獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

全て許す!

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 side・アレク


 結局セルジュとローガンは、喧嘩の原因をレンにも話さなかった。

 爺さん達との諍いで、あの2人が手を出すほど激昂するなら、レンについて何か言われたからに違いないが、頑なに口を開かない所を見ると、レンの耳に入れたくない程の事を言われたのだろう。

 ウィリアムは十分すぎる程の報奨金を4人に与え、帝国騎士団の一員として迎え入れ、日々の暮らしに困らない金も与えている。

 体の自由が利かなかった彼等を、この屋敷で回復するまで面倒見たのは俺だ。

 結局元通りとは行かなかったが、回復後、ここで暮らしたいという4人の頼みも聞いてやった。

 俺は何を間違えた。

 傭兵に身を窶していたとは言え、騎士だった彼等が、悪事に手を染めるほどの事を、俺はしたのだろうか?

 いや逆か。
 俺は彼等をここに連れて来てから、彼等に構ったことは無い。
 
 彼等の事を面倒に思った事など一度もないが、彼等が何を望んでいるのかを聞いたことは無い。

 自領であるにも拘らず、俺はここに数えるほどしか来たことが無く。4人と顔を合わせても、彼等の軽口を聞き流すだけで、腰を据えて話したことが無いのだ。

 彼等が最初から俺に対して悪意を持っていたとは思いたくはないが、主不在の屋敷で、客人として扱わせたことが、彼等を増長させたことは確かだろう。

 殺伐とした暮らしの中、レンという番を得てからは、ここでのんびり暮らす事を目標にしていたのだが・・・・。

 今更の繰り言だ。

 現状分かって居るだけの、4人の犯した罪をレンにも話して聞かせると、俺の優しい番は、悲しそうな顔をしていた。

 そして、俺とウィリアムの彼等への厚意は真っ当な物で、俺たち2人は何も間違っていないと言ってくれた。

 悪意と誘惑の種は、何処にでも転がっていて、それを芽吹かせるかどうかは、本人次第なのだと、俺が何をして、何をしなかったのかは関係なく、全ては本人の責任だと言ってくれた。

 彼等にとっては足りなかったとしても、受けた恩は充分に返したはずだ、とも。


 俺を励まそうとしてくれる優しい番に、悲しい思いをさせた4人には、相応の報いが必要だと思う。

「でもね。全員が加担していたかは、疑問だと思う」

「何故だ?」

「修繕した所を全部見た訳じゃないから、断言はできないのだけれど、ベイさんが担当していた図書館には、初版本や古代語で書かれた貴重な本が沢山あったでしょ?ベイさんも横領に加担しているのなら、内緒で売ってしまっても、アレクは気が付かないと思うのよ?」

「そうだな。図書館の存在すら知らなかった訳だしな」

「もし、貴重な本が沢山あるってリヒャルトさんが知ってたら、絶対売り払って居そうじゃない?」

「だがリヒャルトは知らなかった?」

「興味が無かっただけかもしれないけれど、少なくともベイさんは、その事をリヒャルトさんに教えなかった。それには意味があると思うの」

「ふむ・・・」

「ヤノスさんとアドルフさんが修繕していた所だけじゃなくて、目録と照らし合わせて、お城全体を確認した方が良くはない?」

「そうだな」

「それに今までいくら横領して来たのか。お金を何処にやったのかの確認も必要でしょ?それには本当に四人全員が加担していたのかを、確かめた方が良いのじゃないかしら?」

「レンの言う通りだが、この屋敷は柘榴宮と広さは変わらない。加えてリヒャルトの言いなりになって居る使用人が、何人いるかも分からない状態で、俺が金のチェックを始めたら、あいつ等は逃げてしまうのではないか?」

「逃げたら逃げたで、良いと思いますよ?」

「何故だ?」

「疚しい事が有るから逃げるのでしょ?僕悪い事しちゃった!って自白と一緒ですよね?こっそり見張っていて、逃げようとした人は捕まえてしまえばいいんです」

「それもそうか」

「アレクさん。考えてみてください。領主が久しぶりに領地を訪れたら、領地の管理状況、運営状況や帳簿を確認するのは当たり前ですよね?」

「まあ、そうだな」

「でも、今一番怪しい存在のリヒャルトさんは、逃げる素振りすら見せていません。何故だと思いますか?」

「バレない自信があるからじゃないのか?」

「本当にそう思います?」

 レンは、この状況を楽しんでいるのか?
 生き生きして見えるし、瞳がキラキラ輝いて綺麗だ。

「承認状や要請状を偽造して、イワンさんを騙せたって。アレクさん本人が帳簿を見て、覚えのない請求や支払いが有れば、一発で分かっちゃうんですよ?リヒャルトさん達が騎士上がりだからって、そこまでおバカさんだと思います?」

「んん?」

「だからね・・・・・」

 2人きりの部屋で遮音魔法まで掛けてあるのに、レンは声を潜め、俺の耳元でコショコショと話しを続けた。

 耳に掛かる甘い吐息と、細腰に巻いた腕から伝わる温もりに、俺のおれが反応してしまいそうだ。 だがここで、理性を失えばレンに怒られてしまう。
  
 それに俺は、しっかりと責任を果たす格好いい領主だと、レンに思われたい。

 レンの前では、大人の余裕溢れる雄として、格好付けたいのだ。

 いつでもどんな時でも、番から頼られる存在でありたいと思って何が悪い。

 見栄でもなんでも、実績がついてくれば、それは実力と同じだ。

 しかし・・・。
 レンの推論が当たっていたとしたら。
 この人の頭の中は、どうなって居るのだろう。俺の番は、俺達とは全く違うものが見えて居るのかも知れない。

「・・・・・そういう事なので、私はアレクの伴侶として、このお屋敷の切り盛りもするべきよね?そのために最初にする事は、お屋敷に居る人達の事を、覚える事だと思うの」

「う・・・うむ?」

「この後、イワンさん、ローガンさんと今後の相談をするのでしょう?でも私はアレクのマーキングで参加は出来なくて、暇になっちゃうから、セルジュに使用人名簿を持って来てもらいたいの」

「分かった」

 名簿だけで、使用人の事がわかるのか?

「それとね・・・」

 なんだろうもじもじして。
 おねだりか?

 レンのおねだりなら、なんでも聞いてあげるぞ?

「あの、アレクは嫌かも知れないけど。この件が片付くまで・・その・・しても良いけど、マーキングを無しに出来ない?」

「あ"?」

前言撤回。
なんでもは、聞けないな。

「おっ怒らないでね!私もアレクのマーキングが嫌なわけじゃないのよ?でも、ほら。マーキングしてると、イワンさんやローガンさんと話せないじゃない?」

「別に話す必要はないだろ」

 しまった。
 思わず不機嫌な声が出てしまった!
 大人の余裕はどこへ行った?!

「そっそうね。アレクとセルジュから聞いても同じよね。うん、マーキングは省かないで、全開の方向で行きましょう」

 ・・・・いかん。
 番が手を振り回してワタワタしている。
 俺としたことが、番に気を使わせてしまった。

 反省せねば。

 しかし・・・・。
 マーキング、全開で良いのか。
 君が言い出したんだ。
 あとで後悔するなよ?

「あーーゴホンッ。イワン達とは、君の意見を軸に手配りをしようと思う。それと名簿は早急に持ってこさせるから、今日の所は部屋に居て貰えるだろうか」

「それは構いませんけど」

「それと、昨夜誰かが、ドアに張った俺の結界を壊そうとした」

「え~と。私が寝た後、ローガンさん達と話すのに結界を張って行ったって事?」

 何故不思議そうにするのだ?
 
「君の安全の為には当然だ」

 番の顔が引きつって居る様な。
 気のせいだな。

「あは・・ははは。そっか。ありがとう・・でもその人、勝手に私達の部屋に入ろうとしたって事よね?」

「そういうことだ。俺は何か君に用が出来た時は、セルジュをここに来させる。セルジュ以外の使用人は、絶対部屋に入れないでくれ」

「いちごが居るのに?」

 そんな、こてっと首を傾げても駄目だぞ。
 あざとくて可愛いけどな。

「いちごが居てもだ。窮屈かもしれんが、手配が終わるまでは、我慢して欲しい」

「ん~~~。分かった・・・あっ!じゃあ、暇つぶしに遊び道具を作りたいから、セルジュが名簿を持ってくるときに、穴の開いたお鍋とか、刃が欠けたナイフとか、とにかく何でもいいから、金物を持ってくるようにお願いしてくれる?」

「それは構わんが、何を作るつもりだ?」

「くふふ。それは秘密だ。楽しみにしていたまえ」

 なんだろな。
 ポーズまで決めて。
 よく分からんが、可愛いから許す。
 す・べ・て・許す!
 許すしかないだろう?

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