囚われし創造主の遊び

白黒yu-ki

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第1章 始まりの創造主

#19 創造主と帝国兵

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ボクが村を作り始めて一ヶ月が経っていた。その間にリュアラの街で噂を聞いた人達が少しずつ訪れるようになっていた。人間領は比較的魔獣等の脅威は低く、冒険者を雇って街を行き来する商人も少なくない。だがこの村周辺の魔獣はそれよりも遥かに危険度が高い。それを解決したのが村直通の地下トンネルだ。

ダイアが地中を掘り進め、『土』の魔法で壁を鋼鉄化させた。そこにボクの魔力も上乗せしたから、余程強い魔獣等でなければトンネル内に入り込まれる事もないだろう。

村を訪れる者たちの目的は様々だが、その第一が人間領では手に入る事の出来ない素材だ。それは武具の素材にもなり、武具の見本をボクが打って店に並べた。客の中にはミィの姿もあり、より敵対心を煽ってしまったようだが…。

「クロウ、これはどうかな」

「これは魔法石ですか? 大きな街なら普通に売ってる代物でもあるし、ここの目玉になるようなものじゃないと思いますがね」

ボクは自作した魔法石をクロウに見せた。だがどうやら不評のようだ。ボクはここ暫く、村を活気づける為にこうした目玉となる道具を作り、店に並べる事にしている。その目利きをクロウに頼んでいるのだ。

「確かにそれは魔法石だが、ボクの魔法が込められている。使用するとこの村とリュアラを行き来できる転移魔法が発動するようにした。需要はあると思うが?」

「……却下ですな。まず転移魔法自体、古代魔法ロストマジックと呼ばれ世から消失している魔法です。それを転移先が限定されるとはいえ誰でも使用できる道具として世に出たら騒ぎになる」

「…残念だな」

便利だと思ったのだが、商品化は時期を待つ必要があるそうだ。ボクがそうため息をつくと、村の周囲に張り巡らせた魔法に反応があった。

村の周囲は破邪の魔法がかけられた魔石が設置してあり、魔獣等が村に侵入するのを防いでいる。だがそれよりも外円に何かが近付いた時に検知できるよう、魔法をセンサーのように張り巡らせている。そのセンサーに反応があり、ボクは千里眼で侵入者の姿を捉えた。

こいつは…人間ではないが魔獣でもない。いわゆるゴブリンというヤツだな。数は5匹。剣や弓を持ち、ゴブリンの言語は分からないが村を襲う算段を立てている様子だった。

村の周囲にはヴァイスの部下達が眼を光らせているので安全ではあるのだが、こうして先に発見したからにはこちらで対処しておこう。

クロウに見せた転移石に込めた転移魔法はとても応用が効く便利な魔法だとボクは思っている。使い方によってはこんな方法も可能なのだ。

ボクは自分の魔力をゴブリン達の周囲に転移させ、20個程の氷の刃を形成させる。突然現れた刃にゴブリン達は驚愕し、硬直していた。氷の刃はボクの意思通りに彼等の前方に配置する。ここで引くならば、無駄な攻撃をするつもりはない。さぁ、キミ達はどう動く?

出来れば傷付けたくはないのだが、これ以上踏み入ろうとするならば村の人達を守る為に攻撃する覚悟はある。だがゴブリン達はボクの希望とは真逆の動きを見せてしまう。氷の刃をすり抜けて突破しようとしてきたのだ。




…残念だ。



氷の刃はボクの意思通りに動く。剣撃をスルリと躱し、一匹のゴブリンの体を貫き、透明な刃が赤く染まっていく。仲間の死を間近に見て恐怖を感じたのか、他のゴブリン達の動きが鈍った。命の危険を感じて引いてくれるのならば…と祈った瞬間、一筋の線がゴブリン達の間に走った。

直後、ゴブリン達の首がゴトリと鈍い音を立てて大地に転がり、頭部を失った体は力無く崩れ落ちてゆく。

そこに残るのはボクが操る氷の刃と漆黒の衣を身に纏う謎の女性。そしてその女性の後ろから数人の兵士らしき人間がやって来ていた。

「ムツキ、何かあったか?」

「…目の前にいたゴブリンは強襲して排除しました。しかし警戒は解かないで下さい」

「これは…氷の刃…か? 魔法か? 術師はどうした。見当たらないが」

順風耳で彼等の会話を盗み聞く。その姿から人間ではあるが、油断は出来ない。一般的に魔族は人間の敵とされている。この村に住む魔族達の安全を脅かすのであれば、人間相手であっても意思は貫き通すつもりだ。

「クロウ、ちょっと行ってくる」

「行くってどこに…あ、ちょっとミズキさん!?」

ボクはクロウの呼び掛けを無視し、自身を現地に転移させた。

◆◇◆◇

空間が歪む。
彼等は突然現れたボクの姿を見て、即座に戦闘態勢をとった。だがボクは戦いをしに来た訳ではない。

「待ってくれ、まずはキミ達と話したい」

ボクはそう訴えたが、目の前にいたムツキと呼ばれた女性の姿がブレた。だが事前に魔力で身体能力を向上させており、その動きはしっかりと捉えていた。

…しかしこれは驚いた。
自身の姿を残像として残しつつ、常人には目にも止まらぬ程のスピードでボクの首元に向かって刃を抜いていたのだ。速度だけを見ればレミーと同等かそれ以上だろうか。だが申し訳ないが、魔力を身体能力に転化させたボクの目には止まってみえる。まずはその危ない武器を取り上げるとしよう。

ムツキの一閃がボクの首元を裂く。
無駄な動きもなく相手の頸動脈を狙ってくる躊躇いの無さは恐ろしい。だがキミの刃は既にボクの手の中にあるのだ。

「な…いつの間に…」

「キミだけじゃない。そこの人達の武器も取り敢えず預かった」

兵士風の男達3人の剣もボクの足元に転がっている。男達もムツキ同様に驚いているが、敵意を消失した訳ではない。現にムツキは次の行動に移しているのだ。

「だから」

ボクの背後に回っていたムツキのその背後に回り、土の魔法でムツキの足を覆って更に硬質化させる。これでちょこまかと動き回る事は出来ないだろう。

「まずは話がしたいと言っているだろう」

「…そんな…私がこうも簡単に背後をとられるなんて…」

ムツキが何か言っているが、取り敢えず話を進める。ボクは男達の前まで歩き、そしてその場で腰を下ろした。

「あちらのムツキと呼ばれてた女性、あんた達の同僚か? 人の話は最後まで聞くように言い聞かせておいてくれ」

「…お前は…人間なのか?」

リーダー風の男がボクの姿を一瞥し、警戒しながらも前へ出た。どうやら話はしてくれるようだ。

「人間だよ。ちょっと特殊ではあるかもしれないが、この先にある村に住んでる者だ」

「村…やはり噂は本当だったのか。人間領から外れた場所に人間が作った集落があると報告があった。我等はガリアン様の勅命を受け、その調査に参ったのだ」

ガリアン…。
確かクリスの話だとシアンダイト帝国の第一王子だったか?

「噂…ね。という事は魔族がそこに一緒に住んでいる事も聞いているんだろう? それが事実であるなら、あんた達はどうするんだ?」

「………」

男は言うべきか悩んでいる。
だが沈黙は時に答えを示す。

「調査をしてそれが真実であると判明すれば、討伐目的で攻め込む…か?」

「…! ……そうだ。ガリアン様はそうお考えであると仰った」

…やはりそうか。
クリスから事前にガリアンの人となりを聞いてはいたが、どうやら気は合いそうにない。

「人間と魔族は共存できる。それを示す為に作った村だ。あの村にいる魔族は理由もなく人間を襲う事はしないし、させない。それにここは人間領ではない。魔族がいても何の問題もないだろう?」

「…ガリアン様はこう仰った。『もしそこに人間が生活できているのなら、そこは帝国の土地だ。我等のような天に選ばれた人種が統治しなければならない』と」

要は生活環境が整っているのならば、帝国側は攻め込んで植民地のように扱うつもりのようだ。魔族は全て排除するか追い出す算段だろう。

だがひとつ気にかかる。

「…話をしたいと申し出たのはこちらだが、何故こうもそちらの事情を簡単に話した? そんな話をされたらこちらも迎撃の準備が出来る」

魔族は人間に比べて身体能力が高く、魔力も高い。そんな格上を相手にするならば不意打ちで強襲するのが一番だ。だがこうして全てを話すと言う事は…。

ボクは千里眼を使用し、視覚を天空に移した。リュアラと村の間にテントが張られている。視覚を更に大地に近付けると、そこには目の前にいる男達と同じような鎧を身に纏った兵士がいた。人数にして50人程か。

「あんた達が戻って来なくても、そこにいる兵士達が時間になったら向かってくるという事か? ん…大砲なんて物もあるのか」

「ど、どうしてそれを知っている!?」

千里眼なんて教えても信じてもらえないだろう。だがどうするか。ボクの魔力やヴァイス達の力があればあの程度の兵軍は問題ない。だが今後の事を考えると、人間と魔族の間で火種を作るのは避けたいのだ。

ボクがどうするべきか悩んでいると、男達は隠し持っていた短剣で己の首元を裂こうとした。

「ふふふ、あんた達の短剣は預かった」

生きて人質とされるのを防ぐつもりだったのだろうが、ボクの目の前で無駄に死なすつもりはない。男達は手にしていた短剣がボクの足元に転がっているのに気付き、怪訝な表情を浮かべている。しかしボクに向かって来ない所を見ると、これまでのボクを見てある程度は脅威に感じてくれているようだ。今戦う必要がないので、それは有り難い。



…戦う必要がない?


そうだ、わざわざ戦ってやる必要はないのだ。


リュアラから南に遠く離れた大都市、そこが帝国の首都だと以前クリスから聞いた。ならば転移魔法で帝国にお帰り頂く事にしよう。

ボクは魔力を転移させ、50人を超す兵士達を魔力で覆う。突如の魔力に兵士達は混乱し始めたが、指揮官らしき白騎士の女性が統率し、混乱は最小限に収まったようだ。こちらとしても逃げ出す者がいなくて助かった。逃げ出されたらその分魔力範囲を広げなければならなかったからな。

そして空間を歪ませ、その集団を大都市の門前に転移させる。

次はそこにいた全ての兵士にボクの魔力をマーキングし、村の半径10キロ圏内に遅延魔法を設置させた。これはマーキングされた者が踏み込むと発動するタイプの魔法トラップだ。発動すると大都市に転移されるようにしたので、これで攻め込まれる危険は取り除けた。これだけ大規模に魔法を使っても疲れを全く感じないのは、桁外れな魔力量のおかげだろうか。

「さて、あんた達のお仲間は帰ってもらったよ。次はあんた達の番だな」

「な、何! どういう意味だ!?」

「そのままの意味だよ」

ボクは目の前にいた男達に転移魔法をかけて大都市に転移させる。残るはボクの後ろで未だに敵意を向けるムツキと呼ばれた女性だけだ。

「…私も殺すのか」

「いや、あれはそんな魔法じゃない。キミ達の帝国に送り届ける為の転移魔法だよ」

「て、転移魔法だと!? お前は一体何者なんだ!!」

何だかこうして驚かれるのも飽きてきたな。この女性もさっさとお帰り頂こう。

「…ボクの名はミズキ。人間と他の種族の共存を願う者だよ」

「そ、そんなもの不可能にー」

ムツキの言葉を最後まで聞き届けず、転移させる。

ひとり残ったボクは小さくため息をついて空を見上げた。瘴気の混じった風が気持ち悪く肌に触れる。

「…やってみなければ、分からないだろう」

ボクは独りごちて村に向かった。人間も、魔族も、ストン人も、ユグドラシルの化身もいる村に…。
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