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第5章 私はただ青い色が好きなだけなのに!
10 答えの出ない問い④ 暗闇
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「自分は何者か?」「私は誰か?」
布団の中で目を瞑って考えても答えは簡単には浮かんでこない。
考えている間に何度も右へ左へ寝返りを打ち、仰向けになったりうつ伏せになったりして体勢を変えた。
頭の中がぐるぐると回っていたので、身体も釣られてぐるぐると動いてしまう。
私はベッドに仰向けの状態で暗闇の中で瞼を開いてみた。
何も見えない。
瞼を閉じているときと同じように真っ暗で何も見えない。
この世界では電気が無いので、夜は暗闇に完全に覆い尽くされている。
月が昇っていると薄っすらと赤く夜の闇を照らしてくれるし、星の光もたくさん夜空から降ってくるので建物の外の方が何も見えないほど闇が濃くない。
建物の中でカーテンを閉め切って外からの光を遮断していると完全に暗闇の中だ。
どれだけ目を開けていても闇に目が慣れることがない。ずっと真っ暗で何も見えないままだ。
目の前に自分の手を持って翳しても全く何も見えない。
そこに本当に手があるのかどうかさえ分からない。
自分が瞼を開けているのか閉じているのか分からなくなってくる。
自分の身体の輪郭すら全然見えない。闇と自分との境界線が分からない。自分がどこにいるのか分からなくなってくる。
まるで私の身体が闇の中に溶けて消えてしまったかのようだ。
本当に私は学園の自分の研究室のベッドの上に存在しているのだろうか?
自分のベッドに横たわっている感覚だけしか自分がここに存在しているということが分からない。
何も見えないから何も分からない。誰もいないから誰にも頼れない。
今私がどこにいるのか証明できるものが何も無い。
本当に私がこの暗闇の中で人の形を持って存在しているという証はどこにも無い。
自分が暗闇の中で意識だけが浮かんでいる存在になっていても分からない。
慣れない暗闇のせいで私は言い知れない恐怖に駆られてきた。
普段は寝付きがいいので、横になって灯りを消して目を閉じればすぐに眠りへと落ちていく。
こんなに眠れない夜はとても珍しい。
目が冴えてるわけではない。頭の中で考え込んでいるだけだから、眠気はある。
眠りたいのに眠れない。
眠気で考えに集中できないせいで意識が逸れて変なことまで考えてしまった。
早く答えの出ない問いに自分なりにケリをつけなければ眠れそうにない。
余計な考えを振り払うように私はしっかりと目を瞑った。
幼い頃に私が自分の胸の奥底に沈めたモノたち。不安と孤独、答えが見つけられない苦しみ、永遠の謎。
あの村から出たことで私はそれらと向き合う機会を得ることができた。
あの村ではたった一人だけしかいなかった黒髪と青い瞳の人間は村から出たら珍しくも何ともない。
ずっとあの村で生きていくつもりだったし、村から出る勇気も無かったから、私は村の外のことを考えようとしなかった。
考えればすぐに分かることなのに、同じ様な髪の色や瞳の色を持っている人同士でも孤独が無くなることはない。
私はあの村にいた時よりも、周りに同じ様な髪の色や瞳の色がいるこの学園都市にいるときの方が強い孤独を感じる。
自分が周りの人と違うということに捕らわれて、一人で勝手に孤独感に襲われていただけだった。
あの村には孤児院のシスターや子どもたち、村の友達、村の知り合いがいた。
私の居場所は確かにあった。
容姿に関係無く私の居場所があって、私を受け入れてくれる人たちがいて、私を仲間だと、村の一員だと認めてくれていた。
容姿に拘っていたのは私だけで、髪の色と瞳の色がみんなと違うと心の奥底で私を差別していたのは私自身だった。
私は村で独りぼっちでは無かった。孤立していなかった。ちゃんと自分とは違う髪と瞳の人たちの中に居場所があった。
一人で勝手に被害妄想して一人で一方的に絶望して被害者ぶっていただけだと気付いて恥ずかしくなる。
答えも出せないのに、そんなことで一人で悶えているうちに徐々に夜が明けてきた。
段々と暗闇が薄れて物の輪郭が分かるようになってきた。
自分の身体の輪郭も見えるようになり、私は心底安心した。
私はここにいる。確かに私はここに存在している。
そう確信できて安堵の溜め息が出た。
私は溜め息のついでに起き上がりベッドから下りる。
このままの状態では答えが出せそうにないので、もっと気持ちを落ち着かせるために気分転換することにした。
私は物音を立てないように気を付けながら寝間着から普段着へと素早く着替える。
髪は軽く櫛でといて、無意識に手に取った青い紐で髪の先の方を一つに束ねて左肩から前に垂らした。
ケープまでは流石に羽織る必要は無いと判断し、私は何も羽織らずに寝室の扉を開けて外へ出た。
まだ完全に日が昇ってはいない早朝なのでライラはまだ眠っているはずだ。
本当ならライラが朝食の支度を終えて私を起こしに来るまではベッドの上にいなければならない。
最初は私もライラと同じ時間に起きてライラと一緒に朝食の準備をすると言ったら怒られた。
主人である私が早起きするなら、使用人であるライラは私よりももっと早く起きなければならない。どんなに朝早くても主人よりも寝ている使用人は寝坊であり、遅刻であり、使用人失格となってしまう。
でも、寝てもいないのにベッドの上に居続けるのは流石に時間が勿体無いので、ライラと話し合った結果ある程度の支度をして寝室で待機することでお互いに妥協した。
だから、私がこうして起きていることがライラにばれたら大変だ。怒られる。
だから、私はライラに気付かれないように、ライラを起こさないように、慎重に物音を立てないように動いて研究室の外へ出た。
研究室の外は他人と共用の廊下だ。
寝間着のままでは出ることはできない。
もし、寝間着姿を寝室の外で誰かに見られたら、あまりにも非常識で品の無い行動で頭がおかしくなったのかと疑われてしまう。
起きたときよりも闇が薄れている。
日の出が見たかったが、慎重に着替えて部屋を出る間に日は昇ってしまったようだ。
私は残念に思いながらも屋上へと向かって静かに廊下を歩き出した。
布団の中で目を瞑って考えても答えは簡単には浮かんでこない。
考えている間に何度も右へ左へ寝返りを打ち、仰向けになったりうつ伏せになったりして体勢を変えた。
頭の中がぐるぐると回っていたので、身体も釣られてぐるぐると動いてしまう。
私はベッドに仰向けの状態で暗闇の中で瞼を開いてみた。
何も見えない。
瞼を閉じているときと同じように真っ暗で何も見えない。
この世界では電気が無いので、夜は暗闇に完全に覆い尽くされている。
月が昇っていると薄っすらと赤く夜の闇を照らしてくれるし、星の光もたくさん夜空から降ってくるので建物の外の方が何も見えないほど闇が濃くない。
建物の中でカーテンを閉め切って外からの光を遮断していると完全に暗闇の中だ。
どれだけ目を開けていても闇に目が慣れることがない。ずっと真っ暗で何も見えないままだ。
目の前に自分の手を持って翳しても全く何も見えない。
そこに本当に手があるのかどうかさえ分からない。
自分が瞼を開けているのか閉じているのか分からなくなってくる。
自分の身体の輪郭すら全然見えない。闇と自分との境界線が分からない。自分がどこにいるのか分からなくなってくる。
まるで私の身体が闇の中に溶けて消えてしまったかのようだ。
本当に私は学園の自分の研究室のベッドの上に存在しているのだろうか?
自分のベッドに横たわっている感覚だけしか自分がここに存在しているということが分からない。
何も見えないから何も分からない。誰もいないから誰にも頼れない。
今私がどこにいるのか証明できるものが何も無い。
本当に私がこの暗闇の中で人の形を持って存在しているという証はどこにも無い。
自分が暗闇の中で意識だけが浮かんでいる存在になっていても分からない。
慣れない暗闇のせいで私は言い知れない恐怖に駆られてきた。
普段は寝付きがいいので、横になって灯りを消して目を閉じればすぐに眠りへと落ちていく。
こんなに眠れない夜はとても珍しい。
目が冴えてるわけではない。頭の中で考え込んでいるだけだから、眠気はある。
眠りたいのに眠れない。
眠気で考えに集中できないせいで意識が逸れて変なことまで考えてしまった。
早く答えの出ない問いに自分なりにケリをつけなければ眠れそうにない。
余計な考えを振り払うように私はしっかりと目を瞑った。
幼い頃に私が自分の胸の奥底に沈めたモノたち。不安と孤独、答えが見つけられない苦しみ、永遠の謎。
あの村から出たことで私はそれらと向き合う機会を得ることができた。
あの村ではたった一人だけしかいなかった黒髪と青い瞳の人間は村から出たら珍しくも何ともない。
ずっとあの村で生きていくつもりだったし、村から出る勇気も無かったから、私は村の外のことを考えようとしなかった。
考えればすぐに分かることなのに、同じ様な髪の色や瞳の色を持っている人同士でも孤独が無くなることはない。
私はあの村にいた時よりも、周りに同じ様な髪の色や瞳の色がいるこの学園都市にいるときの方が強い孤独を感じる。
自分が周りの人と違うということに捕らわれて、一人で勝手に孤独感に襲われていただけだった。
あの村には孤児院のシスターや子どもたち、村の友達、村の知り合いがいた。
私の居場所は確かにあった。
容姿に関係無く私の居場所があって、私を受け入れてくれる人たちがいて、私を仲間だと、村の一員だと認めてくれていた。
容姿に拘っていたのは私だけで、髪の色と瞳の色がみんなと違うと心の奥底で私を差別していたのは私自身だった。
私は村で独りぼっちでは無かった。孤立していなかった。ちゃんと自分とは違う髪と瞳の人たちの中に居場所があった。
一人で勝手に被害妄想して一人で一方的に絶望して被害者ぶっていただけだと気付いて恥ずかしくなる。
答えも出せないのに、そんなことで一人で悶えているうちに徐々に夜が明けてきた。
段々と暗闇が薄れて物の輪郭が分かるようになってきた。
自分の身体の輪郭も見えるようになり、私は心底安心した。
私はここにいる。確かに私はここに存在している。
そう確信できて安堵の溜め息が出た。
私は溜め息のついでに起き上がりベッドから下りる。
このままの状態では答えが出せそうにないので、もっと気持ちを落ち着かせるために気分転換することにした。
私は物音を立てないように気を付けながら寝間着から普段着へと素早く着替える。
髪は軽く櫛でといて、無意識に手に取った青い紐で髪の先の方を一つに束ねて左肩から前に垂らした。
ケープまでは流石に羽織る必要は無いと判断し、私は何も羽織らずに寝室の扉を開けて外へ出た。
まだ完全に日が昇ってはいない早朝なのでライラはまだ眠っているはずだ。
本当ならライラが朝食の支度を終えて私を起こしに来るまではベッドの上にいなければならない。
最初は私もライラと同じ時間に起きてライラと一緒に朝食の準備をすると言ったら怒られた。
主人である私が早起きするなら、使用人であるライラは私よりももっと早く起きなければならない。どんなに朝早くても主人よりも寝ている使用人は寝坊であり、遅刻であり、使用人失格となってしまう。
でも、寝てもいないのにベッドの上に居続けるのは流石に時間が勿体無いので、ライラと話し合った結果ある程度の支度をして寝室で待機することでお互いに妥協した。
だから、私がこうして起きていることがライラにばれたら大変だ。怒られる。
だから、私はライラに気付かれないように、ライラを起こさないように、慎重に物音を立てないように動いて研究室の外へ出た。
研究室の外は他人と共用の廊下だ。
寝間着のままでは出ることはできない。
もし、寝間着姿を寝室の外で誰かに見られたら、あまりにも非常識で品の無い行動で頭がおかしくなったのかと疑われてしまう。
起きたときよりも闇が薄れている。
日の出が見たかったが、慎重に着替えて部屋を出る間に日は昇ってしまったようだ。
私は残念に思いながらも屋上へと向かって静かに廊下を歩き出した。
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