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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに
83 終演
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リース男爵夫妻はまだ何か必死に喚いているが、私の用事は終わった。
リース男爵夫妻は用済みだ。
後は速やかにこの場から片付ければいい。
私は後ろを振り返りジュリアーナと視線を合わせる。
それだけでジュリアーナは私の要望を理解してくれた。
ジュリアーナはそれまで大人しく黙って控えてくれていた兵士へ手を上げて合図を送る。
兵士達はジュリアーナからの合図を受けて、即座に動き出した。
「リース男爵、リース男爵夫人、こちらへご同行願います」
兵士はそう告げてリース男爵夫妻が自主的に動くように促したが、リース男爵夫妻は兵士の言葉を無視してその場を動かずに喚き散らし続けている。
兵士達はそんなリース男爵夫妻を問答無用で捕まえて引きずるようにして強制的に連行していく。
リース男爵夫妻はそれでも変わらずに喚き散らし続けているが、その矛先と内容が変わった。
「な、何をするのよ!?あたしは何も悪いことなんてしていないわ!!ジルコニアス!親が連れて行かれるのをなぜ黙って見ているの?!早く助けなさい!!」
「離せ!!僕は貴族なんだ!兵士なんかが触るなんて無礼だぞ!?ジルコニアス!早く第2王子へ便宜を図ってもらってくれ!!」
リース男爵夫妻はこの期に及んでまだジルコニアスが自分達を助けてくれると信じている。
自分達がジルコニアスの親だからという根拠だけで自分達の犯罪行為の後始末を当然のように押し付けている。
子も親も一人の人間。自分のやったことの責任は自分で取るべき。罪を背負うのも、償うのも、罰を受けるのも成人した大人なのだから自分でするしかない。
自分で責任を取れない小さな子供ではないのだから、親が子に頼るのも、甘えるのも、縋るのも間違っている。
子どもは親の所有物でも道具でも奴隷でも家畜でもペットでもない。
助けてほしいのなら「助けてください。お願いします」と懇願するべきだ。
しかし、「親が困っている。子なんだから助けろ」と命令している。
親が子に助けることを要求して、強要する権利は親でも持っていない。
それなのにリース男爵夫妻は親は子を便利に利用できる権利がある思い込み、当然のように子に面倒を押し付ける。
親が家庭内の問題で自分では解決できずに子に助けを求めるのならまだ理解できる。しかし、社会的な罪や責任から自分が逃げるために子を都合よく利用しようとするのはただの責任転嫁や責任放棄でしかない。
子は親が楽をするため、責任から逃げるため、怠けるために存在しているのではない。
子は親の負担を肩代わりするために生きているのではない。
子は親のために存在しているのではない。
誰も誰かの代わりにその人の罪を背負うことはできない。
自分が犯した罪は自分が背負わなければならない。
それなのにリース男爵夫妻は罪から逃れて、その罪を自分の子に押し付けて背負わせて後始末させようとしている。
私は冷めた目で必死に兵士に連行されないように抵抗しているリース男爵夫妻を眺めていると、視界の外から小さな声が聞こえてきた。
「……父上、母上、わたしはお二人を助けることはできません。これからマルグリットとカルバーン帝国へ行きます。……あちらでの生活が落ち着けばこれまで私たちの養育にかかった費用はお返しします。これまでありがとうございました」
ジルコニアスは小さな声ではあったが、迷いなくはっきりとした声でそう告げて決然とした態度でリース男爵夫妻へ頭を下げた。
「……お、お父様、お母様、ありがとうございました」
ジルコニアスに続いてマルグリットもリース男爵夫妻へ感謝を告げて頭を下げた。
ジルコニアスとマルグリットは感謝の言葉をリース男爵夫妻との別れの言葉に選んだ。
私にはリース男爵家の親子関係が実際にどのようなものであったかは分からない。
子の2人が感謝の気持ちを抱けるくらいの親子関係はあったようだ。
ジルコニアスは経済的な支援として親への仕送りはすると言っている。
養育費用の負担は親の義務であり子に返還義務は無いとは思うが、ジルコニアスはとても義理堅い人間のようだ。
それとも、養育費用を親へ返還することで完全に親との縁を切りたいと考えているのだろうか。
私がジルコニアスの心中に思いを馳せていると、金切り声が響いてきた。
「──何を言ってるの?!親を捨てるつもり!?この親不孝者!!そんなこと許さないわよ!」
「──ふざけるな!!恩を仇で返すつもりか?!子が親を助けないなんて許されないぞ!?」
誰が許さないのだろう?
何が許されないのだろう?
ジルコニアスとマルグリットはもうリース男爵夫妻の許しを求めていない。許されたいと望んでいない。もう諦めている。
親からの「許さない」という言葉は「愛さない」という脅しに聞こえる。
しかし、リース男爵夫妻がジルコニアスとマルグリットを親として愛していないことはすでに証明されている。
だから、その脅し文句に効果は無い。
リース男爵夫妻からの最後の脅しをジルコニアスとマルグリットは頭を下げたまま微動だにせずに受け流している。
リース男爵夫妻は我が子へ散々呪いの言葉を吐きながら兵士に引きずられるようにして部屋から出ていった。
ジルコニアスとマルグリットはリース男爵夫妻が部屋から出て扉が閉まるまで顔を上げることはなかった。
リース男爵夫妻が部屋から消えたことで部屋に静寂が訪れた。
部屋の中の空気が澄みわたり、全てが終わったような雰囲気が漂ってきた。
やっとリース男爵家の家族劇場は終わった。
しかし、まだ舞台の幕は完全には降りていないようだ。
ジルコニアスとマルグリットが私に近付いてきている。
リース男爵夫妻は用済みだ。
後は速やかにこの場から片付ければいい。
私は後ろを振り返りジュリアーナと視線を合わせる。
それだけでジュリアーナは私の要望を理解してくれた。
ジュリアーナはそれまで大人しく黙って控えてくれていた兵士へ手を上げて合図を送る。
兵士達はジュリアーナからの合図を受けて、即座に動き出した。
「リース男爵、リース男爵夫人、こちらへご同行願います」
兵士はそう告げてリース男爵夫妻が自主的に動くように促したが、リース男爵夫妻は兵士の言葉を無視してその場を動かずに喚き散らし続けている。
兵士達はそんなリース男爵夫妻を問答無用で捕まえて引きずるようにして強制的に連行していく。
リース男爵夫妻はそれでも変わらずに喚き散らし続けているが、その矛先と内容が変わった。
「な、何をするのよ!?あたしは何も悪いことなんてしていないわ!!ジルコニアス!親が連れて行かれるのをなぜ黙って見ているの?!早く助けなさい!!」
「離せ!!僕は貴族なんだ!兵士なんかが触るなんて無礼だぞ!?ジルコニアス!早く第2王子へ便宜を図ってもらってくれ!!」
リース男爵夫妻はこの期に及んでまだジルコニアスが自分達を助けてくれると信じている。
自分達がジルコニアスの親だからという根拠だけで自分達の犯罪行為の後始末を当然のように押し付けている。
子も親も一人の人間。自分のやったことの責任は自分で取るべき。罪を背負うのも、償うのも、罰を受けるのも成人した大人なのだから自分でするしかない。
自分で責任を取れない小さな子供ではないのだから、親が子に頼るのも、甘えるのも、縋るのも間違っている。
子どもは親の所有物でも道具でも奴隷でも家畜でもペットでもない。
助けてほしいのなら「助けてください。お願いします」と懇願するべきだ。
しかし、「親が困っている。子なんだから助けろ」と命令している。
親が子に助けることを要求して、強要する権利は親でも持っていない。
それなのにリース男爵夫妻は親は子を便利に利用できる権利がある思い込み、当然のように子に面倒を押し付ける。
親が家庭内の問題で自分では解決できずに子に助けを求めるのならまだ理解できる。しかし、社会的な罪や責任から自分が逃げるために子を都合よく利用しようとするのはただの責任転嫁や責任放棄でしかない。
子は親が楽をするため、責任から逃げるため、怠けるために存在しているのではない。
子は親の負担を肩代わりするために生きているのではない。
子は親のために存在しているのではない。
誰も誰かの代わりにその人の罪を背負うことはできない。
自分が犯した罪は自分が背負わなければならない。
それなのにリース男爵夫妻は罪から逃れて、その罪を自分の子に押し付けて背負わせて後始末させようとしている。
私は冷めた目で必死に兵士に連行されないように抵抗しているリース男爵夫妻を眺めていると、視界の外から小さな声が聞こえてきた。
「……父上、母上、わたしはお二人を助けることはできません。これからマルグリットとカルバーン帝国へ行きます。……あちらでの生活が落ち着けばこれまで私たちの養育にかかった費用はお返しします。これまでありがとうございました」
ジルコニアスは小さな声ではあったが、迷いなくはっきりとした声でそう告げて決然とした態度でリース男爵夫妻へ頭を下げた。
「……お、お父様、お母様、ありがとうございました」
ジルコニアスに続いてマルグリットもリース男爵夫妻へ感謝を告げて頭を下げた。
ジルコニアスとマルグリットは感謝の言葉をリース男爵夫妻との別れの言葉に選んだ。
私にはリース男爵家の親子関係が実際にどのようなものであったかは分からない。
子の2人が感謝の気持ちを抱けるくらいの親子関係はあったようだ。
ジルコニアスは経済的な支援として親への仕送りはすると言っている。
養育費用の負担は親の義務であり子に返還義務は無いとは思うが、ジルコニアスはとても義理堅い人間のようだ。
それとも、養育費用を親へ返還することで完全に親との縁を切りたいと考えているのだろうか。
私がジルコニアスの心中に思いを馳せていると、金切り声が響いてきた。
「──何を言ってるの?!親を捨てるつもり!?この親不孝者!!そんなこと許さないわよ!」
「──ふざけるな!!恩を仇で返すつもりか?!子が親を助けないなんて許されないぞ!?」
誰が許さないのだろう?
何が許されないのだろう?
ジルコニアスとマルグリットはもうリース男爵夫妻の許しを求めていない。許されたいと望んでいない。もう諦めている。
親からの「許さない」という言葉は「愛さない」という脅しに聞こえる。
しかし、リース男爵夫妻がジルコニアスとマルグリットを親として愛していないことはすでに証明されている。
だから、その脅し文句に効果は無い。
リース男爵夫妻からの最後の脅しをジルコニアスとマルグリットは頭を下げたまま微動だにせずに受け流している。
リース男爵夫妻は我が子へ散々呪いの言葉を吐きながら兵士に引きずられるようにして部屋から出ていった。
ジルコニアスとマルグリットはリース男爵夫妻が部屋から出て扉が閉まるまで顔を上げることはなかった。
リース男爵夫妻が部屋から消えたことで部屋に静寂が訪れた。
部屋の中の空気が澄みわたり、全てが終わったような雰囲気が漂ってきた。
やっとリース男爵家の家族劇場は終わった。
しかし、まだ舞台の幕は完全には降りていないようだ。
ジルコニアスとマルグリットが私に近付いてきている。
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