私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

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第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!

8 冒険②

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 安堵と緊張感からの解放で気が緩んでいた私は背後から人が近づいてくる気配に気付くのが遅れてしまった。

 「お~い、そこのお嬢さん。ここで何しているのかな?」

 驚いて振り返ると見るからにガラの悪い男が壁にもたれかかって立っていた。ニタニタと下卑た笑みを浮かべている。
 私は返事をせずにその男から逃げようと前へと走った。

 しかし、横路から突然別の男が現れて、行く手を遮られてしまった。

 私の前と後ろを見るからにガラの悪い20代の若い男二人に挟まれてしまった。

 背後から追いかけてきた男が追いついてきて私に再び話しかけてくる。

 「田舎から出てきたばかりで何も知らないみたいだけどな~、ここを通るには通行料を俺たちに払ってもらわないといけないことになってるんだよ~」

 こんな人たちから見ても、私が田舎者だと丸わかりなのか!

 この状況を一瞬忘れて少し驚いてしまった。
 
 「通行料?でも、この道は私道ではないですよね?いったい誰の許可をもらってお金を徴収しているのですか?」
 「シドウ……?キョカ……?そんなことはどうでもいいんだよ!この道は俺たちの縄張りなんだ!黙って金を払いな!!」

 全く会話が成り立たない。逆切れされてしまった。
 仕方が無い。身の安全には変えられないので、こういった場合は素直にお金を渡してしまうに限る。

 「え~と、その通行料はいくらですか?」

 男達は顔を見合わせて黙り込んだ。絡む前に金額を決めておいてほしい。

 「あ~そうだな……、金貨一枚だ!」

 困った。金貨なんて持ってはいない。
 この国の貨幣は銅貨、銀貨、金貨と3種類あり、銅貨は小銅貨、中銅貨、大銅貨、銀貨は小銀貨、大銀貨、金貨は小金貨、大金貨と細かく分けると7種類ある。
 小銅貨10枚で中銅貨1枚、中銅貨10枚で大銅貨1枚、大銅貨10枚で小銀貨1枚、小銀貨10枚で大銀貨1枚、大銀貨10枚で小金貨1枚、小金貨10枚で大金貨1枚となっている。

 日本円で考えると、1円=小銅貨1枚、10円=中銅貨1枚、100円=大銅貨1枚、千円=小銀貨1枚、1万円=大銀貨1枚、10万円=小金貨1枚、100万円=大金貨1枚で換算できる。
 物価はものによって異なるが大体日本の10分の1くらいだ。屋台の小さなお菓子が1個小銅貨5枚ほど、食堂で昼食1食の値段が中銅貨5枚ほど、庶民向けの宿での一泊の値段が大銅貨5枚ほど。

 庶民なら銅貨だけで生活できる。銀貨でさえ見たこと、使ったことがあるという人間は稀だ。
 大金貨の存在を知らない人がほとんどで、普通の人が言う金貨とは小金貨を指す。彼らが言っている「金貨」というのも小金貨のことに違いない。

 私の財布には現在銅貨しか入っていない。小銅貨と中銅貨10枚ずつだけだ。
 全財産を持ち歩いて落とすか、盗まれる危険性の方が、あの宿に置いて盗まれる危険よりも高いと判断して置いてきていた。
 全財産を合わせたら小金貨数枚くらいはあるだろうが、それは領主から餞別としていただいたものだ。

 金貨なんてそこらの平民が普段から持ち歩いているようなものではない。
 通行料の金額を決めていなかった時点で、彼らの目的はお金ではなく別にあるようだ。
 私にはそれが何かは分からない。
 なるべく彼らを逆上させないようにして時間を稼ぎつつ、何とか大通りまで逃げられないかと考えを巡らせる。
 ひとまず会話を続けることにした。

 「金貨なんて持っていません!銅貨しかないですが、有り金を全部渡すのでそれでいいですか?」
 「ダメだダメだ。ここの通行料は金貨1枚だ!」
 「で、でも、そんな大金今持っていません!」
 「仕方ないな~。それが払えないって言うなら、体で払ってもらうしかないな~」

 そう言って男たちは揃って下卑た笑い声をあげた。

 男達の目的はお金ではなく、私の体。
 最低だ、最悪だ。思っても見なかった事態に一気に血の気が引いていく。
 男達の目的を知ると、恐怖が体の底から沸き起こってきて勝手に体が震え出した。
 逃げなくてはいけないのに、恐怖で全身が固まってしまい、足が動かない。
 動けたとしても、前も後ろも男に塞がれているから逃げ場が無い。
 万事休すだ!

 前後からゆっくりと近づいてくる男達から逃げることもできずにただその場で震えることしかできない。

 震えて怯える私を見て、男達の嗜虐心が煽られたのか、今にも舌なめずりしそうな顔で私の腕を捕ろうとしている。

 恐怖のあまり泣き出してしまいそうになっていた。
 せめてもの抵抗で、涙が流れ落ちないように目を力いっぱい閉じる。

 ドカッ、バタン、バキッ、ドサッ

 「無事か?」

 ガラの悪い男たちとは違う男の声が私に掛けられた。

 恐る恐る目を開くと、目の前にさっきまでいなかった青年がいる。
 その青年は黄金のような金髪、この世界の月のような赤い瞳、褐色の肌というこれまで見たことの無い特徴を持っている人間だ。

 口を開いて「大丈夫です」と言おうとした瞬間、地面に倒れている2人の男が目に入ってきた。
 意識が無いのかピクリともしていない。
 もしかしたら死んでいる!?

 口を開いたまま何も言えずに固まった私を見た青年は私の視線の先を見て、

 「ああ、そいつらなら大丈夫だ。ちょっと気絶させただけで、死んではいない」

 そう何でも無いことのように笑みを浮かべて答えてくれた。

 この青年の顔は非常に整っていて、美形だとはっきり宣言できる。そんな美形の笑みなのだが、青年が軽薄で酷薄な雰囲気を全体的に纏わせているせいで、胡散臭くて危険な印象を受けてしまう。

 状況的にこの青年が助けてくれたのだろうが、この青年が倒れている男たちと同じように危険な人物ではない保証はどこにもない。
 こんな目立つ人間と会ったことがあれば確実に記憶に残る。一目見掛けただけでも印象に残るだろう。
 それがないのだから、この青年とは初対面だ。
 彼が助けてくれた理由が分からない。

 私が青年に対して疑念と警戒と怯えを抱いたことを青年も敏感に感じ取ったのか、青年が私から一歩後ろへ下がり私と距離をとった。

 「大通りの近くまで送ってやるよ。俺の後ろを付いてこい」

 青年は私の態度には触れずに、軽い口調でそれだけ言って歩き出した。

 私は倒れている男の横を恐る恐る通り過ぎ、青年の後を追った。

 青年は何も言わない。
 私は何も言えない。

 二人の間には石畳を歩く硬い二人の靴音とその音が狭い通路に反響する音だけしか存在していない。

 私は青年の後ろを歩いているだけ、青年の背中しか見えない。
 それでも、青年の気遣いを感じることができた。
 
 ゆっくりと私の歩調に合わせた彼の歩き方。
 彼の背中越しに感じる周囲への警戒。

 彼の背中は誰かを守っている人間の背中に見えた。
 その誰かは私に違いない。
 彼は私を守ろうとしてくれている。

 そのことに気付いて私は彼に話しかけようとした。
 一呼吸分それよりも早く彼が足を止めて振り返って私に話しかけてきた。

 「ここまで来たらもう大丈夫だろう。この道をまっすぐ行けばすぐに大通りに出る」

 青年は私の真正面まで戻って来て、私の耳元に顔を近付けた。
 
 「冒険はほどほどにな。あと…………」

 青年から告げられた言葉に私が驚愕している間に青年は細い道の先へと姿を消してしまった。

 『あと、空を飛ぶのも場所と時間をもっと考えろ』

 私が理術を使っていた現場を青年に見られていた。

 
 
 




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