獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

閣下の教えと実験

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 side・アレク


 これは参った。

 ほぼ魔法が効かないじゃないか。

 火と雷はうじゃうじゃ生えている蛇に飲み込まれ、土はほぼ効果なし。

 マークの氷結が、蛇を凍らせることが出来たが、それも無事な蛇共が炎を吐いて溶かしてしまった。

 ならばと放った風魔法は、蛇をなますに刻んだが、一匹の切り口から二匹に増えて再生してしまった。

 これは厄介だ。

 しかも蛇共は、炎やら毒を吐き出してくる。吐き出した毒を避けたら、床が溶けるとか、どんだけだよ。

 今の所近づいたり、こちらから攻撃を仕掛けなければ、あの蛇も大人しくしている。本体のレジスと思しき首は、眠っているのか目を開いていないが、あいつが目を開いたらどんな攻撃を仕掛けて来るか、想像も出来ん。

 怪我をしたドラゴン達の代わりにアンを寄越す様に言ったが、アン達が得意として居るのは風魔法だ。

 蛇が吐き散らす炎と毒の所為で、接近戦は難しいし・・・・。

 どうしたものか。

「閣下。如何いたしますか?」

「うむ。エーグル、お前はどう考える」

「自分ですか?」

 何時までも意見を求められる事に慣れなのは如何なものか。

「のんびりはして居られない。早くしろ」

「自分、自分は接近戦を避け。距離を取り魔法での攻撃を優先すべきと考えます」

「魔法は効かん様だが。そこはどうする?」

「氷と風は一定の効果を見せました。風で攻撃し蛇の頭を斬り落とします。そして蛇が再生する前に氷で、固めてしまうのはどうでしょう」

「ふむ・・・・。エーグルは魔法の同時発動は得意か?」

「出来はしますが、得意とは言えません」

「何ができる?」

「炎と土です」

「その組み合わせは珍しいな。遣り辛くないか?」

「特に意識したことが無いので」

「そうか・・・前にレンに教えてもらった面白い方法がある。それを試してみようと思う」

「レン様にですか?」

「異界の化学と言う物らしい。俺が風で蛇を細切れにするから、マークは俺が切った所を片っ端から氷漬けにしていってくれ。全て凍らせたら、あのデカブツの周りに霧を出せ」

「閣下、自分はどうしますか?」

「取り敢えず待機だ。もし本体が動き出すようなら。土魔法で足止め。俺が合図を出したらお前の最大火力の炎をぶつけ続けろ」

「炎を?氷が解けてしまいますよ?」

「ものは試しだ。うまく行ったら面白いものが見れるぞ?」

『作戦会議は終わった?私は何をすればいい?』

「カルのブレスは最後の手段だ。それまでは観戦していろ。それと、もう直ぐレンが降りて来る筈だ。レンが降りてきたら安全な所にいる様に見張っててくれ」

『アーロンはどうするの?』

「あの龍は、自分の好きなようにやるだろう?俺達を攻撃しない限りは放って置け」

『それで良いの?』

「あの龍と、ヨナスがどんな誓いを交わしたのか分からんからな。邪魔さえしなければ好きにさせるさ」

『・・・・・・・』

「さあ!始めるぞ!!」

「「了解」」

 ヴァフッ!!

「アン?来たな。いいか?あいつはレンを虐める悪い奴だ。お前達が得意な風魔法で細切れにしてやれ!」

 アオォーーーーーン!!

 ご主人を虐める悪い奴と聞いたアン達は、大好きなご主人の為、四肢を踏ん張り、遠吠えを上げると、風の斬撃を飛ばし始めた。

 アンに続き俺もレジスの周りで竜巻を起こし、邪魔な蛇たちを引き千切って行った。

 蛇の体液やら毒やらが飛び散り、絵面は最悪だが、確実に蛇の頭を排除するにはこれが一番だ。

 マークも、アン達と俺が頭を落とした蛇を着実に凍らせていき。

 ものの数ミンでレジスの巨大な頭は、氷でバキバキに固められていた。

 しかし、これでも目を開けないとは、あの首は見掛け倒しなのか?

 ・・・・世の中そんなに甘くないよな。

「マーク霧を出せ。うんと濃くしろ。霧雨くらいでもいいぞ」

「はい!」

「エーグル!炎だ!お前の最大火力だぞ!!」

「了解!!」

 エーグルの放った炎はそこそこの威力だったがまだ足りない。

「エーグル!お前の全力はそんなものか?!もっと威力を上げろ!!」

「はいっ!!」

「まだだ!!もっと出せ!!全力の意味が分からんのか!?」

「はいっ!!すみません!!」

 炎の威力がグッと上がったが。
 こいつの全力は、こんなものでは無いはずだ。

「俺を舐めてるのか?!お前の首に首輪が付いて居るか?!いつまで奴隷根性を引きずっている積りだ!!お前の番は帝国の貴族だぞ!!そんな事で伯爵がお前を認めると思うのか?!」

「グウウウ・・・・」

 ハハッ! そうだもっと怒れ。
 感情を燃やせ。
 自ら課した枷を外せ!

 エーグルの炎が更に火力を上げ、倍以上の大きさに膨れ上がった。

 ふむ。あと一押しか。

「この程度の炎で、あの化け物が倒せるか!!子供の火遊びの方がマシだぞ!!お前はあの化け物にマークを喰わせる気なのか?!」

「グウゥ・・・・ガアァ!!」

 エーグルの腕から、さながら狼の様な炎が飛び出し、マークの生んだ霧を飲み込みレジスに襲い掛かった。

 上出来だ。
 今日の所はこんな物だろう。

「エーグル!炎を維持!!」

 レンに教わったように、うまく行けばいいが・・・。

 エーグルの炎が、マークの生んだ霧と、氷を溶かし濛々と蒸気を上げている。
 そこに俺は、特大の雷撃を連続で落としていった。

 すると頭の上から、団員たちのどよめきが聞こえて来た。

 しまった。
 あいつらに警告するのを忘れていた。
 ・・・まぁ。
 あいつ等なら自分で何とかするだろう。

 気を取り直し、雷撃を落とし続けた。
 雷撃はマークの生んだ霧の中を走り、床に溜まった溶けた水を蒸発させていく。

 まだか?
 失敗したのか?

 レンが見せてくれたような反応が見られず、こめかみを焦りの汗が流れ落ちた。

 駄目か・・・・。

 ん?

 ドッカアァーーーーン!!

 レンの言うじっけんが失敗に終わったと、諦めた時。なんの前触れもなくその爆発は起こった。

 レンの見せてくれた実験では、カップ一杯の水に極々微量の雷撃を流し、炎もランタンの灯芯と言う物だった。

 だが今回は、神殿内にいきわたるほどの水と、俺の特大の雷撃の連打。
 そして限界を超えようとするエーグルの炎だ。

 実験では、ボンっと小さな音が鳴り、レンの前髪が持ち上がる程度の爆発だったが
 今回は違う。

 俺は全く加減を考えていなかった。と言うより加減が分からず、遣りたい放題してしまった。

 その結果。
 神殿の床も柱も吹き飛び、マークが目を潤ませて見つめていた壁のレリーフは一枚残らず砕け落ちてしまった。

 勿論俺達も例外ではなく、爆風に吹き飛ばされ、その途中で結界を張り体勢を立て直したが、神殿の入り口付近まで床の上を滑る事になった。

 アンと子供達は、体制を立て直すことが出来ず、太郎と次郎は床の上を面白いぐらいコロコロと転がって行った。

 そんな中、カルだけが涼しい顔で、髪と衣服を揺らしただけだった。

 高次の生き物とは言え、こうも違うものか、と何故か無性に腹が立つ。

 そして肝心のレジスは、髪の代わりに生えていた蛇は全て吹き飛び、顔の肉も剥がれて、頭蓋骨が丸見えになって居る。

 これでも起きないのか?

「閣下ッ!!」

「マーク、無事か」

「これが無事に見えますか?!爆発するならすると!な・ぜ!先に言ってくれないのですかッ!!」

 白銀の髪がめちゃくちゃに絡まり、鳥の巣のようになったマークが、拳を振り振り抗議してきた。

「あ・・・やぁ・・すまん。加減が分からなくてな?」

「レンン様は、な・ぜ!こんな危険な事を知って居るのです?!これは一体何なんです?!」

 そんな事を俺に言われても。
 いや、やったのは俺か・・・。

「いっ異界の学校で、教わった・・・でんき分解とすいそ爆発だと・・・」

「はあ?何言ってるのか全然わかりません!!子供にこんな危険な事を教えるなんて!異界の住人は頭おかしいんですか?!」

 だから、俺に言われても・・・。
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