獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

急襲

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「先輩。あのお方が帝国第二騎士団の団長で、ここの領主のクロムウェル大公閣下なんですよね?」

「そうだが。それがどうした」

「メチャクチャ怖くないっすか?」

「・・・・たしかに。先日、城の視察に同行させて頂いた時は、職務に対しては冷徹ではあられたが、番の愛し子様とも睦まじい御様子でな。見た目に反して穏やかな方の様に見受けられたが・・・・今日は全く違うな」

「なんか、魔力駄々洩れだし。下手に声かけたら、首を捥がれちゃいそうで」

「そんなに怯える必要は、ないと思うがなぁ」

「そうですかぁ?」

「お前なぁ、よく考えてみろよ?あの方は皇帝陛下の兄上で、帝国第二騎士団の団長だ。帝国内の騎士の頂点に立つ、雲の上のお方だ。 俺達は騎士爵しか持っていないし、治安部隊なんて、街の自警団に毛が生えたようなもんだ。俺達と行動を共にされるなんて、異例中の異例なんだぞ?」

「まあ、そうっすよね」

「うちの隊長たちが、元は中央の騎士団に所属していたことは知ってるか?」

「いえ、初耳っす」

「そうだろうなぁ。隊長、副隊長。あと支部長なんかは、みんなそうだ。20年数年前に魔物が出現する様になって、先の皇帝ウィリアム陛下と閣下は、皇子時代に隊長たちと一緒に、辺境で魔物の討伐に当たって居られてな。その時の負傷が元で、中央の騎士の激務に耐えられなくなった隊長達を、閣下が拾って下さったんだ」

「そんな事があったんすね? でも、そうしたら閣下は、いくつの時から討伐に出てたんっすか?」

「お前より、3つは年下の頃からじゃないか?」

「すげ~!」

「だろ? その時から現在に至るまで、閣下は最前線に立ち続けて居られるのだ。それも俺達よりも、はるかに優秀な騎士達を従えてな。皇家の所有物に手を出した連中の捕縛現場に立たれて、厳しい表情をなさるのは当然だと俺は思うが?」

「そうっすね」

「閣下がお強い事は、最早伝説級だ。その強さを直に見られるかも知れないんだ、光栄に思え」

 とまあ騎士の1人が、どう見ても入隊したてのひよっこ相手に、俺の事を持ち上げてくれて居るのだが。

 すまんな。

 俺はただ単に、番との時間を邪魔されて、苛ついてるだけなのだ。

「閣下」

「オーズ、まだか?」

「こちらに向かっている者は居りませんので、客はすべてそろったかと」

「ウォーカー。胴元は来ているのか?」

「恐らくは。主催者側に一台だけ妙に豪華ででかい馬車で乗り付けた者がおります。その馬車の持ち主が、胴元ではないかと」

「顔は確認できているのか?」

「見張りからの報告だと、ローブで顔は見えなかったそうですが、体格は覚えているので判別は出来ると言っております」

「了解した。では行くぞ」

「はい?」

「閣下お待ちください。まだ隊員の配備が完了して居りません」

 森の中から農場に向け歩き出した俺に、ウォーカーとオーズが、ワタワタと追い縋って来る。

「完了して居ないからなんだ? 俺にそんなものは必要ない」

「しかし!」

「閣下! 危険です!・・・おい!隊員を集めろ!」

 狼狽える様子から、ウォーカーとオーズにとっても俺はまだ、辺境で魔物相手に右往左往していたガキの頃ままなのだと、感じ取ることが出来た。

 あれから何年経っていると思って居るのだ? 17.8のガキのままで、騎士団を率いれるとでも?

 森を出て農場を囲む柵の前に立った俺は、ぐるりと辺りを見回し。農場のおおよその広さを確認してから、柵に添って氷魔法を展開し、農場の周囲に分厚い壁を作り出した。

「マジかっ!」

「スゲーな。おい」

 二人は驚きつつも、二の句が継げない様子だ。

「出口はここだけだ、逃げようとする奴らはここで捕縛しろ」

 後ろについて来た騎士達に命じ、農場の中に踏み込んだ。

「閣下。お待ちください」

「うるさい。黙って見てろ」

 この時、俺のイライラは、ピークに達していた。

 厩舎の中から聞こえて来る、激しく吠える犬の声。下卑た笑い声と、犬をけし掛けるヤジ。

 その全てに、俺はうんざりしていた。

 こんな奴らの為に、番との大事な時間を邪魔されたのかと思うと、腹が立って仕方がない。そして、こんな連中を自領の中で野放しにして来た自分自身に、何より一番腹が立つ。

 母上の事を無責任だと言った俺だが、やって居る事は母上と変わらない。

 親父殿と遊び惚けている、母上とは違うのだと、自分は忙しく働いているから、家令に任せておけば問題ないのだと、言い訳をしていただけだ。

 ならば俺の手で、諸悪の根源を絶やさねばならん。

 そして、一刻も早く番の元に帰り、逢瀬の続きを・・・・。

 暗闇に浮かび上がる厩舎の数は6棟。

 一番手前の厩舎の前で、見張りをしていた者が俺に気付いたが、誰何の声を発する前に、口から下をガチガチに凍らせてやった。

 鼻呼吸が出来れば死ぬ事はない。
 声を出す事も出来ず、この寒空に氷漬け。
 凍傷は免れない。
 いい気味だ。

 他の厩舎の前に立っていた見張り達も、同じように氷漬けにしてやった。

「・・・えげつない事をなさるな」

 犯罪者相手に、何を温い事を。

 厩舎の扉を押し開くと、扉の前に立っていた見張りが振り向き、驚愕に目を見開いた。

 ポカンと開いた口から、酒の臭いの雑じったすえた臭が漂って来る。

 こいつ等さえ居なければ、今頃俺は、番の芳しい香りを堪能できていたのに。

 そう思うと、更に怒りが湧いて来る。

 見張り以外の連中は、闘犬に夢中でこちらを見ようともしていない。

「おまっ!!」

 見張りが何かを叫ぼうとしていたが、俺は構わず見張りの頭を鷲掴みにし、外へ放り出した。

 後ろで誰かが、その見張りを拘束しようとしている気配があったが、それに構う事なく、厩舎の中全てに、雷撃の雨を降らせた。

 中に居た客も、主催者側の人間も、余すことなく雷撃の雨に打たれ、その場でバタバタと昏倒して行く。

「次だ」

 やり過ぎではないか、と言うオーズに「死なない程度に加減はしてある」と言い捨て、次の厩舎へと向かう。

 同じ事を4棟目まで繰り返し、5棟目の前に立った時、中の様子がこれまでと違う事に気が付いた。

 5棟目、6棟目の中からは賭けに興ずる、下卑た声が一切聞こえない。

 その代わりに聞こえてくるのは・・・。

「子供?」

 すすり泣く子供の声だ。

 ウォーカーとオーズに、6番目の厩舎に行けと合図を送り、引き千切る様に扉を開いた。

 そして、目に飛び込んで来たのは、檻に入れられた子供達と、品定めをするように周りを囲んだ雄達。

 そして泣いて嫌がる子供の手を、無理やり引きづる、見覚えのある老いた貴族の顔。

 大会議の時、レンを小馬鹿にして来た内の一人だ。

 それを認識した瞬間、俺の視界がカッと赤く染まった。

 怒りに燃えた俺は地面を蹴り、老貴族を子供から引き剥がし、厩舎の壁に叩きつけた。

 そしてその場にいる全員を叩き伏せ、最後に銭箱を抱え、腰を抜かした雄の喉元に剣を突き付けた。

「お前も、見た顔だな」

「ヒィッ!!」

「どこで見たのだったか・・・・・」

 突き付けた切先を軽く押すと、雄の首から一筋の血が流れ出した。

「ど・・・どうか! いのっ命ばかりは!!」

 見覚えのある雄が、両手を上げ降参の姿勢を取ると、抱えていた銭箱が床に転がり、中から金貨がザラリと、零れだした。

「・・・あぁ!思い出した!」

 こいつは、ゼノンと一緒にレンに謁見を求めた司祭の1人だ!

 大神殿の崩落で、司祭達は全員犠牲になったと思っていたが、生き残りが居たとは。

 小刻みに震える元司教を見下ろした俺は、自分の不手際に歯噛みする思いを抱いたのだ。
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