獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

帰郷

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「準備できたか?」

「ごめんなさい。もうちょっと」

「何をそんなに詰め込んでるんだ?」

「ん~~~?お土産を色々~」

「土産?」

 ゴトフリーには、目ぼしい特産品など無かったと、記憶しているが?

「レン。もしかして、それ全部持って行く気か?」

「そうですけど、ダメかしら?」

「ダメって・・・・」

 どう見ても、そんな大量の箱。
 行李に入りきらないだろう?

「おっかしいなぁ~。セルジュはキレイに詰めてたんです。すごく簡単そうにしてたから、私も出来ると思ったんだけどなぁ」

「それは、セルジュに失礼だぞ」

「どうして?」

「レンがセルジュの仕事を、奪ったからだな」

「そんな大袈裟な」

「大袈裟ではない。侍従にとっては大問題だ」

「そっそうなの?」

「うむ。いいか?平民ならともかく、貴族の旅行や遠出はどうしたって、衣装などで荷物が増えるだろ?」

「こっちの服は、嵩張りますもんね?」

「自領に引っ込むのでなければ、どこへ行っても社交はあるからな?衣装の他にも、宝飾類や身の回りの物も、持って行くことになる。タウンハウスと、領地の行き来だと、引っ越しと変わらん」

「マリカムに行ったときも、荷物だけで馬車がパンパンだったものね」

「うむ。だからパッキングの上手い侍従を雇っているという事は、貴族にとってステータスでもあるんだぞ?」

「へぇ~。知らなかった」

 これは当たり前すぎて、誰も教えなかったパターンだな。 

「あのな、パッキングは侍従の特殊技能で有り、誇りでもある。セルジュもローガンに厳しく仕込まれたのだと思う」

「そうだったんだ。セルジュに悪いことしちゃった。怒ってないかしら?」

「それだけは無い」

「ほんとう?」

「ああ。その証拠に、セルジュは部屋の外でレンが声を掛けるのを、オロオロしながら待って居たぞ」

 うちの宮の使用人達は、漏れなくレンに甘い。特にレンに激甘なのが、ローガンとセルジュだ。
 
 レンに激甘なセルジュが、パッキングをさせなかったくらいで、臍を曲げたりなどするものか。

 今だって、レンが困っていないか気が気じゃなくて、部屋の前で、うろうろ、ソワソワしているくらいなんだぞ?

 俺の話しを聞いたレンは、直ぐにセルジュを呼び、残りの荷物の準備を頼んでいた。

 そして、セルジュが次々と行李の中へ隙間なく、ぴっちりと荷物を詰めていくのを見て居たレンは、その手際の良さに、感嘆の声を上げている。

「凄い上手!落ちものパズル見てるみたい!セルジュって天才!」

「レン様。侍従なら出来て当然ですから。あまり褒められると、恥ずかしいです」

 手放しのレンからの賞賛に、セルジュは照れたように、しかし満更でもなさそうに笑っている。

 レンはローガンとセルジュだけでなく、どの使用人にも、礼を言ったり、優れた処を見つけると、どんな些細な事でも、相手を褒める人だ。

 しかし貴族には、使用人の努力を、やって当然。尽くされて当然、と思っている輩も少なくない。ましてやレンの様に、直接使用人を褒める貴族は、本当に少ない。

 だからこそ、柘榴宮の使用人達は、レンに忠誠を尽くした上で、甘やかしたくなるのだろうと思う。

 まあ。俺に対する態度との温度差に、理不尽なものを感じなくもないが、俺の番を大切に扱ってくれるなら、文句を言う必要はないな。

『なんだ。まだ荷物を詰めているのか?』

「もう終わりました。クレイオス様、後はお願いいたします」

「うむ。我は倉庫ではないのだがな。仕方あるまい』

 偉そうに言って居るが、あんた達の尻拭いの為に、こっちは死ぬ思いをしたんだぞ?
 荷物を運ぶくらい、大した事では無かろうよ。

 それもドラゴンの姿で、背中に乗せていくならまだしも。謎な空間にしまっておいて、向こう着いたら取り出すだけだろ?

 偉そうにするほどの事か?

「ありがとうダディ。ドラゴニュートさん達が起こした火災の後始末に、思ったより時間が掛かちゃったから、間に合わないかと心配してたの。スクロールを使っても、みんなの分の荷物も入れたら、運びきれなかったし。本当に助かったわ」

『そうか?助かったか。うむ。レンが喜んでくれるなら、いくらでも運んでやるからの?』

「わぁ!ダディって頼りになるぅ」

 なんの茶番だよ。

 レンの嫌味にも、気付いているのか居ないのか。レンの掌で転がされて、機嫌よく働いてくれるなら、何でもいいが。

「荷物も片付いたし。ロイド様がしびれを切らさない内に帰ろう」

「そうですね。みんなはもう皇都へ行ったの?」

「いや。ホールでレンが来るのを待って居る」

「やだ。お待たせしちゃってるのね?急がなくちゃ」

 ワタワタと剣帯に刀を結び付けようとするレンを手伝い、準備万端と抱き上げると、レンにむくれられてしまった。

「どうした?」

「お城の中ですよ?危なくないですよね?」

 自分で歩きたいって事か。

「でも、俺の方が足は速いぞ?」

「ぐっ・・・それを言われると、言い返せない。クソッ。足長族め」

 足長って・・・。
 身長差を考えて欲しい。
 俺とレンだと3.40チル差が有るんだぞ?
 その分足の長さも、違って来るよな?
 逆に俺とレンの、足の長さが同じだったら、そっちの方が問題だと思うのだが。
 
 レンを左腕の乗せ、大股で風を切ってホールへ向かうと、今回の遠征の主要メンバープラス、シエルと文官数名が、勢ぞろいしていた。

「レン様。おはようございます」

「おはようございます、マークさん。みなさん、お待たせしてごめんなさい」

「いえいえ。レン様のお陰であっという間に皇都に移動できるのです。1刻や2刻遅れても、なんの問題もありません」

「エェッ?私そんなに、お待たせしちゃったの?」

「ははっ!ものの例えですよ」

 カラカラと笑うオーベルシュタインに、レンはホッとしたように胸を撫で下ろした。

「しかし、この地の首脳部が、そろって不在にしても、良いものだろうか?」

「戴冠式すっぽかす方が問題だってんだから、仕方ねぇじゃん」

「素直に、閣下とレン様の婚姻式が楽しみだって、言えばいいのに、ほんと臍曲がりなんだから」

「シエル?」

「臍曲がり・・・」

 愛しのシエルに、ちくりと言われたセルゲイは、急に大人しくなった。

 ふむ・・・。
 この様子だと、まだ上手く行っていないみたいだな。ウジュカから戻ってから、レンはシエルとよく話をしていたようだが・・・。

 レンから特に報告が無いという事は、そういう事なんだろうな。

「おはようございます、レン様。本日はありがとうございます」

「とんでもない。私の方こそ、付添人を引き受けてくれて大助かりよ?」

「当日は4人でしっかりサポートいたしますから、ご安心ください」

「素敵な衣装を用意したから、楽しみにしててね」

 キャッキャと楽しそうに話す1人を、セルゲイは、羨ましそうに見つめているだけだ。

 何と言うか、以前よりも消極的になったのではないか?こんな事で、セルゲイの求愛行動は、大丈夫なのだろうか?
 
 モーガンも俺と同じ様に感じたらしく、俺と目が合うと、小さく首を振っていた。

 人族への求愛で、俺の様に苦労もなく、受け入れて貰えることは、めったにないからな。セルゲイとシエルの事は、長い目で見た方が良いのかも知れない。

「レン。話の続きは、宮に戻ってからの方が良いだろう?」

「あっそうですね。みんなに大事な話もしなくちゃいけないし、帰りましょう」

 俺とレン以外は、3、4人でまとまってスクロールを使い、次々に皇宮内の柘榴宮へと転移して行った。

 すでに連絡をしてある宮では、ローガンが皆の事を迎えてくれていると思う。

『よし。皆戻って行ったな。では我等も行こうか』

「なんか、私達だけスクロールを使わないのって、ちょっとズルした気分」

『何を言う。我が居るのだ。レンがスクロールを使う理由はないであろう?』

「そうなんですけどね?ちょっと仲間外れの気分です」

『ふむ・・・。永く生きていても、人の心と言うものは、今一つ理解出来んことが有るものよな』

 そりゃあ、あんたは不死のドラゴンだからな?人が蜻蛉の気持ちを、理解できないのと同じだろう?

 そんな益体も無い事を考えながら、クレイオスが開いた空間を通り、宮に戻った俺とレンを待ち受けていたのは、今にも泣き出しそうな顔のリアンだった。
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