獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

アヒルのガー助

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「早く、早く!!」

 番に急かされるまでもない。
 幕舎の入り口に2歩で近寄った俺は、マークの腕から番を攫って肩に担ぎ、そのままドラゴン達が揉めている現場に走り出した。

「アレク!おろっ降ろして!酔っちゃう!この体勢は、酔うってば!」

 肩の上で番が何か叫んでいたようだが、俺の注意はドラゴン達に向かっていて、何を言っているかよく分からなかった。

「お前らっ!! 何をやって居る!!」

 俺が駆け付けた空き地の入り口では、創世のドラゴンと、引きこもりの龍が、互いに剣と槍を構え、まさに一触即発。

 肩に担いだレンを降ろし、背中に庇いながら、怒鳴りつけた。

 クレイオスが剣を構えるなんて珍しいな。

 等と暢気な考えが一瞬頭をよぎったが、二人の身体から漏れる魔力と威嚇に、周りに居る者達が気絶寸前だ。

『うるさいッ!!』

『この我儘で傲慢なジジイに、物の道理を教えてるところだ!!』

『ジジイだとっ?! 我がジジイなら、其方はケツに卵の殻が付いたままの、赤ん坊だろう!!』

『赤ん坊?! 見栄っ張りジジイ!!』

「うるさいわ!!ヤキモチ焼の、根性無しが!!』

『はあ? あんたみたいな相談し甲斐の無いジジイなんぞ。只の老害だ!!』

『ろっ! 老害?! 我は永遠の美青年なのだ! アウラがそう言った!!』

『美青年だ?笑わせるなよ。レンはあの白虎を世界一格好良いと言ってるじゃないか』

 なんなんだ、この低レベルな言い争いは。
 それに、こんなくだらない罵り合いを、無表情のまま出来るというのは、ドラゴンとは器用な生き物だ。

「やめんかッ!! ここは砂漠の真ん中ではないぞ!!」

『子虎ごときが、邪魔するなッ!!』

 子虎?
 この俺の事を子虎だと?!

「いい加減にしろ! 俺が子虎なら。お前らは両方ともジジイだろ! そういうのを目くそ鼻くそと言うんだ!!」

『目くそ?』

『鼻くそだとぉ~?』

「気に入らんか?ならエコンの品評会とでも言うか?!」

『レンの番だからって調子に乗るなよ』

『いつもいつも、其方ばかりレンを独り占めにして。番だからと狡いのだ!!もっと父親との時間を寄越せ!!』

「誰が、父親だ!!」

『そうだそうだ!いつもいつも、自分ばっかり良い思いをしてさ。アレクは狡いんだ!』

「お前は、ノワール達を揶揄い過ぎるから、レンに叱られるだけだろう!自業自得だ!!」

 睨み合う俺達の後ろで、レンがマークに助けを求めている。

「ううっ。気持ち悪い・・・」

「レン様大丈夫ですか?顔色が悪いですよ?」

「なんとか・・・マークさんどうしよう。どうして止めに来たのに。三竦みになっちゃっうの?どうにか為らない?」

「まったく・・・三人とも大人気ない」

『うるさいぞ。子狐!!』

「子ども扱いすれば、相手が黙ると本気で思っているのですかね?レン様、低レベルな喧嘩なんて、見ていても無駄です。3人の事は放って置いて、幕舎でお茶でもいかがですか?母が送ってくれた花茶があるんです。香りが良いので、気分がスッキリしますよ」

「おい!」

 マークめ、一人で涼しい顔を決め込むつもりか?
 これじゃ、俺が馬鹿みたいじゃないか!
 
「でも・・・」

「大丈夫です。3人とも自分が大人だと思い出せば、直ぐに大人しくなります」

『こら!レンをどこに連れて行く気だ』

「ここより安全な所ですよ」

『私がレンを傷つけるとでも言うのか?』

「実際危ない目に合わせてるでしょう?閣下も、さっき迄の良い話は、何処に行ったんですか?」

「マークさん、これ以上煽るのはちょっと」

「良いのですよ。脳筋にはこのぐらい言わないと分からないのです。入団したての新人騎士と一緒です」

「マーク! お前、誰の味方だ!!」

「閣下。味方って、子供じゃないんですから。私はレン様の味方に決まってるじゃないですか。さっきその話をしたばかりでしょうに。ほんと下の者に示しがつきませんよ」

 クッソーー!!
 マークの奴、一人で美味しいとこ取りする気だな?!

「マークさんってば!」

「さあレン様。幕舎に戻りましょう」

『子狐!!レンを置いて行け!!』

 クレイオスが振った剣の斬撃で、マークの髪が一房、はらりと地面に落ちた。

 それを見たレンが、顔色を変え。
 そしてキレた。

「ちょっと!マークさんに何するんですか?!綺麗な顔に傷がついたらどうするのよ?!もう!!3人とも、いい大人がアヒルみたいに、ガーガー! ガーガー! いい加減にしなさぁぁい!!」

 レンの叫びと共に、空中から菓子の包みが雪崩を打って落ちて来た。

「うわっ! いてて!」
 
 そして、その数は、半端な量ではなく。
 呆気に取られる俺達は、あっという間に、山の様な菓子の箱やら袋に、押しつぶされてしまった。

 全身甘ったるい匂いに包まれた俺達を、レンは腕を組んで睥睨した。

「ガー助君達は、お菓子でも食べて、大人しくしてなさい!!」

『レッレン?』

「めっ!!」

『痛ッた!!』

 菓子に押しつぶされたカルの頭に、クッキーの絵が描かれた缶が命中し、ゴワンッ!っと間抜けな音を立てた。

『レン、パパを助けてくれんか?』

「え?嫌ですけど?このお菓子は、アウラ様からです。ママンも呆れてますよ」

 情けなく懇願するクレイオスに、レンは冷たく言い放ち、菓子の山から、袋を一つ二つと抜き取ると「フンッ!」と鼻を鳴らして、マークと腕を組んで、歩き去ってしまった。

 そして、物資を受け取ろうと集まって来ていた、街の住民に眼を止めると、とてとてと近づいて行った。

「お騒がせしてごめんなさい。あの3人が埋もれてるのは、お菓子なの。皆さん好きなだけ、持って行ってくださいね」

 とにっこり微笑んで、幕舎に戻って行ったのだ。

『カル!お前の所為で、レンとアウラを怒らせてしまったではないか?!』

『私の所為にするなよ!あんたが見栄を張った上に、駄々を捏ねるのが悪いんだろう?!』

 こいつ等、レンを怒らせたくせに、まだやるのか。

「おい!いい加減にしろよ!!」

 地面に手を付き、背中にのしかかる菓子の山を、ばらばらと崩して立ち上がると、後の2人も同じように立ち上がり、睨み合っている。

「はあ~。ほんとにいい加減にしてくれ。こっちは魔物の掃討をどうするかで、頭が痛いのだぞ?二人ともレンが呼び戻した理由を、アウラから聞いてないのか?」

『聞いたから、クレイオスも連れて来たんだよ。それなのにこのクソジジイときたら!』

『うるさい!我は幻獣狩りで忙しいのだ!!』

『そんなの、身から出た錆だろうが!』

「兎に角。その物騒な得物をしまえ。こんな場所でお前達が遣りあったら、街が崩壊する」

『・・・話をするだけか?』

「なんでも良いから。2人ともちょっと付き合え」

 渋るドラゴンと龍をエンラに乗せ、二人がまた喧嘩を始めても良いように、街から出て、夕暮れの乾いた大地をひた走った。

 そして、目当ての場所についたとき、クレイオスとカルは、揃ってうめき声を上げたのだった。

「これがあんた達を、レンが呼び戻した理由だ」

『・・・・』

 首都を囲む外郭に、押し寄せる魔物の大軍を眼にしても、クレイオスは何の言葉も発しなかった。

 昼間戦闘を行った丘の上から見る首都は、明かりも疎らで、そこに国の中枢があるようには見えなかった。

 街の灯りの替わりに、チラチラと光って見えるのは、結界を破ろうとする、魔物の攻撃に由るものだろう。

「俺とレンは、早急にあの魔物の囲みを破り、結界の中に入らねばならん。竜神の祠から盗まれた秘宝を、大公に返さねばならんし、ゴトフリーの瘴気の異常な濃さの原因も、分からんままだ。それにこの国では4年も雨が降らず、全ての民が飢えに苦しんでいる。レンがアウラから授かった神託や、二人の会話から推察するに、このウジュカが全ての鍵ではないのか?」

『・・・・・』

『クレイオス、何か言う事が有るんじゃないの?』

『・・・・我が魔物を始末し、レンの道を開こう』

『それだけ?』

『レンにも謝る。それでよかろう?』

『だから、それだけか?』

 焦れた子供の様に言い募るカルだが、クレイオスの心を動かすことは出来なかった様だ。

『其方達はすぐに忘れてしまうから、何度でも言うが。我が大神から許されて居るのは、レンの手助けだけだ。話せる事も制約で許されている範囲内だけ。これはアウラが描いた物語だろうと。ヴァラクの様な馬鹿者が、アウラの意に反しようとも変わらない。大事なレンの為にアウラと我は、大神に希い、やっとの思いで、我が子の手助けのみを許されたのだ』

「我が子?」

 いくらレンが可愛くても、それは度が過ぎていないか?

 俺の視線に気づいたクレイオスは、そのまま、ふいっと視線を逸らし、そのまま街に戻り、レンに謝る時まで口を開かなかった。

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