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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに
92 誤解② 他人の心
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私はジュリアーナの助け舟には乗らずにこれまでの会話とは脈絡が無い話題を唐突に上げる。
「……ジュリアーナは覚えていますか?ジュリアーナが助けに来てくれた時に私がリース男爵夫人へ南部辺境伯のことを話していたのですが──」
ジュリアーナは突然の話題転換に戸惑っている。
そして、私が何を言おうとしているのかを必死に考えてくれている。
私がただ「お父さんはあなたを愛しているよ」と伝えてもそれは全くジュリアーナの心に届かないだろう。
何の証拠も根拠も無くただ無責任に慰めているだけに聞こえる。
下手したらジュリアーナに嘘だと思われて逆に頑なになってこれ以上耳を傾けてもらえなくなってしまうかもしれない。
まずは当たり障りのないことから話して客観的に自分の父親を見つめて、自分で真偽を判断して嘘ではないと信じてもらおう。
私は救出時にリース男爵夫人へ大量の罵詈雑言をぶつけた。その中で「──それに、ジュリアーナは父親に見捨てられてはいない。国内にジュリアーナに相応しい相手がいなかったからわざわざ外国に嫁に出しただけだから!ジュリアーナは父親に愛されて大切にされている!!私は養父である南部辺境伯本人からそう聞いた。何も知らないくせに勝手に適当なことを言うな!!」と発言していた。
他にも色々なことがたくさんあったから、この時のことについてはこれまで一切話題に上らなかった。
もしかしたら、あまりにもいろんなことがあったからこんな事件とは無関係な会話の内容などジュリアーナは忘れてしまっているかもしれない。
そんな不安に苛まれながらジュリアーナの様子を伺っていると、ジュリアーナは悩みながら口を開いた。
「……ええ、覚えているわ。確か『ジュリアーナは父親に見捨てられてはいない。国内にジュリアーナに相応しい相手がいなかったからわざわざ外国に嫁に出しただけ。ジュリアーナは父親に愛されて大切にされている』と言っていたわね。……ありがとう。庇ってくれて嬉しかったわ。でも、嘘は駄目よ。そんなあからさまな嘘に騙される人間なんてあの人たち程度しかいないわ。いつ誰がどこで揚げ足を取りにくるか分からないのだから、なるべく嘘は言わないようにね」
ジュリアーナは大人の余裕を見せながら私に優しく言い聞かせてきた。
「『あの人がそう言っていた。本人に確かめてみろ』なんて言っては駄目よ。もし万が一相手が、『自分はそんなことは言っていない』と否定したらあなたは終わりよ。それで簡単に詰んでしまうわ。……今回は一応味方だから話は合わせてくれるだろうけどこれからは安易にそのようなことは言わないようにね」
なぜか話は盛大に逸れて私がジュリアーナからの説教を受けることになってしまった。
ジュリアーナはあの時に私が言った言葉は自分を庇うための真っ赤な嘘だと誤解している。
確かに私はあの時は怒りのあまり何も考えていなかった。
感情的に喚き散らして相手を否定し自分の言葉を正当化して押し付けることだけしか考えていなかった。
南部辺境伯の気持ちを伝える必要なんて無かったし、信じてほしいなんて思わなかったから。
ただ相手を否定したかっただけだった。
言い負かしたかった。打ち負かしたかった。打ちのめしたかった。ただそれだけだった。
だから、「本人に聞いてみろ!」と相手に一切の反論ができないような言い方をした。
相手を完全に黙らせ、一切の反論を封じて、絶対に言い返せないような台詞。
その場にはいない、簡単には話しかけられない、すぐには会えない、そんな相手に直接確認してみろ、なんてその人の権威と地位を利用して無理難題を振りかざした。
まさに虎の威を借る狐のような卑怯なやり方だった。
しかし、私が言ったことは真実だ。そこはなんとしてもジュリアーナに信じてもらわなければならない。
しかし、ジュリアーナと南部辺境伯との関係は拗れに拗れてしまっている。
一筋縄ではこの拗れを修正することはできない。
ジュリアーナは父親を信頼できず常に疑いながらも、信じたいという期待を捨てきれずにいる。信じたいのに信じられない、信じさせてくれない父親へ悪態をぶつけて試し続けている。
父親はジュリアーナの幸せを願いながらも、これ以上ジュリアーナを傷つけること、嫌われることを恐れて素直に自分の想いをジュリアーナへ打ち明けられずにいる。
そんな二人の関係改善の手伝いをすることを私は南部辺境伯と秘密裏に約束した。
しかし、心を他人へ伝えるのは難しい。
それが自分の心ではなく他人の心を別の人へ伝えるなら尚更難易度は上がる。
どれだけ「あの人はあなたを愛している。本当だ。信じてあげて」と訴えても、そこには私の気持ちしか込められず、私の真剣さや必死さしか伝わらない。
自分の強すぎる熱意を相手へぶつけすぎてしまえば、下手したら自分の気持ちの押し付けでしかなく、相手への強要にしかならない。
自分はそう思った。自分はそう感じた。自分はその人を信じる。
それらは全部自分の主観で自分の判断だ。
それを他の人へ事実として受け入れるように強要はできない。
あくまでも、自分の主観でしかない。
相手が何を言っていたかという客観的事実と自分がそれをどう感じどう受け取ったかという主観的事実は別々に分けて話す。
ジュリアーナへの同情や南部辺境伯への擁護と捉えられないように出来るだけ感情を抑えて淡々と冷静に語る。
それが単なる事実であるということが分かるように。
私の主観や思い込みや妄想などではなく、客観的事実による真実だということを示す。
私は一度深呼吸をして自分の気持ちをしっかりと落ち着けてから、ジュリアーナへ話しかけた。
「……ジュリアーナは覚えていますか?ジュリアーナが助けに来てくれた時に私がリース男爵夫人へ南部辺境伯のことを話していたのですが──」
ジュリアーナは突然の話題転換に戸惑っている。
そして、私が何を言おうとしているのかを必死に考えてくれている。
私がただ「お父さんはあなたを愛しているよ」と伝えてもそれは全くジュリアーナの心に届かないだろう。
何の証拠も根拠も無くただ無責任に慰めているだけに聞こえる。
下手したらジュリアーナに嘘だと思われて逆に頑なになってこれ以上耳を傾けてもらえなくなってしまうかもしれない。
まずは当たり障りのないことから話して客観的に自分の父親を見つめて、自分で真偽を判断して嘘ではないと信じてもらおう。
私は救出時にリース男爵夫人へ大量の罵詈雑言をぶつけた。その中で「──それに、ジュリアーナは父親に見捨てられてはいない。国内にジュリアーナに相応しい相手がいなかったからわざわざ外国に嫁に出しただけだから!ジュリアーナは父親に愛されて大切にされている!!私は養父である南部辺境伯本人からそう聞いた。何も知らないくせに勝手に適当なことを言うな!!」と発言していた。
他にも色々なことがたくさんあったから、この時のことについてはこれまで一切話題に上らなかった。
もしかしたら、あまりにもいろんなことがあったからこんな事件とは無関係な会話の内容などジュリアーナは忘れてしまっているかもしれない。
そんな不安に苛まれながらジュリアーナの様子を伺っていると、ジュリアーナは悩みながら口を開いた。
「……ええ、覚えているわ。確か『ジュリアーナは父親に見捨てられてはいない。国内にジュリアーナに相応しい相手がいなかったからわざわざ外国に嫁に出しただけ。ジュリアーナは父親に愛されて大切にされている』と言っていたわね。……ありがとう。庇ってくれて嬉しかったわ。でも、嘘は駄目よ。そんなあからさまな嘘に騙される人間なんてあの人たち程度しかいないわ。いつ誰がどこで揚げ足を取りにくるか分からないのだから、なるべく嘘は言わないようにね」
ジュリアーナは大人の余裕を見せながら私に優しく言い聞かせてきた。
「『あの人がそう言っていた。本人に確かめてみろ』なんて言っては駄目よ。もし万が一相手が、『自分はそんなことは言っていない』と否定したらあなたは終わりよ。それで簡単に詰んでしまうわ。……今回は一応味方だから話は合わせてくれるだろうけどこれからは安易にそのようなことは言わないようにね」
なぜか話は盛大に逸れて私がジュリアーナからの説教を受けることになってしまった。
ジュリアーナはあの時に私が言った言葉は自分を庇うための真っ赤な嘘だと誤解している。
確かに私はあの時は怒りのあまり何も考えていなかった。
感情的に喚き散らして相手を否定し自分の言葉を正当化して押し付けることだけしか考えていなかった。
南部辺境伯の気持ちを伝える必要なんて無かったし、信じてほしいなんて思わなかったから。
ただ相手を否定したかっただけだった。
言い負かしたかった。打ち負かしたかった。打ちのめしたかった。ただそれだけだった。
だから、「本人に聞いてみろ!」と相手に一切の反論ができないような言い方をした。
相手を完全に黙らせ、一切の反論を封じて、絶対に言い返せないような台詞。
その場にはいない、簡単には話しかけられない、すぐには会えない、そんな相手に直接確認してみろ、なんてその人の権威と地位を利用して無理難題を振りかざした。
まさに虎の威を借る狐のような卑怯なやり方だった。
しかし、私が言ったことは真実だ。そこはなんとしてもジュリアーナに信じてもらわなければならない。
しかし、ジュリアーナと南部辺境伯との関係は拗れに拗れてしまっている。
一筋縄ではこの拗れを修正することはできない。
ジュリアーナは父親を信頼できず常に疑いながらも、信じたいという期待を捨てきれずにいる。信じたいのに信じられない、信じさせてくれない父親へ悪態をぶつけて試し続けている。
父親はジュリアーナの幸せを願いながらも、これ以上ジュリアーナを傷つけること、嫌われることを恐れて素直に自分の想いをジュリアーナへ打ち明けられずにいる。
そんな二人の関係改善の手伝いをすることを私は南部辺境伯と秘密裏に約束した。
しかし、心を他人へ伝えるのは難しい。
それが自分の心ではなく他人の心を別の人へ伝えるなら尚更難易度は上がる。
どれだけ「あの人はあなたを愛している。本当だ。信じてあげて」と訴えても、そこには私の気持ちしか込められず、私の真剣さや必死さしか伝わらない。
自分の強すぎる熱意を相手へぶつけすぎてしまえば、下手したら自分の気持ちの押し付けでしかなく、相手への強要にしかならない。
自分はそう思った。自分はそう感じた。自分はその人を信じる。
それらは全部自分の主観で自分の判断だ。
それを他の人へ事実として受け入れるように強要はできない。
あくまでも、自分の主観でしかない。
相手が何を言っていたかという客観的事実と自分がそれをどう感じどう受け取ったかという主観的事実は別々に分けて話す。
ジュリアーナへの同情や南部辺境伯への擁護と捉えられないように出来るだけ感情を抑えて淡々と冷静に語る。
それが単なる事実であるということが分かるように。
私の主観や思い込みや妄想などではなく、客観的事実による真実だということを示す。
私は一度深呼吸をして自分の気持ちをしっかりと落ち着けてから、ジュリアーナへ話しかけた。
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