250 / 261
第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに
89 裏側④ 交渉
しおりを挟む
私が一人で納得している間にも、ジュリアーナの説明は続いていた。
南部辺境伯が殴り飛ばして気絶させた北部辺境伯の弟は速やかに別室へ移動させて、適切な処置を行って意識を戻させて、手っ取り早く知っていることを全て話してもらったそうだ。
その部分はジュリアーナがさらりと何気なく流してしまったが、なぜか私には、「地下室へ移動させて強制的に意識を覚醒させ、尋問か拷問によって無理矢理知っていることを全て吐かせた」と言っているように聞こえてしまった。
北部辺境伯の弟の身に何があったのか気にはなったが、知りたくはないので私もその部分はそのまま流すことにした。知っても私にできることも無いし、知って得することも嬉しいことも何も無い。知らないことが幸せで、知ろうとしないことが賢いことも世の中にはある。
北部辺境伯の弟の供述によって、私の誘拐事件が学園内で行われたことが判明した。
北部辺境伯の弟が私の排除という共通の目的によって私に嫉妬していたガイボーン理術師を利用して、ガイボーン理術師に私を学園内で誘拐する手引きをさせていた。
しかし、学園の外で私を甥の手の者に引き渡した後の居場所は北部辺境伯の弟は知らなかった。
あくまでも私の誘拐事件の主犯で実行犯は北部辺境伯の息子のヨルデンであり、北部辺境伯の弟はヨルデンを唆してその気にさせたり、資金を提供したり、知恵を授けたり、作戦を提案するだけで実際の誘拐には直接には関わらなかった。
だから、北部辺境伯の弟は誘拐された後の私の詳しい居場所まで知らなかった。
しかし、それを知っている人間は知っていた。
リース男爵家の息子のジルコニアスだ。
この誘拐事件にはリース男爵家も荷担しており、リース男爵家を利用することも北部辺境伯の弟が甥へ提案していた。
学園の学生であるジルコニアスも私を学園内で誘拐するときに利用できるということで協力するように働きかけることを勧めていたらしい。
すぐにジルコニアスから話を聞くことにしたが、南部辺境伯領の兵士が学園都市へ行ってジルコニアスを捕まえて、南部辺境伯領まで連れてきていては時間がかかりすぎる。また、他の領地の人間が学園都市の学生を拐っては領地間の問題に発展してしまう。
そのため、ジュリアーナが再び学園都市へ戻り、学園の学生であるアヤタにジルコニアスを学園都市のアジュール商会が運営しているカフェまで誘い出してもらい、そのカフェの個室でジュリアーナが話を聞くという作戦を決行した。
アヤタがどんなふうに話を持ち掛けたのかは知らないが、何も疑わずにジルコニアスはカフェに現れた。
アヤタは何食わぬ顔で上の階にある個室へジルコニアスを案内して、そこへ逃げられないように閉じ込めてからジュリアーナが交渉を持ちかけた。
父親と母親を売れば、息子のジルコニアスと養女のマルグリットは助けてあげるという内容でジルコニアスへ話を切り出した。
「南部辺境伯の養女となった私を誘拐したことで、リース男爵家の取り潰しは免れない。リース男爵家は爵位を失いリース男爵家という貴族家門は消滅し、リース男爵家の人間は全員ただの平民へ堕ちる」
ジュリアーナがそう脅してジルコニアスへ揺さぶりをかけるとジルコニアスは顔を真っ青にして震えだした。
「父親と母親は誘拐犯の仲間としての処罰を受けることになるだろうが、今ならまだマルグリットだけは巻き込まれただけの被害者として救い出すこともできるかもしれない」
ジュリアーナがそのように救いの手を差し伸べるとジルコニアスはその手にすがりつきたい気持ちを隠すことができずに瞳が揺れ動いた。
「アジュール商会のカルバーン帝国支店でジルコニアスとマルグリットを雇い、二人の身元の保証、身の安全の保障、生活の補償をしてあげる」
ジュリアーナがそうやって甘く誘惑すると、ジルコニアスは欲に目を眩ませていた。しかし、それでもまだ親を売るという決断をできずにいる。
「リース男爵家が取り潰されてただの平民となればジルコニアスもマルグリットも兄と妹ではなくなり戸籍上ではただの他人となる。そうなれば二人を阻む法的な壁も障害も無くなる」
ジュリアーナがそう静かに囁けば、ジルコニアスはなぜ自分のマルグリットへの気持ちを知っているのかと怯えた瞳でジュリアーナを見つめ返した。
「カルバーン帝国では近親婚も認められている。ジルコニアスとマルグリットが義理の兄と妹であったという過去の関係もカルバーン帝国では何の問題も無い」
ジュリアーナが笑顔でそのように後押しすると、ジルコニアスは俯いて一呼吸分悩んだ末に親を売った。
交渉成立により、ジルコニアスは自分が知る限りのことを全てジュリアーナへ伝えた。
ジルコニアスは私の誘拐には直接関わってはいないが、最近届いた両親からの手紙で今両親が学園都市の近くの町にいて、ジルコニアスも遊びに来るようにと誘われていた。会わせたい人がいるという意味深な内容で何か嫌な予感はしていたらしい。
この「会わせたい人」とは私のことで、行方不明になっていた妹が見つかったということでジルコニアスへ紹介する予定だったのだろう。
ジルコニアスからの情報提供により、すでに準備をしていた南部辺境伯はジュリアーナからの報せを受けてすぐに私が誘拐されて監禁されている町の領主に話をつけて、南部辺境伯領の兵士を派遣して私を救出してくれた。
なぜ救出に来てくれた時にジルコニアスも一緒にいたのか不思議に思い尋ねると、腹を括ったジルコニアスは自分がマルグリットを助けに行くと言って私の救出への同行を求めて、それをジュリアーナが許可したからだった。その結果あのような家族劇場が開催されることになったのはジュリアーナにも想定外だったらしい。
しかし、今回のことでジュリアーナはこれまで知らなかった父親のいくつもの姿を初めて目の当たりにして自分の中の凝り固まった父親像に変化が生じたようだ。
少しは客観的に父親を見ることができるようになったみたいで私が誘拐されたことも悪いことばかりでは無かったみたいだ。
ジュリアーナから私の誘拐事件について話を聞いた私は最終的にそんな呑気な感想を抱いてしまった。
南部辺境伯が殴り飛ばして気絶させた北部辺境伯の弟は速やかに別室へ移動させて、適切な処置を行って意識を戻させて、手っ取り早く知っていることを全て話してもらったそうだ。
その部分はジュリアーナがさらりと何気なく流してしまったが、なぜか私には、「地下室へ移動させて強制的に意識を覚醒させ、尋問か拷問によって無理矢理知っていることを全て吐かせた」と言っているように聞こえてしまった。
北部辺境伯の弟の身に何があったのか気にはなったが、知りたくはないので私もその部分はそのまま流すことにした。知っても私にできることも無いし、知って得することも嬉しいことも何も無い。知らないことが幸せで、知ろうとしないことが賢いことも世の中にはある。
北部辺境伯の弟の供述によって、私の誘拐事件が学園内で行われたことが判明した。
北部辺境伯の弟が私の排除という共通の目的によって私に嫉妬していたガイボーン理術師を利用して、ガイボーン理術師に私を学園内で誘拐する手引きをさせていた。
しかし、学園の外で私を甥の手の者に引き渡した後の居場所は北部辺境伯の弟は知らなかった。
あくまでも私の誘拐事件の主犯で実行犯は北部辺境伯の息子のヨルデンであり、北部辺境伯の弟はヨルデンを唆してその気にさせたり、資金を提供したり、知恵を授けたり、作戦を提案するだけで実際の誘拐には直接には関わらなかった。
だから、北部辺境伯の弟は誘拐された後の私の詳しい居場所まで知らなかった。
しかし、それを知っている人間は知っていた。
リース男爵家の息子のジルコニアスだ。
この誘拐事件にはリース男爵家も荷担しており、リース男爵家を利用することも北部辺境伯の弟が甥へ提案していた。
学園の学生であるジルコニアスも私を学園内で誘拐するときに利用できるということで協力するように働きかけることを勧めていたらしい。
すぐにジルコニアスから話を聞くことにしたが、南部辺境伯領の兵士が学園都市へ行ってジルコニアスを捕まえて、南部辺境伯領まで連れてきていては時間がかかりすぎる。また、他の領地の人間が学園都市の学生を拐っては領地間の問題に発展してしまう。
そのため、ジュリアーナが再び学園都市へ戻り、学園の学生であるアヤタにジルコニアスを学園都市のアジュール商会が運営しているカフェまで誘い出してもらい、そのカフェの個室でジュリアーナが話を聞くという作戦を決行した。
アヤタがどんなふうに話を持ち掛けたのかは知らないが、何も疑わずにジルコニアスはカフェに現れた。
アヤタは何食わぬ顔で上の階にある個室へジルコニアスを案内して、そこへ逃げられないように閉じ込めてからジュリアーナが交渉を持ちかけた。
父親と母親を売れば、息子のジルコニアスと養女のマルグリットは助けてあげるという内容でジルコニアスへ話を切り出した。
「南部辺境伯の養女となった私を誘拐したことで、リース男爵家の取り潰しは免れない。リース男爵家は爵位を失いリース男爵家という貴族家門は消滅し、リース男爵家の人間は全員ただの平民へ堕ちる」
ジュリアーナがそう脅してジルコニアスへ揺さぶりをかけるとジルコニアスは顔を真っ青にして震えだした。
「父親と母親は誘拐犯の仲間としての処罰を受けることになるだろうが、今ならまだマルグリットだけは巻き込まれただけの被害者として救い出すこともできるかもしれない」
ジュリアーナがそのように救いの手を差し伸べるとジルコニアスはその手にすがりつきたい気持ちを隠すことができずに瞳が揺れ動いた。
「アジュール商会のカルバーン帝国支店でジルコニアスとマルグリットを雇い、二人の身元の保証、身の安全の保障、生活の補償をしてあげる」
ジュリアーナがそうやって甘く誘惑すると、ジルコニアスは欲に目を眩ませていた。しかし、それでもまだ親を売るという決断をできずにいる。
「リース男爵家が取り潰されてただの平民となればジルコニアスもマルグリットも兄と妹ではなくなり戸籍上ではただの他人となる。そうなれば二人を阻む法的な壁も障害も無くなる」
ジュリアーナがそう静かに囁けば、ジルコニアスはなぜ自分のマルグリットへの気持ちを知っているのかと怯えた瞳でジュリアーナを見つめ返した。
「カルバーン帝国では近親婚も認められている。ジルコニアスとマルグリットが義理の兄と妹であったという過去の関係もカルバーン帝国では何の問題も無い」
ジュリアーナが笑顔でそのように後押しすると、ジルコニアスは俯いて一呼吸分悩んだ末に親を売った。
交渉成立により、ジルコニアスは自分が知る限りのことを全てジュリアーナへ伝えた。
ジルコニアスは私の誘拐には直接関わってはいないが、最近届いた両親からの手紙で今両親が学園都市の近くの町にいて、ジルコニアスも遊びに来るようにと誘われていた。会わせたい人がいるという意味深な内容で何か嫌な予感はしていたらしい。
この「会わせたい人」とは私のことで、行方不明になっていた妹が見つかったということでジルコニアスへ紹介する予定だったのだろう。
ジルコニアスからの情報提供により、すでに準備をしていた南部辺境伯はジュリアーナからの報せを受けてすぐに私が誘拐されて監禁されている町の領主に話をつけて、南部辺境伯領の兵士を派遣して私を救出してくれた。
なぜ救出に来てくれた時にジルコニアスも一緒にいたのか不思議に思い尋ねると、腹を括ったジルコニアスは自分がマルグリットを助けに行くと言って私の救出への同行を求めて、それをジュリアーナが許可したからだった。その結果あのような家族劇場が開催されることになったのはジュリアーナにも想定外だったらしい。
しかし、今回のことでジュリアーナはこれまで知らなかった父親のいくつもの姿を初めて目の当たりにして自分の中の凝り固まった父親像に変化が生じたようだ。
少しは客観的に父親を見ることができるようになったみたいで私が誘拐されたことも悪いことばかりでは無かったみたいだ。
ジュリアーナから私の誘拐事件について話を聞いた私は最終的にそんな呑気な感想を抱いてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる