上 下
41 / 232
第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!

13 食堂

しおりを挟む
 翌朝、ライラと同じように日の出とともに起床した。

 「おはよう、ライラ姉ちゃん」

 「おはよう、ルリエラ。私は仕事があるからすぐに朝食を食べに行くけど、ルリエラはどうする?まだ寝とく?」

 「私も起きるよ。でも、私は朝食ってどうすればいいんだろう?」

 昨日の夕食はライラがどこからともなく食糧を調達してきてくれた。
 パンとチーズと林檎に似た手の平サイズの紫色の丸い果物と瓶に入った水をライラの部屋で食べた。
 味は可もなく不可もなかったが、久しぶりに誰かと一緒に気兼ねなく楽しく食事をしたので、最高に美味しく感じられた。
 
 今現在、私はお金は持っているけど学園内ではお店が無いから買って調達することはできない。手元には何の食糧も持っていない。しかし、これ以上ライラに頼るわけにはいかない。

 「学生なら学生食堂で食べられるよ。認定理術師なら講師専用の食堂も使えると思うけど?私と一緒でいいならここの使用人食堂で食べることもできるよ」

 「使用人でもないのにここで食べて大丈夫?」

 「大丈夫、大丈夫。使用人でもないのにわざわざ使用人食堂で食べる人なんていないから絶対にばれないよ」

 ライラが昨日のうちに調達しておいてくれた下働きの制服を借りてそれに着替えた。
 
 使用人達が寝泊まりしている使用人棟は学園の敷地の隅の日当たりの悪い目立たない場所にある。
 使用人の食堂は使用人棟の一階だ。二階部分から男女別に分かれているが一階は男女共用になっている。

 100人は入れそうな広い食堂に人がひしめき合っている。
 門衛や庭師の男性、洗濯場や調理場で働く女性など大勢の人がこの学園内で働いており、この学園の裏側を支えているのだと実感できる光景だ。

 私も周囲の人と同じようにお盆と皿を手に取り列に並ぶ。
 小学校の給食当番みたいに配膳する人がいて、先頭でパンとスープを皿に入れてもらい、空いている席に座って食べる。
 
 パンとスープだけの朝食で、全員が同じ食事で同じ量だ。
 
 パンは不純物が少なめで小麦の割合が高い。ふわふわとはしていないが、十分噛み千切れる程度の固さのパンだ。
 甘さはほとんど無く酸味がほんのりと感じられるくらいの味で、スープは孤児院で作っていた混沌スープとほぼ同じ味。

 パンがスープに浸して柔らかくしなければならない程には固くなく、パンに酸味が無い分、スープの味を誤魔化せない。

 パンとスープは別々に食べるのが普通のようで、スープの味を誤魔化せないなら別々に味わうほうがまだマシだ。私もパンとスープは別々に食べた。

 混沌スープをダイレクトに味わうことになり、ちょっと苦痛だった。

 「学生食堂や講師専用食堂ならここよりももっといいものが食べられると思うよ」

 ライラがなぜか申し訳なさそうに私にそう言った。
 たぶん、混沌スープの味は作り方が同じならあまり変わらないだろう。泊まっていた高級な宿でも混沌スープは混沌スープだった。
 私は基本的にいろんな野菜がごちゃ混ぜの混沌スープが苦手なのであって、この食事に不満があるわけではない。

 「朝からパンとスープが食べられるだけ贅沢だよ。孤児院だと朝はカースだけだよ」

 「そうだったね。私はカースって苦手だった。あんまり味がしないから」

 カースは地球のカラス麦に似た灰色麦を水で煮込んで、どろどろのお粥状態にした食べ物だ。味は生の米のような何とも形容しがたい味がする。

 「美味しいものではなかったよね。栄養価は高かっただろうし、お腹はそれなりに膨れたから良かったけど」

 「エイヨウカ?何それ?」
 
 食品に含まれているビタミンやミネラルや鉄分のことだよ、と言っても意味不明だろう。
 何と説明すればいいのか分からず適当に誤魔化して、話題を変えることにした。

 「学園内には食堂が全部で3つあるの?」

 「学生食堂は2つあるから全部で4つあるよ。学生食堂も講師専用食堂も着ているケープで使用許可の判断をされるから、使用人の格好では使用できないから注意してね」

 「気を付けるよ。食堂での支払いはどうするの?」

 「学園の関係者なら無料で食べられるみたい。この使用人食堂も支払いは必要ないよ。……こういったことは事務員から説明を受けると思うけど、聞いてないの?」

 事務員とはあの案内人失格の中年女性のことだろう。
 説明どころかほとんど会話をした記憶が無い。研究室に案内されて鍵を受け取っただけだ。

 ライラにそう説明すると、呆れながら腹を立てた。

 「本当に信じられない。職務怠慢じゃない。部屋の件といい有り得ない!事務員は貴族に連なる人間が多いからお高くとまってる人が多いの。仕事も私たちみたいな裏方ではなく、表の仕事が多いから私たちに対して偉そうにしているのよね。食堂も講師専用食堂を使えるし」

 事務員は秘書のような仕事内容なのだろう。手紙のやり取りなどで貴族文字の修得は必須だろうから、それなりの教養と知識は持っていないと仕事はできない。
 この世界でその教養と知識を得ることができるのは貴族学院に行ける人間がほとんどだ。
 事務員は貴族学院の卒業生がほとんどだろう。
  
 仕事とは別に、貴族でもない平民の私が彼らの上の立場になる認定理術師となることに不満を抱いていたからあのような失礼な態度だったのか。
 私が何かしてしまったせいかと気を揉んでいたが、これは私のせいではない。
 本人の職業意識の問題だ。

 事務員がこの食堂を使っていないのは私にとっては幸運だ。私の顔を知っている事務員と会うことが無いならば、認定理術師の私が下働きの格好をして使用人食堂で食事をしていることがばれることも無い。
 使用人食堂でこそこそと隠れることなく、堂々とのんびり食事ができる。

 「私にとっては好都合だ」とライラに説明すると、ライラも「そうだね」と同意して笑ってくれた。



 その後、ライラは掃除の仕事へ行き、私は下働きの格好のまま自分の研究室へ荷物を持って行った。

 私は領主から頂いた服に着替えて灰色のケープを纏う。

 事務員から情報を得るのは難しそうなので、自分の足で情報を得ることにした。

 この格好で学園内をいろいろ回ってみよう。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

改稿版 婚約破棄の代償

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,434pt お気に入り:856

あまり貞操観念ないけど別に良いよね?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,824pt お気に入り:2

【R-18】僕と彼女の隠れた性癖

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:660pt お気に入り:26

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:169,110pt お気に入り:7,829

ライゼン通りの錬金術師さん~錬金術工房はじめます~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:55

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:18,406pt お気に入り:3,526

処理中です...