獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

見てのお楽しみ

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 体を温めて風呂から出ると、暖炉の前でレンが使っていたクッションの上で、いちごがぺったりと寝そべり、プー、ピー、と鳴き声を漏らしている。

「ん~~~? これは体を乾かしてるの?のぼせちゃった?」

「湯冷めしないように、温まってるのじゃないか?」

「いちごって、火を怖がらないのね。燃えちゃいそうで怖くないのかしら?」

「見た目は植物だが、こいつを植物と呼んでいいのか、俺にはよく分からん。植物っぽい見た目のなら、火を怖がらない事も有るかも知れんぞ?」

「植物っぽい何か・・・。植物でも動物でも、いちごは可愛いから、どっちでもいいもんねぇ~」

 いちごの寝ているクッションの横に座り込んだレンが、指先でぷっくりと膨らんだ腹をコショコショと撫でると、いちごはプープー鳴きながら身を捩っている。

「くすぐったがる魔物は、初めて見たな」

「魔物じゃなくて、幻獣でしょ?」

「あぁ、そうか」

 いや。
 そうか、じゃないよな?
 幻獣だからって、くすぐったがるものか?
 まぁ、俺も幻獣の事などさっぱり分からんから、どうとも言えんのだが。

 どっちにしても、レンが喜んでいるならそれでいいのか?

「レン。風邪をひくといけない。髪を乾かしてしまおう」

「は~い!」

 俺としては物足りないが、時間をかけて髪を乾かしていては、この寒さでレンが風邪をひいてしまう。ここはレンの髪を触って居たい気持ちをグッと堪え、魔法で一気に乾かしてしまおう。

「おお。早い!」

 魔法で乾かしたつやつやの髪を梳きながら、髪形をどうするか聞いてみたのだが、寒いから下ろしたままでいい、と言われてしまった。

 なんとなく、面白くない気分だ。

 しかし自分も髪を伸ばしてみて分かったのだが、確かに寒い時に髪を下ろしていると、首元が暖かい気がする。

 ならば、とレンの髪を一房取り、房飾りのついたリボンを編み込んでみた。

 するとレンは、”海賊になった気分” と喜んでいるのだが、どう反応して良いのか、ちょっとよく分からないな。

 反応に困っていると、似たようなリボンがまだ残っている事に気付いたレンは、それを俺の髪に編み込んで、お揃いだと言ってニコニコしている。

 レンは似合うと言ってくれたが、鏡の中の自分を、痛々しく感じるのは気のせいだろうか?

 そんなこんなで、時刻は昼近くになってしまった。今日は朝から遊び過ぎて、朝飯がまだだった。

 昼食には少し早い時間だが、レンは ”ぶらんち” にしようと言っていた。これは朝と昼の食事を兼ねている造語なのだそうだ。

 レンは午後も天気が良い様なら、遊び場を作りたいと言って、食事も早めに済ませたい様子だ。

 今は柘榴宮の料理長と助手が屋敷に来ているから、多少時間がズレても直ぐに対応してくれるはずだ。

 それを思うと、以前から屋敷に居る料理人は、屋敷の主人に、自分の都合を押し付けようとしてきたし、食事の内容もあれこれと理由をつけ、こちらの要望を聞こうとしなかった。

 主不在、侍従頭不在の屋敷と言うものは、これ程教育が行き届かなくなるものなのかと、呆れてしまう。

 それを考えると、使用人の入れ替えも考え物だ。

 どの道俺もレンも、アーノルド達の決定を断る事など出来ない。

 いや。断ることは出来るが、心情として断れない。

 そうなれば、俺達は一国を治める事になる訳で、領地替えなどと言う生易しい話しではない。

 となれば、この領は国へ変換する事になる。

 ならば、柘榴宮の者達を連れてきた方が早い。

 主に対し、忠誠を尽くせとまでは言わないが、敬意を払えない者達を傍に置いて置く事など出来ないし。永く雇う訳でもないのに、一から教育をやり直すというのも面倒だ。

 イワンとは使用人を入れ替える方向で話しをして来たが、宮の者達を派遣させることに変更することにしよう。その方がレンも気兼ねなく過ごせるはずだしな。

 それが良い。と一人頷いていると、レンに不思議そうな顔をされてしまった。

 別に隠す事では無いが、なんとなく気恥ずかしい気がして、曖昧な笑いを浮かべて誤魔化した。

 そして遊び場を作るのだと、ウキウキと外に出て行くレンを、獣人でもない使用人達が、遠巻きに見て居る事に腹が立つ。

 ヒラリー達が捕縛されても尚、真実を受け入れられず、欺瞞に満ちた言葉を信じたいのだろうか。それとも信じさせられていたものが、全て嘘で塗り固めたものだったと知らされ、戸惑っているだけなのだろうか。

 何方にしても、俺の番に無礼な態度を取り続ける様な連中は、この屋敷に必要ない事だけは確かだ。

 庭に出たレンは、雪が降る前は芝生を敷いただけだった場所に移動して行った。

 積もった雪をポスポスと踏んで行く姿は、歩きにくそうで抱き上げようとすると「これはこれで楽しいので、抱っこは無しでお願いします」と断られてしまった。

 行き場を失った手を持て余していると、後ろから、生温い視線を感じ振り向くと、箱を抱えたセルジュが苦笑を浮かべていた。

「何を持って来たんだ?」

 不機嫌な声が出てしまったのは、ばつの悪い所を見られた照れ隠しだ。

「これは、最近レン様が作って居られたものです。やっと閣下にお披露目が出来る、と喜んでいらっしゃいました」

「それは楽しみだ」

 うちの天使二号に微笑まれては、何時までも不機嫌を装う事も出来ない。

 セルジュは、マークと同様、俺が嫉妬を感じない稀有な存在だし、何よりレンが可愛がっている相手だ、年甲斐もなく意地を張るのは良くないよな?

「アレクー! そこでちょっと待てってー!」

「あぁ、分かった」

「レン様は、何をするお積りなのでしょうか?」

「さあな。レンは見てのお楽しみとしか言わないからな」

「閣下もご存じないのですか?」

「うむ。俺の番が、今度は何をするつもりなのか。ワクワクするな」

「そうですね。夏には水遊びをする池を造って居られましたし。今度もきっと面白い物だと思います」

「あの池をお前も使っていたのか?」

「はい。池の掃除をする事を条件に、私達も使って良いと仰られたのです。みんな足を浸すくらいでしたが、熱さが和らぐと、喜んでいましたよ?」

「そうか」

 二人だけの場所ではなかった事は、少しショックだが、レンがあのようなものを作って独り占めするわけがなかったな。

「じゃあ、いっきまーーす!!」

 掛け声と同時に、レンは芝生いっぱいに土魔法を展開した。

 レンの胸の高さくらいまでの柵を作り出し、次に中に閉じ込めた雪を、炎で融かし、出来た水を氷魔法で凍らせた。

 何ができるのかと見守っていると、一度柵の中に入ったレンは「もうちょとかな?」と言いながら、屋根に積もった雪を風魔法で柵の中に移動して、先程と同じ手順を繰り返した。

 そしてもう一度中に入り「こんなもんかな?」と言いながら風を操り、氷の表面を滑らかに削って行った。

 そして周囲を見渡すと「やっぱり手摺は必要かも」と言い、土魔法で手すりを作り上げた。

「アレクーー!もういいですよー!こっちに来てー!」

 と楽しそうに腕をブンブン振り回している。

「何と言うか・・・・」

「流石と言うか・・・」

 あっという間に、レンが作り上げたものに、俺とセルジュは呆気に取られてしまった。

 俺達が近付いて行く間にも、レンは石のベンチと、ファイアーピッドを作り上げていた。

「アレクはこっちに座って。セルジュ箱はここに置いてね。それと申し訳ないのだけど、クッションをいくつかと、薪とお茶とジュースを持って来てくれる?」

「畏まりました」

「なにを始めるんだ?」

「冬の遊びの定番です。魔獣にもぐもぐされたくないので、スキーとスノボは諦めて、残るはスケートです」

「すけーと? 前に話してたやつか?」

「そうそう!慣れるまではちょっと大変だけど、滑れるようになったら楽しいよ」

 確か氷の上を滑るのだったか?
 
 そんな事をして本当に大丈夫なのか?
 
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