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愛し子と樹海の王
知ることもお仕事です
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今王城は、その殆どが閉鎖されています。
第2・第3騎士団が攻め込んだ時、王城に居た役職付きの貴族や、軍の幹部の殆どが捕縛されて、今は地下牢で尋問を受けているそうです。
殆ど、と言うのは、騎士団の攻撃に抵抗した人達も少なからずいて。
国同士の争いである以上、無血開城とは行かなかったから。
それでも、騎士団に犠牲者が一人も出なかったことは、とても有難く喜ばしい事でした。
でも、これ程の武力の差がある事に、何故王様も軍部の人達も、気付かなかったのでしょうか?
私は軍事に関しては素人ですが、それでも喧嘩を売る相手の事は、しっかり調べるものでしょう?
だって、酔っぱらいの喧嘩じゃないんですよ?
帝国内で手を組んでいたのも、オズボーン伯爵だけで、いくら帝国で一番大きな穀倉地帯の領主だからって、騎士団相手に敵うはずがないのに。
史実でも小説でも、謀反を起こすなら、支持勢力を集める処から始めていたけど?
矛盾の塊みたいな、ヴァラクに心酔した結果がこれ?
なんか、カルト教団みたいで、怖いんだけど・・・。
国家総出でカルトに嵌るとか・・・・国家規模になったら、カルトとは言えないのかしら?
そんな疑問を、みんなが集まった会議の場でしてみたのだけど、みんなから困った様子で、目を逸らされてしまいました。
「私が聞いては、いけない話なの?」
「いけなくはないが、まだすべてが明らかになって居ないのだ。それにな、現状で判明した事柄だけでも、胸糞の悪くなる話ばかりだ。皆がレンに聞かせたくない、と思うのは仕方のない事だと思うぞ?」
みんなが気を使ってくれるのは、個人的には有り難いのだけど・・・。
「紫籐漣としてなら、知らなくて良いかも知れないけれど、帝国の公爵で愛し子の私は、大公の伴侶でもあるのよ?本当に、何も知らなくても良いのかしら?」
膝の上から振り返ると、アレクさんはとても困った顔をしています。
会議に参加した全員が、困惑している中で口を開いたのは、シルベスター侯爵でした。
「清浄なるものを汚したくはないが、レンの言うことは正しい。汚濁に塗れるのは我等だけで充分だが、レンの立場で何も知らぬ、は通じぬだろう」
「しかし伯父上」
「お前の考えていることは分かる。だがな、好むと好まざるに関わらず、今のレンは支配階級の一員だ。権力の中枢に身を置く以上、その責任から逃れる事は出来ん」
「ですが・・・・」
「お前の過保護っぷりは、よ~~~~く知っている。レンは稚い子供に見えるからな、俺達も、どうしても過保護になりがちだ。だがレンは大人なんだよなぁ」
何故に残念そうなのかしら?
しかも子供に見える。
失礼しちゃう!
「しかもだ、愛し子のレンは、異界の知識も豊富だ。俺達が困っていた時に、力になってくれたのは、一度や二度ではないだろう?」
チラリと私を見下ろしたアレクさんは、”少し我慢してくれ” と言って私の耳を、大きくて厚い手で、塞いでしまいました。
手の平で覆われた位なら、くぐもってはいても、割と音って聞こえてくるものですが、全く、なんにも聞こえません。
アレクさんの手の平って、中に鉄板でも入っているのでしょうか?
これは多分、何処まで私に話して良いかを、相談しているのだと思います。
私としては、この隠されている部分が一番重要な気がするのだけれど、余り我を通すのも良くないので、大人しく話がまとまるのを待つ事にします。
暫くして、頭を挟んでいた手が外され、乱れた髪を直してくれながら、概要だけだと前置きの後、今わかっている事を話してもらえました。
「結論から言うと、ゴトフリーの王は、魔薬に侵されていた」
「王様なのに?」
「この場合は王だから、だろうな。ゴトフリーは君主制を取っていたが、実際は神殿の言いなりだった。では、何故そうなったか」
「薬で信仰心を高めて居たから?」
「そういう事だな。これは王だけではない。権力の座に就き、国の采配を振るっていた貴族たちも同じだ。実際、地下牢に居る貴族達の何人かが、薬の禁断症状を見せている」
「・・・・昔、皇宮で使われたのと同じ?」
「詳しく調べさせなければ、ハッキリ同じだとは言えんが、恐らく」
「そう・・・」
「他にも、堕天使の涙や、帝国で違法な薬物の製造が確認されている」
「あぁ。まあ、そうでしょうね。薬物の製造売買は、貧しい国が手っ取り早く、外貨を得る手段ですから」
なんでそんな事を知っている? って顔でみんなから見られてしまいましたが、苦笑いでスルーです。
あちらの世界にも、貧しくて、平和とは程遠い国は沢山あったのだから、知識くらいなら私にも有るのですよ。
「ヴァラクは神官を使い、王や主だった貴族達を薬で支配していた。この薬は強烈な多幸感と、全能感を与えるらしい」
「この全能感って奴が、曲者なんだよ。どう考えたって、こんなちっぽけな国がさ、帝国を挑発するなんて、自殺行為だろ? でもさ、薬でラリッてるときに神官に唆されて、思い通りになると、信じ込んだんだろうな」
話しの続きを引き取ったゲオルグさんは、苦虫を噛み潰したような顔です。
「でも、そんな簡単に、国の中枢にいる人達を、薬漬けになんてできる?反対する人が、一人も居ないなんて、おかしくない?」
「そもそも反対する様な、まともな奴らは、王城から遠ざけられてたみたいだな。そんで、自分達に被害が出ない様に、静かに隠れて居たと」
「ギデオン帝の時と同じね」
「そう言う事。人間追い詰められたら、やる事は似た様なもんだ。じっと耐えるか闘うか。後は手段のバリエーションだと思う」
凄い。
ゲオルグさんが、団長ぽい事言ってる。
成長したのね~。
これなら、求愛行動に入れると思う。
後でアレクさんと相談してみよ~。
ふふ。
楽しみが増えちゃった!
「地下牢に居る者たちの中で、明らかな中毒症状を見せているのは、ほんの数名だが。この国は宗教的な行事が多かった。その行事には、王を始めとした有力貴族達の参加は義務だった。そこで、ヴァラクの指示を受けた神官達は、参加した者に薬を使い、洗脳していったようだ」
「・・・・・怖い話ね」
「側室の一人の証言だと、国王は昔は賢くはないが、優しい雄だったらしい。それが急に人が変わったようになり、睦まじかった婚約者を捨て、今の王配を娶った。王への洗脳は、そのころ始まったのだろう」
「薬の出どころは分かったの?」
「神殿の敷地内に、薬の製造工場があった」
すると皆の顔に、暗く剣呑な影が差しました。
あぁ、そうか。
それを見て、皇都の地下みたいな実験施設があったのだと分かりました。
「浄化が必要そう?」
「いや、直ぐには必要ない」
アレクさんは何気ない風に首を振っていますが、その実験施設は、きっと酷い状態だったのでしょう。
でも、私が浄化を頼まれるのは、見せたくない物を、片付けた後になるのだと思います。
けれど、今それを追求して、アレクさんやみんなの心遣いを無下にしたくはないので、この話は、ここまでにしようと思います。
「他に分かったことは無いの?オレステスとオズボーン伯爵の居場所とか、エスカルの事とか」
「それがあったな」
みんなの説明によると、オレステスとオズボーン伯爵は、王配の実家。ワース伯爵の所に身を寄せていたらしいです。
ゲオルグさんに蹴散らされたワース伯は、自分の城に立て籠もって居たのだけれど、シルベスター侯爵に、あっさり城を落とされたのですって。
3・4日伯父様の姿を見ないなあ
と思っていたら、ふらっと現れて、お土産をくれたのだけど、まさか城攻めに行っていたとは。
まるで物見遊山に行って来たみたいに、気軽な感じだったのに、私の中の戦争のイメージが・・・。
武力の差が大きいとは言え、武に秀でた人達って、みんなこんな感じなのかしら?
第2・第3騎士団が攻め込んだ時、王城に居た役職付きの貴族や、軍の幹部の殆どが捕縛されて、今は地下牢で尋問を受けているそうです。
殆ど、と言うのは、騎士団の攻撃に抵抗した人達も少なからずいて。
国同士の争いである以上、無血開城とは行かなかったから。
それでも、騎士団に犠牲者が一人も出なかったことは、とても有難く喜ばしい事でした。
でも、これ程の武力の差がある事に、何故王様も軍部の人達も、気付かなかったのでしょうか?
私は軍事に関しては素人ですが、それでも喧嘩を売る相手の事は、しっかり調べるものでしょう?
だって、酔っぱらいの喧嘩じゃないんですよ?
帝国内で手を組んでいたのも、オズボーン伯爵だけで、いくら帝国で一番大きな穀倉地帯の領主だからって、騎士団相手に敵うはずがないのに。
史実でも小説でも、謀反を起こすなら、支持勢力を集める処から始めていたけど?
矛盾の塊みたいな、ヴァラクに心酔した結果がこれ?
なんか、カルト教団みたいで、怖いんだけど・・・。
国家総出でカルトに嵌るとか・・・・国家規模になったら、カルトとは言えないのかしら?
そんな疑問を、みんなが集まった会議の場でしてみたのだけど、みんなから困った様子で、目を逸らされてしまいました。
「私が聞いては、いけない話なの?」
「いけなくはないが、まだすべてが明らかになって居ないのだ。それにな、現状で判明した事柄だけでも、胸糞の悪くなる話ばかりだ。皆がレンに聞かせたくない、と思うのは仕方のない事だと思うぞ?」
みんなが気を使ってくれるのは、個人的には有り難いのだけど・・・。
「紫籐漣としてなら、知らなくて良いかも知れないけれど、帝国の公爵で愛し子の私は、大公の伴侶でもあるのよ?本当に、何も知らなくても良いのかしら?」
膝の上から振り返ると、アレクさんはとても困った顔をしています。
会議に参加した全員が、困惑している中で口を開いたのは、シルベスター侯爵でした。
「清浄なるものを汚したくはないが、レンの言うことは正しい。汚濁に塗れるのは我等だけで充分だが、レンの立場で何も知らぬ、は通じぬだろう」
「しかし伯父上」
「お前の考えていることは分かる。だがな、好むと好まざるに関わらず、今のレンは支配階級の一員だ。権力の中枢に身を置く以上、その責任から逃れる事は出来ん」
「ですが・・・・」
「お前の過保護っぷりは、よ~~~~く知っている。レンは稚い子供に見えるからな、俺達も、どうしても過保護になりがちだ。だがレンは大人なんだよなぁ」
何故に残念そうなのかしら?
しかも子供に見える。
失礼しちゃう!
「しかもだ、愛し子のレンは、異界の知識も豊富だ。俺達が困っていた時に、力になってくれたのは、一度や二度ではないだろう?」
チラリと私を見下ろしたアレクさんは、”少し我慢してくれ” と言って私の耳を、大きくて厚い手で、塞いでしまいました。
手の平で覆われた位なら、くぐもってはいても、割と音って聞こえてくるものですが、全く、なんにも聞こえません。
アレクさんの手の平って、中に鉄板でも入っているのでしょうか?
これは多分、何処まで私に話して良いかを、相談しているのだと思います。
私としては、この隠されている部分が一番重要な気がするのだけれど、余り我を通すのも良くないので、大人しく話がまとまるのを待つ事にします。
暫くして、頭を挟んでいた手が外され、乱れた髪を直してくれながら、概要だけだと前置きの後、今わかっている事を話してもらえました。
「結論から言うと、ゴトフリーの王は、魔薬に侵されていた」
「王様なのに?」
「この場合は王だから、だろうな。ゴトフリーは君主制を取っていたが、実際は神殿の言いなりだった。では、何故そうなったか」
「薬で信仰心を高めて居たから?」
「そういう事だな。これは王だけではない。権力の座に就き、国の采配を振るっていた貴族たちも同じだ。実際、地下牢に居る貴族達の何人かが、薬の禁断症状を見せている」
「・・・・昔、皇宮で使われたのと同じ?」
「詳しく調べさせなければ、ハッキリ同じだとは言えんが、恐らく」
「そう・・・」
「他にも、堕天使の涙や、帝国で違法な薬物の製造が確認されている」
「あぁ。まあ、そうでしょうね。薬物の製造売買は、貧しい国が手っ取り早く、外貨を得る手段ですから」
なんでそんな事を知っている? って顔でみんなから見られてしまいましたが、苦笑いでスルーです。
あちらの世界にも、貧しくて、平和とは程遠い国は沢山あったのだから、知識くらいなら私にも有るのですよ。
「ヴァラクは神官を使い、王や主だった貴族達を薬で支配していた。この薬は強烈な多幸感と、全能感を与えるらしい」
「この全能感って奴が、曲者なんだよ。どう考えたって、こんなちっぽけな国がさ、帝国を挑発するなんて、自殺行為だろ? でもさ、薬でラリッてるときに神官に唆されて、思い通りになると、信じ込んだんだろうな」
話しの続きを引き取ったゲオルグさんは、苦虫を噛み潰したような顔です。
「でも、そんな簡単に、国の中枢にいる人達を、薬漬けになんてできる?反対する人が、一人も居ないなんて、おかしくない?」
「そもそも反対する様な、まともな奴らは、王城から遠ざけられてたみたいだな。そんで、自分達に被害が出ない様に、静かに隠れて居たと」
「ギデオン帝の時と同じね」
「そう言う事。人間追い詰められたら、やる事は似た様なもんだ。じっと耐えるか闘うか。後は手段のバリエーションだと思う」
凄い。
ゲオルグさんが、団長ぽい事言ってる。
成長したのね~。
これなら、求愛行動に入れると思う。
後でアレクさんと相談してみよ~。
ふふ。
楽しみが増えちゃった!
「地下牢に居る者たちの中で、明らかな中毒症状を見せているのは、ほんの数名だが。この国は宗教的な行事が多かった。その行事には、王を始めとした有力貴族達の参加は義務だった。そこで、ヴァラクの指示を受けた神官達は、参加した者に薬を使い、洗脳していったようだ」
「・・・・・怖い話ね」
「側室の一人の証言だと、国王は昔は賢くはないが、優しい雄だったらしい。それが急に人が変わったようになり、睦まじかった婚約者を捨て、今の王配を娶った。王への洗脳は、そのころ始まったのだろう」
「薬の出どころは分かったの?」
「神殿の敷地内に、薬の製造工場があった」
すると皆の顔に、暗く剣呑な影が差しました。
あぁ、そうか。
それを見て、皇都の地下みたいな実験施設があったのだと分かりました。
「浄化が必要そう?」
「いや、直ぐには必要ない」
アレクさんは何気ない風に首を振っていますが、その実験施設は、きっと酷い状態だったのでしょう。
でも、私が浄化を頼まれるのは、見せたくない物を、片付けた後になるのだと思います。
けれど、今それを追求して、アレクさんやみんなの心遣いを無下にしたくはないので、この話は、ここまでにしようと思います。
「他に分かったことは無いの?オレステスとオズボーン伯爵の居場所とか、エスカルの事とか」
「それがあったな」
みんなの説明によると、オレステスとオズボーン伯爵は、王配の実家。ワース伯爵の所に身を寄せていたらしいです。
ゲオルグさんに蹴散らされたワース伯は、自分の城に立て籠もって居たのだけれど、シルベスター侯爵に、あっさり城を落とされたのですって。
3・4日伯父様の姿を見ないなあ
と思っていたら、ふらっと現れて、お土産をくれたのだけど、まさか城攻めに行っていたとは。
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