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バトル通学
エンディング
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「なんか嫌だよね」
その時シルアは驚き、困惑し、決心し、笑った。その一つ一つの表情がくっきり分かれてて、逆にすごく気になる。
スッと、彼女は魔法陣の輪から離れた。そして、あっと思った時はもう、おれ達は地上の夕日を浴びていた。
「────おれのせい?」
「こんな分岐もあるんじゃな」
二人は答えなかった。それはどちらでもなくて、分かってるけど心は痛んだ。
赤い城に鐘が鳴る。
服がはためくくらいの風が吹いて、おれ達はあたりを見回した。
激しいほどの眩しい赤は次第に沈んでいく。踏みしめる地面は赤く染まった煉瓦で、最初となにも変わらないように思えた。
「壮麗だね」
「終わりの鐘じゃな」
白いアバターの二人もおれも、赤く染まってる。とても悲しい光景だった。
そこへ、前に立つ人の足元に深淵の黒い穴が小さく穿たれた。黒い影のような人間がぬっと現れ、後ろから羽交い締めにして穴に消える。
一瞬のことに何も言えないでいると、次々と同じように飲み込まれていく、人、人……
ヒュッと背中が寒くなる気がした。と、
ガッ!
「滝夜!」
いきなり捕まりおれも引き摺り落されそうになる。怖い! 怖い怖い怖い!
その力は強くないのにふりほどけなくて、どうすればいいのか分からないうちに徐々に足は沈んでいく。
「陽太! 小猫!」
「うわ、何これ」
そこにいた全員が闇に落とされようとした、その時。
眩しい光が射して、動きはすべて止まった。おれもひざまで地面の下、それを見る。
赤い景色を吹き飛ばす真白の光は影を滅してひとりの少女に収束する。
「シルア」
美しい音楽が流れる中、にっこりと微笑んで手をつなぎ、ふわっと浮いたと思ったら、小猫の部屋だった。
『忘れないで』
そう言ってもう一度微笑み、彼女は消えた。音楽も鳴り終わる。
「エンディング?」
「そうじゃな」
「面白かったね!」
装備を外しながらにこにこと陽太。
「それは何より」
「小猫ちゃんがやった時のエンディングと違うの?」
「わしの時は地上じゃのうてここに戻っておったで赤い景色は見ておらんのう」
「滝夜とやって良かったね」
「ホ、そうじゃのう」
なんか不思議な気持ちを引きずったまま、おれも片付けを手伝った。
「ねえ陽太、おれ家帰るけど、また遊ぼうよ」
なんだろう、きっとコードをまとめるのに下を向いているせいだ。顔に熱を持つのも、鼻の奥がツンとするのも。
「おれ二人のこと大好きだ」
揺れまくった声だけど、ちゃんと言葉になった。良かった。
二人の顔は見えなかったけど、手が両側からぽんぽんと背中をあたためてくれる。
「ありがとう」
お世話になりました。
+
母さんが朝湖と迎えに来て、さんざん山田家各所にお礼言って回る。
洋館の前で二人並んで笑ってくれた師範とハノさん。
ホテルの玄関でひいばあや陽太ママや従業員の皆さんもお別れをしてくれた。
陽太ん家で豆助をモフってる陽太と、おっきな猫(初見!)を抱いた小猫ともバイバイ。
やっぱり車の中では眠ってしまって、雑に朝湖が起こしてくれる。
久しぶりに帰り着いた我が家は、なんの変化もなく静かで、拍子抜けしたような気分で玄関に足を踏み入れた。
その途端、ぶわぁあっとこの夏の思い出がよみがえり、それがあまりに鮮やかで、おれはそそくさと部屋へ戻った。
その時シルアは驚き、困惑し、決心し、笑った。その一つ一つの表情がくっきり分かれてて、逆にすごく気になる。
スッと、彼女は魔法陣の輪から離れた。そして、あっと思った時はもう、おれ達は地上の夕日を浴びていた。
「────おれのせい?」
「こんな分岐もあるんじゃな」
二人は答えなかった。それはどちらでもなくて、分かってるけど心は痛んだ。
赤い城に鐘が鳴る。
服がはためくくらいの風が吹いて、おれ達はあたりを見回した。
激しいほどの眩しい赤は次第に沈んでいく。踏みしめる地面は赤く染まった煉瓦で、最初となにも変わらないように思えた。
「壮麗だね」
「終わりの鐘じゃな」
白いアバターの二人もおれも、赤く染まってる。とても悲しい光景だった。
そこへ、前に立つ人の足元に深淵の黒い穴が小さく穿たれた。黒い影のような人間がぬっと現れ、後ろから羽交い締めにして穴に消える。
一瞬のことに何も言えないでいると、次々と同じように飲み込まれていく、人、人……
ヒュッと背中が寒くなる気がした。と、
ガッ!
「滝夜!」
いきなり捕まりおれも引き摺り落されそうになる。怖い! 怖い怖い怖い!
その力は強くないのにふりほどけなくて、どうすればいいのか分からないうちに徐々に足は沈んでいく。
「陽太! 小猫!」
「うわ、何これ」
そこにいた全員が闇に落とされようとした、その時。
眩しい光が射して、動きはすべて止まった。おれもひざまで地面の下、それを見る。
赤い景色を吹き飛ばす真白の光は影を滅してひとりの少女に収束する。
「シルア」
美しい音楽が流れる中、にっこりと微笑んで手をつなぎ、ふわっと浮いたと思ったら、小猫の部屋だった。
『忘れないで』
そう言ってもう一度微笑み、彼女は消えた。音楽も鳴り終わる。
「エンディング?」
「そうじゃな」
「面白かったね!」
装備を外しながらにこにこと陽太。
「それは何より」
「小猫ちゃんがやった時のエンディングと違うの?」
「わしの時は地上じゃのうてここに戻っておったで赤い景色は見ておらんのう」
「滝夜とやって良かったね」
「ホ、そうじゃのう」
なんか不思議な気持ちを引きずったまま、おれも片付けを手伝った。
「ねえ陽太、おれ家帰るけど、また遊ぼうよ」
なんだろう、きっとコードをまとめるのに下を向いているせいだ。顔に熱を持つのも、鼻の奥がツンとするのも。
「おれ二人のこと大好きだ」
揺れまくった声だけど、ちゃんと言葉になった。良かった。
二人の顔は見えなかったけど、手が両側からぽんぽんと背中をあたためてくれる。
「ありがとう」
お世話になりました。
+
母さんが朝湖と迎えに来て、さんざん山田家各所にお礼言って回る。
洋館の前で二人並んで笑ってくれた師範とハノさん。
ホテルの玄関でひいばあや陽太ママや従業員の皆さんもお別れをしてくれた。
陽太ん家で豆助をモフってる陽太と、おっきな猫(初見!)を抱いた小猫ともバイバイ。
やっぱり車の中では眠ってしまって、雑に朝湖が起こしてくれる。
久しぶりに帰り着いた我が家は、なんの変化もなく静かで、拍子抜けしたような気分で玄関に足を踏み入れた。
その途端、ぶわぁあっとこの夏の思い出がよみがえり、それがあまりに鮮やかで、おれはそそくさと部屋へ戻った。
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