私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

文字の大きさ
186 / 261
第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに

25 提案⑧ 条件

しおりを挟む
 私はこれまでの南部辺境伯とのやり取りを総合的に判断して、南部辺境伯の提案を受け入れたいと思う。

 南部辺境伯と養子縁組すれば、リース男爵夫妻や北部辺境伯家の人たちは簡単には私に手を出せなくなる。
 空を飛ぶ研究を認定理術師として学園で続けることができる。
 ジュリアーナとの共同経営のカフェをこのまま続けることができる。

 南部辺境伯の提案を受け入れれば、私が望むこれまで通りの生活を続けることができる。

 南部辺境伯が養子縁組によって私に望むことがまさにこれまで通りの生活を送ること。

 南部辺境伯が私に真実(ジュリアーナの愛)を背負ってこれまで通りに生きることを望むのはジュリアーナの幸せのため。
 南部辺境伯は私にジュリアーナを裏切らないこと、ジュリアーナを傷付けないこと、ジュリアーナと仲良くすることを求めている。

 それは私自身の望みとも一致するので何の負担も無い。南部辺境伯と養子縁組しなくても私は南部辺境伯の望み通りの、私が望むままに行動するのだから、私には何の問題も起きない。

 南部辺境伯の提案はこちらには利しかない。私にとって不利なことは全く無い。
 私にとっては得ばかりの都合の良い提案だ。
 この提案を受けない手は無い。

 しかし、ただ一つだけ懸念事項がある。

 このまま南部辺境伯の提案を受け入れたら、どうしても看過できない問題が発生する恐れがある。

 だから、私は南部辺境伯にこちらから提案する。

 「南部辺境伯、私は南部辺境伯からのご提案を受け入れたいと思います。ただし、一つだけ条件があります」

 「ほう、条件があると?いったいどんな条件なのかな?」

 南部辺境伯は私の提案に面白そうな口調と表情を浮かべているが、目だけは笑っていない。
 顔は笑っているのに全身から威圧感が漏れて、私にプレッシャーをかけてきた。

 言外に「下手な条件を提示してきたらただでは置かない」と脅してきている。

 私は特に疚しいことは無いので、そんなプレッシャーも脅迫も気にせず、南部辺境伯の表面上の笑顔に笑顔を返して答える。

 「私からの条件はただ一つです。『南部辺境伯との養子縁組にジュリアーナを通すこと』だけです」

 私が提示した条件に南部辺境伯は一転して怪訝そうな顔をする。

 「それはどういう意味だ?この養子縁組は儂と其方との問題だ。ジュリアーナは関係無いだろう。なぜジュリアーナを巻き込もうとする?」

 「私は既にジュリアーナに私の養子縁組相手を探してほしいと依頼しています。それなのにジュリアーナの頭越しにジュリアーナを除け者にして私と南部辺境伯が養子縁組を決めてしまうのはあまりにもジュリアーナに対して不義理を働くことになります。
 南部辺境伯は私ではなく、ジュリアーナに私との養子縁組を申し出てください。それでジュリアーナから南部辺境伯を養子縁組相手として紹介されれば私は南部辺境伯と養子縁組致します」

 私の提示した条件とその理由に南部辺境伯は難しい顔をしている。

 私が自分の利益のためではなく、ジュリアーナとの間の道理を通そうとしての提案だから無下にはできないのだろう。

 しかし、そう簡単に呑める条件でもないようだ。

 このまま私が南部辺境伯と養子縁組して、それをジュリアーナに事後報告すれば、ジュリアーナとしては素直に受け入れることはできないだろう。
 下手したら私とジュリアーナの関係まで拗れてしまうかもしれない。

 それくらいジュリアーナの父親へ対する感情は複雑に見える。

 南部辺境伯がジュリアーナに自分が私の養子縁組相手になると立候補したとしても、簡単にはジュリアーナは受け入れないに違いない。

 それでも、私にとって最良の養子先であり、私にとって不利益がないことを頭で理解すれば最終的に自分の感情は呑み込んで私の養子縁組相手としてジュリアーナが私に紹介するだろう。
 自分の感情だけで私の養子縁組相手を決めることはジュリアーナはしない。
 私にとって最良の養子縁組相手を自分の感情だけで潰すことをジュリアーナはしないはずだ。

 私はそうジュリアーナを信じている。

 だから、私にとってこの条件に不安はない。

 南部辺境伯にとっても何の問題も無いはずだ。
 後ろ暗い思惑があるのではないのだから、堂々とジュリアーナに恩を売るようにして私の養子縁組相手に立候補すればいい。
 正直に「ジュリアーナのため」に私を養子にするとは言えなくても、何かしらそれらしい理由をつけることは難しくはないはずだ。

 それなのに南部辺境伯はまだ難しい顔をして悩んでいる。

 私が考えている以上にジュリアーナと南部辺境伯との関係は拗れているのかもしれない。

 でも、それなら尚更事前にジュリアーナに話を通しておいてもらわなければ私が南部辺境伯と養子縁組することはできない。

 私はジュリアーナとの仲を悪化させたくはない。
 ジュリアーナに変な勘違いもされたくはないので、南部辺境伯には何とか頑張ってジュリアーナと話をしてもらわなくてはならない。

 下手したらジュリアーナの幸せを南部辺境伯と私が壊してしまいかねない。

 だから、私はどれだけ南部辺境伯が悩もうとこの条件を撤回する気はない。南部辺境伯がこの条件を受け入れないならば残念ながら南部辺境伯との養子縁組は諦めるしかないだろう。

 私はただ南部辺境伯が私の提示した条件を受け入れてくれるのを静かに待った。

 幸いにもそれ程長い時間待つこと無く、南部辺境伯は苦悩に満ちた表情を浮かべたままで「分かった。その条件を呑もう。儂からジュリアーナへ話を通しておく」と言ってくれた。

 南部辺境伯が何をそこまで苦しんでいるのか理解ができないが、条件を了承してくれたので一安心だ。

 これでほぼ私の養子縁組先は決まった。

 事前に作成して頭の中に保管していた南部辺境伯に聞きたかった質問リストもあらかた消化された。

 心配ごともやるべきことも不安だったことも緊張することも一段落がついて、私はやっと一息ついた。

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ウォーキング・オブ・ザ・ヒーロー!ウォークゲーマーの僕は今日もゲーム(スキル)の為に異世界を歩く

まったりー
ファンタジー
主人公はウォークゲームを楽しむ高校生、ある時学校の教室で異世界召喚され、クラス全員が異世界に行ってしまいます。 国王様が魔王を倒してくれと頼んできてステータスを確認しますが、主人公はウォーク人という良く分からない職業で、スキルもウォークスキルと記され国王は分からず、いらないと判定します、何が出来るのかと聞かれた主人公は、ポイントで交換できるアイテムを出そうとしますが、交換しようとしたのがパンだった為、またまた要らないと言われてしまい、今度は城からも追い出されます。 主人公は気にせず、ウォークスキルをゲームと同列だと考え異世界で旅をします。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...