雨宿りはしない

白宙

文字の大きさ
1 / 6

学校における僕の席はパンゲアもびっくりの大移動をしている

しおりを挟む

 丸い大きな粒が私の視線を通して、この空をより大きなものに見せた。

 その先に煌めくのは青白い閃光。竜の髭のように鋭い角をいくつも作りながら、黒い雲を背景に、縦横無尽に走って見せている。

 そんな空の下、僕は一人道路に立ちすくんでいた。

 傘はない。雨の日はいつだって僕はこうして濡れていた。

 家には僕以外誰も住んでいない。

 だから僕がどれだけ学校で迷惑をかけようが気にとめる者もいないというわけだ。

 それでも僕が学校に行くのは、単純に僕には勉強が必要だからだ。それは人に迷惑をかけることよりも優先される。(そして傘を持たないことはそれよりも優先された)

 僕には、生涯をかけて償うと約束した義姉がいる。

 いつか大金持ちになり僕が彼女を養う。なぜだかもう三年も会っていないけど、僕はその義姉との約束を果たすために、今日もずぶぬれのシャツのまま自分の席に着く。

 こんなことを繰り返しているものだから僕の席のまわりはいつも二メートルは自由な空間だ。僕の勉強の邪魔をするものもなくて嬉しい。

 東京には光と闇が同時に存在する。

 人の数が多すぎて、多少おかしくても気にされない。一人倒れても、隣から次の人を引っ張ってくればいい。

 一人くらい駄目な生徒がいても、同じように優秀な生徒がいてバランスがとれる。だから先生も僕には寛容だ。その駄目な生徒であることをどうにかしようとする肉親もいない。

 朝礼の時間が迫るにつれて登校する生徒の数も増えてくる。そして僕の席は徐々に移動を始める。僕が動かしているのではない。隣の席の男子の足に僕の席を蹴り動かす十分な力があるためだ。

 クラスの治安を乱すな、と男子に暴力を振るわれる。その様子を毎朝みんなは視線を逸らしながら覘いている。

 雨の日はいつもそう。

 僕のブラウスの胸元は生地が雨で肌に張り付き、淡いピンクのブラジャーが浮かび上がるように透けていた。そして本来なら恐ろしいはずの光景なのだが、雨の日に限って、僕のクラスは誰もが足早に教室に入ってくるのだった。

 僕はそれに何の価値があるのかわからなかった。張り付いたブラウスを右の親指と人差し指でつまんで見せ、鎖骨から胸元が見えるよう、生地を下に引っ張った。

「みたい・・・・・・?」

 パリッとしたワイシャツを着た男子が目を丸くして驚くが、このやりとりは今学期に入ってもう五度目である。雨の日に男は何度でもそこに立って見せた。女子の席を蹴る男子の友達なだけある。

 僕はクラスの誰とも会話をしないので、もうイベントはおしまいとばかりに傷だらけの机へと向き直った。

 僕の席の移動距離はパンゲアも驚きの教室の隅となった。それでも気にはしない。そういうものはとっくの昔に消えてしまっていたから。

 家に帰れば、四肢をまさぐる男が僕を待っている。やつは住んではいないが、よく僕の家にいる。

 学校のチャイムがまるでテレビのチャンネルであるかのように、僕を見ていたクラスメイトたちの意識は盤上に向かう。まるでそうプログラムされたかのように動く人の群れは、手懐けられた犬のようだった。

 雨の日の教室の湿気や僕が晒す胸元も、日常という偉丈夫の前では為す術もなく、いつも通りに一日が始まるのだった。逆にいえば、朝の一連のやりとりもいつものことである。いっそのことおっぱいでも晒せば、偉丈夫も真っ青になりそうだが、それは義姉との約束が思いとどまらせた。

「いやだな・・・・・・」

 なにが、ときかれてもよくわからない。それでも僕もまた授業が始まれば、約束のためにつらつらとノートにペンを走らせるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...