獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

困惑するのも無理はない

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 side・レン


 アレク達がラッセルさんを連れて? 
 運んで行った後(あんな大柄な人を軽々肩に担げるなんて、私の旦那様は、力持ちでほんと、カッコイイと思わない?)アメリア一家は大混乱だったのよね。

「ディータ!! お前と言う奴は! 親の目を盗んであんな雄と! 何時からそんな関係に?!」

「誤解です!! ラッセルさんとは、レン様達の婚姻式で、ご挨拶しただけです!」

 そうよね。

 マリカムとゼクトバは近いけど、ディータは基本、皇都で商会の仕事をしているし。今回だってたまたま夏季休暇で帰省していただけだもの、2人が逢瀬を重ねる暇なんて無かったと思うわ。

「じゃあ、なんでいきなり求婚なんて?!」

「ちょっと、あなた落ち着いて。あの方は獣人なのでしょ? そういう事も有るでしょう?」

「だとしても! 親への承諾も無くいきなり求婚だぞ?! 私の、私の可愛いディータを!」

「まあまあ、なんて情けない。王配教育の後。山ほど求婚状とお見合いの釣り書が届いているじゃない。ディータもどこかに縁付いても良い歳だって、あなたも分かって居るでしょうに」

「しかし!しかしだなあ」

 うはぁ。

 どこの馬の骨とも分からん奴に、うちの娘は渡さん!!

 って溺愛パパを生で見られるなんて、ちょっと得した気分。

 でもこのまま放置も出来ないわよね?

 ラッセルさんは良い人だし、パパさんには、ちょっと落ち着いて貰わないと。

「あのアメリア伯? ラッセルさんは第5騎士団の副団長さんで、誠実なとても良い方よ? 確かに今回は勇み足と言うか、非常識だったかもしれないけれど。あの人は獣人で、番に出会えた喜びを抑えきれなかったのじゃないかしら?」

「レン様?」

「ほらあなた。レン様もこうおっしゃってる事だし。落ち着いて今後の事も含めて、私と少し話しませんか?何より一番驚いているのはディータなのよ? あなたの思い込みで、責めたりしては駄目よ?」

「うう・・・おまえがそう言うなら」

 渋々って感じだけど、大人しく夫人と食堂を出ていく感じが、仲よさげで良き。

 う~ん。
 しかし素晴らしい。

 流石アメリア家を立て直し、商会を大きくしてきた立役者だけの事はある。

 これぞ伴侶の鏡って感じ。
 
 それに、おまえ・あなたって、the夫婦!

 永く連れ添ったからこその、信頼と空気感よね?

 私は、おまえって呼び方されるのには抵抗が有るけど、信頼で結ばれた落ち着いた夫婦? 夫夫感は結構好きかも。

「どう? 少しは落ち着いた?」


 ディータの自室には初めて通されたけど、彼らしい落ち着いた感じの、素敵なお部屋ね。

「まだドキドキしてます」

 当然よね。
 予備知識も何も無しに、いきなり求婚だもの。

 ビックリするわよね。

「ラッセルさんも、舞い上がり過ぎよ。交際の申し込みより前に求婚だなんて、いくら獣人でも、もうちょっと、どうにかならなかったのかしら?」

「・・・前回お目に掛かった時は、本当にご挨拶だけで、何も仰っていなかったし。そんな様子はなかったのに」

「ん~~。番だって分かっても、直ぐに行動できる人って少ないみたいよ? 特に相手が人族だと、グイグイ行って怖がらせて、嫌われたらって考えちゃうみたい」

「それで、これですか?」

「うふふ。どうしても逃がしたくなかったのねぇ。きっと何か月も悩んだ末、久しぶりにディータの顔を見て我慢できなくなっちゃったのよ」

「でも・・・」

「でも?」

 やだ、もう~。
 モジモジしちゃって、可愛いったら。
 お姉さんニヤケちゃう。

「でも。あんな素敵な方の番が僕なんて・・・。信じられません」

 そうねぇ。

 ラッセルさんは、騎士で船乗りだから。日焼けした精悍なお顔と、鍛えられた良い体してるものね。

 ぱっと見でモテる陽キャ、って感じよね。

 ディータは小柄な方だし、商売人だから陰キャなイメージはないけれど、その分理知的で大人しく見える。

 顔立ちも、柔らかく可愛らしいし。

 見た目だけなら、二人は正反対の部類に見えるわね。

 だけど二人が番なら、根幹は似ているのじゃないかしら?

「その気持ちはわかるわ。私だって、アレクみたいな素敵な人の番だなんて、私でいいのかな?って思っちゃうもの」

「はい? え? 逆ではなくて?」

「逆なんてある訳無いじゃない。たしかに今は、アウラ様とクレイオス様の加護で、愛し子なんて言われてるけど。元の私は平凡な人間よ? アレクみたいに見た目も中身も素敵な人なんて、そうはいないでしょ? だからアレクに相応しく在ろうと、今も必死なんだから」

「見た目も・・・ですか?」

「そうだけど。何か?」

「いえ・・・レン様はそういう方でしたね」

 そういうって、何かしら?
 何で苦笑いなの? 
 私はいたって普通だけど?

 でも、やっぱりこういう反応なのね。
 なんでアレクが醜男って言われるのか、理解できないし、モヤモヤするわ。

「とにかく。ラッセルさんは良い人だし。第5の副団長なのだから身元も確か。それに獣人なんだから、番の貴方には誠実だし、情熱的に愛してくれると思う」

「聞いた事は在りますけど、本当なのでしょうか?」

「本当よ?アレクを見て居て分からない? 確かにラッセルさんのやり方が拙かったから、直ぐに信じろって言うのは無理かもしれない。でもね、獣人の愛は人族の愛よりも、深くて真摯なの。だから彼の事は、前向きに考えてくれないかしら」  

「どうしてそこまで? ラッセルさんとの接点は、あまりお持ちでは無かった筈ですよね?」

「知り合い程度なのに、なんで信用して肩を持つのか、って事?」

「はい」

「そうねぇ。私はこっちに来てから、騎士さん達との接点が一番多くて、彼等がどんな人達なのか分かるようになったの。まあ、たま~に、変な人も居るけど、そんなのはごく稀で、ラッセルさんには当てはまらないと思うのよ? それにね、私も人族だから、ディータの感じる不安はよ~~く分かるけれど、同時に獣人の伴侶になって、彼等が胸の内に抱える純粋な情熱? みたいなものも理解出来るようになったからかな?」

「・・・そうなんだ」

 う~~ん。
 照れ隠しなのかしら。
 反応が今一な気がする。
 けど、これ以上私があれこれ言ってもねぇ。

 やっぱり、段階を踏むのは必要かも?

 先ずはお茶会?
 お見合い的な場は、用意すべきかもね?

「ディータもさっきの今で混乱していると思うし、今夜は一人で考えてみて? それと何度も言うけど、貴方が前向きに考えてくれると嬉しいわ」

「何故ですか?」

「貴方も知っているでしょう? 獣人は番に拒まれると、焦がれ死にしてしまうからよ。無理強いはしたくないけど、ディータが他に想いを寄せている人がいないのなら、 彼を受け入れて欲しいって言うのが、私の本心なの」

「焦がれ死に・・・それも聞いたことが有ります。 それって事実なのですか? 噂話とか都市伝説ではなく?」

 都市伝説?
 獣人を護る法律迄あるのに、疑っちゃうの?

「どうしてそう思うの?」

「だって、僕の周りでは焦がれ死にした獣人なんていないから」

「あぁ、そういう・・・それって、彼等の情熱的な求愛を、拒める人がいなかったからでは?」

「あ・・・なるほど」

「・・・ディータ。私はね、人族の番を他人に奪われて、壊れてしまった人を知っているの。だから分かる。彼等の番への想いは命に直結しているって」

 番持ちだったのに、他人に純潔を奪われ、壊れて儚くなってしまったオルフェウスさん。人族だったけどオルフェウスさんを奪われて、壊れてしまったウィリアムさん。それにマシュー様を奪われたリリーシュ様。

 彼等は輪廻の輪の中に戻り、新しい人生は、互いに寄り添って幸せになれるのかしら? 

 きっとそうだと思いたい。
 そうであって欲しい。
 そう願うのは、私の驕りなのでしょうか。

「だから、都市伝説なんて軽い考え方はしないでね」

 真剣な顔で頷いてくれたディータを残し部屋を出ると、心配顔のアメリア夫人?のイアンさんが立っていたのです。
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