2 / 22
第1章 始まりの創造主
プロローグ
しおりを挟む
人の創造し得る物というのは、全て実現可能であるとボクは考える。そこに辿り着くまでの過程がどんなに困難であっても、幾千幾万の手段を講じることによって、遂には完成に至る。幼稚な考えだとは思うが、過去の発明家たちの功績を思えば決して有り得ない話じゃない。
「要するに、閃きが大事なんだよ。そしてその閃きは多くの経験の上に成り立つ。分かるね?」
天海瑞樹は手元の作業を続けたまま、研究室にズカズカと入り込んできた部外者にそう諭す。
「瑞樹、頼むからお前も参加してくれよ! お前が参加するって条件であの有名女子大との合コンが実現したんだ。興味が無ければ無理に話さなくてもいいからさ!」
同級生である学生が頭を下げて頼み込んでくる。でもボクは手元の作業を止めることなく、リモコンでテレビに映るアニメの映像を何度も繰り返し流していた。
「ボクの夢は二次元の世界に行く事。または二次元のキャラをこちらに呼び寄せることだ。その為にも二次元のことをもっと深く理解しないといけない。三次元の女性と会っている暇などないさ」
「お前…そんなオタクな性格じゃなければモテるだろうに。まぁ、性格の良いイケメンっていうのは俺にとっても敵な訳なんだが。でも本当にもったいないな。ロシア人とのハーフだったか? その整った顔立ちは羨ましいよ」
「クォーターだ。だがボクとしては君のような顔立ちこそが羨ましい。何故なら二次元の世界では君のようなパッとしない顔立ちの者が主役というパターンが数多く存在している。ボクのような顔立ちは逆に嫌煙され、それら主役の引き立て役が相応さ。嫉妬すら覚えるよ」
この理論に同級生は苦笑しながら頭を掻く。日本人離れした整った顔立ちに淡い青色の瞳。そして高身長も相まって一流雑誌のモデルを思わせる。このような性格のため、ある程度彼の事を知った女性はほぼ全員が距離を置く。だからこそ瑞樹の内面を知らない別の大学の女子に話をつけたのだが…。
「君の言う合コンは明日だったか? 残念ながら今夜から明日にかけて、先程完成させたこの装置の実験を行うのだ。君の要望には応えられそうにない」
そう告げたボクの手元には幾つかのパーツが握られている。
「で、そいつは何だ?」
「市販のテレビに取り付けるだけで、立体化した映像を映し出す機械だ。まだ試作段階でね、立体化した人物等に触れることは出来ないのだが、いずれはその問題もクリアするつもりだよ」
「え、マジで!? それって売れるんじゃねーか?」
「愚問だな。これはあくまでも自分の為の物だ。他人にこの権利を譲るつもりはない」
アニメの映像を切り、瑞樹は立ち上がって帰り支度を始める。それを見た同級生は慌てて再度頭を下げる。
「明日! 明日の夕方から三時間だけでいいんだ! 全てが無事終わったらお前にアニメのBDを買ってやるから!」
「…そこまで言われては仕方ない。では実験は明日の昼までに変更するとしようか」
「ありがとう、恩に着るぜ!」
その言葉を聞いて安心したのか、同級生は胸を撫で下ろして研究室を後にした。ボクもその後に続き、自宅への帰路についた。
大学の敷地から出て数分、正面にフラフラと足元の覚束ない老人がいた。危ないとなぁと嫌な予感が過ぎり、その老人を避けようとするが、老人も同じタイミングで動いてしまった為、ぶつかってしまった。
「む、失礼。怪我はないだろうか?」
「ふぇっふぇっふぇっ…大丈夫じゃ」
老人はこちらに体を預けるようにしてもたれ掛かっていたが、体勢を戻して立ち上がりボクの横を抜けて行った。今の出来事を気にもせずに歩き出そうとすると、不意に先程の老人の声が耳に届いた。
『お前をずっと…待っていた』
思わず背後を振り返るが、ほんの数秒目を離しただけであるのに、既にそこに老人の姿は無い。その現象には気味の悪さを感じてしまっていた。
自宅のアパートに着き、部屋に入る。
早速テレビに装置を取り付けていく。だがそこでカバンの中に見覚えのない物が入っているのに気付いた。ボクはそれを取り出して眺める。黒色のコーティングが成されたディスク。タイトルも何も記載されていないそのディスクがいつ混入したのかを思い返す。
「まさかあの老人か?」
研究室から自宅まで、誰かと接触があったのはその一件だけだ。可能性としては、老人が自分に気付かれないようにこのディスクをカバンの中に潜ませたという事なのだが、目的が不明である。ディスクの中身に興味は唆られたが、ウイルスが仕込まれている恐れもあった。無闇に触れない方が賢明だと結論付け、放置することとなった。そのディスクを机の上に置き、全てのパーツを付け終えたテレビのスイッチを押した。それと同時に接続したパーツも起動し、部屋全体が真っ暗になった。
「むぅ…本来ならテレビの映像が立体的に流れるはずなのだが、どこか不具合でもあっただろうか……ん?」
しかし視界の中の異変に気付く。部屋の中は完全な闇である。床も、家具すらも表示されていない。それなのに、先程机の上に置いたディスクだけが映し出されているのだ。そのディスクはボクの思考が追い付くのを待たず、宙へと浮かぶ。そして瞬時に巨大化し、回転を始めた。
「これは…読み込んでいるのか?」
その動きはDVDやゲームディスクと同じで、何らかのデータを引き出しているように感じた。そしてディスクは一瞬のうちに消失し、手元に小さな画面が表示される。
『創造主の遊び』
先程の現象は未だ理解し切れていないが、手元に表示された画面には説明書きが綴られていた。
①プレイヤーはレベル1の創造主としてスタートとする。
②情報はレベルが上がる毎に開示される。
③中断は不可能である。
説明書きといっても、この三項目だけである。
「これは…ゲームの一種なのだろうか? しかしこのような不可解な物に時間を割く程暇ではない。何も見えないが…部屋から出ればこの空間も消失するだろう」
そう考えたが部屋の扉があるであろう方向へ歩き出した。しかしそれも直ぐに頭を悩ませる事になる。どれだけ歩いても、壁へ辿り着けないのだ。そんな馬鹿なはずがない。ボクは思わず駆け出した。しかし一分経っても二分経っても、目の前の闇から逃れる事が出来なかったのだ。
「はぁ…はぁ…中断は不可能、とはこういう事か。まるでSFやオカルトだな。ならばこのゲームをクリアする他ないか。これでもボクは数々のゲームをやり込んで来た。直ぐにでも終えてみせよう」
この現象の情報となる手掛かりはレベルの上昇によって開示されるという。ならば先ずはレベルを上げる事から始めねばならない。
画面のページを操作すると、スキルという項目が表示された。
スキルを選択すると『創造』の項目へ移行する。更に創造を選択すると『石』と表示された。
「今選択できるのはこれだけのようだな」
試しに『石』を選択する。すると掌の上に野球のボール大の石が現れた。だがそれだけだ。
「ゲームの要領であれば、何度も繰り返し行わなければレベルは上がらないのだろうか?」
一先ず次のレベルになるまで、どんどんと石を創造していく。その石が500個に到達した頃、画面上に『レベルが2に上がりました』と表示された。改めて一番最初の画面に戻すと、説明書きの項目が増えていたのに気付く。
④現在のプレイ時間 45分52秒28
新たな項目はゲームによくあるプレイ時間の表示であった。時計すらないこの空間で時間が把握できるのは有り難いのだが、ゲームクリアに関する期待した情報ではなかった。その上、未だ創造できるのが『石』のみなのだ。だがゲーマーでもあるボクにとって、この作業は苦痛を感じる範疇にない。新たな情報を得るべく、レベルアップの為に再び石の創造を続けていく。
そしてレベルが2に上がってから石を1000個創造した時、『レベルが3に上がりました』とレベルアップを知らせる表示が出た。まるで作業のように新たな情報を確認する。
⑤プレイヤーの死は存在しない。
思わずその文字を覗き込む。瑞樹はどういう意味であろうか。ゲームであれば『死』というのは状態のひとつであって活動不能と同義となる。この一文だけではどうにも要領を得ない為、更なる情報が欲しいところだ。
「ふむ、創造できる種類が増えたか」
最初から創造可能だった『石』に続き、新たに加わった項目は『石2』であった。試しに創造すると、石に比べると石2は少し硬い。だがそれだけだ。特に変わらない創造物に、多少のモチベーションは下げられたものの、ボクは創造を続ける事にした。そして石2を1000個ほど創造した直後、画面に文字が表示された。
『スキルポイントが0になりました。強制スリープモードに移行されます』
その一文に驚いて声を上げようとしたが、その意識は一瞬で落とされてしまった。そして再びボクが目を覚ましたのは、プレイ時間が120年を経過してからであった。
「要するに、閃きが大事なんだよ。そしてその閃きは多くの経験の上に成り立つ。分かるね?」
天海瑞樹は手元の作業を続けたまま、研究室にズカズカと入り込んできた部外者にそう諭す。
「瑞樹、頼むからお前も参加してくれよ! お前が参加するって条件であの有名女子大との合コンが実現したんだ。興味が無ければ無理に話さなくてもいいからさ!」
同級生である学生が頭を下げて頼み込んでくる。でもボクは手元の作業を止めることなく、リモコンでテレビに映るアニメの映像を何度も繰り返し流していた。
「ボクの夢は二次元の世界に行く事。または二次元のキャラをこちらに呼び寄せることだ。その為にも二次元のことをもっと深く理解しないといけない。三次元の女性と会っている暇などないさ」
「お前…そんなオタクな性格じゃなければモテるだろうに。まぁ、性格の良いイケメンっていうのは俺にとっても敵な訳なんだが。でも本当にもったいないな。ロシア人とのハーフだったか? その整った顔立ちは羨ましいよ」
「クォーターだ。だがボクとしては君のような顔立ちこそが羨ましい。何故なら二次元の世界では君のようなパッとしない顔立ちの者が主役というパターンが数多く存在している。ボクのような顔立ちは逆に嫌煙され、それら主役の引き立て役が相応さ。嫉妬すら覚えるよ」
この理論に同級生は苦笑しながら頭を掻く。日本人離れした整った顔立ちに淡い青色の瞳。そして高身長も相まって一流雑誌のモデルを思わせる。このような性格のため、ある程度彼の事を知った女性はほぼ全員が距離を置く。だからこそ瑞樹の内面を知らない別の大学の女子に話をつけたのだが…。
「君の言う合コンは明日だったか? 残念ながら今夜から明日にかけて、先程完成させたこの装置の実験を行うのだ。君の要望には応えられそうにない」
そう告げたボクの手元には幾つかのパーツが握られている。
「で、そいつは何だ?」
「市販のテレビに取り付けるだけで、立体化した映像を映し出す機械だ。まだ試作段階でね、立体化した人物等に触れることは出来ないのだが、いずれはその問題もクリアするつもりだよ」
「え、マジで!? それって売れるんじゃねーか?」
「愚問だな。これはあくまでも自分の為の物だ。他人にこの権利を譲るつもりはない」
アニメの映像を切り、瑞樹は立ち上がって帰り支度を始める。それを見た同級生は慌てて再度頭を下げる。
「明日! 明日の夕方から三時間だけでいいんだ! 全てが無事終わったらお前にアニメのBDを買ってやるから!」
「…そこまで言われては仕方ない。では実験は明日の昼までに変更するとしようか」
「ありがとう、恩に着るぜ!」
その言葉を聞いて安心したのか、同級生は胸を撫で下ろして研究室を後にした。ボクもその後に続き、自宅への帰路についた。
大学の敷地から出て数分、正面にフラフラと足元の覚束ない老人がいた。危ないとなぁと嫌な予感が過ぎり、その老人を避けようとするが、老人も同じタイミングで動いてしまった為、ぶつかってしまった。
「む、失礼。怪我はないだろうか?」
「ふぇっふぇっふぇっ…大丈夫じゃ」
老人はこちらに体を預けるようにしてもたれ掛かっていたが、体勢を戻して立ち上がりボクの横を抜けて行った。今の出来事を気にもせずに歩き出そうとすると、不意に先程の老人の声が耳に届いた。
『お前をずっと…待っていた』
思わず背後を振り返るが、ほんの数秒目を離しただけであるのに、既にそこに老人の姿は無い。その現象には気味の悪さを感じてしまっていた。
自宅のアパートに着き、部屋に入る。
早速テレビに装置を取り付けていく。だがそこでカバンの中に見覚えのない物が入っているのに気付いた。ボクはそれを取り出して眺める。黒色のコーティングが成されたディスク。タイトルも何も記載されていないそのディスクがいつ混入したのかを思い返す。
「まさかあの老人か?」
研究室から自宅まで、誰かと接触があったのはその一件だけだ。可能性としては、老人が自分に気付かれないようにこのディスクをカバンの中に潜ませたという事なのだが、目的が不明である。ディスクの中身に興味は唆られたが、ウイルスが仕込まれている恐れもあった。無闇に触れない方が賢明だと結論付け、放置することとなった。そのディスクを机の上に置き、全てのパーツを付け終えたテレビのスイッチを押した。それと同時に接続したパーツも起動し、部屋全体が真っ暗になった。
「むぅ…本来ならテレビの映像が立体的に流れるはずなのだが、どこか不具合でもあっただろうか……ん?」
しかし視界の中の異変に気付く。部屋の中は完全な闇である。床も、家具すらも表示されていない。それなのに、先程机の上に置いたディスクだけが映し出されているのだ。そのディスクはボクの思考が追い付くのを待たず、宙へと浮かぶ。そして瞬時に巨大化し、回転を始めた。
「これは…読み込んでいるのか?」
その動きはDVDやゲームディスクと同じで、何らかのデータを引き出しているように感じた。そしてディスクは一瞬のうちに消失し、手元に小さな画面が表示される。
『創造主の遊び』
先程の現象は未だ理解し切れていないが、手元に表示された画面には説明書きが綴られていた。
①プレイヤーはレベル1の創造主としてスタートとする。
②情報はレベルが上がる毎に開示される。
③中断は不可能である。
説明書きといっても、この三項目だけである。
「これは…ゲームの一種なのだろうか? しかしこのような不可解な物に時間を割く程暇ではない。何も見えないが…部屋から出ればこの空間も消失するだろう」
そう考えたが部屋の扉があるであろう方向へ歩き出した。しかしそれも直ぐに頭を悩ませる事になる。どれだけ歩いても、壁へ辿り着けないのだ。そんな馬鹿なはずがない。ボクは思わず駆け出した。しかし一分経っても二分経っても、目の前の闇から逃れる事が出来なかったのだ。
「はぁ…はぁ…中断は不可能、とはこういう事か。まるでSFやオカルトだな。ならばこのゲームをクリアする他ないか。これでもボクは数々のゲームをやり込んで来た。直ぐにでも終えてみせよう」
この現象の情報となる手掛かりはレベルの上昇によって開示されるという。ならば先ずはレベルを上げる事から始めねばならない。
画面のページを操作すると、スキルという項目が表示された。
スキルを選択すると『創造』の項目へ移行する。更に創造を選択すると『石』と表示された。
「今選択できるのはこれだけのようだな」
試しに『石』を選択する。すると掌の上に野球のボール大の石が現れた。だがそれだけだ。
「ゲームの要領であれば、何度も繰り返し行わなければレベルは上がらないのだろうか?」
一先ず次のレベルになるまで、どんどんと石を創造していく。その石が500個に到達した頃、画面上に『レベルが2に上がりました』と表示された。改めて一番最初の画面に戻すと、説明書きの項目が増えていたのに気付く。
④現在のプレイ時間 45分52秒28
新たな項目はゲームによくあるプレイ時間の表示であった。時計すらないこの空間で時間が把握できるのは有り難いのだが、ゲームクリアに関する期待した情報ではなかった。その上、未だ創造できるのが『石』のみなのだ。だがゲーマーでもあるボクにとって、この作業は苦痛を感じる範疇にない。新たな情報を得るべく、レベルアップの為に再び石の創造を続けていく。
そしてレベルが2に上がってから石を1000個創造した時、『レベルが3に上がりました』とレベルアップを知らせる表示が出た。まるで作業のように新たな情報を確認する。
⑤プレイヤーの死は存在しない。
思わずその文字を覗き込む。瑞樹はどういう意味であろうか。ゲームであれば『死』というのは状態のひとつであって活動不能と同義となる。この一文だけではどうにも要領を得ない為、更なる情報が欲しいところだ。
「ふむ、創造できる種類が増えたか」
最初から創造可能だった『石』に続き、新たに加わった項目は『石2』であった。試しに創造すると、石に比べると石2は少し硬い。だがそれだけだ。特に変わらない創造物に、多少のモチベーションは下げられたものの、ボクは創造を続ける事にした。そして石2を1000個ほど創造した直後、画面に文字が表示された。
『スキルポイントが0になりました。強制スリープモードに移行されます』
その一文に驚いて声を上げようとしたが、その意識は一瞬で落とされてしまった。そして再びボクが目を覚ましたのは、プレイ時間が120年を経過してからであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
38
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる