囚われし創造主の遊び

白黒yu-ki

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第1章 始まりの創造主

プロローグ2

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④現在のプレイ時間 120年3ヶ月4日2時間16分12秒37

目を覚ましたボクが見た画面上のプレイ時間。こうして改めて確認している最中にも数字が更新されていく事から、120年という途方も無い時間をこの空間で過ごしてしまったらしい。初めは「そんな馬鹿な」という感情が目の前の現実を認めなかった。どうせこのプレイ時間は出鱈目で、自分はただ一眠りしてしまっただけなのだと。

「疑う余地はないのだろうな」

一眠りした程度で、衣類は朽ちない。ボクが身につけていた衣類は眠りに落ちる前と比べ、明らかにボロボロになっていたのだ。まるで長い年月の間放置されたかのように…。この事から、プレイ時間の年数に信憑性が感じられた。

『プレイヤーの死は存在しない』

この年数が確かなのだとしたら、自身の体に不具合は感じられない理由はコレなのだろう。どういった原理で死が消失しているのかは気にかかるが、この空間自体が自分の理解の範疇を超えている。レベルアップによって開示される情報が唯一の頼りであり、現状考えるだけ無駄である。


だが眠りに落とされる直前、『スキルポイントが0になりました』という表示があったのを思い出す。つまりは『創造』をすることでスキルポイントを消費し、それが0になった時に強制的にスリープモードとやらになるのだろう。ここで作業の流れが明確になる。創造をどんどんと行ってレベルを上げる。そしてスキルポイントを使い切ったら一眠り。目を覚ましたら再び創造を始めれば良い。瑞樹は自身の行うべき事を理解し、再び創造を開始した。




レベルが4に上がり、新たに増えた項目を確認する。

⑥現在のスキルポイント4000/4000

今まで調べても分からなかったスキルポイントの数字が表示された。数値が最大値であることから、レベルが上がると回復すると言う事なのだろう。

そして創造できる種類が増えていた。
『石』『石2』『虚無空間』。
創造できる種類が増えたと言っても、それ程過多な期待はしていなかった。石3か、それに近いものだと思ってはいたのだが、『虚無空間』ときた。試しに創造をしてみると、足元の感覚が無くなり、まるで宙を浮いているようだ。この空間に光は無く、唯一の明かりはデータ画面の僅かな光のみ。その明かりから今まで自分が創造してきた大量の石が、そこら中に浮かび上がっているのに気付いた。だがこの虚無空間をもう一度創造しようとすると、『虚無空間は一度に1つしか存在できません』という画面が表示された。つまりはまたぞろ石の創造を続けなければならないという事だ。

プレイヤーの死は存在しないらしいが、飢えや渇きは感じてしまう。どうにかして水を入手したいのだが、思い通りにはなりそうにない。作業を続けていき、スキルポイントを使い切って一眠り、そしてまた創造を続けてレベルを上げていく。


そしてプレイ時間が1000年を超えた時、ついに重要な情報が開示された。

⑦これは新たな世界を作成する為の創造主の道具である。

⑧プレイヤーが創造した生命体がある条件をクリアした場合にのみ、創造主の任を降りることができる。

ゲームを終える為の条件が判明した。『ある条件』というのがまだ不明だが、目指すべき方向性は決まった。まずは生命体を創造できるまでレベルを上げる事だと思う。

そこから何度も創造してレベルアップ、スキルポイントを使い切って数百年近くの眠りにつく事を繰り返し、レベルが10まで上がった。ここまでで創造できるようになった物は虚無空間と石1~10、そして星。しつこいくらい増える石のレパートリーに辟易していたが、ついに待望の星を創造できるようになった。生命体というからにはやはり星は必要不可欠なのだ。

だがこの星の創造というのも一筋縄ではいかないらしい。同時に開示された情報によると、星の創造は常にランダムで行われる。創造主の精神面や体調にも影響を受けるらしく、同一の星を創造できる確率は限りなく低い。

「一度試すか」

理想としては太陽のような星を創造したい。どのような星ならば生命が育まれるのか、様々な条件はあるだろう。ボクがイメージしたのは地球の環境。それとは別の環境でも生命が生きていけるのかもしれないが、そこで育まれる生命体は人間とは異なる存在になりそうだ。初心者創造主としては、前例がありイメージのしやすい地球のような環境を整えていく事にする。

ボクは初めての星を創造した。

すると目の前に出現した星の核と思われる球体を中心に、少しずつ大地が出来上がっていく。そして星全体を覆うようにガスが発生した。どうやらこれで完成のようだ。

目の前に浮かぶのは親指第一関節程の小さな星だ。ガスは雷雲のように時折光を放っていた。

初めて星を創造出来たことに興奮を覚えるが、ボクが欲していた星とはかけ離れている。それにこの星の創造は今までの石と違って大量のスキルポイントを使用するのだ。石のレベルにもよるが、精々1~20に比べ、星創造の消費スキルポイントは30000。今のボクのスキルポイントは35000なので一気に使い切ってしまうのだ。最大スキルポイントが高ければ高い程、回復に要する休眠期間は長くなる。初期は100年程度であったが、前回のレベルの時は3000年近くの休眠期間があった。ここまでくると休眠期間は考えず、下手な鉄砲を数多く撃つ事になりそうだ。

「…そうだ、そういえば」

小休止してデータ画面を操作する。ここまでレベルを上げた事で、多少出来ることが増えていた。創造したものに名前をつけることが出来るようになっていたのだ。データ入力画面から目の前の星に『s-01』と名付け、完了キーを押す。そして改めて01の星を見つめる。すると視線が更に奥へ奥へとピントを合わせ、星の地表が確認できた。これは創造主の元からある能力なのかもしれない。

「これは…とても生命が生きていける環境じゃないな」

視界に映るのは激しい乱気流と大地に雨のように降り注ぐ稲妻。水も存在していないようだ。諦めて残り5000のスキルポイントを使い切り、休眠して新たに星を創造することにした。


◇◆◇◆


同じ事を何度も繰り返し、太陽のような恒星を創造出来たのは58回目の時だった。『s-58 太陽』と名付け、地球のような水の惑星でかつ同じような環境の星が出来たのは『s-125』と数字から分かるように125回目のチャレンジの時だった。結論からいうと、この星に生命を誕生させる事は出来なかった。その前に『s-09』という極小の星が寿命からなのか爆発を起こし、近くにあった『s-58 太陽』を巻き込み、その太陽の近くにあった『s-125』も一緒に爆散してしまったらしい。

『…らしい』というのは、ボクがその瞬間を見ていないからだ。休眠期間中にそれが起こってしまい、目が覚めたら消えてしまっていたのだ。ここまでレベルを上げて今まで創造したモノの記録を調べる事が出来るようになった。それを確認したら、消滅の理由はそういう事であった。

これを考えると、地球という星に生命が誕生したのは偶然の産物といっても良いだろう。消えてしまった09、58、125以外にも重力に引かれた石…隕石がぶつかって消えてしまった星もいくつかあった。今この時間にも、58の星の断片が小さな隕石となり、衝撃で散っていく。そしてボクから見て10メートル離れた少し大きな星にぶつかり、爆散はしなかったものの大きなクレーターを残していた。


生命誕生の困難さを痛感しながらも、諦める事なくボクはそれに挑戦していく。そして恐ろしく永い年月をかけ、ようやく生命を、自分と同じような人を誕生させる事に成功した。プレイ時間92億年、『s-7556889』の惑星でのことだった。
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