獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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愛し子と樹海の王

奥の院と龍神様

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 この国は、こんな無駄に豪勢な神殿と、奥の院を建立しておいて、全ての獣人を神殿から締め出した。

 この建築群を、実際に作り上げた獣人をだ。

 今目の前に在る奥の院で、二つ名を授かった獣人は皆無だろう。

 此処だけではない。

 ゴトフリーの全ての獣人で、二つ名を授かったものは居ないのだ。

 ヴァラクの影響下に在る教義など、アウラ神教とは呼べない紛い物で、獣人達が受け継いできた教えが、本来の教義なのだろう。

 だとしても、彼らが得るべき権利を奪われたことに違いはない。

 そしてこの中に、俺から番を奪おうとして居る奴らがいる。

 この国の奴らは、他者のものを奪う事を、躊躇わない。

 何処までもふざけた奴らだ。

 結界が張られた奥の院は、見張りの騎士達が、等間隔に並んで見張っていた。

 入口の扉前に立っていた、騎士の一人に中の様子を聞くと、広さも有る上、結界が張られている為、判断できないと答えた。

「分かった。結界を壊す。皆に下がる様に伝えろ」

「はっ!! 了解!!」

「全員下がれぇー!! 閣下が結界を壊すぞーー!! 10ミーロ離れろーー!!」

 すると俺の後ろでエーグルが、ロロシュとマークにヒソヒソと聞いているのが聞こえて来た。

 ”結界を壊すだけで。10ミーロも下がらせるのですか?”

 ”相手は閣下だ。しかもブチギレた閣下だぞ?”

 ”防護結界無しなら、10ミーロでも足りないかもしれませんね”

 ”我々は離れなくて良いのですか?”

 ”閣下が全力を出したら、どうなるか分かりませんが、この程度の結界を破壊するだけなら、私一人でも、貴方達二人を守れます”
 
 マークの言葉に、エーグルが一瞬息を呑むのが聞こえた。

 自分より嫋やかに見える番が、実は自分より強いというのは、プライドが傷つくよな?

 エーゲル。もっと、強くなれよ。

「もういいか?」

「はい。いつでもどうぞ」

 マークが防護結界を張ったのを確認した俺は、体の中に渦巻く怒りを魔力として練り上げ、左の拳に集めた。

 膨張した筋肉で、袖のボタンがはじけ飛んだが、いちいち気にする事でも無い。

 シィィーーー。

 奥歯の間から漏れる息を鳴らし、踏み込んだ足元の石畳が メキッ!! っと円形に陥没する。

 怒りを込めた渾身の力で、奥の院に張られた結界を殴りつけた。

 ドゴンッ!!!

 振りぬいた拳の衝撃波が ”豪” と風を起こし、回廊に飾られた石像が砕け、その石塊がマークや部下達が張った結界に弾かれて砂礫となった。

 拳を中心にして、結界に蜘蛛の巣状のひびが ビシッビシビシビシ・・・・ と音を立てて入っていく。

 ダッカァーーーン!!!

 轟音と共に、結界ごと奥の院の扉が粉々に砕け散った。

「ヒューーー!」

「お見事!!」

 消費しきれなかった魔力が、陽炎のように体から立ち昇っているのがわかる。

 立ち昇る陽炎は、俺の怒りだ。

 この程度で、俺の怒りは収まらない。

「世辞はいい。行くぞ」

 はらはらと零れ落ちる、結界の残滓を潜り抜け。

 王族と教皇らが逃げ込んだ、奥の院へと、俺達は足を踏み入れたのだ。


 side・レン


『やあ!』

「へっ??」

 しゃべった?
 
 り・・・龍よね?
 目の前のこれ、龍神様よね?

 えっ? うそ! 私、龍神様と喋ってる?
 
『君は人族の・・・ちょっと変わった気を持っているね? 私の言葉が分かるかい?』

「へぁ・・・わかり・・・ますけど・・・?」

『そうか! よかった!!』

 クレイオス様や、クオンもノワールも話せるのだから、喋ってもおかしくないのよね?

 いやいや。
 喋れるからって、気を抜いたら。
 いきなり、あのでっかい口で、バクリと食べられてしまったり・・・・。

『此処に人が来なくなって、彼此1万年にはなるかなぁ。久しぶりのお客さんで、実に嬉しいよ』

「い? 一万年?」

 それって、久し振りなんてものじゃないですよね?

『そうだよ。驚いた?』

「もうビックリです。今日はビックリすることばかりで、今ちょっと混乱してます」

『ハハハ!! 素直で面白い子だね!』

「面白い? そうなんでしょうか?」

『実に愉快だ。そこに居るのはドラゴンの幼体だろう? 君たちをここへ呼び寄せて正解だったね』

「呼び寄せた? 貴方が?」

『そうだよ』

「えっ? じゃあ、王城から此処に、私達を転移させたのは、あなた?」

 龍神様は、大きな頭を横に振りました。

 そのせいで、鬣と髭から飛んで来た魔素水で、私もクオン達もビショビショです。

『転移させたのは、上にいる連中みたいだよ? 私はね、変わった気配が近付いて来るのを感じて、面白そうだから、こっちに引っ張ってみたんだ』

「はあ・・・そうなんですか」

 あの状況からの転移だから、ゴトフリーの神官か魔法師に、転移させられたのだと思っていましたが、それは外れてはいないのよね?

 ただ、行き先を、この龍神様に変えられた、って事でいいのよね?

 一応ピンチから救ってもらった、って事になるのかしら?
 でも此処から出られなかったら、洒落にならないんですけど・・・・。

「あの・・此方にはお一人で?」

『そうだねぇ。ちょっと昔を語るとね、私の親は、そこのドラゴンと同じ普通のドラゴンだった。でもさ、卵から孵った私は、こんな姿だっただろう? だから生まれて直ぐに此処に捨てられちゃったんだ。 だからずっと1人だね』

「捨てられちゃった? そんな軽く言っちゃって良いの?」

『だって、2万年近く前の話だよ? 引き摺るには長すぎるでしょ?』

「まあ、たしかに?」

『それにさ、荒野に置き去りとかじゃなくて、魔素たっぷりの湖の中だからね?ちゃんと私が生きて行けるように、考えてくれはしたんだと思うよ? これも一つの愛だね』

「愛ですか・・・・貴方が納得して居るならそれで良いんですけど」

 私がそう言うと、龍神様は大きな口を開けて、ニパッと笑いました。

 クレイオス様は勿論、クオンもノワールも、無表情がデフォなのに、この龍神様は、大変表情が豊かな方のようです。

 やっぱりドラゴンと龍だと、表情筋の発達具合が違うのかしら?

『それで? 君みたいな子が、なんで、あんなに気味の悪い所へ、行こうとしてたの?』
   
「気味が悪い? あの私、好きで転移した訳じゃ無いのですよ? 無理やり勝手に転移させられて、行き先も何も知らないんです」

『なんだいそれ? そう言うの人間は誘拐って言うのだろう?』

「はあ。まあ、そう言う事になりますね」

『ちょっとそこの所、詳しく』

 なんでしょう。
 この龍神様の食いつき具合は?

 一万年も1人で退屈してた所に、誘拐なんて刺激的な話は、絶好のおかずって事でしょうか?

 でも、仲良くなったら、出口とかも教えてくれるかもしれませんし。
 話して困る事でも無いから、別に良いんですけど。

 はっ!!

 退屈しのぎに監禁されたり、しないわよね?
 大丈夫よね?

『こんな所では、落ち着いて話も出来ないね。場所を移そう。君は私の首に乗りなさい。そこのドラゴン達は飛べるだろ?ワンコロ達は・・・泳げるね?」

 ワンコロ・・・・。
 フェンリルとシルバーウルフを?

 まあ、良いけど・・・。

 龍神様のお誘いを受けた私は、ニュッと伸ばされた首に跨り、気分は ”千尋ちゃん“でテンション爆上がりです。

 でも、角は触っちゃ駄目って言われたので、見た目は日本昔話の、龍の子太郎でしょうか?

 私・今・龍に乗って・飛んでます!!

 翼も無いのに、ゆるゆると飛べるなんて、すっごい不思議!!

これも魔法の一種なのでしょうか?

でも、ここって魔法使えないのに、どうやって飛んでるんだろう?

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