は、理解できる。

 エスカルは愚かな父王に政治利用されただけ。

 タランのフレイアも、同じようなものだが、暗部からの報告だと、タランは現在の王が、2年ほど前から、病で臥せりがちになり、タラン王宮内は、跡目争いが激化。
 
 そんな中、ウジュカとゴトフリーが、帝国へ王配候補を送った、と知ったタラン王は ”帝国の王配になど興味はないが、ゴトフリーとウジュカに好き勝手にされるのは虫が好かん。誰か適当に送って置け” と命じたのだとか。

 病身の王のこの命に、とうとう真面な判断も出来なくなったか、と誰も相手にしなかったのだが、第四王子のフレイアが、最後の親孝行だ、と名乗りを上げたのだそうだ。

 フレイアは継承権第四位と、微妙な立ち位置の上、側妃だった母君が、亡くなられたことで後ろ盾を失い、いつ兄達の白刃が襲い掛かって来るかも、分からない状態だった。

 故に、病に倒れ惚けた老人の戯言を、王宮脱出の方便として、これ幸いと国から逃げだした。

 フレイア本人が ”色々ある” と言ったのは、真実を語っていたことになる。 

 そうなると、分からないのはウジュカのアルマだ。

「どう思う?」

「そうですねえ・・・ゴトフリーとウジュカは、魔物対策として同盟を組んでいますから、その兼ね合いと考えられなくもないですが、わざわざライバルを増やす理由が思いつきません」

「ウジュカ公国は小国過ぎて、ギデオン帝も触手を伸ばさなかった、貧しい国だ。援助欲しさに、一発逆転を狙ったとも考えられるが、援助を求めるだけなら、もっと他の手立てがあっただろう。皇帝の布告を無視すれば、首を刎ねられる可能性だってあるのだからな」

「だとすれば、小国のウジュカは断れないような弱みを握られ、無理やり公子を送らされた?」

「何か事を起こした時の身代わりとして、連れて来られた」

「若しくはその両方」

「ふむ・・・・・状況が状況だけに、何があっても不思議ではないな。王子達の監視は烏か?」

「表面的には、騎士を交代で2名づつ張り付かせています」

「では、騎士は1名でいい、もう一人は俺の方から手配しよう」

「烏は信用できませんか?」

「信用の問題ではない、練度の問題だ」

「なるほど、ではそのように報告させていただきます」

「ついでに、小麦の流れは押えた、と伝えてくれ」

「私からで宜しいのですか?」

「構わん。あぁ、そうだ。2.3日は休むから、邪魔をするな、とも言っておけ」

 すると何故か、グリーンヒルは気の毒そうな視線を、窓の外に向けた。

「閣下、私もエンラに蹴られたくはないのですが、何事も ”程々” になさるのが宜しいかと思いますよ?」

「ん? あぁ、分かった」

 何に対しての ”程々” かは分からんが、俺は何でもやり過ぎてしまうことが多い。グリーンヒルはその事を、懸念しているのだと思う。
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