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千年王国
ロロシュの本心
しおりを挟む「ですがレン様」
腹筋ではね起きた俺も、マークの加勢に入ろうとしたが、その前にレンは腕を伸ばし、ドラゴニュートの額に掌を当てた。
レンがやろうとして居るのは、ドラゴニュートのティムだ。
最初話を聞いた時は、良い手だと思ったが、実際に目の前で10人以上の人間を跡形もなく消し去られては、とても安全だとは思えない。
ハラハラしながら、見守ることしか出来ない俺達は、剣の柄に手を掛け、臨戦態勢のままだ。
それはロロシュやエーグル、他の部下達も同じだった。全員がエンラから降り、剣の柄に手を掛け、腕に魔力を溜めて居る者も居る。
細かな鱗に覆われたドラゴニュートの額に、ぺたりと手の平を当てたレンは、静かな声で問いかけている。
「あなたのお名前は?」
「お・・名・・・前?」
「そう。貴方の名前はなあに?」
「ガ・・・ガエル」
「ガエルさん。私とお友達に成ってくれる?」
「とも・・・ともだ・・ち・・ともだち・・なる」
するとガエルと名のったドラゴニュートの額とレンの掌がポウっと淡く光を放ち、ティムが完了したようだ。
レンは休むことなく、次のドラゴニュートの前へ移動し、同じ事を繰り返して行った。
ドラゴニュートの平たい額にペタリと手の平を当て、名を告げる事を拒否した者には、名を与えていいかを聞き、名を付けた上でティムしていく。
しかしレンに名のる事も、新たな名を付ける事も拒否したものは、俺達に拘束する様に頼み、レンは別のドラゴニュートの前に移動して行った。
結果、レンがティムできたのは3体、残りの2体は魔獣用のロープで拘束し、地面に転がされる事となった。
こんな柔な拘束が、ドラゴニュート相手に効果があるとも思えないが。俺達が立ち去るまでの、時間稼ぎが出来ればそれでいい。
ティムされたドラゴニュートは、まだボンヤリしたまま地面に座り込んでいるが、俺っちは漸くホッと息を吐くことが出来た。
「うはぁ~~。疲れたぁ!」
そう言ってレンは俺の胸に戻って来たが、俺としてはちょっと複雑な気分だった。
「話を聞いた時はいい手だと思ったが、心臓に悪すぎるな」
「え~?信用無いなぁ」
そうボヤく番だが、これは信用云々の問題ではないと思う。
「しっかし。こんなうまく行くとは思わなかったな。相変わらずちびっ子はすげえな」
「あっ!!まだマスクを外しちゃ駄目ッ!!」
レンが叫んだが、一足遅かった。
ロロシュの眼はトロンと溶け、宙をぼんやりと見つめている。
「あ~~~高出力だったのに~」とレンは頭を抱えてしまった。
レンが支給したマスクは、レンの魅了の影響を受けないよう、魅了の香りを封じる効果がある。
それを無造作に外してしまったロロシュは、レンの魅了の香りを、直に吸い込んでしまった。
これでロロシュがレンに、纏わり付くような真似をしたら、俺はロロシュの手足を折ってしまうかもしれない
いや。
確実に地面にめり込む程度には、叩きのめしてしまう。
俺はレンを抱き上げて身構えたが、ロロシュがレンに襲い掛かる前に、拘束しようと腕を掴んだマークとエーグルに、ロロシュはニカッと、これまで見たことが無い、良い笑顔を向けた。
「マークだっ!!」
「エッ? エェェェッ?」
ガバッとマークに抱き着いたロロシュは、周りの目も気にせず、マークの顔中にキスの雨を降らせ始めた。
「いつ見ても、マークは可愛いなあ!」
「ヤッ!? ちょっと! ロロシュッ?!」
「なんだよ。恥ずかしいのか? ほんと可愛い奴だなあ」
「ちょっ!! 止めなさい!」
「はぁ~~~。良い匂いがする。髪もサラサラで気持ちいなあ。今日もライルを服の下に入れてるのか?マークは蛇にも優しいんだなあ。マークが俺の番で本当に良かったよ~」
デレデレと頬ずりしながら、マークの髪を撫で、キスを繰り返すロロシュ。
周囲は炎が茫々と燃え上がり、目の前には座り込んだドラゴニュート。そんな状況でデレまくる、オッサンとオッサンから逃げようともがく、美貌の騎士。
押しつぶされて苦しくなったのか、襟元からライルが顔を出し、牙を剥いてシャーッと威嚇したが、相手がロロシュだと分かったのか、ライルは口を閉じると、うねうねとマークの服の中に戻ってしまった。
「なにこれ? 絵面がシュールすぎる」
「これがロロシュの本心・・・なのか?」
「・・・マークさん、ずっとライルを服の中に入れてたの?」
「そう・・・みたいだな」
「イスッ! イスッ! 助けて!!」
キスに飽きたのか、今度はマークの頬を、でろでろと舐めだしたロロシュから逃れようと、マークも必死だ。
まあ。
そういう事は、人前ではちょっとな・・。
あっ、エーグルの前なら良いのか?
「なあ。助けなくていいのか?」
「はははっ!!5ミンもしたら、ロロシュも落ち着くでしょう」
「ちょっとっ!! イスッ!! 洒落にならないからッ!! 早く助けてッ!!」
「本当にいいの?マークさん、困ってるよ?」
「いやあ。困ってるのに、嬉しそうなマークなんて、早々見れませんから。ほんと可愛いですよね。それに、ロロシュよりマークの方が強いですよ?本当に嫌なら凍らせてお終いです」
「あっ!確かに」
「だが、いいのか?お前の番だぞ?」
「ロロシュも番です。2人が楽しそうで、自分は嬉しいです」
「ほ・・・・仏だ。アレク、ここに仏が居る」
とレンは、エーグルに向かって、ナムナムと呟きながら拝み始めてしまった。そして俺達の会話を聞いていた、部下達も、エーグルに対し、尊敬のまなざしを向けている。
「はあ・・・。あれ以上エスカレートしそうなら止めるんだぞ。マークの尊厳も守ってやらんとな」
「はは!大丈夫ですよ」
エーグルに、嫉妬心と言うものは無いのか?
それとも、視姦趣味でもあるのか?
どっちにしても、コイツの度量の広さにはびっくりするな。
まあ、複数婚なんて。
このくらいでないと、遣って行けないのかもしれんな。
「じゃあ、ロロシュさんが落ち着くまで。私達はドラゴニュートさん達と、話してみませんか?」
「そうだな・・・マークは兎も角、ロロシュの醜態を見て居ても、吐きそうだしな」
「ははは・・・酷い言われよう」
実際、他人の。
しかもオッサンの濡れ場なんぞ見せられてもな。
俺がロロシュとマークを視界に入れない様に気を配りながら、レンを抱いてドラゴニュート達の前に立つと、俺の番は、優しい声でドラゴニュートに話しかけた。
「ガエル。ガエル?聞こえてる?」
「・・・・は・・い。主様」
「あるじ・・・なんかそれっぽい」
「レン?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと浸ってしまいました。ガエル、私のいう事が分かる?」
「はい」
「王都に火を放ったのは、ガエル達ドラゴニュートなの?」
「そうです」
「何故こんな事をしたの?誰に命じられたの?」
「ヨナスに・・・ヨナスの望みだから」
「ヨナスさんは、どうしてこんな事を命じたの?」
「・・・レジスの民を、人族が貶めたからです。人族を根絶やしにしろと言われました」
ヨナスは、レジスと同じ獣人族を大切に思っていた。
獣人を搾取し続けたゴトフリーの人族に、怨みを抱いてもおかしくはないが、なぜ今なんだ?
「ヨナスさんは、今どこに居るの?」
「さ・・・里の長の家に・・・」
「・・・・そこに龍は居た?」
「りゅう・・いました。オレ達と立ち会った龍と、後から別のりゅうが来ました」
「その二匹の龍は、今どうしてるの?」
「分かりません。・・・ヨナスは贄だと言っていました」
「贄?魔力を奪われているのね・・・・王都に来たドラゴニュートは全部で何人?」
「80体です。他の22体は、里でヨナスを守っています」
「分かったわ。あなた達3人で、他のドラゴニュートさん達を止める事は出来る?」
「無理です。皆強くなっています」
「そう・・・じゃあ。残りの75人を、一ヶ所に集めることは出来る?」
「できる・・・と思います」
「じゃあ、王城前の広場に、皆を集めてくれる?」
「主様の仰せのままに」
ゆらりと立ち上がり、3体のドラゴニュートは炎の中に消えて行った。
「それじゃあ、王城に行きましょうか」
「そうだな・・・ロロシュは・・・・」
マークの顔を舐めるのは止めているが、首に抱き着いたままだな。マークはエーグルに何故助けないのかと、がみがみ言っているし。
エーグルはずっと嬉しそうに笑ってるな。
ここまで来ると、エーグルの奴も何処か、おかしいのじゃないか?
まあ、3人が仲良くしてくれるなら、俺に文句はないけどな
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