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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに
86 裏側① 真の黒幕
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ジュリアーナは優雅にバームを飲んでいるが、私は緊張のあまりバームに手を付けることすらできない。
覚悟が鈍る前に私は意を決してジュリアーナへ宣言する。
「ジュリアーナ!長い間お世話になりました。そろそろお暇させていただきます。これ以上ご迷惑をお掛けすることはできません。今までありがとうございました!!」
ジュリアーナは私の唐突な宣言に目を丸くしてバームを飲むのを中断した。
「‥‥分かったわ。犯人達からの自供によって学園に潜ませていた関係者は全て排除されているからもう帰っても大丈夫よ。こちらとしてはいつまででもいてくれて構わないのだけどね」
ジュリアーナは寂しそうに私が帰ることを了承してくれた。
私はてっきりもっとごねられると思っていたから肩透かしを喰らった気分になってしまった。
無理に引き留められることが無かったことに安堵してさっさと自分の研究室に帰るべきなのに、なぜだか私まで寂しい気分になってしまう。
そんな寂寥感と罪悪感に蝕まれている私にジュリアーナが話しかけてきた。
「ルリエラが帰る前に話しておきたいことがいくつかあるのよ。もっと早くに話す予定だったのだけど、貴女の体調が安定するまで待っていたの。まず、お父様‥南部辺境伯からの伝言を伝えるわ。─『すまなかった』─ですって。わたくしからも謝罪するわ。救出が遅くなってごめんなさい、ルリエラ。貴女が無事で本当に良かった」
ジュリアーナが申し訳なさそうに私を見つめて謝っているが、私にはなぜ南部辺境伯とジュリアーナから謝罪されるのか理解できずに困惑してしまう。
「──あ、あの!南部辺境伯とジュリアーナが私に謝る必要なんてどこにもありませんから!!寧ろ私がリース男爵家との因縁に南部辺境伯とジュリアーナを巻き込んでしまいました。迷惑を掛けてしまった私の方がお二人に謝らないといけません。あ、あと、助けていただいたお礼をまだお伝えしていませんでした!助けて頂き本当にありがとうございました」
私は謝罪をしながら、今更ながらに救出してもらったことに礼を伝えていなかったことに気づいて大慌てで頭を下げてお礼を伝えた。
しかし、ジュリアーナはそんな私の様子をなぜか後ろめたそうに見つめている。
「‥‥今回の誘拐騒動なのだけど、実は全てを仕組んで北部辺境伯の次男を誘導した黒幕がいるの……」
「──黒幕は北部辺境伯の次男だと思っていたのですがその背後にまだ真の黒幕が存在していたのですか?真の黒幕は北部辺境伯の長男ですか?天涯教団ですか?それともまさかガイボーン理術師でしょうか?」
私は驚きの余りジュリアーナに真の黒幕の正体について詰問してしまった。
今回の誘拐騒動は全て北部辺境伯の次男が仕組んだことだと思っていた。だから、私が監禁されていた屋敷で北部辺境伯の次男も誘拐監禁の実行犯の一人として捕まったと聞いて安心していた。
それなのに他に真の黒幕がいては安心なんかしている場合ではない。
最初に私の元に自称両親連中を送り込んで来たのは天涯教団だった。
天涯教団は私の飛行術に目をつけて私の身柄を確保して利用しようとしている宗教団体だ。
天涯教団は天と繋がる空を神聖視して重要視している。そこで空を飛べる私を天の使いであり、天涯教団の巫女として利用しようとしている。
しかし、そもそも最初に私の飛行術に気づきそれに目を付けたのは北部辺境伯の長男の方だ。
長男は北部辺境伯家が天涯教団への影響力を高めて完全に掌握するために私を利用しようと考えたが、その計画は実行前に教団内にも漏れてしまい、教団幹部連中が先に私の身柄を確保しようと動いて自称両親連中達が私の元に押し掛けた。
その混乱に乗じて次男は長男よりも優位に立ち、北部辺境伯家の当主の座を得るために私の身柄を自分が確保しようと考えて私のことを調べてリース男爵夫妻を利用した。
リース男爵夫妻は天涯教団とは直接の関係は無く、単に北部辺境伯家の次男に都合良く使われていただけだったから彼等が真の黒幕であることは絶対にあり得ない。
競争相手である長男に次男が簡単に誘導されるとは考え難いが、次男が失敗すれば長男の利にはなる。しかし、万が一次男が成功したら長男には百害あって一利なし。
それなら天涯教団が真の黒幕の可能性が高い。次男が失敗しても成功しても天涯教団には何の損も無い。次男が私の確保に成功して交渉によって身柄を天涯教団へ移すことができれば私を利用し放題だ。
可能性はとても低いが私と同じ認定理術師のガイボーンが真の黒幕ということもあるかもしれない。
ガイボーンは最初から私のことを嫉妬してずっと敵視していた。
学園で私を誘拐した実行犯はガイボーンの助手だ。誘拐は雇い主であるガイボーンの命令だろう。
私はガイボーンが北部辺境伯の次男に利用された側だと考えていたが、実はガイボーンの方が嫉妬に狂うあまりに私を排除しようとして北部辺境伯の次男を利用したのかもしれない。
全ては憶測の域を出ない。
私は答えを急かすようにジュリアーナの目をじっと見る。
ジュリアーナは珍しく私の視線から逃れるように目を逸らして重い口を開いた。
「‥‥北部辺境伯の次男を誘導して貴女を誘拐させたのは現北部辺境伯の弟、彼の叔父よ。そして、その弟と裏で手を組んでいたのが南部辺境伯…お父様なの──」
「‥‥‥‥え?ということは真の黒幕は南部辺境伯ということですか?え?!な、なんで!?」
私は叫ぶようにしてジュリアーナに説明を求める。
真の黒幕の正体が私の予想を遥かに超えた人物であったため完全に私の許容範囲を越えて思考停止に陥ってしまった。
覚悟が鈍る前に私は意を決してジュリアーナへ宣言する。
「ジュリアーナ!長い間お世話になりました。そろそろお暇させていただきます。これ以上ご迷惑をお掛けすることはできません。今までありがとうございました!!」
ジュリアーナは私の唐突な宣言に目を丸くしてバームを飲むのを中断した。
「‥‥分かったわ。犯人達からの自供によって学園に潜ませていた関係者は全て排除されているからもう帰っても大丈夫よ。こちらとしてはいつまででもいてくれて構わないのだけどね」
ジュリアーナは寂しそうに私が帰ることを了承してくれた。
私はてっきりもっとごねられると思っていたから肩透かしを喰らった気分になってしまった。
無理に引き留められることが無かったことに安堵してさっさと自分の研究室に帰るべきなのに、なぜだか私まで寂しい気分になってしまう。
そんな寂寥感と罪悪感に蝕まれている私にジュリアーナが話しかけてきた。
「ルリエラが帰る前に話しておきたいことがいくつかあるのよ。もっと早くに話す予定だったのだけど、貴女の体調が安定するまで待っていたの。まず、お父様‥南部辺境伯からの伝言を伝えるわ。─『すまなかった』─ですって。わたくしからも謝罪するわ。救出が遅くなってごめんなさい、ルリエラ。貴女が無事で本当に良かった」
ジュリアーナが申し訳なさそうに私を見つめて謝っているが、私にはなぜ南部辺境伯とジュリアーナから謝罪されるのか理解できずに困惑してしまう。
「──あ、あの!南部辺境伯とジュリアーナが私に謝る必要なんてどこにもありませんから!!寧ろ私がリース男爵家との因縁に南部辺境伯とジュリアーナを巻き込んでしまいました。迷惑を掛けてしまった私の方がお二人に謝らないといけません。あ、あと、助けていただいたお礼をまだお伝えしていませんでした!助けて頂き本当にありがとうございました」
私は謝罪をしながら、今更ながらに救出してもらったことに礼を伝えていなかったことに気づいて大慌てで頭を下げてお礼を伝えた。
しかし、ジュリアーナはそんな私の様子をなぜか後ろめたそうに見つめている。
「‥‥今回の誘拐騒動なのだけど、実は全てを仕組んで北部辺境伯の次男を誘導した黒幕がいるの……」
「──黒幕は北部辺境伯の次男だと思っていたのですがその背後にまだ真の黒幕が存在していたのですか?真の黒幕は北部辺境伯の長男ですか?天涯教団ですか?それともまさかガイボーン理術師でしょうか?」
私は驚きの余りジュリアーナに真の黒幕の正体について詰問してしまった。
今回の誘拐騒動は全て北部辺境伯の次男が仕組んだことだと思っていた。だから、私が監禁されていた屋敷で北部辺境伯の次男も誘拐監禁の実行犯の一人として捕まったと聞いて安心していた。
それなのに他に真の黒幕がいては安心なんかしている場合ではない。
最初に私の元に自称両親連中を送り込んで来たのは天涯教団だった。
天涯教団は私の飛行術に目をつけて私の身柄を確保して利用しようとしている宗教団体だ。
天涯教団は天と繋がる空を神聖視して重要視している。そこで空を飛べる私を天の使いであり、天涯教団の巫女として利用しようとしている。
しかし、そもそも最初に私の飛行術に気づきそれに目を付けたのは北部辺境伯の長男の方だ。
長男は北部辺境伯家が天涯教団への影響力を高めて完全に掌握するために私を利用しようと考えたが、その計画は実行前に教団内にも漏れてしまい、教団幹部連中が先に私の身柄を確保しようと動いて自称両親連中達が私の元に押し掛けた。
その混乱に乗じて次男は長男よりも優位に立ち、北部辺境伯家の当主の座を得るために私の身柄を自分が確保しようと考えて私のことを調べてリース男爵夫妻を利用した。
リース男爵夫妻は天涯教団とは直接の関係は無く、単に北部辺境伯家の次男に都合良く使われていただけだったから彼等が真の黒幕であることは絶対にあり得ない。
競争相手である長男に次男が簡単に誘導されるとは考え難いが、次男が失敗すれば長男の利にはなる。しかし、万が一次男が成功したら長男には百害あって一利なし。
それなら天涯教団が真の黒幕の可能性が高い。次男が失敗しても成功しても天涯教団には何の損も無い。次男が私の確保に成功して交渉によって身柄を天涯教団へ移すことができれば私を利用し放題だ。
可能性はとても低いが私と同じ認定理術師のガイボーンが真の黒幕ということもあるかもしれない。
ガイボーンは最初から私のことを嫉妬してずっと敵視していた。
学園で私を誘拐した実行犯はガイボーンの助手だ。誘拐は雇い主であるガイボーンの命令だろう。
私はガイボーンが北部辺境伯の次男に利用された側だと考えていたが、実はガイボーンの方が嫉妬に狂うあまりに私を排除しようとして北部辺境伯の次男を利用したのかもしれない。
全ては憶測の域を出ない。
私は答えを急かすようにジュリアーナの目をじっと見る。
ジュリアーナは珍しく私の視線から逃れるように目を逸らして重い口を開いた。
「‥‥北部辺境伯の次男を誘導して貴女を誘拐させたのは現北部辺境伯の弟、彼の叔父よ。そして、その弟と裏で手を組んでいたのが南部辺境伯…お父様なの──」
「‥‥‥‥え?ということは真の黒幕は南部辺境伯ということですか?え?!な、なんで!?」
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