獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

レンの計画と閣下の本気

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 吹雪が止んでから暫くは晴天の日が続き、俺達は毎日スケートの練習に精を出していた。

 その合間に柘榴宮から使用人を派遣するよう手配を済ませ、アーノルドとグリーンヒルとも城の管理をどうするべきかの、手紙のやり取りも進めている。

 レンはクオンとノワールを呼びたがったが、チビ助達はアーロンとカルの元で、ドラゴンとして、必要なあれこれを習って入る最中なのだそうだ。

 ドラゴンと言うものは、親の愛が無ければ成長することが出来ない生き物だが、レンは愛情は与えてやれるが、ドラゴンに必要な知識を教えてやることは出来ないのだ。

 その為、クレイオスからカル達が教師役を任される事になったのだそうだ。

 まあ、ドラゴンと龍では若干の違いが有る様だが、そこの修正はクレイオスが行うらしい。

 アーロンは全回復には至っていないそうだが、口の達者な捻くれ者のアーロンなら、多少元気が無いくらいが、チビ助達には丁度良いのだろう。

 レンは残念がっていたが、”王に封ずる” 等と一方的に布告したことで、レンに怒られたくないクレイオスが、俺達の蜜月の邪魔にならないよう、気を廻したのだと思う。

 折角の気遣いだ、有り難く受け取ろうと思う。

 それはアーノルドも同じらしい。

 城の管理について、レンからの提案を無条件で飲んだ事がその証だろう。

 城に関するレンの提案は、城を一般に開放する事だった。

 勿論、全てを出入り自由にする、という意味ではない。

 しかし城の修繕には金がかかる。

 当面の修繕費用は、俺とレン、アーノルドの個人資産から捻出する。

 修繕費用の負担割合は、アーノルドが5。俺が3。レンが2割だ。

 この割合は、今後この領はアーノルドの息子が拝領する事になる可能性が高いのだから、アーノルドが全額持ってもいいくらいなのだ。

 俺とレンが出資する理由は、俺の監督が行き届かなかったために、流出してしまった調度品がある為と、レンが図書館の本を全て譲り受けたいと希望したからだ。

 そして、ある程度の修繕が済んだところで、貴族達の避暑地、ホテルとして稼働させるというのが、レンの提案だ。

 不思議なもので、人が住まわなければ建物の傷みは早くなる。折角修繕しても、誰も住まわなければ、またすぐに城は痛んでしまうだろう。

 しかしアーノルドの息子が、この領を拝領するまでには、20年前後は掛かると予想される。

 ならばその間、貴族達に利用させれば、痛みの進行も抑えられ、その収益から、修繕費用を回収する事も出来るし、新たな修繕費用もそこからまかなえる、と言う訳だ。

 皮算用と思うかも知れないが、貴族と言うものは、歴史や権威と言ったものに弱い、と言うか大好物だ。

 そこで王や歴代の大公達が住まって来た城に宿泊できるという事は、貴族達にとってのステータスとなり、貴族達は挙って利用したがるだろう。

 また城を利用する際に、保証金として相当額を取れば、調度品の盗難の心配もなく、破損にも対応が出来る。

 更に、入場料を取って、城の庭園と温室を一般に公開し、加えてレストランを併設すれば、貴族との縁を求める、裕福な商家の者の利用も期待できる。

 ヤノスが手掛けた庭園と温室は、素人の俺の眼から見ても、素晴らしい出来だと思う。

 アドルフに薬漬けにされなければ、ヤノスは著名な庭園技師となって居たのではないだろうか。

 ヤノスの生涯最高傑作となる温室を、ただ眠られせておくには惜しい。

 多くの人に、その存在を知ってもらいたい。

 と言うのがレンの希望でもあるのだ。

 全てが計画通りとは行かないだろうが、俺達にとって、甥にあたる人物の為の投資だと思えば、赤字も已む無しと言った処だな。

 そんな城の管理についての計画が動き出す中、俺達は今日もスケートの練習に勤しんでいた。

 そこへ、ウォーカーとオーズが屋敷を訪ねて来たのだが。

 俺達が氷の上を滑っている様子に、驚いた表情を見せたウォーカー達は、次いで俺のマーキングに気付き、その場に蹲ってしまった。

「あ・・・・今日は早めに切り上げましょうか?」

「そうだな、天気も怪しくなって来た。頃合いだろう」

「私、先にお部屋に戻っていますね」

「すまんな。セルジュ、レンを頼む」

 俺達3人は氷の上からベンチに戻り、レンとセルジュは手早く靴を履き替え、屋敷に戻って行った。

 ファイアーピッドの縁にポットが置いてあり、ウォーカー達に飲ませる分には充分な量が残っている。

 レンが小走りに屋敷に入ると、漸くウォーカーとオーズは立ち上がり、青い顔をして俺の元までやって来た。

「閣下。お楽しみの処、申し訳ございません」

「構わん。ポットに茶が入っている、好きに飲め」

「ありがとうございます」

 ポットから移した茶をうまそうに飲んでいる様子を見るに、街からオロバスに乗ってやって来た2人は、体が冷えていたのかも知れない。

「何か進展があったのか?」

「はい。城から持ち出された物の内、21点押収することが出来ました」

「そうか。3人の様子は?」

「アドルフとヒラリーは黙秘を続けております。しかしユーヴェルはこっちが聞いていない事まで、ペラペラと歌ってくれていますので、今の所問題なく」

「金の回収は?」

「そちらも滞りなく。と言いたい処なのですが、アドルフはほとんどを博打につぎ込んでしまったようです」

「そこは合法か?」

「いえ。闇賭博の様です」

 帝国で合法とされて居る賭博は、社交の場としての役割もあり、掛け金の上限が設定された場の事で、遊び方もルーレットやダイスなどの大人しいものだ。

 そして街のバルなどでは、平民たちが賭けを行ってはいるが、日頃の憂さ晴らしと軽い娯楽程度で、目くじらを立てるほどの事も無い。

 だが闇賭博の場合、闘犬がメインなのだが、悪質な場合は、人間同士を戦わせる事も有る。

「俺の領地で闇賭博か・・・。領主が不在だと舐められるもんだな」

「監視の目が行き届かず、申し訳ございません」

「どこにでも裏家業と言うものはある。その全てを把握し潰すのは難しいだろう。しかし今回は違う。その闇賭博の胴元が、城の物を売り捌いた、オークションの主催者だな?」

「さすが閣下、全てお見通しですね」

「まあな」

 その可能性を最初に示唆したのは、レンなのだがな。
 
 本人は唯の思い付きだと言っていたが。
 あの、洞察力には舌を巻くしかない。

「いずれにしても、皇家の財産に手を出したのだ、徹底的に叩き潰して置かねばならんな」

「はい」

「内定は済んでいるのか?」

「裏の奴らですので、開催場所は毎回変えているようです。ですが怪しい所を数か所掴んでおります」

「ふむ・・・・確証を得たら、連絡してくれ」

 するとオーズが怪訝な顔付になった。

「閣下ご自身がお出ましになるのですか?」

「皇家に関わる事で、領主の俺が知らん顔も出来まい。それに」

「それに?」

「お前達知って居るか?俺は新婚なんだよ」

「え? それは存じ上げていますが?」

「こうも小煩い事が続くと、蜜月を心置きなく楽しむ事も出来ん。俺はこれ以上、蜜月の邪魔をされるのは我慢ならんのだ」

「はぁ?」

「おい。オーズやめろ」

「いやだって。あのマーキングで蜜月の邪魔って」

「文句があるのか?あの程度のマーキングなど、唯の愛情表現だろ?」

「ただの愛情表現・・・でも前は・・」

「あの時は、お前達と話せなくなると困る、とレンに、マーキングしないように頼まれたのだ」

「それはまた」

「現に今も俺は番との楽しい時間を、お前達に邪魔されている訳だ。ならば諸悪の根源は、この俺が本気を出して、徹底的に叩き潰す必要があると思わないか?」

「あはは・・・そうですか・・・そう言う事なら・・・」

 なんだよその呆れた顔は。
 お前達だって番を見つけたら、こうなるんだぞ?
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