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千年王国
魔物相手でも礼儀は大事
しおりを挟む「いちご!!グローデルヒが溺れる!!もっとゆっくり!!息継ぎくらいさせてやれ!」
いちごは、ケッ!!と吐き捨てる様な仕草を見せた後、薬液をゆっくり流し込み始めた。
痛みと窒息の恐怖で、涙を流すグローデルヒだったが、荊の拘束が解かれた時には、潰れた腕はすっかり元通りになって居た。
「ウェッ!!ゲホッ!!・・・・・ゲホッ・・・・あれ?痛くない?」
やり方は乱暴だが、いちごの創り出す薬は、回復薬と同等の効果があるようだ。
そして・・・さすがひよこ。
もう、いちごにされた事を忘れたらしい。
腕を振り回し。
回復具合を確かめるひよこに、医療班が来るまで大人しくして居ろ、と命じている間に、いちごはヤンの前に移動していた。
「いちご!ヤンは起き上がれない。ちょっとづつ飲ませないと、本当に窒息するからな!ちょっとづつだぞ!」
振り向きもせず、不満そうに花弁をざわざわと揺らしいちごは、一応俺のいう事を聞いてくれたらしい。
起き上がれない。という俺の言葉をどう理解したのか。ヤンの身体を荊を使って起き上がらせ、グローデルヒと同じ様に、こじ開けた口の中に薬液を流し込んだのだ。
そう来たか・・・。
でもまあ、さっきより加減はしてくれて居るみたいだから。
ここは目を瞑ろう。
うん、効き目は確かだしな。
そしてヤンは、単に気絶をしていただけだったらしく、薬液を流し込まれると直ぐに目を覚ました。
「ガハッ!!なんすかこれっ?! エッ!?」
溢れた薬液で顔をビチャビチャにしたヤンは、いちごに気付き、腹筋だけではね起きた。
「はあ?!魔物?!うわぁ!!痛いッ!! いたた!!」
ヤンの反応がお気に召さなかったのだろう、いちごは荊でヤンの頭を締め上げ始めた。
「それはレンの従魔だ。お前はそいつに助けられた」
「いった!! 刺さってる!!棘が刺さってるから!!ごめんない!魔物なんて言って、すみませんでしたッ!!」
しかし、いちごの荊は、更に強くヤンの頭を締め上げ、頬に一筋の赤い筋が出来た。
「ほんとに痛いって!!お願い!許して下さい!!」
「礼を言わんからじゃないか?」
「えぇ~~?? いたたッ!!すみません!!ありがとうございましたッ!!」
ヤンの感謝の言葉を理解したのか、いちごがヤンをペイッを投げ捨てると、ヤンの顔には、棘で出来た穴がブツブツと開いていた。
そしていちごはと言うと、俺の所に戻り、足をよじ登って体を小さくすると、レンの襟もとに落ち着いてしまった。
「お前、レンと他の奴の扱いが違いすぎだろ」
いちごは俺の事を無視すると決めたのか、なんの反応も見せなかった。
従魔だからな、仕方ない。
「レンとみんなを助けてくれて、ありがとうな」
指で花弁を撫でると、いちごは葉っぱと花弁をさわさわと靡かせた。
これは、謝意を受け取った、と考えていいのか?
「閣下、ある程度水は引いたようですが、如何いたしますか?」
「部隊をそれぞれ4分割にする。分割した4隊は、外郭の監視とクレイオスの取りこぼしの討伐。首都の中に入り込んだ、魔物の捜索と討伐。残りは崩れた外郭の補修と、休憩だ。休憩は3刻交代。討伐した食える魔物は、街の奴らに解体させて避難所に配らせろ。人間が食えない魔物は、サンドワームにくれてやれ。魔物の捜索、死体の回収、外郭の補修は、大公城の警備に必要な、人員以外の治安部隊を動員して手伝わせろ」
「了解しました。他には?」
「そうだな・・・。解体以外でも、外郭の補修と死体の回収は。街の奴らからも希望者を募れ。自分達の街と国は、自分達で守らせるんだ」
「了解」
「俺はレンを連れて一度大公城に戻る。俺はすぐに出るから、お前は着いて来て、休憩とレンの護衛だ」
「閣下は、お休みになられないのですか?」
「他の奴らと同じだ、3刻で交代する」
「仰せのままに」
「やけに仰々しいな。煽てても何も出んぞ?」
「いえ・・・さっき、その」
あぁ。
あれか。
「レンに抱き着いて、泣いた事か?」
「えぇ。まあ・・・その通りです」
おい。顔が赤くなってるぞ。
恥ずかしがるなら、最初から我慢しろよ。
「あの時のレンには、俺も肝が冷えた。誰が泣いた気はするが、俺は何も見なかった。其れでいいだろう?」
他の奴らにも、がっつり見られていたがな?
マークは、後でエーグルとロロシュの機嫌を取る羽目になるんだ。
俺がどうこう言う必要もあるまい。
「クオン!ノワール!戻るぞ!!」
大公城に戻ると、避難している民達の歓声が、俺達を出迎えてくれた。
しかしレンを休ませることが先決と、離宮へ向かったのだが、そこで離宮に入り込み、盗みを働いていた盗賊と、鉢合わせする事になった。
しかも盗賊が手にしていた物は、レンの荷物だったものだから、それは見たマークは烈火のごとく怒りを露わにし。氷漬けにした盗賊を民の前に放り出した。
「この者達は、城内で盗みを働き、恐れ多くも愛し子様のお荷物に手を掛けた!!愛し子様は、命を掛け其方達を助けた!!そして愛し子様は、力を使い果たし倒れてしまわれた!!その返礼が盗みを働く事なのか!?ウジュカの民に、恥は無いのか!!もし恥を知る精神があるなら、この者達は、其方らの手で裁くがいい!!」
騒ぎを聞き、駆け付けた大公子に冷たい一瞥を与えたマークは、非常事態とは言え弛み過ぎだ。と一国の大公子を一括し。
近衛の責任者に、今後一切レンに近付く事を禁じると命じた。
「お前達は信用に値しないと理解した。責任感の無い者が、レン様の傍をうろつけると思うな」
そう言い捨てたマークは、離宮の敷地内に入り込んでいた、避難民を敷地の外に追い出し、部下達と一緒に離宮の周囲に土壁を張り巡らせた上で、見張りを立たせたのだ。
そして、俺は、誰よりも早く怒りを見せたマークの所為で、妙に冷静になって居た。
怒り狂ったマークが、氷漬けの盗人を民の前に放り出しているころ、俺は帰城途中で合流した、アン親子といちごの従魔と、クオンとノワールに見張りを任せて、冷え切ってしまったレンの身体を、湯で温めている最中だった。
泥の跳ね返りで、汚れてしまったレンの身体を綺麗に洗い流し、湯につかって温めていると、途中でレンは一度目を覚ましたが、今はゆっくり休めと言うと、番はまたすぐに眠ってしまった。
けしからん番の身体に、オレも反応してしまったが、そう何度も眠っている番に悪戯するのは気が引ける。
俺は紳士で、変態では無いから。
そういう事は、レンの合意の上で致すべきだと思っている。それに、その方がたっぷり楽しめて断然いいしな。
レンに夜着を着せ、俺も身支度を済ませて寝室を出ると、マークは憤懣遣る方無いと言った風情で、椅子に腰かけイライラと爪を噛んでいた。
それでも俺に気付くと、立ち上がり今まで噛んでいた爪を、後ろ手に隠した。
「休まないのか?」
「腹が立ち過ぎて、休めそうにありません」
「気持ちは分かるが、目を覚ました時、お前が目の下にクマを作っていると、レンが心配して大騒ぎになるぞ?」
「はあ~~。そうでしたね。レン様はご自分の事には無頓着なのにね」
本当に、あと少しでいいから自分の事にも、気を使ってくれればいいのに。
「レンが心配なら、ここに居ても構わんが、あのカウチで横になれ。座ったままでは疲れが取れんからな」
「では、お言葉に甘えて、そうさせて頂きます」
部屋を出ようとした俺は、マークに引き留められた。
「閣下、お出ましになる前に、大公子へ閣下からも抗議を入れて下さい」
「分かった。俺もあの盗っ人の事で、気になる事が有るからな。出がけに一言言っておく」
「何かありましたか?」
「大した事では無いのだが。前にヨーナム殿が言っていた事が有ってな。それが少し引っかかるだけだ。何も無ければ捨て置けば良いし。何かったら知らせるよ」
「了解」
「うむ。レンを頼む。それとしっかり休めよ」
「いってらっしゃいませ」
マークには悪いが、やはりレンの ”いってらっしゃい” でないと、やる気が起きんな。
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