私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

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第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!

4 試験①

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 こちらの返事を待たずに扉が開かれた。
 入ってきたのは案内してくれた若い女性ではなく、神経質そうな中年の女性だった。

 返事をする前に入って来られたから、私はまだ座ったままだ。
 中年の女性はそんな私を責めるかのようにギロリと私を睨んだ。

 「準備ができたのでご案内します。皆様がお待ちなので急いでください」

 長時間待たせたことに対する形式的な謝罪もなく、早くしろと言わんばかりの冷たい口調で私を急がせる。

 中年女性のあまりにも失礼な態度に呆然としそうになったが、失礼極まりない女性は私を待たずにさっさと部屋から出て行ってしまった。
 私は慌てて立ち上がり、その中年女性の後を追いかけた。

 中年女性はカツカツと靴の音を響かせながら足早に歩いて行っている。
 私は走って必死に彼女の後ろに追いつき、小走りになりながら彼女の後を追い続けた。

 私と彼女とでは身長さがあり、歩幅が違うため、彼女は速足でも、私は小走り状態だ。
 初めての場所でどこへ行くのかも分からず、道も分からない状態では、ただ後を追うだけでも一苦労だ。
 近すぎるとぶつかる危険があるから、ある程度の距離をあけているが、彼女は突然廊下を右や左に曲がったり、階段を上ったり下りたり、まったくどのように動くのか予測が出来なくて行き過ぎそうになったり、見失いそうになる。

 待合室まで案内してくれた若い女性とは大違いだ。
 若い女性もずっと無言で、無駄なおしゃべりや過剰な気遣いは一切無かった。しかし、背後を歩いて付いていく人間に対しての一定の配慮は確かにあった。
 背後を気にしながらこちらのペースに合わせるようにゆっくりとコツコツと静かな足音で気を遣う様子で歩いていた。
 廊下を曲がるときや階段を上る前や階段から廊下へ行く時には必ず一度止まってこちらを振り返ってくれていた。

 中年女性は一度も後ろを振り返らず、私に一切の配慮をせずに目的地に向けて一人で歩いて行っているだけ。
 カツカツと甲高く無遠慮に響く靴音が彼女の苛立ちをこちらにしっかりと伝えてくる。

 私はその後ろを勝手に付いて行っているだけだ。
 これは案内とは呼べないだろう。

 実は長時間の待ち時間も案内人の失礼な態度も面接の一環なのか?
 一種の圧迫面接ということかもしれない。
 そうでも思わなければやっていられない。
 文句の一つでもこの案内人失格の女性に言ってやりたくなるのを必死に堪えて黙々と彼女の後を追いかけ続けた。

 どれだけの距離と時間を歩いただろうか。
 ずっと同じような白い壁と床の廊下と階段を上ったり下りたりしていて、今自分が一体どこにいるのか全く見当がつかない。
 中年女性を追いかけるのに必死で周囲を見る余裕が無かったから、目印になるような物も見つけることが出来なかった。
 今の私一人では待合室に戻ることも、学園の門から外に出ることもできない。
 この失礼極まりない女性は帰りも送ってくれるのだろうか?
 そんな不安を抱え始めたところで、やっと彼女の甲高い足音が聞こえなくなった。

 扉の前で立ち止まり、初めて後ろを振り返った。
「皆様がお待ちです。早く中へ入ってください」

 そう言って扉を開けられた。

  私は呼吸を調える時間も無く、状況も理解できないままで、少し息を切らせながら言われるがままにその扉から部屋の中へ一歩足を踏み入れた。

 踏み入れて部屋の中を見た瞬間、私の思考と動作と呼吸が停止してしまった。

 部屋の中には学園長か副学園長か理学部の学部長か副学部長の誰か1人だけがいるものだと思っていた。

 部屋はとても広くコの字型に机が配置されていて、30人近い人が椅子に座ってに私を見ている。
 コの字型に机が配置されているその真ん中に椅子が1つだけ置いてある。

 あそこに座れということなのか!

 私は事前に聞いていた面接の話との違いについていけずに固まってしまった。
 そんな私を見かねたのか、優しい声がかけられた。

 「長いことお待たせしましたね。準備に時間がかかってしまったの。ごめんなさいね。どうぞこちらに来て椅子にお掛けになってください」

 そう声を掛けてくれたのは、椅子が置かれている真正面に位置するコの字型の真ん中に座っている白髪の小柄な老齢の女性だ。
 ピリピリとした部屋の空気がこの女性の柔らかい声で一瞬中和された。

 位置的に1番偉い人が座る場所のようなので、静かな笑みを浮かべている柔和などこにでも居そうなおっとりとした老齢の女性が学園長なのだろう。

 声をかけられたことで私の思考と動作と呼吸が再起動する。

 「は、はい。失礼いたします」

 なんとか返事を絞り出し、一礼して部屋の真ん中の椅子の隣までギクシャクとしながらもゆっくりと歩いて行き、正面に再び一礼して椅子に浅く腰掛けた。

  私はただ学園に入学するための面接を受けに来ただけなのに、30人近い学園のお偉いさんに取り囲まれている。
 若い人や学生らしき人はいないので、全員が学園の何かの役職に就いている人物なのだろう。全員なんだか偉そうだ。
 男性も女性もいて、年齢もバラバラだが、全員がケープを身に付けている。色は何種類かあるようで、赤、青、黄、緑、黒など様々だ。ただし白色だけは無い。

 全員の視線が私に向いている。
 その視線は決して好意的なものではない。
 部屋の空気はピリピリと張りつめていて息苦しい。

 さて、これから一体何が始まるのだろうか?
 
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