私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

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第4章 私はただ真面目に稼ぎたいだけなのに!

24 糾弾②

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 どれくらいガイボーンが一人で独演会をやっていただろうか。

 ガイボーンが一人で延々と話し続けるので、誰も口を挟むことができない。
 ガイボーンの勢いがとどまるところを知らず、当事者の私でも反論すら出来ずに黙って聞いていることしかできないでいた。

 余りにもガイボーンが自分の世界に没頭して自分に酔って話し続けるので、司会進行役の副学園長がガイボーンの演説を途中で無理矢理止めさせるほどだった。

 ガイボーンの話す内容には私を処罰できるほどの明確な根拠は存在していない。私は何も罪を犯していないし、学園の決まり事に背いてもいない。
 故に、ガイボーンは感情論で心理的な印象操作によって私の非を作り出そうとしていた。
 
 人々の心理的な反発や反感や嫉妬を煽り、私への悪意や敵意などの負の感情を産み出し、私を孤立させて排除しようとしている。

 周囲を味方につけて、自分の主張を多数による支持と多数の意見ということで正当性を持たせようと画策していたとしか思えない。

 それは完全なる嫌がらせ以外の何物でもない。


 ガイボーンの目的は私を貶めることに違いない。
 この程度のことで認定理術師を辞めさせることはできないとガイボーンも分かっている。
 ただ私を貶めて、辱めて、虐めて、甚振って、孤立させたいだけ。

 私への悪い印象を持たせて、私を孤立させて、誰も私の味方にならないようにしている。
 私が力を持てないように、強くなれないように、弱い立場のままでいるように、そういう策略に思える。

 本当に私を辞任に追い込みたいのなら、事前の根回しが必要だし、もっと明確な証拠が必要だ。

 認定理術師の処分が多数決で決まることではないが、多数派の意見を無視することは学園長でも難しい。
 大勢の人間が私の行為を認定理術師失格だと責めたなら、私が認定理術師を辞めさせられるまではいかないだろうが、会議の出席者たちの面前で厳重注意くらいはされるかもしれない。

 ガイボーンの話した内容は事実だから、否定は簡単にはできない。

 しかし、裁くべき罪を犯しておらず、非難されるべき失態も晒しておらず、学園に害を及ぼしてもいない。

 私の行動は個人の自由な行動の範囲内のことでしかない。
 学園に所属する人間に許されている範囲の行いであり、何もこのように糾弾されるような問題ではない。
 
 ガイボーンはそれをわざわざ取り上げて持ち出して振り回して大事おおごとにしようとしている。

 学園の認定理術師として私が商会と商売を行うことは何の問題も無い。責められる事柄ではなく、罰される対象でもない。

 ただし、誉められたことでも、正しい行いということでもない。

 自分が研究した内容を学園で発表せずに、商人に渡してお金を稼ぐという行いは正しい行いではない。しかし、間違っているとまでは言えない。

 それを禁ずる学園のルールも無く、似たようなことは誰もがやっている。

 研究成果を発表した後に技術提供などを学園を通して行い、そこで学園と開発者が利益を得ることもある。
 学園の研究者や認定師たちは研究にしか興味がなく、そういった交渉事や儲け事に疎いこともあり、ほとんど学園側に丸投げしている。
 
 だから、そういう浮世離れして、世間知らずな人達には金儲けは卑しいことだと思い込んでいる部分も確かにある。



 ガイボーンは必死に私を悪人に仕立てあげて、恥をかかせ、貶めようとしていた。
 人格や生い立ちなどを攻撃材料にして、私が認定理術師に相応しくない人間だと口先だけで証明しようと過剰に演出を交えて熱弁していた。

 今のところ、そこしか私の弱点がないから、そこを攻めるしかない。

 私がここで正論で真正面からガイボーンに反論しても意味が無い。
 ガイボーンは一応、事実だけを語っていて、嘘は言っていない。

 私が「こちらは何も間違ったことはしていません。商会とのやり取りは学園の規則に反することではありません。個人の研究の成果は個人のものであり、それをどのように扱うかは個人の自由です。自分の研究成果の扱いを他人にとやかく言われる筋合いはありません。私の行いは何にも反していないし、罪を犯してもいません。一方的に難癖をつけるのは止めていただきたい」と主張しても分が悪い。

 間違ったことは言っていないのに、なぜか私の方が学園の決まりを悪用して悪事を働く悪者か、決まりの隙間を突いて私腹を肥やす悪党のようだ。
 ガイボーンの主張と真っ向から遣り合うのは分が悪い。正論を振りかざすことは悪手でしかない。

 既にガイボーンの演説によって私が悪だと植え付けられてしまった印象は正論だけでは簡単には拭い去れない。

 ガイボーンの話していた内容自体には嘘偽りは無いから、ガイボーンを正面から否定できない。

 ただ私的な感想部分で過剰に話を盛って私を所詮は孤児で平民で金に賤しい人間でしかないと強く印象付けるように語っただけ。

 同じ話でも、その相手に好意を抱く人と悪意を抱く人とでは話し方が変わる。

 ある人物が人助けしたという話でも、その人物に好意を抱く人なら「立派な行いで見習いたい」と語っても、悪意を抱く人なら「目立ちたがりで恥ずかしい行いで真似したくない」と語る場合、語る人間によって聞く人のその人物に対する印象は大きく変わってしまう。

 語り手というものは本当に多くの影響を周囲に与える。

 今のところ私に好意を抱いて、好意的に私のことを語ってくれる人というのはこの学園にはいない。

 悪意や害意を抱いて私のことを語る人間か、私個人には何の感情も抱いていないが話題として面白おかしく噂する人間くらいしかいない。

 絶対的な味方とまではいかなくても、多少は好意を抱いてもらえるように努力するべきかもしれない。

 ガイボーンの話をこのまま放置はできない。
 私にとっては今まで以上に味方を作り難くなってしまう。

 既に会議室は完全にガイボーンに圧倒されてガイボーンの空気に呑まれてしまっている。
 ガイボーンの感情が伝播して私へ批判的な空気に満ちている。
 

 私はそんな空気を意に介さずにぶった切るように勢いよく挙手をして発言の許可を求めた。

 


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