獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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愛し子と樹海の王

ママと呼ばれたい。

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「あの、アウラ様?」

「なんだい?」

 う~ん。
 拗ねてます?

「ずっとソワソワしてますけど、どうしたんですか? もし具合が悪いのならお休みになって下さい。私も大人しくしてますから」

「レンは、私と一緒に居るのが嫌なの?」

 あ・・・完全に拗ねちゃった。

「嫌じゃないですよ? アウラ様とのおしゃべりは楽しいです」

「でも、クレイオスとは、もっと楽しそうだった。そりゃあそうだよね。私はレンに辛い事ばかり押し付けているのに、ろくに助ける事も出来なくて。神としても、駆け出しの半人前以下で、まともな権限も持ってない。大神様には、叱られっぱなしだし。私が創り出した人間は、全く云う事を聞いてくれなくて。自分が作った世界の者から、呪いを掛けられるなんて、間抜けな目にあっている。こんな出来損ないの私となんか、一緒に居たって楽しくないでしょう?」

 うわぁ。
 どうしましょう。
 本格的に落ち込んじゃいました。
 大神様に、相当搾られたのでしょうか?
 完全に自信無くしちゃってませんか?

「アウラ様? 私そんな事、これっぽちも思ってませんよ? それに私がピンチの時、こうやって、お庭に呼んでくれてるじゃないですか。私は凄く頼りにしているし、アウラ様の事、大好きですよ?」

「本当に?」

 白い袖をもじもじと弄びながら、上目遣いの美貌の神様。

 ・・・・・あざとい。
 でも麗しくて・・・とッ尊い・・・!

 病んで儚げな様子と相まって、心臓がッ!
 ズキュン! と撃ち抜かれましたよ?!
 致命傷です!!

 
「クゥ・・・・!。本当です。アウラ様の具合が悪くなって、大神様の所に行ったって聞いたときは、本当に心配で。ずっとボイチャも繋がらないし、凄く寂しかったんですよ?」

「・・・・だけど。クレイオスの事は、パパって呼ぶのに。私の事はママって呼んでくれいないじゃない。私、クレイオスにママと呼ばれたいと、伝言を頼んだのだけど?」

「あ・・・あはは。そうでしたねぇ」

 大聖堂のあれ。
 本気だったんだぁ・・・。

 マジかぁ・・・。
 神様をママって呼ぶのかぁ・・・。

 良いのかなぁ?
 
「やっぱり、私の事は、ママと呼ぶのは嫌なんだ・・・」

「あぁ! そんなしょんぼりしないでっ。全然嫌じゃないです。ただ、アウラ様は神様だから、やっぱり恐れ多いと言うか、大神様の罰が当たっちゃうんじゃないか? とか、ちょっとだけ。ほんのちょびっとだけ、考えちゃっただけです」

「そんな事を、気にしていたの? 罰なんて当たらないよ? いくら大神様でも、そんな権限は無いからね?」

「はあ、そうなんですね?」

「そうなんだよ? これで心置き無く、ママと呼んでくれるね?」

「ははは・・・」

 グイグイ来てますけど、どうしてこうも、パパママ、と呼ばれたがるのか。お二人の間に、お子さんが居ないからなのでしょうか?

 そう思うと、ちょっと切ないです。

 クレイオス様の事も面倒臭がらないで、パパって、普通に呼んであげた方がいいのかな?

「・・・ママ・・・?」

「ッ!!・・もう一回!!」

「・・・ママ?」

「うふっ。うふふ」

 キャー!
 何この嬉しそうな顔。
 喜びで、お顔が輝いてみえま・・・・す?

 えっ? うそっ!?

 本当に光ってる?
 お顔どころか、全身光ってますけどッ!?
 
 何これ? ポケモンの進化みたい。

 神様って喜ぶと、スパークしちゃうの?
 これが普通なの?

「あの、ちょっとアウラ・・・ママ?」

 アウラ様の発する光は、ドンドン強くなって、最早、真夏の太陽の如き輝きで、目を開ける事も出来ません。

「うふふ・・・・。レン、ありがとう。とっても嬉しい」

 いえいえ。
 お礼を言われるほどの事は、していませんよ?
 って言うかッ!

「ちょッ! これ あの! すみません!! 眩しすぎるんですけど!?」

「おや? ごめんごめん。 ちょっと興奮しすぎたようだ」

 その後、光りを引っ込めたアウラ様は、謝りながら、コーヒーを入れ直してくれました。

「浮かれて、調子にのってしまったね」

 と、悪びれた様子も無く、ニコニコされて居るお顔は、さっき迄より色艶が良くなっている気がします。

「アウラ・・ママ?」

「なんだい? 私の可愛い子」

 かっ! かわいい子?

 これ、ママじゃなくて、娘溺愛パパなんじゃ・・・。
 クレイオス様も、パパと呼ばれて喜んでたけど。

 そんなに嬉しいものなの?
 チカチカ 自家発光しちゃうくらい?

「呼び方。そんなに大事ですか?」

「私達の様な存在にとって、役割を伴う呼び方はとても大事だよ。君が思うよりずっとね」

「そうなんですね? そう言えば、ロイド様がアウラ・・ママの教義に、美の神の一文を入れるって、言ってましたけど」

「美の神? それは嬉しいね。でも・・・そうだな、美と愛の神って入れてほしいな」

「美と愛・・・」

 ギリシャ神話ですか・・・?
 
「ロイド様に伝えておきます」

 ギリシャ神話みたいに、奔放になられたら困るけど。アウラ様なら、美と愛の女神って言っても、おかしくないくらいお綺麗だから、問題ないのかな?

 それに、福福と喜んでくれているし。なんとなく、さっきよりお元気になったように見える。

うん。
神殿も建てて貰えるか、ロイド様に交渉してみよう!

「そうそう! 彼方の神に御見舞でもらった、カステラが有るのだけど、食べるかい?」

「カステラ? 食べる! 食べたいです!!」

「ふふ・・。それくらい元気なら、大丈夫そうだね」

 思わず、がっついてしまいました。
 ちょっと恥ずかしいです。

 クスクスと笑いながら、アウラ様が出してくれたのは、ザラメが入ったタイプのカステラと深蒸し茶。

 玉子の香りがふんわりと。
 にっぽん最高! 
 日本人で良かったぁ!
 
「そろそろ、クレイオス達が、ドラゴニュートの住処に着くころの様だね」

「アレク達は? 怪我とかしてませんか?」

「そんなに心配?」

「それは心配ですよ? 私の所為でよく分からない場所に、行ってくれているのですし。危ない事だってあると思うので」

「ふふふ。彼らに怪我をさせる方が、大変だと思うけどね?」 

「アウラさ・・・ママ? それはアレクに失礼な気がします。彼だって人間ですよ?」

 アウラ様は、ニンマリと笑っています。
 なんですか?
 その含みを持った感じは?

「幾ら獣人が強いと言っても、単騎でドラゴンと渡り合える者が、只人とは思えないけれど?」

「でも、人間です。怪我もするし、心だって傷付くんです」

「うん、いいね。二人が番で良かったよ」

「・・・・ねえ。アウラ・ママ?本当に私達を番にしたのは、ママじゃないのですよね?」

「まだそんな事を、気にしていたの?」

 そんな、呆れた顔をしなくたって。
 たま~に、本当にちょっとした時に、怖くなるだけです。

「そうは見えないかもしれないけど、私も結構忙しいんだよ?一人ひとりマッチングしている暇は無いよ」

「マッチング? アプリじゃないんだから」

 せめて仲人さんにして欲しかった。 

 まぁ、アプリも仲人さんも、やる事は一緒なんですけどね?
 
「彼らの事が気になるなら、見てみるかい?」

「見られるんですか?」

 頷いたアウラ様が、軽く手を振ると、凝った装飾に囲まれた大きな鏡が、ドドン と現れました。

「これって」

「私には必要ないのだけれど、こういう物が有った方が、君にはイメージしやすいでしょ?」

「浄玻璃の鏡? みぞの鏡じゃないですよね?」

「どっちも違うよ。さあ、君の番が、頑張っている姿を応援してあげよう」

「・・・・生中継?」

「生ビールが必要?」

「生・・・凄く魅力的ですけど、ビールは止めておきます」

 野球中継じゃないんだから。
 まったく、この神様は!
 あっちの世界に、毒され過ぎじゃないでしょうか?

「そう?紙コップじゃなくて、キンキンに冷えたジョッキで用意できるよ?」

 自分が飲みたいだけなんじゃ。
 体・・・弱ってるんじゃなかったの?

「・・・ママだけどうぞ」

 クレイオス様と同じ謎空間から、ビールと焼きイカを取り出したアウラ様は、泡のお鬚を付け乍ら、私はカステラと深蒸し茶を啜りながら、アレクさん達の様子を見守りました。

 だけど、アレクさんが私の呪いを解くために、こんなに一生懸命になってくれているのに、私は暢気にお茶を啜って観戦しているだけ。

 それがとても申し訳なく、でも心配で、見る事を止められなくて。

 鏡越しに見る、アレクさんとドラゴニュートの戦闘に、届くはずの無い声援を、声が枯れるまで送り続けたのでした。
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