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千年王国
兄弟仲と遠近感
しおりを挟む「フェーンはどこだ? この2.3日顔を見て居ないが」
「愚弟には銀食器を磨かせています」と押し上げた眼鏡がきらりと・・・。
この眼鏡・・。
動かすと光る魔法でも描けてあるのだろうか?
「あれは侍従や家令の仕事を、軽く見て居る節が御座います」
「ふむ?」
「決して見下したり、蔑んだりしている訳ではないのですが。侍従の仕事は誰にでも出来る、楽な仕事だと勘違いしているようなのです」
「前からなのか?」
「いえ。私も今回話してみて初めて知った次第で」
「ふむ・・・」
「だから食器磨き?」
「はい。銀食器は家門の威信を表すかほうとなります。ですが扱いが難しく、直ぐにくもってしまう物なのです。侍従たる者、スプーンの一本に至るまで、一片のくもり無く、磨き上げる技術が必要なのです」
「事務方の報告は、お前が来てから聞くつもりで後に回している。新米の家令としては、良くやっているようにも思うが、如何せん態度が軽い。お前から聞いていたフェーンは、もっと真面目な印象だったが、騎士の頃から俺の知るフェーンはお調子者だ」
「愚弟は・・あれは私の言いつけに逆らった事もなく、大人しく真面目な子供でした。お恥ずかしい話しですが、私も侍従見習いとなってからは、身を立てるのに必死で、騎士になってからの弟の事は、手紙で知らせてくること以外は、よく知らないのです。私が知らなかっただけで、あれが本来の弟の姿なのかもしれません」
「まあ、根は真面目なのだとは思うがな?」
「はい。あれは幼い頃よりなんでも卒無くこなす器用な子供でした。しかしその所為なのでしょうか、なんをやっても直ぐに飽きてしまい、一つの事に熱中する姿を見た事がありません。、 器用貧乏とでも言うのでしょうか。騎士として大成できず、引退する羽目になったのも、今の仕事を軽く考えているのも、その為かもしれません」
「本当に、何にも興味を持たなかったの?」
「ヘンドリックは本当に大人しい子供で、私が一緒に暮らしていた頃は、本を読んだり絵を描いたりして居る事が多かったように思います。剣を習うどころか子供が良くやる様に、木の枝を振り回し、騎士ごっこに興じる姿も見たことが無く。騎士になると言い出した時には、とても驚きました」
「ふ~ん・・・なるほど」
レンは何事かを考え込み。
弟の未来を案じているのか、ローガンの表情は悩ましげだった。
翌日、ローガン同席の上でフェーンから受けた報告の内容は、可もなく不可も無くだった。
チラチラとローガンを気にしている辺り、相当兄から絞られたようだ。
他家の領地と比べると、若干復興が遅れている気もするが、被害の大きさを考えれば、許容範囲内と言っても良い。
フェーンの初めての報告は、細かな点でローガンから指摘を受けてはいたが、まずまずの及第点と言った処だ。
それを受け、俺たちは本格的に視察に乗り出す事となった。
視察は耕作地を中心に今年の出来の他に、治水や街道等の整備の有無。
レンが楽しみにしているシーパス牧場も、視察計画に織り込み済みだ。
定期的に報告は届いていたが、実際に見てみなければ分からないことも多い。
通常の視察も、気楽なものではないのは確かだが。ヴァラクの手により被害を受けた水源の回復度合いの確認をし、必要ならば浄化を施すか、浄化を付与した魔晶石を水源に沈めて様子を見る事も必要だ。
水の穢れが物質的なものでない以上、心苦しいがレンの力に頼るほかないのだ。
ならば、ちょっとした楽しみの、一つ二つを混ぜてやっても罰は当たらんだろう?
ローガン監修の元、フェーンに作らせた視察計画の条件は、二日に一度休みを入れる事。その二日間、レンが楽しめそうな場所を最低一か所は入れる事。
そして水源の浄化を行った場合、レンの体力が戻るまで、視察は延期にする事。
以上の条件3つは譲れない。
これ にフェーンは何か言おうとしていたが、ローガンに睨まれるとオドオドと口をつぐんだ。
この兄弟の過去に何があったにしろ、弟が兄に頭が上がらないと言うのは、本当の事らしい。
視察を始めると、足りないものばかりが目を引いた。
今年は山おろしの被害が無く、作物の豊作は期待できそうだが、やはり侯爵領と比べると、どの作物も実付きが良くない。
街道は整備されていたが、一本脇に入れば整備が行き届いていない事が嫌でも分かる。
これまで洪水などの水害は起きていないが、農地と水場までに距離があり、作物への水やりは雨を頼るしかない村もあった。
領主であった母は不在続き。
経営を任されていた代官は、私腹を肥やす事にしか頭の回らない愚か者だった。
この領地が破綻する一歩手前で踏み止まっていたのは、領民たちの我慢強さと勤勉さによるものだろう。
「用水路、道、土壌の改良。やらねばならん事が山積みだ。さて、どこから手を付けたものか」
「そうねぇ。どれも雪が降るまでの短い期間しかないものね。道に関しては資材と人手を集めるのに時間がかかるから、来年の春からかしら」
「他は?」
「用水路は、直ぐに始めた方が良いかも。農地は秋の収穫後。雪が降る迄かな?」
「そんな簡単にはいかんと思うぞ?」
「土壌の改良については、ドレインツリーがうじゃうじゃ居る訳じゃないし、少しづつ、地道に進めて行かなくちゃいけないと思うのよ? でも用水路なら割と早く出来ると思う」
「用水路を掘るのも人手がいる。領民の数が減っているから、人を集めるのも一苦労だと思うが」
「ふふん。そこは私に秘密兵器が有るので」
「なにをする積りだ?」
「それはですね・・・」
やけに自信たっぷりに話してくれた番の計画に、俺はそんな事が出来るのか?と首を捻った。
「まあ、私も確信がある訳じゃないのだけど。結構いい線いってると思う。それにここで上手く行ったら、ゴト・・・エストやウジュカでも使えると思うのよね」
「うむ・・・まぁ、試してみて損はないか」
「でしょ?」
う~ん?
確信はないとか言いながら、失敗するとは思っていないみたいだ。
しかし現状を放置するのは悪手だろう。
やってみて損はない。
確かにレンの言う通りだ。
「どこから始めるか、フェーンに選定させよう」
と話がまとまった所で、レンが楽しみにして居たシーパスの牧場が見えて来た。
「もう直ぐ牧場だ」
「あの大きな木の向こう側?」
「そうだ。そろそろシーパスも見えて来るのではないか?」
「楽しみ~。どれどれ、何処にいるの・・・か・・・な?」
ブルーベルの上で身を乗り出すレンの腰に腕を廻して支えてやる。
「あれ? あれれ? 私、目がおかしいかも」
仕切りに目を擦り首を傾げる番が俺に振り向いた。
「ねぇアレク。なんか遠近感とスケール感がおかしくない?」
「ん? そうか? 普通だろ?」
「・・・やっぱりおかしいよ? だって・・・」
レンが指さした先に見えたのは、農家の半分ほどの大きさのシーパスだった。
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