獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

襲来

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「ねぇアレク。アレクはドラゴニュートさん達から、強き者って呼ばれて尊敬されているよね?でも私は人で、ヨナスさんやドラゴニュートさん達からしたら、抹殺対象よ?アレクが守ってくれなかったら、私どうなっちゃうの?」

「う”っ!!」

 そういう言い方は狡いだろ。

「・・・・分かった。ヨナスの所にはクレイオスも着いて来るはずだ。それと魔素水があっても、あれは万能じゃない。それをしっかり覚えておいてくれ」

「うん。じゃあ、私は残りのドラゴニュートさん達が集まるまでお休みしてるね。それならアレクも安心でしょ?」

「・・・・はあ。分かったよ」

「なあ、クロムウェル閣下。そのヨナスと言う者の所へ、私もついて行っていいか?」

「モーガン?」

 モーガンは堅実な雄で、余り冒険はしないと思っていたが。
 
「根本から、と言ったのは私だ。責任はとる」

 成る程。
 相変わらず真面目な奴だな。

「いいのか?」

「ドラゴニュートさえ居なくなれば、後はオーベルシュタイン侯爵にお任せして問題なかろう」

「モーガンが来てくれれば、俺も心強い」

「私も、後詰や後始末ばかりと言うのも詰まらんからな。たまには良いだろう?」

「まあ。そうだな」

 ニヤリと笑い合った俺達だったが、モーガンがふと視線を下ろし、くつくつと笑い出した。

「どうした急に」

「いや、だって。レン様は本当に寝ているぞ」

「え?・・・ほんとだ。一瞬で寝たな」

「それだけ、レン様は閣下を信頼しているという事だろう。仲が良くていい事だ」

 腕の中で静かな寝息を立てる番は、幸せそうな寝顔をしている。

「単純に、体力の限界じゃないか?野営で寝ようとしていた時に、この騒ぎに気付いて、そこから駆け通しだったからな」

「こんな小さなお身体で、レン様はよく頑張って居られる」

「俺もそう思う」

 それから2刻ほど、レンがどうやってドラゴニュート達をティムするのか。

 その際に発動される魅了の効果と、その弊害について話し乍ら、次々と入って来る現場からの報告を聞き、指示を出して行った。

「うむ・・・。効果は絶大の様に思うが、元々レン様は魅力的な方だ、色々と障りがあるだろう?」

「魅了を覚えたてで、制御ができなかった頃は色々あったが。今は完全に制御が出来ているから、普段の生活で問題はない。しかし他者の支配を受けているドラゴニュート、しかも70体以上に同時に魅了を掛けるとなると、広範囲、高出力での発動になるだろう」

「そうなると、影響がどれ程になるか・・・」

「第二騎士団には、このマスクを支給してあるから、大した影響は出ないだろうが、第3は近付かない様に指示した方が良いぞ」

「・・・第2の騎士は、皆着けているな」

「これはレンが魅了の香りを封じるために作ってくれたもので、うちの連中には全員に支給してある」

「ふむ・・・。何故外さない?今は魅了は発動していないのだろう?」

「これが結構優れものでな、これだけの火災だが、焦げ臭い匂いも熱気も遮断してくれて、息をするのが楽なのだ」

「ほう!それは凄いな。私にも一枚くれないか?ヨナスと言う奴の所へ行くなら、必要だろう」

「そうだな・・・・。マーク!」

「はいっ!」

「マスクの予備はあるか?!」

「はいっ!少しお待ちください! ちょっと!ロロシュ!!バックからマスクを出して」

「マスクかぁ?でも、手を離したらどっか行っちゃうだろ?」

「もう!行きませんよ!どこにも行かないから、早くマスクを出しなさい!」

「・・・・・ロロシュはどうしたのだ?アーチャーに抱き着いて、デレデレじゃないか」

「あ~~~。あいつか?あいつはレンがドラゴニュートをティムした直後にマスクを外してな。魅了の香りを直に吸い込んだのだ。あれでも落ち着いて来た方なのだがな」

「あんな風になるのか・・・これは怖い」

 大勢の前で、醜態をさらす事になるからな。
 モーガンの様に、真面目な奴には恐怖でしかないだろう。

 結局ロロシュはマークから手を放さず、見兼ねたエーグルがバックを漁って、予備のマスクを持って来てくれた。

「エーグル。本当に、あのままで良いのか?」

「良いと思います。ロロシュの素直な愛情表現なんて貴重ですからね。この後レン様が、魅了を使われると聞いていますので、今人を遣って瓶を何本か取って来させてるところです」

「は?瓶?瓶なんて何に使う気だ?」

「レン様が魅了を発動されたら、その香りを瓶に入れて置こうかと」

「なんで?」

「いやぁ。ロロシュは中々素直になれない人でしょう?あの二人が喧嘩した時に、その香りをロロシュに嗅がせたら、早く仲直りが出来ると思ったんですが・・・ダメでしょうか?」

「いや・・・別に構わんが。そんなに長く香りが持つものか?」

「さあ。でもやってみて損は無いので」

「そうか・・・まあ、好きにしろ」

「はい!ありがとうございます!」

 ニコニコと去って行くエーグルだが、本当に良いのか?

「何と言うか、複数婚を受け入れられる獣人とは、ああも大らかなのだな」

「だな・・・しかし、もし本当にレンの香りを瓶詰にできるとして、悪用されたら堪らんな」

「騎士の中にそんな奴は居らんだろう。それにこのマスクが無ければ、その不届き物も、骨抜きで何も出来んと思うが?」

「レンも使い処は弁えているから、余計な心配だとは思う。だが何処にでもアホは居るからな」

「うむ。気を付けるに越した事はない。しかし、あれだな。貴殿を見て居ると、私の番が平凡な人で良かったと、つくづく思う」

「そうか?心配事も多いが、毎日意外な発見の連続で、これはこれで楽しいぞ?」

「そう言えるのは、ヴィース広しといえども閣下だけでしょうな。真に似合いの番だ」

「ふん、当然だ」

 腕に抱えた、番の髪を撫でる俺にモーガンは、複数婚でなくて良かったな。と苦笑いを浮かべ、エーグルに手渡されたマスクを顔に着けた。

「おお!これは良い!鼻の裏が痛くなって来ていたのが楽になった!」

 第3にも回してくれと言うモーガンに「値が張るがいいのか?」と聞くと「金をとるのか?」と驚かれた。

 逆にタダでもらえると思う方がどうかしている。と俺は思うのだが。

「分からんかもしれんが、これには魔石や魔晶石が使われ、レンの魔法も付与されている。そこらの布切れとは訳が違う」

「・・・・レン様が、ウジュカの支援を自腹で出来る訳だ」

「そういう事だ。必要ならディータかテイモンに発注すると良い」

「皇太子妃候補の?」

「あの二人は、レンと一緒に商会を立ち上げるそうだ」

「グレコとアメリアは、勝ち組決定だな」

 その時モーガンの呟きを掻き消すように、遠くからワー!ワー!と人の叫び声が聞こえて来た。

「この辺りに、まだ人が残っていたのか?」

「いや・・・ドラゴニュートが現れた直後に、非難させている・・・なぜ戻って来たのか・・」

 陽が上り、明け切った王都の南の上空に、赤と緑の信号弾が次々に打ち上げられた。

「救援要請っ!! 襲われているぞ!!」

「閣下!!東にも信号弾が!!」

「西もです!!」

「どういうことだ?」

「索敵ッ!!」

「はいッ!・・・・・ゴ、ゴブリン? 南!!ゴブリン!!ゴブリンとゴブリンメイジの群れです!!

「西!!トロール!!4ッ! ギガント2?!」

「東ッ!! まだか?!」

「ひ・・東っ!  ああ。嘘だろ!」

「何をしている!! 早く報告しろっ!!」

「かっ火竜!!3ッ!! サラマンダー10!!」

 魔物の襲来を告げる、索敵の叫び声は悲鳴の様だ。

「ドラゴニュートは?!」

「い、います!!ドラゴニュートが魔物を率いています!!」

「数は?!」

「西!16!!」

「南!! 17!!」

「ひ・・・東!!・・・・35!!」

「・・・数が足りん・・・索敵ッ!!王都の外から信号弾は上がっていないか?!」

「けむり・・・煙玉!! 赤と黄色!! 煙玉です!!」

 直ぐに消えてしまう信号弾ではなく、長く確認できる煙玉を使った、という事は、逃げているという事だ。外に待機させた部下達は、魔物から民を護りながら逃げているのだ。
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