宇宙のアスドレイシア

白黒yu-ki

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第1話 異星人との出会い

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俺は65キロ先にある街を目指して山の中を歩いていた。胸に埋め込まれた赤い石の科学を利用してすぐにでも街に移動しても良いのだが、やはり先立つ物は必要だ。山の中を散策しながら『鑑定科学』で使い道のありそうな野草を採取していく。最悪、これらを売れば最小限のお金にはなるだろう。現地のお金は必要だ。

散策の途中、湖を発見した。
初めて見る種の花が咲き乱れ、地球の蝶に似た小さな昆虫が辺りを飛んでいた。

とても映える景色だが、そんなものに気を奪われる俺ではない。金に換えられそうなものがないか周囲を見渡す。すると網膜内に前方10メートル先に『換金可能な物』が存在するとメッセージが流れた。俺はそこまで歩き、それを眺める。そこにあったのはアヤメに似た形状のピンクの花。これが換金可能な物なのだろうか。『鑑定科学』を実行すると網膜内にこの花のデータが表示された。

『植物番号152048。現在の星ではセイレーンの花と呼称される。150年周期で一度しか咲かず、とても珍しい花。周囲の魔素を取り込んで桃、青、赤、銀とその色を変えていく。銀色に成長したこの花を煎じた薬は現存する8割のウイルスや病に有効で、宇宙ネットでも出回らない高価な植物である』

『桃色段階でもこの植物自体が希少であり、この花一つで約300個の下級薬の製薬が可能である』

なかなか珍しいものを発見したようだ。魔素という単語はよく分からないが、それを取り込ませるともっと高価になるらしい。俺はニンマリと口角を上げ、胸の赤い石を撫でた。

「これを使えば何とか出来るんじゃないか?」

俺は腰を下ろしてセイレーンの花に手を添え、意識を集中させる。

『魔素倍増科学を実行します』

セイレーンの花が揺れ、変色を始める。青、赤、そして最高ランクの銀色へと変化した。俺はゆっくりとセイレーンの花を摘み、『空間収納科学』で亜空間にそれを収納した。

「ふふふ、これで大金持ち間違いないな!」

地球に帰るのが目的ではあるが、この星で暫く豪遊するのも悪くない。最高ランクとなったセイレーンの花が一体どれくらいの金額になるのか、今から楽しみで仕方ない。

俺は採取を続けながらスキップで街へ向かった。










いや、遠すぎるわ。
もう脚が棒ですよ。

既に日が沈み、辺りは真っ暗に染まってしまっている。野生の鳥や虫が鳴き、不気味な雰囲気を醸し出している。

「…まだ20キロも進んでないだろうな。今日はこの辺りで野宿か」

見知らぬ星の山中で野宿は恐ろしいが、俺には頼りになる御石様がございます。

『身体硬化の科学を実行します』

寝転んだ状態で体を硬質化させる。この状態なら野生の獣に襲われても危険はないだろう。

今日は色々とあった1日だったなぁ…。
肉体的にも精神的にも疲労は溜まっており、目を閉じるとすぐに夢の中に落ちていった。








心地よい夢の中に浸っていたが、何者かの奇声で目が覚めてしまった。

「…うるさいなぁ」

目蓋を開けると俺の目の前に5つの影が立っており、思わずビクッと体を震わせてしまった。

その手にはギラついた小さな剣を持っており、硬質化した俺の体を何度も斬りつけていた。しかし硬質化科学のお陰で痛みも傷もない。目覚めに突然の状況で混乱していたが、次第に冷静さを取り戻す。

『暗視科学を実行します』

暗闇で目の前の襲撃者の姿すら視認できなかったが、暗視科学のお陰でようやくその姿を拝む事ができた。

ヒト型だが自分の知っている人間ではない。猿のような哺乳類でもない。そこにいたのは緑色の肌におぞましい顔立ちの生物。その目には明らかな殺意が映し出されていた。

俺はこの世界で金目の物を入手すればそれで満足だった。誰かと関わるつもりもなかったが、誰かを傷付けるつもりもなかった。だが目の前の襲撃者は間違いなく俺を殺そうとしている。自分を殺そうとしている相手に慈悲を示すほど俺は人間ができていない。

『翻訳科学を実行します』

翻訳科学を実行した事で襲撃者達の言葉を理解できるようになった。

「なんだこの人間、全然刃物が通らねえ!」

「何やってんだ、オイラにやらせろよ」

「キキッ、こういう相手には首筋を狙えば…首も硬え!」

襲撃者達は遠慮なく剣を突き立ててくる。この星の倫理観は現代の地球とは違う。このような相手に遠慮は無用だろう。

俺が別の科学を実行しようとした直後、正面に立っていた襲撃者のこめかみに矢が突き刺さった。頭部を貫かれた襲撃者は糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちる。他の襲撃者は慌てて矢の飛んできた方向に体を向けるが、その間に更に一体が眼球を射抜かれて絶命した。暗闇から更に矢が放たれる。暗視科学のお陰で昼間のようにはっきりと視認できているが、この環境では襲撃者達はどうしようもできないだろう。矢尻は黒く塗られており、闇夜ではその影すら映らない。一体、そしてまた一体と襲撃者達は射抜かれ、絶命していった。全滅した襲撃者の亡骸を前に、俺は正面を見据える。闇夜の狩人が月明かりを受けてこちらに歩み寄る。

肩にかかる金色の髪。
整った顔立ちに長く尖った耳。
弓矢を手にした女性は俺の前で足を止めた。

「…あ、ありがとう?」

「…ゴブリンに寝込みを襲われていたようだが生きていたのか。怪我はないか?」

俺は硬質化を解除して体の可動を確かめる。

「うん、どこも怪我はなさそうだな。強いて言うなら背中が痛い。こんなところで寝るもんじゃないな」

「…こんな場所で呑気に寝るとは自殺志願者なのか? この山がゴブリンの住処となっているのを知らないのか?」

「あー、残念ながら知らなかった。ちょっと遠くの田舎から来たんだ。でも本当に助かったよ」

俺は改めて目の前の女性を見つめる。美しい容姿に目を奪われがちになるが、それよりも尖った耳が気になってしまう。

女性はゴブリンの亡骸から尖った牙を抜いて袋に入れていく。

「それは何してんの?」

「…戦利品だ。ゴブリンの牙はギルドで売れる。そんなことも知らない田舎からやって来たのだな」

全てのゴブリンの亡骸から戦利品を得た女性は俺の目を見た。

「お前の目には私に対する蔑みや恐れがないのだな」

女性はそう言って苦笑した。

「どういう事?」

「私たちエルフは基本、エルフの里で生まれ死んでいく。里から出てくるのは稀だ。人間はそんな閉鎖的なエルフを下等と蔑む者もいる。だがエルフは人間と比べて魔力総量が大きく、いつ牙を向けられるのではないかという恐れを抱く者もいるという事だ。だがお前からはそんな感じは受けない。エルフと人間の関係すら無知な土地からやって来たのだと思ってな」

そう言ってもらえたが、それは俺が別の星の人間だからだろう。生まれた時から『エルフはこういう生き物』と教え込まれていたら、彼女が言ったような感情を持ってしまっていただろうし、世間の感情に染まってしまうのが人間というものだろう。だが俺はそんな環境では育ってきた訳ではないのでそんな先入観はない。逆に空想上のエルフに出逢えて嬉しいくらいだ。

「…このような深夜にこんな場所で積もる話をするべきではないな。助けた縁だ。人里まで護衛してやる。まずは安全な場所まで歩くぞ」

「あ、ああ。助かるよ。あの、俺は竜胆だ。佐久間竜胆っていうんだ」

「…リンドー? サクマ? 田舎からやって来たのに苗字持ちなのか。よく分からん男だな。私はディラ。Dランク冒険者だ」

◆◇◆◇

ディラに先導されて山を降り、1番近いとされる人里までの岐路につく。暗闇の中、ディラの背中を追って道なき道を進む。

彼女は『Dランク冒険者』と言った。
Dというランクが高いのか低いのか分からないが、この世界には冒険者という職があるのは把握できた。この世界の知識もなく、人脈もない自分でも生きる為には稼がなくてはならない。ディラに冒険者になる方法を尋ねてみた。

「…冒険者ギルドというものが存在する。そこで登録申請を行い、過去に犯罪歴がなければ受理される。登録自体は簡単に行えるだろう」

犯罪歴…か。
宇宙人のUFOに無断侵入したのはカウントされてしまうだろうか。どうやって調べるのか再度尋ねると、水晶球に手をかざす事で判別するそうだ。これまでに魔素や魔力といった単語を聞いたり目にしていたが、そういった特殊な魔法が水晶球に込められているらしい。

俺にも魔法が使えるようになるだろうか。そんな事を考えていると前を歩いていたディラが足を止めた。

「…前方にゴブリンを発見した。これから強襲する。お前は身を屈めて隠れていろ」

朝日が顔を覗かせ始めていた。腰まで伸びた背の高い植物が視界を狭めており、ディラの言うゴブリンの姿は自分には確認できない。しかし彼女がそう言うのなら、素直に従う事にしよう。俺は身を屈めた。

ディラは俺が屈んだ事を確認し、足音をたてずに移動していく。俺の視界からディラの姿が見えなくなった。

状況はどうなっているのだろうか。顔を覗かせるとゴブリンに見つかる恐れがあるのでそれ以外の方法を見つけたい。そんな時にはやはり御石様だな。

『千里眼科学を実行します』

俺の目蓋の裏に草原の景色が映し出された。隠れている自分の姿も見える。意識して視界を移動させてみる。自分のいる場所から50メートル程前方に廃屋があり、その周囲に剣を手にしたゴブリンが3体寛いでいた。まだこちらの存在には気付かれていないようだ。ディラはここと廃屋の丁度中間地点で弓矢を構えていた。

深夜の時と違い、暗闇に乗じて襲撃するのは難しい。ディラがどうやってゴブリン達を倒すのか単純に興味はある。千里眼で状況を見ていた俺はディラが矢を明後日の方角に向けたのに気付いた。まるで見当違いの方角だ。ディラはそちらに矢を2本放つと、次にゴブリン達に向けて矢を放った。完全に油断していたゴブリンはその矢で頭を射抜かれて絶命する。そこでようやくこちらの存在に気付いた残りのゴブリン達は矢の飛んできた方角、つまりディラの方に剣を構えて向き直った。

姿は視認されていないだろうが、警戒されている。でもまだ姿を隠しながら隙を窺えばディラの弓の腕なら何とかなるだろう。そう考えていた俺の予想に反し、ディラは立ち上がってゴブリン達に姿を晒した。諸手を上げ、彼女の武器である弓矢も持っていない。

一体どういうつもりなんだ?

丸腰の彼女を見てゴブリン達はほくそ笑んでゆっくりと近付いていく。

ディラに対する俺のイメージはこんな簡単に命を諦める人間ではない。それどころかなかなかの腕達者な冒険者だと思っているのだ。何か策があるに違いない。

その時、一陣の風が吹いた。

ゴブリン達の背後から矢が飛翔し、頭部を射抜いたのだ。背後は完全に無警戒だった彼らにそれを防ぐ術はなく、ドサリと崩れ落ちた。背後から飛翔してきた矢、それは間違いなくディラが最初に見当違いの方角に向かって射った矢だ。

最初の矢の軌道を知る為、『過去視科学』なるものを実行した。目蓋の裏に先ほどの光景が映し出される。最初に射った2本の矢は直線に飛んでいたが突然急カーブして方角を変えていた。そして方角微調整されながらゴブリン達の背後から飛翔してきたのだ。勢いも削がないまま、逆に増していたようにも見える。

「…風か」

矢が向きを変えた時、周囲の植物も不自然に揺れていた。風が矢の軌道を変えたのだろう。勿論、普通ならそんな芸当は不可能だ。しかしここは普通という常識が通じない異星。そして魔力というものが存在するらしい。俺の知っている言葉に言い直せば『風の魔法』といったところだろう。

「リンドー、もう出てきても構わないぞ」

状況把握に努めていた俺にディラが声をかけてきた。俺は立ち上がって歩を進める。合流した時にはディラはゴブリン達の牙を回収し終えていた。

「…ディラ、魔法ってどうやって使うんだ?」

「…覗いていたのか?」

一瞬、矢の回収も終えたディラの手が止まった。だがすぐに苦笑し、俺の知っているディラの雰囲気に戻る。

「魔法の取得法は一般常識…といっても恐らくお前はそれすら知らない土地から来たのだろうな」

「あ、ああ」

「方法は簡単だ。魔法書を手に入れて契約を行うだけさ。だが己に素質が無ければ弾かれる。契約の精霊に気に入られなくても同様だ。リンドーが魔法に興味があるなら、魔法屋を訪ねると良い。大きな街には大抵あるものだ」

魔法書、契約の精霊、魔法屋、新しい情報が手に入った。魔法なんてものは人類の夢だ。それが扱えるようになる事を考えると胸踊る。御石様の万能科学のせいで感動が薄れてしまうが…。







その後もゴブリンや獣と遭遇しながらもディラが容易く全滅させ、ついに遠目に街のようなものが見えてきた。ディラは「あれがアマレットの街だ」と言った。

地球とは違う星の初めての街。
一体どんな世界が広がっているのか、ワクワクが止まらない。当初の金目の物を探すという目的を忘れた訳ではないが、俺も男だ。こういったロマンは感じずにはいられない。俺とディラは暖かな風が吹く中、アマレットの街に向かって歩き出した。
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