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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに
25 提案⑧ 条件
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私はこれまでの南部辺境伯とのやり取りを総合的に判断して、南部辺境伯の提案を受け入れたいと思う。
南部辺境伯と養子縁組すれば、リース男爵夫妻や北部辺境伯家の人たちは簡単には私に手を出せなくなる。
空を飛ぶ研究を認定理術師として学園で続けることができる。
ジュリアーナとの共同経営のカフェをこのまま続けることができる。
南部辺境伯の提案を受け入れれば、私が望むこれまで通りの生活を続けることができる。
南部辺境伯が養子縁組によって私に望むことがまさにこれまで通りの生活を送ること。
南部辺境伯が私に真実(ジュリアーナの愛)を背負ってこれまで通りに生きることを望むのはジュリアーナの幸せのため。
南部辺境伯は私にジュリアーナを裏切らないこと、ジュリアーナを傷付けないこと、ジュリアーナと仲良くすることを求めている。
それは私自身の望みとも一致するので何の負担も無い。南部辺境伯と養子縁組しなくても私は南部辺境伯の望み通りの、私が望むままに行動するのだから、私には何の問題も起きない。
南部辺境伯の提案はこちらには利しかない。私にとって不利なことは全く無い。
私にとっては得ばかりの都合の良い提案だ。
この提案を受けない手は無い。
しかし、ただ一つだけ懸念事項がある。
このまま南部辺境伯の提案を受け入れたら、どうしても看過できない問題が発生する恐れがある。
だから、私は南部辺境伯にこちらから提案する。
「南部辺境伯、私は南部辺境伯からのご提案を受け入れたいと思います。ただし、一つだけ条件があります」
「ほう、条件があると?いったいどんな条件なのかな?」
南部辺境伯は私の提案に面白そうな口調と表情を浮かべているが、目だけは笑っていない。
顔は笑っているのに全身から威圧感が漏れて、私にプレッシャーをかけてきた。
言外に「下手な条件を提示してきたらただでは置かない」と脅してきている。
私は特に疚しいことは無いので、そんなプレッシャーも脅迫も気にせず、南部辺境伯の表面上の笑顔に笑顔を返して答える。
「私からの条件はただ一つです。『南部辺境伯との養子縁組にジュリアーナを通すこと』だけです」
私が提示した条件に南部辺境伯は一転して怪訝そうな顔をする。
「それはどういう意味だ?この養子縁組は儂と其方との問題だ。ジュリアーナは関係無いだろう。なぜジュリアーナを巻き込もうとする?」
「私は既にジュリアーナに私の養子縁組相手を探してほしいと依頼しています。それなのにジュリアーナの頭越しにジュリアーナを除け者にして私と南部辺境伯が養子縁組を決めてしまうのはあまりにもジュリアーナに対して不義理を働くことになります。
南部辺境伯は私ではなく、ジュリアーナに私との養子縁組を申し出てください。それでジュリアーナから南部辺境伯を養子縁組相手として紹介されれば私は南部辺境伯と養子縁組致します」
私の提示した条件とその理由に南部辺境伯は難しい顔をしている。
私が自分の利益のためではなく、ジュリアーナとの間の道理を通そうとしての提案だから無下にはできないのだろう。
しかし、そう簡単に呑める条件でもないようだ。
このまま私が南部辺境伯と養子縁組して、それをジュリアーナに事後報告すれば、ジュリアーナとしては素直に受け入れることはできないだろう。
下手したら私とジュリアーナの関係まで拗れてしまうかもしれない。
それくらいジュリアーナの父親へ対する感情は複雑に見える。
南部辺境伯がジュリアーナに自分が私の養子縁組相手になると立候補したとしても、簡単にはジュリアーナは受け入れないに違いない。
それでも、私にとって最良の養子先であり、私にとって不利益がないことを頭で理解すれば最終的に自分の感情は呑み込んで私の養子縁組相手としてジュリアーナが私に紹介するだろう。
自分の感情だけで私の養子縁組相手を決めることはジュリアーナはしない。
私にとって最良の養子縁組相手を自分の感情だけで潰すことをジュリアーナはしないはずだ。
私はそうジュリアーナを信じている。
だから、私にとってこの条件に不安はない。
南部辺境伯にとっても何の問題も無いはずだ。
後ろ暗い思惑があるのではないのだから、堂々とジュリアーナに恩を売るようにして私の養子縁組相手に立候補すればいい。
正直に「ジュリアーナのため」に私を養子にするとは言えなくても、何かしらそれらしい理由をつけることは難しくはないはずだ。
それなのに南部辺境伯はまだ難しい顔をして悩んでいる。
私が考えている以上にジュリアーナと南部辺境伯との関係は拗れているのかもしれない。
でも、それなら尚更事前にジュリアーナに話を通しておいてもらわなければ私が南部辺境伯と養子縁組することはできない。
私はジュリアーナとの仲を悪化させたくはない。
ジュリアーナに変な勘違いもされたくはないので、南部辺境伯には何とか頑張ってジュリアーナと話をしてもらわなくてはならない。
下手したらジュリアーナの幸せを南部辺境伯と私が壊してしまいかねない。
だから、私はどれだけ南部辺境伯が悩もうとこの条件を撤回する気はない。南部辺境伯がこの条件を受け入れないならば残念ながら南部辺境伯との養子縁組は諦めるしかないだろう。
私はただ南部辺境伯が私の提示した条件を受け入れてくれるのを静かに待った。
幸いにもそれ程長い時間待つこと無く、南部辺境伯は苦悩に満ちた表情を浮かべたままで「分かった。その条件を呑もう。儂からジュリアーナへ話を通しておく」と言ってくれた。
南部辺境伯が何をそこまで苦しんでいるのか理解ができないが、条件を了承してくれたので一安心だ。
これでほぼ私の養子縁組先は決まった。
事前に作成して頭の中に保管していた南部辺境伯に聞きたかった質問リストもあらかた消化された。
心配ごともやるべきことも不安だったことも緊張することも一段落がついて、私はやっと一息ついた。
南部辺境伯と養子縁組すれば、リース男爵夫妻や北部辺境伯家の人たちは簡単には私に手を出せなくなる。
空を飛ぶ研究を認定理術師として学園で続けることができる。
ジュリアーナとの共同経営のカフェをこのまま続けることができる。
南部辺境伯の提案を受け入れれば、私が望むこれまで通りの生活を続けることができる。
南部辺境伯が養子縁組によって私に望むことがまさにこれまで通りの生活を送ること。
南部辺境伯が私に真実(ジュリアーナの愛)を背負ってこれまで通りに生きることを望むのはジュリアーナの幸せのため。
南部辺境伯は私にジュリアーナを裏切らないこと、ジュリアーナを傷付けないこと、ジュリアーナと仲良くすることを求めている。
それは私自身の望みとも一致するので何の負担も無い。南部辺境伯と養子縁組しなくても私は南部辺境伯の望み通りの、私が望むままに行動するのだから、私には何の問題も起きない。
南部辺境伯の提案はこちらには利しかない。私にとって不利なことは全く無い。
私にとっては得ばかりの都合の良い提案だ。
この提案を受けない手は無い。
しかし、ただ一つだけ懸念事項がある。
このまま南部辺境伯の提案を受け入れたら、どうしても看過できない問題が発生する恐れがある。
だから、私は南部辺境伯にこちらから提案する。
「南部辺境伯、私は南部辺境伯からのご提案を受け入れたいと思います。ただし、一つだけ条件があります」
「ほう、条件があると?いったいどんな条件なのかな?」
南部辺境伯は私の提案に面白そうな口調と表情を浮かべているが、目だけは笑っていない。
顔は笑っているのに全身から威圧感が漏れて、私にプレッシャーをかけてきた。
言外に「下手な条件を提示してきたらただでは置かない」と脅してきている。
私は特に疚しいことは無いので、そんなプレッシャーも脅迫も気にせず、南部辺境伯の表面上の笑顔に笑顔を返して答える。
「私からの条件はただ一つです。『南部辺境伯との養子縁組にジュリアーナを通すこと』だけです」
私が提示した条件に南部辺境伯は一転して怪訝そうな顔をする。
「それはどういう意味だ?この養子縁組は儂と其方との問題だ。ジュリアーナは関係無いだろう。なぜジュリアーナを巻き込もうとする?」
「私は既にジュリアーナに私の養子縁組相手を探してほしいと依頼しています。それなのにジュリアーナの頭越しにジュリアーナを除け者にして私と南部辺境伯が養子縁組を決めてしまうのはあまりにもジュリアーナに対して不義理を働くことになります。
南部辺境伯は私ではなく、ジュリアーナに私との養子縁組を申し出てください。それでジュリアーナから南部辺境伯を養子縁組相手として紹介されれば私は南部辺境伯と養子縁組致します」
私の提示した条件とその理由に南部辺境伯は難しい顔をしている。
私が自分の利益のためではなく、ジュリアーナとの間の道理を通そうとしての提案だから無下にはできないのだろう。
しかし、そう簡単に呑める条件でもないようだ。
このまま私が南部辺境伯と養子縁組して、それをジュリアーナに事後報告すれば、ジュリアーナとしては素直に受け入れることはできないだろう。
下手したら私とジュリアーナの関係まで拗れてしまうかもしれない。
それくらいジュリアーナの父親へ対する感情は複雑に見える。
南部辺境伯がジュリアーナに自分が私の養子縁組相手になると立候補したとしても、簡単にはジュリアーナは受け入れないに違いない。
それでも、私にとって最良の養子先であり、私にとって不利益がないことを頭で理解すれば最終的に自分の感情は呑み込んで私の養子縁組相手としてジュリアーナが私に紹介するだろう。
自分の感情だけで私の養子縁組相手を決めることはジュリアーナはしない。
私にとって最良の養子縁組相手を自分の感情だけで潰すことをジュリアーナはしないはずだ。
私はそうジュリアーナを信じている。
だから、私にとってこの条件に不安はない。
南部辺境伯にとっても何の問題も無いはずだ。
後ろ暗い思惑があるのではないのだから、堂々とジュリアーナに恩を売るようにして私の養子縁組相手に立候補すればいい。
正直に「ジュリアーナのため」に私を養子にするとは言えなくても、何かしらそれらしい理由をつけることは難しくはないはずだ。
それなのに南部辺境伯はまだ難しい顔をして悩んでいる。
私が考えている以上にジュリアーナと南部辺境伯との関係は拗れているのかもしれない。
でも、それなら尚更事前にジュリアーナに話を通しておいてもらわなければ私が南部辺境伯と養子縁組することはできない。
私はジュリアーナとの仲を悪化させたくはない。
ジュリアーナに変な勘違いもされたくはないので、南部辺境伯には何とか頑張ってジュリアーナと話をしてもらわなくてはならない。
下手したらジュリアーナの幸せを南部辺境伯と私が壊してしまいかねない。
だから、私はどれだけ南部辺境伯が悩もうとこの条件を撤回する気はない。南部辺境伯がこの条件を受け入れないならば残念ながら南部辺境伯との養子縁組は諦めるしかないだろう。
私はただ南部辺境伯が私の提示した条件を受け入れてくれるのを静かに待った。
幸いにもそれ程長い時間待つこと無く、南部辺境伯は苦悩に満ちた表情を浮かべたままで「分かった。その条件を呑もう。儂からジュリアーナへ話を通しておく」と言ってくれた。
南部辺境伯が何をそこまで苦しんでいるのか理解ができないが、条件を了承してくれたので一安心だ。
これでほぼ私の養子縁組先は決まった。
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