私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

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第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!

3 面接

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 学園は宿から徒歩圏内の場所にあった。

 大通りを歩いて上に向かって行くと、大きな門が正面にそびえ立っているのが見える。門から両側には高い塀がめぐらされていて、外から中を覗き見ることはできない。門からではその塀の終わりが見えないほどの長さがある。
 一体どれだけの規模の学園なのか見当もつかない。

 私は学園の想像以上の規模の大きさに圧倒されながらも、門衛に入学希望者で面接に来たことを伝えて領主からの手紙を渡した。

 程なくして事務員のような若い女性が1人来た。門から近い部屋に案内されて、そこで待っているように言われ、案内人はそのままどこかへ行ってしまった。


 そして今現在、私は何もすることが無く暇を持て余している。

 案内人に二人掛けのソファーと小さなテーブルが置いてあるこじんまりとした待合室に通されてから優に1時間は過ぎている。
 誰も来ないしお茶も出されない。
 私は座り心地の良い立派なソファーに置物のようにただ座っていることしかできない。

 緊張しているおかげで眠気に襲われることは今のところ無いが、この状態がこのまま続くと危険かもしれない。
 眠気に襲われたら絶対に勝てない。
 それくらい退屈で仕方ない。
 完全に暇を持て余している。

 思えばこんな時間は生まれて初めてかもしれない。
 何もせず、何もできず、時間を無駄に浪費するという贅沢をすることは。

 私が育った孤児院では子どもでも働いていたし、時間があれば子ども同士で遊んでいた。
 シスター見習いになってからは息つく暇もないくらいに忙しかった。朝起きて、夜寝るまで、常に働き、勉強し、趣味に没頭していた。少しでも理術の特訓をする時間を捻出するために、必死で働き、必死に勉強した。
 ゆっくり椅子に腰掛けるのは、食事の時か、勉強の時か、裁縫する時くらいだった。その時もただ椅子に座って休むのではなく、用事をする為に椅子に腰掛けているだけで、椅子に座って何もしないでいることは無かった。

 1日の時間が短くて、1日が過ぎるのがあっという間で、時間が足りなかった。
 もっと1日が長ければいいのに、もっと1日がゆっくり過ぎればいいのに。
 それだけが不満で、毎日がとても充実していた。

 こんな贅沢な時間を過ごしていると、本当に今までとは全く違う遠い場所に来たのだとはっきりと実感してしまった。この贅沢な時間に罪悪感を覚えてしまう。

 本来ならそんな感傷に浸っている場合ではないだろう。
 これから入学するための面接が行われるのだから、そのことについて考えなければならない。

 この学園の入学者への面接は試験とは違う。
 面接は学園長、副学園長、入学希望の学部の学部長、副学部長の誰か1人が行う。
 この4人全員が留守か用事があって面接ができない場合は後日日を改めてまた学園に来るしかない。

 面接は型通りの質問しかされない。
 どこの誰か、学園に何をしに来たか、学園卒業後に何がしたいか、などの当たり障りのない質問だけ。
 余程態度が目に余るか、問題を起こすか、常識の無いことを言ったりしない限りは問題なく入学できる。

 そもそも面接時点でアウトな人材を推薦する人間はまずいない。
 そんなことをすれば推薦者自信の信用も地に落ちる。
 そんなことをわざとしそうな人間を推薦してしまったら、その推薦者は人を見る目が無いと宣伝してしまっているようなものだ。
 推薦者も自分の信用問題だから下手な人間を推薦することは絶対にしない。

 私の推薦者である領主の弟からそう教えられているので、入学できないかもしれないという試験前のような不安はあまり無い。

 しかし、不合格になるという不安はないが、変なことは絶対に言わないように気を付けなければという緊張感はある。
 この世界で生きてきて15年、それなりに一般常識は身に付いているが、田舎者だから思わぬ失態を犯してしまうかもしれない。
 絶対におかしなことをしないように気を付けなければ!
 試験前の緊張としては少し斜めな方向に緊張していた。

 その緊張も長い待ち時間のおかげで切れてしまいそうだ。

 実はこの待ち時間は試験です、とかいうことはないだろうか?
 待合室での態度を見て、受験者の素の状態を試験官がどこかから観察しているとか。
 どこのアイドル養成学校の入学試験だ、と自分に自分でツッコミを入れてしまった。
 前世の彼女の記憶の中にそんなお話の漫画か本があったことをなぜか突然思い出してしまった。

 5歳のときに見た前世の彼女の記憶は徐々に薄れている。5歳のときに一度見ただけの映画を10年経ってもはっきりと覚えている人はほとんどいないだろう。
 何度もあのとき見た彼女の記憶を思い返してはいたが、ルリエラという私の記憶が増えていくにつれて彼女の記憶は薄れていった。
 
 しかし、こんな風に突然思い出すこともある。
 こんなとき私の中に確かに彼女の存在を感じる。
 あれはただの夢や幻ではなく、現実に私の身に起こったことだと自覚できる。彼女は確かに存在して、彼女の世界である地球は本当に実在するのだと信じられる。彼女は私の妄想の産物ではないのだと安心できる。
 
 

 そんなことを考えていたらさらに30分経っていた。
 私の存在は忘れ去られてしまっているのではないかとさすがに不安に思ってきた。
 ここでこのまま座っているべきか、この部屋から出て誰か探しにいくべきかと真剣に悩み始めたところで扉がノックされた。

 
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