獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

愛し子の策

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「レンの様子は?」

「御申しつけの物と、ベイさんから渡された本を、数冊お届けした処、大変喜んでおられました」

「ベイから?」

「はい。レン様が持ち帰られたものと、似た文字が書かれた本だと」

「ベイは、何か言っていたか?」

「レン様に頼まれた品だから、ちゃんと渡せとだけです」

「・・・他の3人がどうしているか、分かるか?」

「今日は姿を見て居りません」

「昨夜の一件もありますし、雪も降り出しましたから、部屋に籠って居るのかも知れませんね」

「ふむ・・・」

 昨日レンはベイの前で、ヨシタカの名を出している。

 愛し子が記した書物であれば、オークションに掛ければ、高値で競り落とされるだろう。まあ、出所を明かせない以上、持ち込むのは地下オークションになるだろうから、正規のオークションよりも値は落ちるが、それでも一財産だ。

 それをしなかったという事は、ベイは横領に加担していないと見ていいのだろうか。

 それを踏まえ、レンの推論を話すと、3人はすっかり考え込んでしまった。

「俺はレンの考えに沿って、今後の手配りをしようと思う」

「本当に宜しいのですか?今最も怪しいのは、リヒャルトさんですよ?」

「確かにそうだが、レンは状況証拠でしかないと言っていてな」

「状況証拠ですか?それはどういう事でしょうか」

 俺もレンに指摘されるまで、全く考えが及ばなかったのだから、3人が首を傾げるのも無理はない。

「今はっきり分かって居るのは。誰かが俺の公文書を偽造したという事実と。それをイワンへ提出したのが、リヒャルトだという事。そのリヒャルトは、ローガンには趣味の手慰みだと言い。イワンには承認状を渡して修繕費用を負担させたこと。あとは修繕した場所にあった筈のものが、別の安いものへ入れ替えられた事だな?」

 一度言葉を切り、見まわした3人は神妙に頷いている。

「レンが言うには、状況的にリヒャルトが一番怪しい、と言うだけで。偽造と物品の入れ替えを、リヒャルトがやった証拠にはならないそうだ」

「そうですね。リヒャルトさん達が、文書の偽造を出来るほど器用とも思えませんね」

 他にもレンが並べた疑問点を話して聞かせると、3人も確かに、と納得していた。

「しかし今の話しが、4人が無実である証明にはならん」

「そうですね。怪しい事には変わりないと思います」

 予備の眼鏡をかけたローガンは、眼鏡のつるをクイっと持ち上げた。

 ローガンは、レンに眼鏡の修理を頼まないのか?

 なにを遠慮しているのだか。

「そこで、俺はレンの提案、策に乗ろうと思う」

「それは、如何様な策なのでしょうか?」

「よく聞いてくれ」

 レンが ”こういう方法はどうでしょうか” と俺に授けてくれた策を3人に説明した。

 すると。

「さすがレン様。冴えて居られますね」

 とセルジュがキラキラの笑顔を見せれば、ローガンも。

「レン様の深い洞察を見習いたいです」

 と顎を摘まんで、うんうんと頷いている。

 唯一人イワンだけが「本当に宜しいのですか?」と及び腰だ。

「この手のレンの推理や勘は、多少の差異はあっても、これまで外れたことが無いからな。俺はレンを信じる」

「左様でございますか?」

 まあ。腰の治癒をしてもらったくらいでは、セルジュやローガン達の様に、レンに心酔する事は出来ないよな。

「では、手配に取り掛かるとしよう」

 俺達は其々、打ち合わせ通りの行動に移った。

 セルジュは使用人達の聞き取り。
 (一番警戒されにくい)

 ローガンは、眼鏡を新調する事を名目に街へ。(治安部隊への協力を仰ぎに)

 そして俺とイワンは、先ずは爺様達を呼びつけ、喧嘩に対する注意と制裁与え、その後は、領内の管理状況の確認へ乗り出す事にする。

「たかが侍従と殴り合っただけで、大袈裟だ」

「たかが侍従ではない。ローガンとセルジュは愛し子の専属侍従だ」

「だから何だよ。小生意気な小僧を躾けただけだ」

 自分は悪くない、生意気なあの二人が悪い。と頑として自分達の非を認めない爺様達に、俺は頭が痛くなって来た。

「お前達、田舎暮らしで本当にボケたのか?」

「そんな訳あるか!」

「俺達に向かって、そんなふざけた態度を取っていいのか?」

 口角泡を飛ばし、がなり立てる爺様達へ俺は威嚇を放ち、抑え込むように黙らせた。

「良いに決まっているだろう。ここは俺の領地で俺の屋敷だ。何より俺は皇兄で有り大公だ。そしてレンは国の至宝の愛し子で有り、公爵に叙されてはいるが、立場は皇帝のさらに上の至高の存在なのだ。そして、その傍に侍る事が許されて居るのは、ほんの一握りの選ばれた人間だけ、セルジュとローガンは、選ばれた側の人間だが、お前達は違う。立場を弁えろ」

「それが恩人に向かっていう事か?!」

「たしかにお前達は、前皇帝と大公の命の恩人ではある。だが、愛し子には何の関わりも無い事だ。お前達は何の関わりも無い、他の侯爵や伯爵に向かって、自分達は大公の恩人だからと、相手を傷つけたり、無礼な態度を取れるのか?」

「それ、それとこれとは」

「違わない。お前達の身分は唯の騎士爵それも引退した騎士の資格を、ウィリアムの恩情で授けられたにすぎず、平民と何ら変わらない」

「なっなんだと?!」

「不敬だぞ!!」

 立ち上がったリヒャルトに、威嚇を更に強めれば、爺さん達は徐々に青褪めて行った。

「一昔前だろうと、騎士であったお前達が、敬意を払うべき相手も分からんのであれば、ボケたと考えるしかあるまい。俺は12年前、其々に生活が立ちいくように手配してやろうと言ったな?それを断り、ここに住まわせてくれと頼んだのは誰だ?」

「そ・・・れは、俺達が・・」

「ウィリアムからの叙爵の申し出を断り、代わりに一生遊んで暮らせるだけの報奨金と、更に本来資格のない騎士の年金を受け取れるようにしてもらって居るのだ、ここに住まう必要など無かっただろう。それでも俺はお前達を、名目上の警備として雇い、給金も支払っている」

「殿下の為に、俺達は体の一部を失った。そのくらいは当然だ!」

 俺の威嚇を受けながら、傲然と胸を反らすアドルフは、ある意味、天晴と言っても良いかも知れない。

「当然?帝国の騎士達は、今も魔物と戦い続け。体が不具になれば引退し、お前達のような好待遇を受ける事も無く、自分の力で生きている。お前達の様に、身の程を知らぬ者など居らん。本来ただ飯を喰らうだけのお前達を、ここに住まわせる理由など無いのだ。だが受けた恩に対し、お前達を客人扱いとし、給金を与えた。その事に対しては、当然の配慮と受け取っても構わない。だが身の程も弁えず、不敬な態度を取り続けるのであれば、話は別だ」

「俺達を追い出すって言うのか」

「追い出されても当然な事を、お前達はしたのだと、何故分からん。お前達は俺の客だが、客は客でしかなく、屋敷の主ではない。更に給金を与えている以上、お前達は俺の使用人だと言うことを忘れるな」

 俺を睨み付けるもの、項垂れてわなわなと肩を震わせる者。反応は様々だが、俺の言う事に納得できていない事は確かだ。

 何が爺様達をこうも頑なに、傲慢にさせて居るのだろうか。

 皇帝と大公の恩人であることが、彼等の矜持であるとしても、流石に行き過ぎなのではないか?


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