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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに
15 臆病者
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ジュリアーナとの話し合いの翌日、私は学園の図書館へ赴き本を探していた。
ジュリアーナに訊けなかったことを調べるために。
あの時にどうしてもジュリアーナに訊けなかったことが3つある。
1つ目は「なぜジュリアーナはリース男爵夫妻に娘の居場所を知らせなかったのか」
2つ目は「なぜジュリアーナとマルコシアスは婚約破棄したのか」
3つ目は「なぜジュリアーナは南部辺境伯の爵位継承をせずに国外に嫁がされたのか」
1つ目の疑問は私にも関係する事柄だ。
なぜジュリアーナは屋敷の前に捨てられていた赤ん坊がリース家の娘だと知った後に親元へ行方不明の娘の情報を教えなかったのかという疑問があのときに自然と浮かんできた。
ジュリアーナの性格なら行方不明の娘を心配している親に娘の居場所を伝えそうだと思ったからだ。
でも、時間を置いて冷静に考えればその解答は簡単に推測できた。
ジュリアーナと婚約破棄した元婚約者。
その元婚約者のことを「裏切者」と呼ぶ婚約者の父親。
両者が険悪な仲であることは簡単に推察できる。
バカ正直に私のことを元婚約者に伝えたらジュリアーナが私を攫ったと疑われる危険性がある。
それに、最初の誘拐の犯人も判明していない。リース男爵夫妻の娘を攫ってジュリアーナの屋敷の前に捨てた犯人も犯人の動機も犯行理由も目的も何も分かっていない。
犯人がリース男爵夫妻本人である可能性も考えられる中で信用できない相手に被害者の行方を教えることなど出来るはずがない。
南部辺境伯は最初の誘拐犯から私とジュリアーナを守るため、私のことはついでで大半は自分の娘であるジュリアーナのために私をジュリアーナから引き離して孤児院へ預けたのではないだろうか。
これは南部辺境伯に訊かなければ分からないからジュリアーナに質問しても意味はない。
いや、これらは全て言い訳だ。
私はジュリアーナにリース男爵夫妻のことを訊くのが怖くて訊けなかった。
私はリース男爵夫妻の話題をジュリアーナにぶつけられなかっただけだ。
ジュリアーナはリース男爵夫妻について何も話さなかった。
マルコシアスと再従兄弟であることと婚約破棄したという事実だけを淡々と語っただけだった。
私はジュリアーナから全てを打ち明けられたわけではない。
まだ私は信用が足りていない。
そして、私にもその資格が無い。まだ私自身に何もかもが足りていない。
話を聞く資格が無い。
尋ねる資格が無い。
覚悟も力も足りていない。
ジュリアーナを傷つけてでも、無理矢理聞き出すという覚悟も、その話を受け止める覚悟も足りない。
勇気も足りていない。
情報も知識も足りていない。
対処するだけの実力も能力も足りていない。
私は愚か者で臆病者だ。
ジュリアーナに過去を問うことができなかった。
ジュリアーナから訊くべきだということは分かっていた。必要性があることは理解していた。
でも、私が生まれる前のジュリアーナのプライベートなことであり、そこを土足で踏み荒らすことに躊躇してしまった。
私はジュリアーナを傷つけることを恐れた。
ジュリアーナが傷付いても、私にはジュリアーナの傷を軽くすることができない。癒す自信も治す自信も慰める自信も無い。
私はどうしてもこれ以上ジュリアーナを傷つけたくなかった。苦しめたくなかった。
訊かないことで自分が不利になるとしてもできなかった。
「なぜ婚約破棄したのか」「なぜ爵位を継がなかった、継げなかったのか」
この2点はジュリアーナにとってとても辛い過去だと察せられる。
私には直接的な関りは無くても、因果関係はある。
今の私の状況とどこかで繋がっている。
知らないままでいることは危険だから、知る必要がある。
知らないまま放置しておくことは愚かな選択でしかない。
でも、訊けなかった。
この質問が彼女をどれだけ傷つけて苦しめるのか予想ができない。
何の情報も知識も持っていないから、何も予測が立てられない。
無知だから許されると甘えて傷つけたくはない。ジュリアーナにこれ以上甘えたくない。
そんな甘えは自分が許せない。
訊かない私は愚か者でしかないと自分でも思う。
勢いのままに訊いてしまえばきっと答えてくれたはず。
でも、そんな甘えたことをしたら本当の愚か者になる。
前世の彼女の記憶の中にある小説などの物語でよく主人公がヒロインに「言いたくないなら言わなくていい。自分から話したくなったら話してくれればいい」と語り掛けて重大な事実をそのまま放置する展開があった。
そして、主人公は重大な事実を知らないことで窮地に陥っていた。
そんな場面で前世の彼女は『そんな重要なことをどうして無理矢理にでも聞き出さないのか理解ができない!』と憤っていた。
単なる読者であっても主人公の何も聞かないという選択は愚かに思えるものだ。
大体の物語の中では主人公の愚かな選択は主人公の優しさ故にヒロインを傷付けないためと描写されていた。
でも、同じような立場になって考えると、それは優しさではなく愚かさと弱さ故だと分かる。
問題の本質を無視して面倒なことを後回しにしているだけ。
相手から辛い過去や秘密を聞き出すことで相手を傷付けること、自分が相手に嫌われることを恐れているだけ。
相手に辛い過去や重大な秘密を打ち明けられて、それを一緒に背負い対処する自信がないだけ。
自分がまさにそれだ。
私はジュリアーナを傷付けたくない。苦しませたくない。だからジュリアーナの過去について尋ねなかった。
それは「優しさ」ではなく、「愚かさ」と「弱さ」だった。
問題を見て見ぬふりして、後回しにしてしまった。
ジュリアーナの辛い過去に自分の産みの親が関わっていることを知る勇気が無かった。その事実を背負う覚悟が無かった。
ジュリアーナの屋敷から自分の部屋に戻り、ジュリアーナに訊けなかったことを後悔した後、このままではいけないと思った。
だから、私はジュリアーナに尋ねるための勇気を出すために情報収集をしている。
ある程度の予測を立てて自分の心の準備を万全に整え、しっかりと勇気を奮い立たせなければならない。
婚約破棄に関してはリース男爵夫妻当人を見て、マルコシアス・リース男爵の不貞か何かが原因だろうと容易に推測できる。
問題なのはジュリアーナがマルコシアスのことを政略結婚の相手としか見ていなかったのか、それとも恋愛感情を抱いていたかだ。これは当人にしか分からない。本で調べることは不可能だ。
だが、婚約破棄よりも問題なのはジュリアーナが爵位継承できなかったことだ。
爵位継承ができなかった原因が婚約破棄にあるのか、それとも全く別の原因があるのか。
それによってリース男爵夫妻の罪の重さも変わってくる。
婚約破棄によってジュリアーナの体面を傷付けただけでなく、ジュリアーナの心、ジュリアーナの未来まで壊したのだろうか。
婚約破棄と爵位継承の関係が分からないと私はジュリアーナにリース男爵夫妻について尋ねることができない。訊く勇気が出せない。
私はジュリアーナを傷付けてでも過去を聞き出す勇気と自分にとって不都合な真実を知りそれを背負う勇気を得るために、爵位継承について図書館で法律を調べている。
私は心のどこかで臆病な自分に呆れながら普段は縁もゆかりも無い法律関係の本棚から爵位継承に関する本を必死に探した。
ジュリアーナに訊けなかったことを調べるために。
あの時にどうしてもジュリアーナに訊けなかったことが3つある。
1つ目は「なぜジュリアーナはリース男爵夫妻に娘の居場所を知らせなかったのか」
2つ目は「なぜジュリアーナとマルコシアスは婚約破棄したのか」
3つ目は「なぜジュリアーナは南部辺境伯の爵位継承をせずに国外に嫁がされたのか」
1つ目の疑問は私にも関係する事柄だ。
なぜジュリアーナは屋敷の前に捨てられていた赤ん坊がリース家の娘だと知った後に親元へ行方不明の娘の情報を教えなかったのかという疑問があのときに自然と浮かんできた。
ジュリアーナの性格なら行方不明の娘を心配している親に娘の居場所を伝えそうだと思ったからだ。
でも、時間を置いて冷静に考えればその解答は簡単に推測できた。
ジュリアーナと婚約破棄した元婚約者。
その元婚約者のことを「裏切者」と呼ぶ婚約者の父親。
両者が険悪な仲であることは簡単に推察できる。
バカ正直に私のことを元婚約者に伝えたらジュリアーナが私を攫ったと疑われる危険性がある。
それに、最初の誘拐の犯人も判明していない。リース男爵夫妻の娘を攫ってジュリアーナの屋敷の前に捨てた犯人も犯人の動機も犯行理由も目的も何も分かっていない。
犯人がリース男爵夫妻本人である可能性も考えられる中で信用できない相手に被害者の行方を教えることなど出来るはずがない。
南部辺境伯は最初の誘拐犯から私とジュリアーナを守るため、私のことはついでで大半は自分の娘であるジュリアーナのために私をジュリアーナから引き離して孤児院へ預けたのではないだろうか。
これは南部辺境伯に訊かなければ分からないからジュリアーナに質問しても意味はない。
いや、これらは全て言い訳だ。
私はジュリアーナにリース男爵夫妻のことを訊くのが怖くて訊けなかった。
私はリース男爵夫妻の話題をジュリアーナにぶつけられなかっただけだ。
ジュリアーナはリース男爵夫妻について何も話さなかった。
マルコシアスと再従兄弟であることと婚約破棄したという事実だけを淡々と語っただけだった。
私はジュリアーナから全てを打ち明けられたわけではない。
まだ私は信用が足りていない。
そして、私にもその資格が無い。まだ私自身に何もかもが足りていない。
話を聞く資格が無い。
尋ねる資格が無い。
覚悟も力も足りていない。
ジュリアーナを傷つけてでも、無理矢理聞き出すという覚悟も、その話を受け止める覚悟も足りない。
勇気も足りていない。
情報も知識も足りていない。
対処するだけの実力も能力も足りていない。
私は愚か者で臆病者だ。
ジュリアーナに過去を問うことができなかった。
ジュリアーナから訊くべきだということは分かっていた。必要性があることは理解していた。
でも、私が生まれる前のジュリアーナのプライベートなことであり、そこを土足で踏み荒らすことに躊躇してしまった。
私はジュリアーナを傷つけることを恐れた。
ジュリアーナが傷付いても、私にはジュリアーナの傷を軽くすることができない。癒す自信も治す自信も慰める自信も無い。
私はどうしてもこれ以上ジュリアーナを傷つけたくなかった。苦しめたくなかった。
訊かないことで自分が不利になるとしてもできなかった。
「なぜ婚約破棄したのか」「なぜ爵位を継がなかった、継げなかったのか」
この2点はジュリアーナにとってとても辛い過去だと察せられる。
私には直接的な関りは無くても、因果関係はある。
今の私の状況とどこかで繋がっている。
知らないままでいることは危険だから、知る必要がある。
知らないまま放置しておくことは愚かな選択でしかない。
でも、訊けなかった。
この質問が彼女をどれだけ傷つけて苦しめるのか予想ができない。
何の情報も知識も持っていないから、何も予測が立てられない。
無知だから許されると甘えて傷つけたくはない。ジュリアーナにこれ以上甘えたくない。
そんな甘えは自分が許せない。
訊かない私は愚か者でしかないと自分でも思う。
勢いのままに訊いてしまえばきっと答えてくれたはず。
でも、そんな甘えたことをしたら本当の愚か者になる。
前世の彼女の記憶の中にある小説などの物語でよく主人公がヒロインに「言いたくないなら言わなくていい。自分から話したくなったら話してくれればいい」と語り掛けて重大な事実をそのまま放置する展開があった。
そして、主人公は重大な事実を知らないことで窮地に陥っていた。
そんな場面で前世の彼女は『そんな重要なことをどうして無理矢理にでも聞き出さないのか理解ができない!』と憤っていた。
単なる読者であっても主人公の何も聞かないという選択は愚かに思えるものだ。
大体の物語の中では主人公の愚かな選択は主人公の優しさ故にヒロインを傷付けないためと描写されていた。
でも、同じような立場になって考えると、それは優しさではなく愚かさと弱さ故だと分かる。
問題の本質を無視して面倒なことを後回しにしているだけ。
相手から辛い過去や秘密を聞き出すことで相手を傷付けること、自分が相手に嫌われることを恐れているだけ。
相手に辛い過去や重大な秘密を打ち明けられて、それを一緒に背負い対処する自信がないだけ。
自分がまさにそれだ。
私はジュリアーナを傷付けたくない。苦しませたくない。だからジュリアーナの過去について尋ねなかった。
それは「優しさ」ではなく、「愚かさ」と「弱さ」だった。
問題を見て見ぬふりして、後回しにしてしまった。
ジュリアーナの辛い過去に自分の産みの親が関わっていることを知る勇気が無かった。その事実を背負う覚悟が無かった。
ジュリアーナの屋敷から自分の部屋に戻り、ジュリアーナに訊けなかったことを後悔した後、このままではいけないと思った。
だから、私はジュリアーナに尋ねるための勇気を出すために情報収集をしている。
ある程度の予測を立てて自分の心の準備を万全に整え、しっかりと勇気を奮い立たせなければならない。
婚約破棄に関してはリース男爵夫妻当人を見て、マルコシアス・リース男爵の不貞か何かが原因だろうと容易に推測できる。
問題なのはジュリアーナがマルコシアスのことを政略結婚の相手としか見ていなかったのか、それとも恋愛感情を抱いていたかだ。これは当人にしか分からない。本で調べることは不可能だ。
だが、婚約破棄よりも問題なのはジュリアーナが爵位継承できなかったことだ。
爵位継承ができなかった原因が婚約破棄にあるのか、それとも全く別の原因があるのか。
それによってリース男爵夫妻の罪の重さも変わってくる。
婚約破棄によってジュリアーナの体面を傷付けただけでなく、ジュリアーナの心、ジュリアーナの未来まで壊したのだろうか。
婚約破棄と爵位継承の関係が分からないと私はジュリアーナにリース男爵夫妻について尋ねることができない。訊く勇気が出せない。
私はジュリアーナを傷付けてでも過去を聞き出す勇気と自分にとって不都合な真実を知りそれを背負う勇気を得るために、爵位継承について図書館で法律を調べている。
私は心のどこかで臆病な自分に呆れながら普段は縁もゆかりも無い法律関係の本棚から爵位継承に関する本を必死に探した。
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